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釧路川(2018/04/28・29)

釧路川100kmカヌーマラソン参戦記

100キロと聞くと目の色が変わるカヌークラブのI上さんに誘われ、釧路川100キロカヌーマラソンに出場することとなる。
その過酷なレース内容については聞き及んでいたので、今までは参加することなんか考えてもいなかった。
それがI上さんに誘われると嫌とは言えず、前にも「100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路」に参加する羽目となった例もあるのだ。

釧路川100キロカヌーマラソンは屈斜路湖をスタートし、釧路川の岩保木水門までの100キロを下る。
今回は、弟子屈市街地付近の釧路川が荒れていて、この区間は車移動となるため、実際に下る距離は100キロに満たない。

スタートから弟子屈の摩周大橋までは、蛇行が激しく倒木も多いので、前日にこの区間を下ってみることにした。
クラブから参加するのは2チーム。
1チーム4名で、途中で交代しながら下るのである。

本番に合わせて、実際に自分で漕ぐ区間を下ることにする。
私たちは屈斜路湖から美留和橋までだ。
もう一チームの第一漕者は、熊五郎さんとY田さんペア。

本流をキープし、倒木を最短でかわせるルートを考えながら下っていく。
本番前の下見とは言いながら、気分は本番モードである。
鏡の間に寄り道した以外は、ずーっと漕ぎ続けて、写真を撮っている暇もない。
美留和橋まで50分で下ってきてしまった。

この区間は例年通りに倒木が多く、事前にスタッフの方が危険なものは処理してくれていたみたいだが、それも最低限。
まだ不慣れな学生チームがここを無事に下れるのだろうかと心配になってくる。

美留和橋でI上さん、F本さんペアにバトンタッチ。
もう1艇のY川さん、ジュニアペアが漕ぎだしていくのを見送って、私たちは道の駅摩周温泉に移動し、そこで2艇が下ってくるのを待つ。

橋の上で待っていると、2艇仲良く並んで下ってくるのが見えてきた。
1時間20分でゴール。


本番では摩周大橋が第一関門になっていて、ここまで3時間以上かかると足切りされてしまう。
これならば第一関門は大して問題にはならないと思われる。

そうして迎えたレース本番。
参加は16チームで、意外と少ない気がしていたが、実際にその参加メンバーと16艇のカナディアンカヌー、そして大会スタッフが眺湖橋横の広場に集まった様子は、なかなか壮観だった。


その16艇が湖岸に並び、午前6時30分、一斉に漕ぎ出す。
このようなカヌーレースでは、旭川で行われる石狩川オープンカナディアンカヌーレースに一度だけ参加したことがある。
その時のスタートは、合図とともに川岸に並べられたカヌーに飛び乗り、それから川へと出て漕ぎ始め、最初は完全な団子状態。
カヌーがひしめき合って、パドルを入れるスペースもなく、しょうがなく相手の舟の上をパドルで漕いで前に出るような有様となる。



こちらのスタートは、最初からカヌーに乗った状態で横一列に並び、そのまま湖の沖に向かって漕ぎだすので、石狩川レースのような混乱状態にはならない。
と思っていたけれど、スタート時の混乱状態はこちらも同じだった。


行く手を阻まれる

去年、別のチームで100キロレースに参加していたI上さんの話しでは、湖を漕いでから川へと入っていく時の順番でその後の順位がほぼ決まってしまうとのこと。
なので、各艇とも必至の全力漕ぎとなるのである。

湖上に浮かんでいるカヌーを一回りしてから川へと入っていくルールなので、誰もが最短距離でそこに向かおうとする。
結果的にカヌー同士がくっ付いてしまうのである。

他のチームのカヌーならばパドルで押しやることもできるが、隣にくっ付いているのが同じクラブの熊五郎さん艇とあっては、そうもできない。
味方同士で邪魔しあっているようなものだ。

湖上でターンするための目印は、固定されたブイを使うのが普通だと思うけれど、ここでは人の乗ったカヌーがブイ代わりになっている。


逃げていくスイーパー艇で折り返し

人が乗っているので自由に動くことができる。
皆が必死になってそのカヌーに向かって漕いでいくと、それをあざ笑うかのようにブイ代わりのカヌーは沖に向かって逃げていくのである。

そのことは知っていたけれど、少し逃げ過ぎである。
漕いでも漕いでも一向に近づけない。
団子状態のままで川に入っていくと危険なので、敢えてそうしているのだけれど、それならば最初から遠くにいれば良いだけの話しである。

どうしても意地悪されているとしか思えない。
大会スタッフの方々の仕事も大変そうだけれど、この役割だけならば是非ともやらせて欲しいところだ。

ここでかなり遅れをとってしまい、16チーム中12位で折り返し。
後でGPSデータを確認したところ、スタートから折り返し地点までの距離は360mもあったのである。
折り返して周りが広くなったところで、1艇くらい追い越そうと思ったけれど、前を進むカヌーとの距離は逆に開いていく。

湖を漕ぐだけで体力の半分くらいを使い果たし、ヨレヨレになって眺湖橋の下をくぐり、いよいよ釧路川源流部へと入っていく。


遥か前の方に4~5艇くらいの姿が見えていた。
腕力勝負では勝てないけれど、蛇行して倒木の多い源流部ならば学生相手には負けはしない。
鏡の間付近でようやくゼッケンナンバー11番に追い付く。


2艇並んだまま倒木の下を潜り抜ける

そのまま追い抜こうとしたら、湖の時と同じくまた2艇がくっ付いてしまった。
バウがそれぞれ反対側を漕いでいるのだが、スターンの方は艇がくっ付いているためパドルを入れられず、そうなるとなかなか離れることができないのだ。
そこへ前方から倒木が迫ってきた。
かろうじて2艇くっ付いたままでその下を潜り抜けられた。

川幅が広いところでは先に行かれるけれど、障害物があればそこで抜き返す。
そんなことを続けながら、ようやく11番艇を振り切り、前方に見えてきた別の艇を追いかける。

釧路川源流部の澄んだ流れ、美しい風景、そんなものを楽しむ余裕もなく、ひたすら漕ぎ続ける。
次第に腕に力が入らなくなってくる。
てきめんに前の艇との距離が開いてくる。
それどころか11番艇に再び抜かれてしまった。


ショートカットの瀬を下る

続いて12番艇も追い抜いていく。
これも学生チームのようだ。
体力勝負になると、60代のおじさんが20代の若者に勝てるわけがない。

とうとう彼らの背中が見えなくなり、一人旅となってしまう。
それでも、漕ぐ手は止めない。
漕ぐのを止めるのはマラソンで歩くのと同じ行為。
歩いたら終わりなのだ。

後は交代地点の美留和橋を目指すだけ。
その手前にあるショートカットの瀬がなかなか現れない。
蛇行を曲がる度に、その先に瀬が無いかと探してしまう。


美留和橋で漕ぎ手を交代

ショートカットの瀬が見えた時は本当に嬉しかった。
瀬を下り、その先の瀞場に近い流れを必死に漕いで、午前7時23分、橋の手前右岸で待っていたI上さん達にカヌーを引き継ぐ。

大方のチームは橋の下流左岸で乗り換えているが、そこはエディラインがきついので、タイムロスしてしまいそうなので、私たちは上流側で交代していた。
私たちの前を下っていた学生チームは下流側で沈したらしく、カナディアンが赤い腹を見せてひっくり返っていた。

私たちは車で摩周大橋まで移動。
カヌーを乗り継ぐように、1台の車を乗り継いで一緒に移動していくのである。

摩周大橋では午前8時31分、先に熊五郎さんチームが到着し、3分ほど遅れてI上さん達がやって来た。
ここから下流の区間は川が荒れているため、車でのポーテージとなる。

車でのポーテージに要する時間はタイムから省かれるため、そんなに急ぐ必要はない。
しかし、途中の関門での足切り時間は決まっているので、のんびりしていることはできない。
去年のレースではギリギリで足切りを免れた経験のあるI上さんに急かされて、慌ただしく出発する。


摩周大橋で束の間のリラックスタイム



一方、私たちより先に到着していたチームは足切りのことなど全く眼中にはなく、「後から出て他のチームを追い抜いた方が面白い」などと、のんびりとしたものである。


この分流を左に入ると危なかった

熊五郎さんチームと一緒に南弟子屈橋まで移動し、午前9時ちょうど、先に準備の整った私達が先に再スタートした。
少し下ったところで分流している場所があった。
私は左の分流を下ろうと思ったが、かみさんが右の方が良いと言うので、それに従う。
左の分流を見ると倒木が絡んでいて、そちらを下るとちょっとやばかったかもしれない。

実際にこの後、学生チームがここで倒木に張り付き、舟を流してしまうトラブルがあったようだ。
舟は2キロ下流で回収されたけれど、乗っていた人間の行方が暫くの間分からずに、スタッフの方も慌てていた。

南弟子屈から下流は源流部よりも流れが速く、快適に下って行ける。
周りに他の舟の姿もなく、気分が良い。

ところが、後ろから人の話し声が聞こえてきて、その良い気分も吹き飛んでしまった。
そして直ぐに、舳先に取り付けた小さな鯉のぼりをたなびかせながら、1艇のカナディアンが私たちを追い抜いていった。
若さだけの学生チームとは、さすがにスピードが違う。


開発橋での熊五郎チームの交代風景

暫くしてから、また後ろから人の話し声が聞こえてきた。
一生懸命漕いでいる時に後ろから迫ってくる人の声が聞こえてくるのは、あまり良い気分ではない。
今度は真っ黒なカナディアンが、もの凄い速さで私たちの隣を通り過ぎていった。
このチームが今回の優勝チーム。しかも、2位チームに圧倒的なタイム差を付けての優勝である。
聞くところによるとラフトガイドの方らしく、2人だけで交代することなく100キロを漕破していた。

午前9時38分、開発橋でバトンタッチし、標茶の開運橋へ移動。
近くのコンビニでトイレに入った後、腕時計が見当たらなくなった。
コンビニで落としたのかと思って探しに戻ったが見つからない。


開運橋では危うく交代に間に合わないところだった

諦めて交代場所へ戻るのに車で橋の上を渡っていたら、上流からI上さん達の乗ったカヌーが下ってくるのが見えた。
大慌てで戻って、そのまま出艇準備の終わったいたカヌーに飛び乗る。
午前10時37分出艇。
ここでのロス時間はゼロで済んだけれど、かなり危ないタイミングだった。

ちなみに、落としたと思っていた腕時計、ドライスーツの中に嵌めていたことに後で気づいたのである。

次の乗り換えポイントは五十石橋。
南弟子屈橋から下流では向かい風に苦労させられる。
それでもまだ川の流れがあるので助かっていた。


倒れ込んだまま舟を見送る熊五郎さん

午前11時22分、五十石橋で乗り換え。
ここは足場が悪く、私たちの後にやって来た熊五郎さんは乗り換えの際に泥に足をとられて、その場で倒れ込んでしまった。
と言うか、立っていることができないくらいに疲れ切っていたのである。

次の乗り換えポイント茅沼カヌーポートへ移動。
ここから先、釧路川はいよいよ湿原部へと入っていく。
カヌーポート付近の風景も、それを感じさせる。

川の上に出ると風も強いが、ここで感じる風はそよ風程度である。
野鳥の鳴き声も聞こえてきて、とてものどかな雰囲気だ。

午後12時15分、バトンタッチ。
向かい風対策として、20リットルポリタンクに水を満タンにして用意していたが、そんなに風の影響はなさそうだからと積み込まずに出発。


茅沼カヌーポートで交代を待つメンバー


しかし、直ぐにそれを後悔することとなる。
湿原部を吹く風は思った以上に強かった。
重石を積めばどれだけ違うのかは分からないが、体重の軽いかみさんがバウに乗っていれば、それだけ風の影響を受けるのは確かである。
それに、湿原部に入ると川の流れも緩くなるので、余計に向かい風を辛く感じる。


声援に応えるくらいの力は残っている

次の乗り換えポイントである二本松橋までの距離は10.5キロ。
今回漕いだ区間の中では一番長い。
次第に身体が動かなくなってくるが、漕ぐのだけは止めない。
明らかにスピードも落ちていて、後ろから他の艇が近づいてこないか気になるが、その振り返る時間さえ勿体ないので、ひたすら前を向いて漕ぐだけである。

蛇行する途中、視界の隅に他のカヌーの姿が映った。
あれ?と思って振り返ると、それは熊五郎さんチームのカヌーだった。
南弟子屈から下流では常に4~5分の差が開いていたはずなのに、ここにきて一気にその差を縮められたようである。
これで心も折れかけてしまった。


熊五郎さんも泥の上に倒れ込んだ

午後13時18分バトンタッチ。
疲れ切った私は泥の上に倒れ込んでしまい、ドライスーツを泥まみれにしてしまう。
バトンタッチの際の「このまま僕たちが最後まで下っても良いですよ」とのI上さんの言葉は、私の折れかけた心にぐさりと刺さった。

その後、間を置かずにやって来た熊五郎さんチーム。
私と同じく熊五郎さんもドロドロの土の上に倒れ込んだ。

次の乗り換えポイントの細岡カヌーポートに移動。
細岡カヌーポートは、ガイドツアーで下ってくるファミリー等の姿も多く見られる。
のんびりとカナディアンカヌーに乗っているその姿は、必至でパドリングする私たちの姿とはあまりにも違い過ぎていた。


細岡カヌーポートで交代を待つ

先に着替えてしまっては申し訳ないので、一応は下れる準備をしてI上さん達がやってくるのを待つ。
しかし、先に下って来たのは熊五郎さんチームの方だった。
I上さん達も直ぐにやってくるだろうと思っていたら、なかなかその姿が見えない。
熊五郎さんチームの漕ぎ手はY川さんとジュニア。
この二人、クラブから出場したメンバーの中では最強タンデムに成長していた。

やっと姿を現したのは熊五郎さんチームが出ていった3分後だった。
「これは交代しないと可哀想かな」と思ったが、I上さん達はそのまま岸に付けずに下って行ってくれたのでホッとした。
と言うか、私が「こっちに来るな」と手振りで合図していたので、岸には付けられなかったのが本当のようである。

午後2時30分、I上さん達を見送って、レースのゴール地点である岩保木水門へと向かう。

午後3時19分、熊五郎さんチームがゴール。
それから遅れること7分、I上さん達がゴール。
身体は疲れ切っていたけれど、皆の笑顔が満足感の大きさを表していた。


HWCCチーム熊五郎

HWCCチームヒデ


その後近くの会館に場所を移して閉会式。
そこで出された温かいうどんは、かみさんが「今までに食べた中で一番美味しいうどんだった」と言うくらいに胃に染みたのである。


閉会式を終え茅沼温泉で風呂に入って、和琴半島湖畔キャンプ場へと戻る。
車で走っても遠く感じる距離、良くここをカヌーで下ったものだと感心してしまう。
100キロウォークに100キロカヌーマラソン。
100キロ好きなI上さんの気持ちが少しだけ理解できたような気がした。

人力だけの移動でも、人間は思った以上に遠くまで行くことができるのだ。
人類のグレートジャーニーの旅を少しだけ感じられた釧路川100キロカヌーマラソンだったのである。

 
(当日12:00釧路川水位 弟子屈:100.06m)
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