北海道キャンプ場見聞録
徳志別川(2018/09/23)
道北の雄の名は伊達じゃない
道道120号美深中頓別線の豊沃橋から、徳志別川の河原にカヌーを降ろす。
そこから先、徳志別川はアクセスする道路も何も無い山の中を7キロにわたって流れていく。
カヌーフィールドとして知られている川は沢山あるけれど、これだけの距離のアクセス不能区間がある川は、広大な北海道でも他に例がない。
しいて言えば、湿原の中を流れる釧路川が一部区間で周りに道路がなくなる程度である。
豊沃橋から上流方向を見た様子
かわうそくらぶの「北海道ののんびり下れる川の本」の中で道北の雄と称されているこの川は、私が何時かは下ってみたいと考えていた川の中で、最後まで残っていた川でもある。
会員数100名を超える我がクラブの中でも、ここを下った経験がある人は一人もいない。
徳志別川の河口の様子(前日)
そんな川を、あのサラリーマン転覆隊が下り、しかも「今まで下った中で一番の川だった」と褒め称えているのを知ったのは、およそ一か月前のことだった。
先を越された悔しさとともに、これはどうしても今年中に徳志別川を下らなければならないと心に決めたのである。
スタート地点の豊沃橋から下流を眺めた様子(前日)
そうして企画された徳志別川ミニ例会に集まったのは僅か9名。
川の上で集合写真
もっと集まるかと思っていたけれど、やっぱり札幌から遠いことがネックになっていたようだ。
しかし、以前の例会で下った利別川だって札幌からは同じくらいの距離があるし、釧路川に至ってはもっと遠い。
道北のイメージが皆にそう感じさせているのだろう。
やや緊張しながら下り始める。
この先で何が待ち構えているのかも全く分からない自然河川を下っていくのである。
とは言っても、丁度一週間前に旭川カヌークラブでこの川を下ったと聞いていたので、とんでもない危険個所は無いはずである。
川幅は思っていたよりも広い。
適度な瀬もあり、快適に下っていく。
一週間前に旭川カヌークラブで下った時の観測所水位が0.83m。
その後全く雨が降らずに、前日には0.80mまで下がっていた。
それでも何とか下れるレベルかなと思って川を見ていたが、昨日の夜から降った雨のおかげで水位は0.93mと増えていた。
両岸から岩盤が迫り、川幅が狭まる
水が増えた分、濁りが心配だったけれど、そんなことはなかった。
川の水は少し茶色っぽい色をしているけれど、これはこの川の元々の色なのだろう。
湿原を流れる川と同じような色をしている。
ただ、臭いがちょっと気になった。
私には牧場から流れ込むし尿の臭いに感じたけれど、他のメンバーは「サケのホッチャレの臭いだろう」と大して気にしていないようだ。
確かに、時々ホッチャレの姿は目にしたけれど、臭いが立ち込めるほどホッチャレだらけと言った状況ではない。
川の上流部には牧場があるし、夜の雨で堆肥場からし尿が流れ込むことは十分に考えられる。
ただ、元々有機物が多く含まれている川かも知れないし、真偽の程は定かではない。
周辺の岩は殆どが苔に覆われている
かわうそくらぶの本では、途中に「アネコの淵」と呼ばれる難所があるらしい。
「その昔ネエサンが身投げをした」と言う伝説があり、沈するとアネコに淵の中に引きずり込まれるかもしれない。
今回の参加メンバーは、私たちを除いてホワイトウォーター志向の強い人達ばかりなので、恐れるどころか「アネコの淵はまだなのか」と、それを楽しみにしながら下っている。
両岸が岩場になって川幅が狭まると、いよいよアネコの淵かと色めき立つが、それが空振りだと一気に落胆する。
岩場の中に小さな瀬が有ったりすると「もしかして今のがアネコの瀬?」と言い始める。
私が冗談で「多分そうですよ」と言ったら、本気で落胆していた。
でも、川岸に苔生した岩場が続くようになり、アネコの淵が近づいているのは確かなようだ。
大きな岩の間を回り込んでいくと、左岸から支流の逆川が流れ込んでいた。
写真では右側、左岸から逆川が流れ込んでいて、この少し先にアネコの淵がある
そこは大きな瀞場になっていたけれど、その先を見ると大岩が両岸から迫って川幅が急に細くなっていた。
いよいよ核心部にやってきたようだ。
その近くまで下っていって一旦上陸して下見。
と思って見ていたら、I山さんがいきなり沈脱していた
この先がアネコの淵
そんなこともありながら下見をすると、落ち込みになっている場所が何か所かあるけれど、そこを避けて下れそうなルートもある。
危うくアネコの淵に引きずり込まれそうだったN島先輩
それを確認してホッとしていると、何処で沈したのか、N島さんが舟と一緒に流れてきた。
近くにいたI上さんが慌てて手を差し伸べるが、ギリギリのところで届かない。
対岸からロープを投げるかどうかで迷っていたO橋さんが見かねてロープを投げたが、それもギリギリで届かない。
もっと早くに投げていれば届いたのかもしれないが、N島さんにロープを投げたりすると「俺にロープは必要ない」と怒られたりするので、O橋さんも躊躇っていたのだろう。
「あ~あ」と言いながら皆はただ見守るだけである。
しかし、増水した沙流川の三岡の瀬でさえ体一つで下っていった男N島先輩なので、このまま瀬の中に流されて行ってもアネコに引きずり込まれることも無いだろう。
結局は、瀬の手前で何とか岸に上がることができて事なきを得た。
アネコの淵導入部の瀬
核心部のアネコの淵に入る前に二人も沈脱しているのだから、先が思いやられる。
下見を終えて、ビデオを構えるI山さんの前を一人一人順番に下っていく。
アネコの淵導入部を下るI山さん
その様子を見ていると特に難しい瀬では無さそうだ。
皆は、敢えて落ち込みの方から瀬に入っていったが、私は落ち込みを避けて瀬に入る。
その後は素直な波が立っているだけなので、全く問題なくクリア。
ホッとしたのも束の間、アネコの瀬の核心部はその先で待ち構えていたのである。
先の様子が全く見えないので、岩の上によじ登って確認する。
岩が複雑に絡んだ落ち込みになっていて、嫌なことに落ち込みの直ぐ下でも岩が待ち受けているのだ。
カヤックやOC-1は、何とかその岩をかわして下っているが、バランスを崩して沈している人もいる。
大型カナディアンだと、どうしてもその岩を避けきれないような気がする。
アネコの淵核心部
右に見えている岩を避けきれなかった
かみさんが「ポーテージする」と言い出さないか、ビクビクしていたが、チャレンジする気でいるみたいなのでホッとした。
そうして、岩を避けられそうなギリギリのルートで下っていく。
しかし、やっぱり避けきれずにカヌーの横腹からその岩にぶつかってしまった。
一瞬、沈を覚悟したけれど、何とか持ち直して瀬をクリア。
こうして誰もアネコの餌食になることも無く、アネコの淵を下り終えた。
そのまま苔生した岩の上に上がって昼食。
瀬も楽しいけれど、ここの風景が素晴らしかった。
カヌーで川を下ってこなければ、この風景を見られないというものまた素敵である。
ここが一番アネコの淵らしい場所だ
アネコの淵の苔生した岩の上で昼食
苔生した岩の風景も、支湧別川よりも更に美しい。
道北の雄の名に恥じない川である。
アネコの淵の先も瀬が続く
昼食を終えて再び下り始める。
これで瀬も終わりなのかと思っていたら、そこから先もまだ瀬が続いていた。
スタートからアネコの淵までの区間よりも、アネコの淵を過ぎてからの方が川の傾斜がきつくなった気がする。
岩さえ上手く良ければ、気持ち良く下れる瀬である。
苔生した岩の風景も所々に現れる。
これは素晴らしい川だと感動していると、次第に瀬が無くなってきた。
瀬どころか、川の流れも無くなり瀞場が続くようになる。
川の水が黒っぽいので、まるで鏡のように周りの風景が水面に映り込む。
これはこれで美しい風景なのだけれど、鏡の瀞場が延々と続くと、直ぐに退屈し始める人たちなのである。
次々に瀬が現れるそれまでの流れとのギャップが大き過ぎたこともあるのだろう。
苔生した岩の風景が美しい
瀞場が多くなってきた
鏡の瀞場だ
地形図で見ると丁度その辺りから、川沿いに林道も延びてきている。
原生の自然河川の区間も既に終わってしまったようだ。
前日の下見で川の直ぐ脇に車を停められる場所を見つけて、私はそこをゴール地点にしようと考えていた。
そこは、河口から3キロほど上流に遡った場所になる。
朝の車の回送時に皆をそこまで案内すると「せっかくだからもっと下流まで下ろう」と私の提案はあっさりと却下されてしまった。
風景は美しいのだけれど、瀬が無いと面白くないらしい
その当初のゴール予定地点を横目で眺めながら、退屈しきったメンバーは面白くない流れを更に2キロ以上下ることとなる。
どうせならば一気に河口まで下りたいところだが、その手前にサケマス孵化場のウライが設置されているので、河口までは下れないのだ。
ゴール地点の堤防
そうして、スタートしておよそ3時間半でゴール地点に到着。
堤防の上まで苦労してカヌーを引き上げる。
本当はもっと楽に上陸できていたはずなのに、最後の罰ゲームみたいなものである。
下った距離は約12キロだけど車の回送距離は21キロ。
川沿いに道路が無いので、車の回送はぐるりと大回りしなければならない。
でも、そのおかげで人間の手が全く入っていない自然河川を下ることができるのである。
ホワイトウォーター志向の人にはちょっと物足りない川だったようだが、私には道北の雄と称されているのは伊達ではない、素晴らしい川だと思われた。
他の川では見られないような独特の景観もあり、季節を変えて何度か訪れてみたい川である。
(当日12:00徳志別川水位 徳志別川観測所:0.93m)
徳志別川ダウンリバーの動画