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釧路川

(屈斜路湖〜美留和橋)

 去年からカヌークラブに入会し、月1回の例会では道内の色々な川を経験することが出来た。我が家のレベルではとても無理そうな川でも、クラブのメンバーの力強いサポートがあるので、何とか下ることが出来るのである。
 それでもやっぱり、私にとっては単独での川下りが理想であり、クラブに入ったのもそれなりのスキルを身につけることが目的だった。
 そろそろ少しは自信もついてきたので、まずは最初の単独川下りの目標として釧路川源流部に狙いを定めた。
 当然ながら、いくら上達したとしても川によっては単独では下るべきでないような川も存在するが、釧路川源流部はちょうど良さそうな場所である。
 屈斜路湖から途中の美留和橋までは以前に上級者の方と一緒に下ったことがあるが、問題はその先弟子屈市街までの区間である。その先は、倒木、沈木が増えて、通称「土壁」と呼ばれる最大の難所もひかえているのだ。
 そこを無事に下れるかどうか、はっきり言ってかなり自信はない。

 今回の川下りでは、カヌーの搬送を地元のカヌーツアーをやっている会社にお願いしてあるので、そこの人の情報を聞いてから判断することにしていた。
 9時の待ち合わせ時間に合わせて、摩周大橋横の道の駅駐車場に到着、まもなくノースイストカヌーセンターの方が迎えに来てくれた。
 ひげ面の感じの良い青年が、まずそこで川の説明をしてくれる。
 問題の美留和橋から先の区間、はっきりと「土壁は上級者でないと無理です。」と言われた。
 ん?自分って初級者?それとも中級者?まさか上級者じゃないよなー。
 「川の流れを読まなければなりません。」
 川の流れくらいならば何とか読めそうだなー。
 「はっきり言ってお勧めできません。」
 でもなー、そこを下るためにここまでやって来たんだけど・・・
 どうしようか迷っていると、彼の次の言葉「楽しく下るのならば、美留和橋までです。」
 そ、そうか、川下りを楽しめば良いんだ。下流の方に行けば水の透明度も落ちてくるだろうし、そこを倒木沈木を避けながら下っても楽しくなさそうだ。美味しいところだけ下るのも悪くないな。
 「ハイ、解りました。美留和橋までで止めておきます。」
 と言うことで、アドバイスに従って、当初の弟子屈市街までの計画を変更することにしたが、最近の屈斜路湖でのカヌー死亡事故の影響でツアー会社も慎重になっているのかなという印象を受けた。
 あれほど熱心に言われると、無理して弟子屈まで下る気は無くなってしまう。

 スタート地点に向かう途中で美登里橋に立ち寄り、そこの説明をしてくれた。
 橋の手前で倒木が流れを塞いでいて、そこを避けると直ぐに橋脚、橋の下には沈木が真横に横たわっている。
 沈木の上は何とか引っかからずに通過できそうだが、倒木を避けてその後のコース取りが難しそうだ。
 前回ここを下ったときは、倒木が流れを塞いでいる場所は杭のようなものが出ているだけだったはずである。川を下るときは、数年前の経験なんてほとんど役にたたないのだ。
 ちょっと不安になりながら、スタート地点の屈斜路湖からの流れ込み部分、釧路川の源流に到着した。
 カヌーと人間、それと犬まで一緒に送ってもらって、おまけに川の解説付き、これで3500円とは嬉しいサービスである。
 ひげ面のお兄さんから「それでは良い休日を」と見送られ、いよいよ釧路川下りのスタートである。

 まずは屈斜路湖にカヌーを浮かべる。
 静かな屈斜路湖の湖面が徐々に動き出し、その動きは一カ所に向かって集まり初め、最後にそれは1本の川となって、釧路川はそこから始まる。
 その流れにカヌーをまかせていると、カヌーは眺湖橋の下へと吸い込まれるように進んでいく。いよいよ釧路川下りのスタートだ。
 単独で川を下る時、この最初の瞬間の緊張感がたまらない。全てのことから解き放たれ、自由の中へ旅立つ一瞬なのである。
 川底の石がキラキラと光って見える。カヌーはその上を滑るように進んでいく。しばらくは漕ぐ手を休めて、川底を眺めながら水の流れにカヌーをまかせていた。
 しかし、直ぐに岸から張り出した木の枝に行く手を遮られるので、あまりのんびりともしていられない。カーブが近づく度に、スピードを緩めてその先の安全を確認する。
湧き水 やがて、見覚えのある場所が現れた。カーブの外側が入り江のようになっている。そこにカヌーを入れると、静かな水面が広がっていた。空気もひんやりとしている。
 そこの奥には緑色のコケに覆われた箇所があり、そこからは湧き水が流れ出しているのだ。
 頭上の木々の間だから射し込んだ太陽の光が、スポットライトのようにその場所を照らし出している。
湧き水の場所 まるで、映画「もののけ姫」のしし神が舞い降りてくるシーンを見ているようだ。
 しばし、その風景に魅せられて時間を過ごした。
 釧路川のカヌーツアーの中では、この湧き水でコーヒーを入れるサービスが付いているものもあるみたいだ。
 相変わらず、次から次へと倒木が現れ、川幅の3分の2以上が塞がれているような場所も所々にあったりする。
 そんな場所も、落ち着いてバックストロークでカヌーを止め、様子を確認してから僅かな隙間を通り抜ける。
 以前、千歳川でそんな倒木に突っ込み沈をして以来、かなりの倒木恐怖症になっていたが、ようやくそのトラウマも解消されてきたみたいだ。
 夏の日射しが照りつけて、カヌーの中の愛犬フウマもバテてきたみたいだ。
小さな砂浜 僅かばかりの砂浜を見つけて、そこにカヌーを付けた。直ぐに飛び降りたフウマは、そのまま川の中に入って行き一泳ぎ。火照った身体を冷ましているのだろう。
 人間の方も、ドライスーツの完全装備なので、この暑さはこたえる。半袖のウェットスーツも欲しいところだ。
 美留和橋までしか下らないことを、最初はちょっと後悔していたが、やっぱりこれが正解だったみたいだ。この暑さの中を弟子屈まで下っていたら、最後の方はかなり悲惨な状態になっていたかも知れない。
 再び漕ぎ始めて、しばらく進むと美登里橋が見えてきた。
 この先、美留和橋までは上陸地点が無いので、そこで休憩することにする。
 カヌーの搬送をしてくれたガイドの方からは、ゆっくりと漕がないとあっという間に終わってしまいますよ、と言われていたので、のんびりと下らなければならないのだ。
 昼にはまだかなり早かったが、用意してきたおにぎりをそこで食べる。
 川の中に入ってみると、澄んだ川底に魚が群れをなしているのが見えた。
 やがて上流から、カナディアンカヌーの一団が下ってきた。彼らも上陸するのかなと思っていたら、そのまま通り過ぎるみたいだ。
 ちょうど良かった。問題の倒木をどうやって避けて下るのか、見学させてもらうことにした。
美登里橋 皆、木製カナディアンを一人で漕いでいる。最初に年配の人が下ってきて、倒木を避けた後そのまま、その後ろ側に回り込んだ。そこから後続部隊の様子を見るようである。
 残りの3艇のカナディアンに乗っているのは皆若者だった。華麗に下っていくのかと思ったら、かなり危なっかしい。危うく横向きのまま橋桁に引っかかりそうになったりしている。
 彼らのやりとりを聞いていると、先生と生徒といった感じだ。何かのスクールなのだろう。
 しばらくすると、また数艇のカヌーが下ってきて、彼らは同じ場所に上陸してきた。ツアーガイドとそのお客さんと言った感じだ。
 彼らと入れ替わるように、私たちも再び漕ぎ出した。
 ギャラリーがいるので、そこでみっともなく沈するわけにはいかない。肩に力が入る。
 最初の倒木を避け、次は正面に迫る橋脚の左側へとコースをとる。あれっ?と思うくらいあっさりとそこを通り過ぎてしまった。
 岸から見ていて感じたほど流れに力は無く、余裕でカヌーの操作ができるのである。なーんだ、この程度のものかと、ちょっとだけ得意になってしまう。
 そのまま得意になった状態で、スイスイとカヌーを進めていく。倒木、沈木も余裕を持てスイスイとかわす。
 カーブなんかも余裕でスイスイ・・・。
倒木 と思ったら、そのカーブの先では倒木が両手を広げて待ちかまえていた。
 それまでは注意深く、カーブの手前ではスピードを緩めてなるべくインコースよりに進んでいたのだが、その時はもろに本流のに乗ったままの状態でカーブに入ってしまった。
 カーブの内側に通り抜けることができるスペースが有ったが、今さらそこへカヌーを向けることはできない。
 一瞬焦ったが、直ぐにその倒木の根元の方にエディ(流れの穏やかな場所)が有ることに気が付いて、そこにカヌーを乗り入れて難を逃れることができた。
 油断大敵である。
 また謙虚な気持ちに戻って、慎重に川を下っていた。
 やがて、前方から声が聞こえてきた。先ほどのカヌースクールらしき一団である。
 1艇が倒木に引っ掛かって悪戦苦闘している。
 誰かが助けてあげるのかなと思ったら、先生は下流からそれを見て怒鳴りつけるだけ。なかなか厳しい先生である。
 可哀相な若者を横目に見ながら、そこを通り過ぎた。
 川の水は次第に透明度を失い、下流の湿原部の色に近づきつつあった。
 日陰になっている場所にカヌーを止めて休んでいると、またカヌースクールの一団が追い越していった。
 せっかくの単独での川下りなので、彼らからなるべく距離が取れるようにしばらく待ってから再スタートした。
最後の瀬 相変わらず鬱そうとした林に包まれ、静かに蛇行を繰り返す釧路川。岸辺にそびえ立つ巨大な枯木に目を見張る。
 それまで静かだった釧路川に瀬の音が聞こえはじめた。
 そこを越えると直ぐに上陸地点だ。名残惜しさを感じながら瀬に突入、顔にかかる水飛沫が心地良い。
 瀬の下では、カヌースクールの先生がさりげなく待っていてくれた。私たちが沈した時のために備えていてくれたのかもしれない。おっかなそうな先生だが、本当は優しい人なのだろう。
 その後、美留和橋までは真っ直ぐな穏やかな流れ。青い空を見上げながら最後の釧路川の空気を吸い込んだ。
 次こそは絶対に弟子屈まで下るぞー。


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