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釧路川

(塘路湖〜細岡・屈斜路湖〜美留和橋)

 前編 (塘路湖〜細岡)

 8年ぶりの釧路川川下り、何も解らずにガイドブックの初心者向け区間という情報だけを頼りに、初めての川下りに挑戦したのが、釧路川のこの区間だった。
 あれから8年、長い時は過ぎたが、腕前の方だけは相変わらず当時に毛が生えた程度でしかない。
 しばらくの間、我が家の家族単独での川下りしか経験が無かったので、どうしてもテクニックは本から仕入れたものだけになってしまう。
 去年初めて、ベテランの方々と一緒に千歳川を下って、自分の技術の未熟さを思い知らされた。

 当然、川下りの危険性は認識していた。
 最悪の場合、カヌーは放棄して、命だけは何としてでも守り抜くつもりで、挑戦していたつもりである。
 それでも、完全な準備をして望むのと、何も解らずにぶつかっていくのは、全く違うものであるということが、今頃になって解ってきたような気がする。
 そんな心境の変化の中、久しぶりの釧路川はどんな感じがするのだろうと、新鮮な気持ちでのチャレンジである。

 前回は単独行のため、JRを利用したが、今回は他に4組の参加、車の回送も楽である。
 上陸地点は細岡と岩保木水門の2カ所を予定し、それぞれに車を回しておいた。
 一般的には塘路湖〜細岡間を下る人が多いが、その先岩保木までは、より湿原らしい雰囲気を味わえる区間ということらしい。

 塘路湖を出発して、釧路川に通じるアレキナイ川をカヌーを進める。
 流れもほとんど無く、川であることが感じられない区間だ。初めての時は、この区間でも岸から張り出した枝にぶつかって行った記憶がある。
 それが、どの辺の場所だったか思い出そうとしたが、どうしても見つからなかった。
 どう考えても、そんな枝を避けきれないような場所では無いのだ。

 そうして、いよいよ釧路川との合流部、突然視界が開けて、蕩々と流れる釧路川の姿を目の前にすると、その迫力に圧倒された事を思い出す。
 ところが、いざその場所まできてみると、「アレレ、この程度のものだったかなー」と、拍子抜けしてしまった。
 何の緊張感もなく、やや上流部に向けて漕ぎ進み、本流の流れに乗ると、その流れの先に倒木が顔を出しているのが見えた。
 何事もなく、それをかわす事ができたが、もしもその倒木が初めての挑戦の時に存在していたら、かなりのパニックに襲われていたかも知れない。

 その後は、全く緊張することもなくのんびりと川下りを楽しみ、途中、唯一上陸できる個所で一休み。
 初めて下ったときは、こんな場所は有ったのだろうか。
 多分、緊張していて、そんな場所が有ったのにも気が付かなかったのかも知れない。
 前回はカヌーの真ん中で居眠りしていた息子も、今は前に座って力強く漕いでいる。
 それでも、変化のない川の流れに退屈そうなのは、前回と全く同じだ。

 中間点の細岡に上陸したのは、ちょうど塘路湖を出発して2時間後の12時ちょうどだった。
 その日、次のキャンプ場への移動を予定していた我が家だけ、残念ながらそこで切り上げることにした。
 その後の話を聞いたところ、岩保木までの区間では向かい風が強まり、結構しんどかったようである。
 今年の春、美々川で向かい風にさんざん悩まされた我が家にとっては、途中エスケープが大正解だったのであった。

 後編 (屈斜路湖〜美留和橋)

 1週間後、再び釧路川に舞い戻ってきてしまった。
 詳細は、キャンプ日記に書いてあるので省くことにするが、今回の参加メンバーは川下りのベテラン揃いだ。
 初心者は、我が家と、もう1組Mさん夫婦だけである。
 ほぼ、去年の千歳川を下ったメンバーと同じであり、今回こそはレスキューされないようにと緊張感も高まってきた。
 しかしながら、今回の相棒は息子である。
 歴舟川を一緒に下って以来、ほとんどカヌーに乗っていない息子とでは、ちょっと不安が残ってしまう。
 先週の釧路川で一緒に漕いでいるとは行っても、ここ源流部では状況がまるで違うのだ。

 おまけにその日はものすごい強風である。
 屈斜路湖の水面には白波が立ち、出艇場所まで波が押し寄せてくる。
 カヌーを出すのにも苦労させられそうだが、無事に出したとしてもすぐに釧路川の流れに流され、すぐその先には望湖橋の橋脚が、そこを抜けるとその流れのぶつかる先にはしっかりと倒木までもが待ちかまえている。
 最悪の状況だ。

 案の定、Mさん艇は出艇時に波に煽られ、そのまま脇の柳の木に押しつけられあえなく沈。
 我が家も必死である。
 波に直角にカヌーを向け、乗り込もうとするが、波しぶきがぶつかってきて、愛犬フウマも怖がってカヌーに乗ろうとしない。
 結局、他の人にカヌーを押さえてもらいながら、フウマは妻が抱き上げて乗船、何とかカヌーを出すことができた。
 早くもカヌーの中は水浸し、その後は、そのまま川に流されないように、何とか対岸の波の来ない場所までカヌーを進め、やっとそこで一息である。
 Mさん夫婦が出艇するのを待って、いよいよ流れに漕ぎ出すことになった。

 望湖橋の橋桁は水面からわずかの高さしかない。
 かなり体勢を低くしないと頭をぶつけてしまいそうだ。おまけにその先がカーブしており、倒木も待ちかまえているので、その体勢のまま必死にパドリングしなければならない。
 そこを、無事にクリアーして、やっと一息つくことができた。
 最初からこの状態では先が思いやられるところだが、後になって考えると、我が家にとってここが今回の最大の難関だったような気がする。

 その後も、そこかしこに倒木が現れ、さすがにその数の多さは千歳川の比ではない。
 それでも、息子との息も合い、何とかクリアしていく。
 ところがとうとうMさん艇が倒木に張り付いてしまった。
 そのまま上流川に艇が傾き、くるりとひっくり返りMさん夫婦の姿は完全に水中に見えなくなってしまった。
 我が家はすぐに岸辺にカヌーを寄せ、後は見物である。
 冷たいかも知れないが、我が家にできることは何もなく、皆に迷惑をかけないように、自分のカヌーを確保しておくことが精一杯なのだ。

 奥さんの方は何とか岸に這い上がり、旦那さんはカヌーと一緒に下流に流されていったようだ。
 旦那さんの安全確保に1艇が下流に向かい、残った人達で奥さんのレスキューに取りかかる。
 その場所のすぐ下流に適当なエディが有ったので、皆でそちらに移動し、そこから対岸の奥さんをレスキューすることになった。
 藪の中をそこまで移動してきた奥さんを、レスキューロープで救出する。
 初めてロープを使った救出方を見せてもらったが、これがなかなか参考になるのである。良いものを見せてもらった気がする。

 なんてこちらでは思っていても、レスキューされる当人にとってはそれどころでは無さそうだ。
 それでも、最初に、「もう一人はどうなりましたー」と、旦那の無事を確認するところは素晴らしい夫婦愛である。
 答える方と言えば、「下流の方に流れていきましたけど、多分だいじょーぶだと思いますよー」と、いたってのんきである。
 ベテランの人達と一緒に下ると本当に心強いのだ。
 
 その後、無事にMさん夫婦は再会し、途中、美登里橋手前に上陸し休憩をとる。
 先ほどは素晴らしい夫婦愛だと書いたが、ここからは、「貴方が悪い」、「いや、おまえの方が漕がないせいだ」などといった、普通の夫婦生活に戻ってしまったようである。
 
 ここからの再スタートもちょっと緊張した。
 橋の手前に倒木が隠れていて流れが急になり、すぐその先の橋の下にはもう一つ倒木が飛び出しているのだ。
 漕ぎ出す前に、「その手前少し右寄りから入って、抜けたところでバウを左に向け、曲がりすぎるようで有れば後ろの人がバックを入れて、それからうんぬんかんぬん・・・」。
 解ったようで何も解らず、とりあえず漕ぎ出してみたら、何とかぎりぎりでクリアすることができた。
 カヌーの場合、一瞬の判断でパドリングしなければならず、これはもう経験を積むしか上達の道はなさそうである。

 そこから先はやや倒木も減り、ゆったりと下ることができる。
 ゴール地点美留和橋の手前で、釧路川では初めての瀬が現れた。
 やや緊張しながら突入したが、爽快に通り抜けることができた。
 それまで退屈そうにパドリングしていた息子も、ようやく笑顔を見せ、「川下りは瀬が無いと面白くないよなー」と偉そうなことを言っている。

 そうして最後の上陸地点が美留和橋の下流である。
 ところが、近くまできて驚いた。橋の下から上陸予定地まで結構急な流れになっているのである。
 ここで上陸に失敗すると、非常に惨めな状況に陥ってしまう。
 躊躇しているひまは無いので、そのまま流れに乗り、息子と息を合わせてカヌーを曲げる。
 カヌーはピタリと上陸予定地点に着岸した。
 ちょっとだけパドル操作に自信を付けた、釧路川源流部川下りの終了である。

 今回の川下りで密かに期待していたことがあった。
 息子と同じ年頃のKさんの子供達が、格好良くカヤックを操るのを見て、息子がカヌーにはまってくれないかなと思っていたのだ。
 ところが、予想はしていたが、相変わらず我が家の息子は冷めたままだった。
 その代わりに、妻が「カヤックって面白そうね。何だか欲しくなってきたなー。」、なんて言い出してしまったのだ。
 うーん、どうなることやら。


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