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千歳川

(第一鳥柵舞橋〜高速道路下)

 今年からウィルダネスカヌークラブというところに入会することになったが、その目的はただ一つ、千歳川にリベンジするためだけと言っても良いかも知れない。
 3年前の夏、千歳川を下っているときに岸から張り出した倒木に引っかかり、情けない沈をしてからと言うもの、すっかり臆病風に吹かれてしまっていた。
 グループでの川下りならば、経験者の後を忠実に付き従い、たとえ沈してしまっても経験豊富なメンバーが直ちにレスキューしてくれる。
 それが家族単独での川下りならば、流れのカーブの先には何が待ち構えているのか全く解らないのだ。
 急な流れを何とか乗り越えるとその先には流木が折り重なった巨大なストレーナーが待ち構えていた、どうすることも出来ずに我が家のカヌーそのまま流木の山に吸い込まれていく、流木に張り付いたカヌーはあっと言う間に水圧で押しつぶさてしまった、妻がそこに足を挟まれ脱出できない、愛犬フウマはストレーナーの下に吸い込まれたのか姿が見えなくなった、何とか妻の足をカヌーから外し岸に這い上がることができたが持ち物はすべて流されてしまった、そこから道路まではいったいどれくらい離れているのだろう、大声でフウマを呼んでも帰ってくるのは木霊だけだった、そのとき初めて男は自分の行動の愚かさを知ったのだ。
 千歳川での沈以来、悪いイメージばかりが浮かんできて、家族だけでの川下りに行くことができなくなってしまっていた。
 このトラウマを振り払うには千歳川を完璧に征服しなければならない。
 カヌークラブに入会して2回ほど未経験の川を下っていたので、それなりに自身も付いてきた。夏休みを利用してキャンプ仲間だけで千歳川を下ろうと言う話になっていたので、その時こそリベンジのチャンスである。

 ところがその前に美笛でキャンプをしていたとき、それじゃあ明日は千歳川でも下りましょうか、なんて気軽なのりでリベンジのチャンスが早々と訪れたのである。
川下りメンバー メンバーは3人、皆3年前の千歳川の時に一緒だったメンバーである。私のカヌーの先生みたいな存在のKさんと、その時に別の艇に乗っていて沈した沈仲間のSさん。Sさんは今年から同じくカヌークラブに入会して、やたら川下りに燃え上がっている。
 第一鳥柵舞橋下流から出艇するが、ここは流れが結構速いので、スタートした途端に体中に緊張感がみなぎる。
 おまけに直ぐ先には90度近いカーブが待ち構えているので、なおさら緊張感も高まるのだ。
 慎重にカーブの内側内側とカヌーを進めるが、緊張感の割には何の問題も無く下ることができているようだ。
 岸から張り出した倒木に捕まらないように必死になってパドリングしていたが、そんなに必死にならなくても正しいコースにカヌーを進めさえすれば倒木に引っかかる心配はほとんど無い。
 次第に余裕も生まれてきて、岸から張り出す沢山の倒木の中から前回の沈の原因となった思い出の枝を見つけ出すことができた。
 沈した時は流れの最も早い流芯の中で、倒木を避けようとかみさんと二人でむちゃくちゃなパドリングをしたものだから、避けるどころか吸い込まれるようにその倒木に突入して行ったのだ。
 ちょっとバックストロークを入れて流芯から外れ、そのまま抜け出せば全く問題は無かったはずである。

 そうして最初の難関、魚道が目の前に現れた。
 カヌーを降りて下見をしたが、魚道の途中で逆巻く波を見てちょっとびびってしまった。
 前回は重たいカヌーをポーテージしたところだが、今回はそこを避けて通るわけには行かない。
魚道をクリア 魚道の中へ真っ直ぐに侵入すれば特に危険な場所でも無いが、一番の問題はそこへ上手く入れるかどうかだ。間違って堰堤の方に流され、そこから落ちたらちょっと面倒なことになってしまう。
 先にKさんが下ってくれて魚道への入り方を示してくれた。そのルートをたどるように護岸沿いにそろそろとカヌーを進め、いよいよ魚道の入り口に達する。
 カヌーがスーッと流れに引き込まれ魚道を滑り落ちるように流される。そのまま流れが逆巻いている場所に達すると、カヌーはふわっと浮き上がったような感じでその上を乗り越えた。
 通り過ぎてしまえば、あれっと思えるくらいのあっけなさだった。続いてSさんも無事に下り降りてきた。休憩のため一旦そこで上陸し、Sさんと喜びを分かち合う。
 そこから先も快適な川下りを楽しみ、次の難所、蛇籠の落ち込みまでやってきた。
 蛇籠の間を複雑な流相で水が流れ落ちている。下見をした結果そこはパスすることで意見が一致した。
 その後は少し下って直ぐにゴール地点だ。まずは千歳川リベンジ第1弾の完了である。

 その三日後、午前中に仕事を終えて、そのまま千歳川へと向かった。この日が本番の川下りの日である。
 集合地点に到着して、予想以上の参加者の多さに驚いてしまった。
 カナディアンが6艇にインフレータブルカヤックにカヤックがそれぞれ1艇の合計8艇と言う構成である。
 カヌークラブの例会ではほとんどがカヤックでの参加なのだが、さすがにカヌー初心者軍団での川下りといった様子である。
 果たしてこのメンバーで無事に千歳川を下れるのかとちょっと心配になってしまった。
 それでもカヤックに乗るJさんは、カヌークラブの古参でもあり、Kさんと同じく私のカヌーの先生みたいな存在だ。 彼女のあとを付いていけば何とかなるだろう。
 ところが彼女の言葉は、「ヒデさんは先日下ったばかりでコースを知っているので先頭行ってください。」だった。
 私は今回も1人での参加だったが、本州から北海道へキャンプ旅行で訪れているMさん夫婦がカヌーが無いということで、急遽奥さんの方を私のカヌーに乗せることになった。かみさん、息子以外とのコンビで川を下るのは始めての経験なので、かなり不安である。
 そんな状況なのに先頭を任されるとは、かなりトホホな気分だ。
 流れの速い出艇場所で、そろってスタートするのはなかなか難しい。先に流れに出たカヌーはあれよあれよと言う間に下流に流されていき、かろうじて岸辺の草にしがみ付いて停止したようだ。
 我艇も、何とか浅瀬に乗り上げた状態で皆の準備が整うのを待ち、揃ったところで先頭を切ってスタートした。
 前を漕ぐMさんは、全くの初心者では無いがカナディアンの舵を取ることはできない。
 1人の時は中央よりのポジションに乗るので、比較的カヌーの操作も楽だが、二人乗りの後ろの席でのパドリングでは
思うようにカヌーを操れないかもしれない。
 そう心配していたのだが、先日下ったばかりなので余裕があるのか、それとも少しはパドリングが上達したのか、何の問題も無くスイスイ下れるのである。
 テクニックがレベルアップしたと言うよりも、水の流れが読めるようになったからなのだろう。無駄な力を入れなくてもカヌーは思った方に進んでくれる。
 前を漕ぐMさんも、いたってのんびりモードで楽しんでいる。
 「カヌーってこんなに楽しいものだったのね。」
 Mさん夫婦とは、一昨年の夏に釧路川を一緒に下っているのだが、その時はMさん達はカヤックの二人艇を使用し、船上では猛烈な夫婦バトルを繰り広げながら、ついには二人して釧路川の水の中へ没していくという、何とも賑やかな川下りだった。
 今回はその二人を切り離して別々のカヌーに乗っているので、夫婦の瀬にもまれる事も無く、いたって平和な川下りなのだ。
 岸辺の倒木の間を飛び交う鳥の姿や、済んだ水の中で揺れる水草を眺めながらのんびりと下って行くと、突然目の前に川を塞ぐように倒れこんだ倒木が現れた。
 3日前に下った時は傾いていただけの木だったが、これが完全に倒れてしまっていたのだ。ちょっと焦ったが、その横に1艇だけなら通り抜けれらるスペースがあったので、全員無事にクリアだ。

魚道で浸水 次はいよいよ魚道だ。
 Sさんが直ぐに上陸して下見をしようとしたが、リーダーのJさんは下見なんかする気はないようだ。
 「ヒデさんに最初に下ってもらって、後の人はそのルートを見ていてください。」
 エーッ!!、まあ良いか、堰堤の方に行ってしまわなければそれほど危険な場所でもないし、それじゃあ行ってみますか。
 2回目の余裕で、魚道に突入した。
 前を漕ぐMさんに水しぶきが思いっきりかかったが、難なくクリア、遊園地のウォータースライダーみたいで楽しい場所である。
 すぐに上陸して、みんなの勇姿をカメラに納める。
 Mさん夫婦の旦那さんの方が前を漕ぐ艇は、前の方が完全に体重オーバーなので、猛烈に水をかぶって通過した。
 他の艇は大丈夫なのに、その艇だけが水浸しになってしまった。
 やっぱりカナディアンを二人で漕ぐときは、前の方に乗る人の体重が軽い方が良いみたいである。

蛇篭の落ち込み沈寸前 そうして皆で千歳川を楽しみながら、最後の難関、蛇篭の落ち込みが近づいてきた。
 何だかJさんは、今回も下見無しで突入させる気みたいだ。
 それでも、一応は全員上陸して様子を見ることになった。
 カヌーを引き上げて振り返ると、1艇だけがそのまま残っている。インフレータブルカヌーで参加しているSTさん夫婦だ。
 Jさんにそそのかされて、そのまま突入する気になったみたいだ。
 その落ち込みは、かなり近くまで来ないとその先がどうなっているのか解らないので、Jさんが石を放り込み、進入地点を伝える。
 下流ではSさんがレスキューロープを構え、私はカメラを構え準備は整った。
 そろそろと落ち込みに近づき、ちょっと手前で予定しているコースから外れたが、そのまま一気に急流に吸い込まれる。
 無事に通過するかと思った瞬間、バランスを崩した艇はそのままひっくり返ってしまった。
 そこは、ちょっと流されればすぐに浅瀬になるので、沈してもそれほどの危険は無い場所だ。
 次は私が挑戦する番だ。Mさんもやる気満々だったが、ここは私一人で挑戦させてもらうことにした。何とかして一人でこの落ち込みをクリアしてみたかったのだ。
蛇篭の落ち込みへ突入 少し漕ぎ上がって、万全の突入体勢をとる。そろそろとスタートしたが、緊張のためか、ちょっとパドリングがぎこちなくなり予定していたルートから外れてしまう。
 それでも、途中で止まるわけにも行かないので、そのまま落ち込みに突入した。
 アッと思った瞬間に、身体は水中に没していた。
沈!! 乗員を振り落としたカヌーは、くるりと元に戻り、私はそれにしがみつきしばらく川の中を流される。投げ入れられたレスキューロープにしがみつき、ずぶ濡れになって上陸した。
 爽快だった。沈てこんなに楽しいものなんだ。
 続いて下るみんなも、この楽しさを解ってくれるかな。カメラを構えて準備した。
 ところがである、せっかく豪快な沈シーンを写してあげようとしているのに、みんな見事にクリアしていくのだ。
 何でー?!
 それまでの爽快感が、ちょっとだけ口惜しさに変わってしまった。

 そうして、皆無事に上陸地点に到着した。
 初心者軍団で無事に千歳川を下れるのか、最初はちょっと心配だったが、Jさんの大胆な指導の元、思う存分千歳川を楽しむことができた川下りだった。

 それから半月後、今度はかみさんと二人だけで千歳川を下ることにした。
 3年前の千歳川での沈以来、我が家のカヌーの目標は家族単独で千歳川を下ることになっていたのだ。
 何としても千歳川にリベンジしないと、我が家のカヌーに未来はない。
 一度しっかりと落とし前をつけておく必要があったのだ。
はい!ポーズ 久しぶりの自転車を回収手段に使っての川下りだが、千歳川ではこの自転車で走る距離も短いので、とても楽である。
 かなり気合いを入れて望んだ川下りだったが、あまりにも呆気なかった。
 水量が前回よりもかなり減っていたので、魚道も全然迫力がない。
 すっかりのんびりモードになってしまったので、蛇篭も記念撮影をしただけであっさりとパス。
 下り終わった妻の感想は、「これならば美々川を下った時の方が大変だったかも知れないわね。」
 いつの間にか、我が家にとって千歳川は、チャレンジする川からのんびり下れる川に変わってしまっていた。


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