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美々川源流探検

(美々川源流〜松美々橋)

 近所を流れる小さな川の堤防は、愛犬フウマとの散歩コースになっている。
 春先の今頃の時期はゴミも散らかっていて、お世辞にも綺麗な流れとは言えない場所だが、それでも雪解け水で増水した流れを見ていると無性にカヌーに乗りたくなってきてしまう。
 そんなわけで、ゴールデンウィーク初日は美々川でカヌーに乗ることになった。
 美々川を下るのは5回目になり、さすがにちょっと食傷気味である。そこで今回は、美々川源流部を探して最初の出発地点である美々橋から上流へ漕ぎ上がってみることにした。
  これで美々川は、源流からウトナイ湖までの全区間を漕いだことになるのだ。

 出発地点の美々橋へ到着して、源流まで漕ぎ上がった後どこまで下るかちょっと迷ったが、少し風も吹いていたのでそこから直ぐ下流の松美々橋で切り上げることにした。
 向かい風の中、流れのほとんど無い美々川を下る苦痛は、去年の美々川下りで嫌というほど体験しているのだ。
 上陸地点に車を回しに行ったが、タバコ1本を吸い終えるまえに着いてしまった。ちょっと物足りなさそうな気もするが、この向かい風の中ではしょうがないだろうとあきらめることにする。

 自転車で元の場所まで戻り、早速源流部へ向けてカヌーで出発だ。
 美々川の最上流部は千歳湖という小さな湖なのだが、一般的には美々川の源流部はその手前から支流に入ったところの上流にある湧き水が流れ出しているところとされている。
 最初は、流れに逆らって漕ぎ上がることにちょっと不安もあったが、実際に漕いでみると何の支障もない。向かい風の中を漕ぐよりもずーっと楽である。

 漕ぎ出して直ぐに美々川の流れは、林の中へと入っていく。思っていたよりも川幅も広くパドリングに支障もない。
 川底にはバイカモなどの水草が青々と茂り、静かな林の中には小鳥たちの鳴き声が響き渡る。
 桃源郷の中へ迷い込んだカヌーイストになった気分である。
 今まで下っていた美々川は、本当の美々川の姿では無かったことに気がついた。
 カヌーの下を驚いた魚たちが横切っていく。カヌーを止めて川底をのぞき込むと、ドジョウやエビ達も泳いでいる。
 そこに残された本当の自然の姿に感動してしまった。
 ただし、その素晴らしい空間は美々川を中心としたごくわずかな幅だけなのだろう。
 小鳥たちのさえずりに混じって、様々な人工的な音が聞こえてくるし、途中では強烈な堆肥の臭いも漂ってきた。
 川の横の崖を上ると、そこにはきっと一変に気分が落ち込んでしまうような光景が広がっているのだろう。
 それでも、そんなことは忘れさせてくれるような澄んだ流れの中を順調に漕ぎ上がっていった。

 途中、倒木が完全に川を塞いでいるカ所があったが、カヌーをその上に引っ張り上げて、何とか通過することができた。
 そこを過ぎると次第に川も浅くなってきて、注意しないと直ぐにカヌーの底がつかえてしまう。
 そしてとうとう、これ以上カヌーでは進めないような深さになってしまった。
 しょうがないので、そこから先はカヌーを引っ張りながら川の中を歩いていくことにした。
 流れがカーブして林の中へ消えていくような光景を見るたびに、「オッ、とうとう源流にたどり着いたかな」と興奮するのだが、そのカーブの先にはまだ流れが続いていてがっかりしてしまう。
 そんなことを数回繰り返すうちに、とうとう川の流れは枝を付けたままの倒木に塞がれてしまい、そこから先はカヌーを置いて歩いていくことにした。

 そこから川岸に上がって驚いてしまった。林の中には人間が歩いた踏み分け路の後がはっきりと残っているのである。
 苦労してカヌーを引っ張って歩いてきたのがバカらしくなってしまった。多分、カヌーを使わなくても、どこか近くの場所から歩いてこられるのかも知れない。
 でもやっぱり、カヌーに乗ってここまで来ることに意味があるのだと、自分を納得させることにする。
 そこの林の中はエゾエンゴサクやナニワズなど、春の草花に覆われていて、なかなか良い雰囲気である。
 そして直ぐに、とうとう美々川の源流部へ到着した。
 川底の砂を巻き上げながら湧き水が吹き出してくるような光景を想像していたのだが、実際はちょっと違っていた。
 その場所は崖に囲まれたような地形で、その崖の地際のあちらこちらから水が滲み出してくるような感じである。
 それでも美々川源流部にたどり着いた満足感は大きかった。
 出発地点から源流部までおよそ90分の行程である。

 今回のカヌーには愛犬フウマも連れてきたのだが、カヌーを引っ張って浅瀬を歩いているとき、フウマの方は喜んでその辺を走り回り、沼地のような場所に入り込んでは全身泥まみれになって戻ってくる。
 そのまま乗せるわけにもいかないので、川の中で洗ってから カヌーに乗せるのだが、そんなことを繰り返しているうちにカヌーの中は、沈したわけでもないのに水浸しになってしまった。
 今回の川下りで一番楽しんだのはフウマかも知れない。

 漕ぎ上がってくるときはそれほど気にもならなかったが、源流部からまた下流に漕ぎ出して、出発地点から結構な距離があることに気がついた。
 帰りはのんびりと流れに浮かんでいるだけだから楽勝だろうと考えていたのだが、流れが細かく蛇行しているので、常にパドリングしていなければならない。
 出発地点に戻ってきただけで、かなり疲れており、車をもう一つ先の橋まで回してしまったことをちょっと後悔する。
 そこから先、美々川下りの一番楽しい区間とされる美々橋〜松美々橋の間も光景も、やたら殺風景なものに感じてしまう。
 美々橋の直ぐ下流から流れ込む環境センターからの汚水の影響もあり、水の透明度にも明らかな差がある。
 源流部までの素晴らしい流れを味わってしまうと、美々橋から下流はもう下る気持ちになれないかも知れない。
 そんなことを考えていた私に、松美々橋手前でお迎えしてくれたおなじみの白鳥の夫婦は、また遊びにおいでねと語りかけてくれたような気がした。


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