今回の川下りは、北海道ウィルダネスカヌークラブという北海道最大のカヌークラブの例会に参加させてもらい、黒松内町のブナ林の横を流れる朱太川を下るというものだ。
川のレベルも、のんびりと下れる川ということで、そこをカヌーの強者の皆さんと下るのだから、心配する事は何も無し、ついつい観光気分になってしまう。
ただ、心強いサポートが付いていてくれるとは言っても、川の上に漕ぎ出してしまえば誰かが代わりに漕いでくれるわけでもなく、全ては自己責任、沈しても死ぬことはないという程度の安心感である。
でも、この安心感が一番大きいのだ。
ボクは基本的には単独指向、家族だけで川に漕ぎ出したときの心細さと緊張感と開放感、、この感覚はグループでの川下りでは絶対に味わえないと思う。
そうやって、何の技術も無いまま、しばらく家族だけでの川下りをしていたが、初めて他の人と一緒に下った千歳川で、何の問題も無いような倒木に引っ掛かって沈をしたのをきっかけに、次第に川に対する恐怖感が湧いてきたのである。
もしも家族に事故が起こったら取り返しが付かない。
それ以来、川を見るたびに、障害物に吸い込まれていってしまう悪いイメージばかりが浮かんできてしまう。
チャレンジしてみたい川はまだまだ沢山あったが、その後家族だけで下ったのは美々川だけという状況になってしまっていた。
単独での川下りのためにはもっとスキルをアップしなければならない。
今回の川下りはちょうど良い機会だった。誘われたときは、一も二もなく直ぐにOKの返事をしたのである。
スタート地点の朱太橋に20挺以上のカヌーが集合した様子は壮観である。
殆どがカヤック、純粋なカナディアンは、今回ゲストで参加した、ボクを含めたのんびりキャンパー兼パドラー組の3挺だけだ。
その中の一人はカヌーを買ったばかりで、流水は今回が初めて、それを一人で漕ごうというのだから大した度胸である。
最初にカヌーを出した地点は殆ど流れもなく、軽くパドリングの練習をしてから下りはじめた。
今年の冬は雪が少なかった影響で、今時期にしてはかなり水量が少ないとの話だ。
確かにパドルが川底につかえてしまうような状況だ。
スタートして直ぐにざら瀬になったが、水量が少なくてカヌーが底をこすっている。
何とか止まることもなく通り過ぎることができたが、同じようなざら瀬が次々に現れる。
パドルで川底を押しながら進む感じなので、早くも手が疲れてきた。
少し水量が増えてきたが、それでもざら瀬の中では注意してコースを取らないと、直ぐに岩に乗り上げてしまう。
去年の夏、水量の少ない歴舟川を下ったときもこんな感じだったが、その時は一人で漕いでいたので自分の思うようにコースを取ることができて、結構自信がついたような気がした。
ところが今回は、前の席にドンと妻が構えているので、前がよく見えない。またまた岩に乗り上げてしまう。
「しっかり前を見てろよー」、「左じゃない、右だって、右に行けー」、「遅い、もっと早くパドリングしろ」、「あーあ、また乗り上げたー」
瀞場に入ってホッと一息、その時妻がポツリと呟いた。
「何だか、全然、楽しくない・・・」
ま、まずい、このままでは次回の川下りに来れなくなってしまう。
ちょうどその頃、ブナ林に近づいてきたのか、川岸の景色が変わってきた。
それと共に、「わー、良い眺めだね」、口調も柔らかい物に変えてみた。
「前の方に岩があるから気をつけてね」、「じゃあ次は岩の右側を通ってみようか」、「そうそう、良い感じ、大分上手になってきたねー」
流れを読む以外に妻の機嫌も読まなければならないので、夫婦での川下りは本当に大変だ。
今回下るコースは10km程ということだったが、もうかなり下ったような気がする。
そんな気がしてきたときに、ちょうどお昼の休息時間になった。ホッとして上陸する。
そこは気持ちの良い草原で、お昼を食べるのには快適な場所だった。カヌーの中で退屈しはじめていた愛犬フウマも、喜んであたりの臭いを嗅ぎ回っている。
しかし・・・、足下をよく見ると、何やら泥のような物体がそこら中に落ちていた。
ゲゲッ、これってもしかしたら牛のウ○コ?!、そこは牛を放し飼いにしている牧場の中だったのである。
こんなところでフウマを自由にさせていたら、何をしでかすか解ったものではない。直ぐにカヌーに繋ぎ止めておくことにした。
昼食が終わって疲れもとれ、さあ後半戦のスタートだ。ライフジャケットを着込み、準備オーケー。
その時、一緒に下っていた人が私の方を見て、「ヒデさん、ライフジャケットに・・・」
ゲッ、嫌な感じがして自分の胸元を見下ろすと、座布団代わりに使っていた私のライフジャケットには牛のウ○コがべったりと張り付いていた。
ギョエーーッ!!
子供の頃、牧場の中で野球をやったりして、牛のウ○コを踏むことは良くあったが、それ以来の牛のウ○コの洗礼である。
幸い、川で洗ったら直ぐにウ○コは取れたので、気を取り直して後半戦をスタートした。
周りの景色は良いのだが、相変わらずざら瀬が何回も現れる。
大きな岩がざら瀬の中に幾つも顔を出しているような場所もあり、結構緊張させられる。
たまに、その中の一つに引っ掛かり、かなりの流れの中でカヌーが横を向いたままにっちもさっちもいかなくなることがあるが、そんな時はその岩の上に乗り移って、カヌーを岩から外し、カヌーが動き出すと同時にカヌーに飛び乗る。
初めて歴舟川を下ったときは、このような状況でどうして良いか解らずに頭の中が真っ白になってしまったが、今は余裕を持って対処できるようになった。
これを進歩というのか、相変わらず同じようなことをやっていて進歩が無いというのか、どちらなのかは良く解らない。
そんな感じで我が家が苦労して下っている横で、例の今日が初めての川下りという彼は、一人で大きなカナディアンを操作しながら、飄々と下っている。
当然一度は沈をしてくれると期待していたのに、倒木に突っ込んでも、小さな落ち込みの前で後ろ向きになってしまっても、全く平然と下り続けているのである。
自分たちの苦労はいったいなんなんだー、といった感じである。
そうこうするうちに、上陸予定地点に着いてしまった。
まだ止めたくない、もっと下り続けたい、そんな気持ちがした。
朱太川、水量の少ない歴舟川のような感じだ。歴舟川より水の透明度は低いが、流域の景観は優れている。
これで、もう少し水量が多ければ、なかなか楽しく下れそうな川である。
ファミリー向けレベルとしては、ちょっと難しい気もするが、大きな川ではないのでたとえ沈したとしても危険はさほど無い。
岩を避けたりするカヌー操作の練習にはちょうど良い川かも知れない。
結局、今回参加したのんびりパドラー3組は皆、北海道ウィルダネスカヌークラブに入会することになった。
今年の例会は、我が家のようなファミリーが気軽に参加できるような川ばかり選んでいるとのことなので、次の例会がとっても楽しみである。
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