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阿寒川

(上徹別橋〜松之恵橋)

カヌークラブ9月例会の2日目は阿寒川である。
予定していたのは四十一線橋から松之恵橋までの区間。
ところが、雨で増水しているからもっと上流から下ってみようとの話しが、突然降って湧いてきた。

「えっ?本当に大丈夫なの?」
それが私の感想だった。
最初に阿寒川を例会で下ろうとの話が出てきた時、役員の中に下ったことのある人がいないので、下る区間を決めるのにも難儀していたのである。
それをこれから川の様子を見て決めるというのだ。
今日は阿寒川を下った後に歴舟川まで移動することになっているのに、そんな事をしている時間はあるのだろうか。
でも、この計画性の無さは我がクラブでは毎度の事なので、私も半ば諦めて他のメンバーの決断に任せることにした。

阿寒湖を源流とする阿寒川は、その気になれば源流の滝口直下から下る事もできる。
私も5月の連休に阿寒川に沿うように通っている国道240号を走った時、そこから見える美しい川の流れに、「一度はここを下ってみたい」と憧れていたのである。
阿寒川しかし、源流部は倒木だらけで、相当の覚悟が無いと下る事は難しいらしい。

何箇所か下見をした結果、予定していた橋より1本上流の上徹別橋から下ることに決まった。
橋の上から見える川の様子は、昨日の利別川みたいな濁りはなかったが、それでも透明度は低く増水気味で流れも速い。

私は何となく嫌な予感がしていた。
阿寒川例会の担当ではなかったけれど、川の様子が気になってGooglmapの航空写真やストリートビューで事前に詳しく調べていた。
この二つを使えば、初めての川でも大体の様子を知ることができるのだ。
この区間でも航空写真では結構白波の写っている場所が有った筈だ。
そこが増水しているとなると、かなり激しい流れになっていることは容易に想像が付く。
橋の上でスタート準備今回も大型カナディアンは私達だけなのである。
他のメンバーもかみさんも、私のそんな不安は気にも留めていないようだ。

ゴール地点は予め決めてあった松之恵橋なのに、ここでもちょっとバタバタしてしまった。
橋の下流にちょうど良い駐車スペースがあるのに、何台かの車はそこに停まらず、橋の下まで車で入っていく。
そして、そこに小さなエディしか無いのを見て、上陸が大変だと騒いでいる。

「えっ?何でそっちなの?」
航空写真を見れば、駐車スペースの隣に大きなエディがあることが分かっていた。
川原へ降りる細い踏分道を見つけて降りていくと、予想通りそこはちょうど良い上陸地点になっていたのである。
Gooleマップは、新しい川を下る時にかなり参考になるツールだと思う。

そんなバタバタもあり、スタート時は既に正午近くになっていた。
集合写真を撮ってから、川にカヌーを浮かべる。
橋の下は穏やかな流れ橋の上から眺めた印象よりも、川の流れは緩やかである。
でも、それがここだけであることは十分に分かっている。
川幅も狭く、大型カナディアンは我が家だけ。今回のツアーリーダーのN島さんから、私達は一番後ろから2〜3艇目を下るように指示を受ける。
一応は心配してもらえている事が、ちょっとだけ嬉しかった。

流れが穏やかだと思ったのは、やっぱり橋の下流の僅かな区間だけだった。
川幅も狭いので、11艇が一列縦隊になって下っていく。
その川を覆うように左右から木々が倒れかかってきていた。

一番怖いのは、川を塞いだ倒木がストレーナーを作っていることである。
この辺りは自然河川の様相が強く、川の蛇行も激しい。
ブラインドになっているカーブの先では何が待ち構えているか分からない。
阿寒川を下る前を下っているカヤックの様子を注意深く見守り、少しでも変わった様子があれば、カヌーから飛び降りてでも危険を回避する心構えで下っていく。

川を完全に塞ぐような倒木こそ無かったが、川の上に真横に倒れ掛かり、その枝が行く手を邪魔している倒木が次から次へと現れる。
そんな場所は、決まって流れも速い。
その速い流れの中で、通り抜けられる僅かな空間を狙ってカヌーを向けなければならない。

そんな時に邪魔をしてくるのが隠れ岩。
水が濁っているので、その隠れ岩が分かりづらいときている。
上の倒木に下の隠れ岩、上下の障害物を避けながら下らなければならない。


阿寒川を下る
カナディアンではギリギリで通り抜けられるスペースしかない

阿寒川を下る先を下るカヤックは、倒木の枝の隙間を潜り抜けて次々へと下っていく。
カヤックが通り抜けられても、大型カナディアンがそこを通れるとは限らない。
どうするかは自分で判断するしかないのだ。

OC-1に乗っているN島さんだけは、「ここをカナディアンが通れるのか?」と、心の中で心配してくれていたようだ。

今回はかみさんも機敏に反応してくれたので、何とか上手く下れていた。
何せ、通り抜けられる場所はワンポイントなのである。
下手にこれが2ヵ所あったりすると、かみさんに迷いが生じ、それは決まって悪い結果に結びつくのだ。

阿寒川を下る少し落ち着いたところで、N島さんが「今回は初心者がいなくて本当に良かった」と漏らしていた。
元々阿寒川は、流れが緩く退屈な川だとのイメージが大きかったので、N島さんはカナディアンのファミリーにまで「阿寒川を下りませんか」と声をかけていたのである。

一番先頭を下るのはカヤックのI山さん。
完全なブラインドで先の様子が分からない時は、さすがのI山さんも一旦上陸して下見をする。

最初は、蘇牛発電所へ向かう橋の橋脚に倒木が絡んでいる場所だった。

下見の結果、倒木のギリギリ左を抜けて、その直ぐ先の橋脚を右へとかわすルートで下ることになる。
橋脚に絡む倒木かなり際どいルートだったけれど、下見さえすれば余裕で下る事ができる。

次も、川幅が狭く波も大きく、見るからに危なさそうな流れだった。
下見の結果、特に問題は無かったけれど、そこでそのまま昼の休憩を取ることにした。
既に午後1時近くになっていた。

しかし、ここまで極度に緊張しながら下ってきていたので、食欲が全然ない。
前日に泊まったクマゲラで、あかりさんがお土産に持たせてくれたとうきびが美味しかったので、かろうじて腹を満たす事ができた。


阿寒川を下る   昼の休憩
急流と倒木に翻弄される   疲れ切って食欲も無し

阿寒川四十一線橋再び下り始めて、その後も倒木などに翻弄されながら、ようやく本来のスタート地点だった四十一線橋まで下ってきた。
ここの橋も、倒木が絡んでいたり、古い橋脚の基礎が残っていたりして、冷やっとさせられた。

それでも、 橋の上流で徹別川が合流し、そこから川幅も広がり倒木に悩まされる事も少なくなる。
ここから先は穏やかな流れになるはずだった。

しかし、「うっかり下れない川の本」によると、この区間は岩盤状の川底になっている箇所が多く、渇水時にはポーテージを強いられると書かれていた。
そこが増水すればどんな流れになるか?
私は、この区間がそんな穏やかな流れのはずはないと考えていたが、やっぱりその通りだった。

これでもかと言うくらいに瀬が続き、瀞場というものが全く無い。
何時もの川下りならば、I山さんが瀬の下でビデオカメラを構えて待ち構えているところだ。
ところが、延々と瀬が続いているので、途中で止まることもできず、ひたすら下り続けるしかないのだ。

阿寒川の瀬を下るその瀬のレベルもかなりハードである。
特に、川底が岩盤になっているようなところでは、瀬の波も複雑で、前から横からカヌーに覆いかぶさってくる。
そんなところで沈したら、どこまで何処まで流されるかも分からないので必死である。

ルベシベ川を下った時のことが思い出されてくる。
今日はその時以来の緊張を強いられる川下りだ。

川を斜めに横切るような落ち込みが現れた。
その下がストッパーになっているので、少しでも落差が小さそうな場所を探して下る。
私達の前を下っていたN島さんが、そのストッパーに巻かれて沈。
幸い、その下流の流れが比較的緩やかだったので、皆で協力して何とか岸に上げる事ができた。


阿寒川を下る   阿寒川を下る
瀬の下で一息入れられるのは珍しい   皆でレスキュー

阿寒川の瀬
写真を撮る余裕がある場所は大した瀬ではない

阿寒川を下るこの付近では、周辺に牛を飼っている牧場も多い。
そこが発生地なのか、それとも川の水なのか、何処からともなく屎尿の臭いが漂ってくる。
酪農家の堆肥置き場に対する規制は厳しくなってきているけれど、それでも雨が降った時など、屎尿が川へ流れ込むのを完全に防ぐ事はできない。
道東の酪農地帯の川を下る時は覚悟しなければならない事象であるが、良い気持ちはしない。

国道274の中央橋手前あたりでは、牧場の草地と川が直接接している。
放牧されている牛が川に水を飲みに来そうな場所だが、残念ながら今日は牛の姿はなかった。

今日の下る距離は概ね15キロほど。
川の流れも速いので、短時間で下れるだろうと考えていたが、やっぱり15キロは長かった。
おまけに、その区間はずーっとアドレナリンが出っ放し。
それだけでも疲れてしまう。

阿寒川の風景
牧場と川が接している

松之恵橋の瀬そしてようやくゴールの松之恵橋が見えてきた。
橋の下に車を停めた人は、そこの小さなエディで強引に上陸。
私たちは、下流の大きなエディまで下る事にする。

しかし、その手前が結構な瀬になっていて、ここで沈したら、エディに入れずにそのまま流されてしまう。
そしてその下流には、この区間で最大とも言える瀬が待ち構えているのだ。
そんな事態も起こらず、皆無事に岸に上がる事ができた。

上陸した川原の対岸に素晴らしいウェーブができていた。
スポットで遊ぶ人達には垂涎もののウェーブだろう。

ゴール地点のウェーブ そこにちょっとだけ入ったG藤さんが「これなら、川を下らないでここで遊んでいても良かった」と言うくらいである。
さすがのG藤さんも、川下りの疲れから遊び続ける事はできずに、ほどほどに切り上げて上陸。

こうして、スリリングな阿寒川の川下りが終わった。
時間は既に午後3時。
これから車を回収し、歴舟川のキャンプ場まで150キロを移動することを考えると、余計に疲れが増してきた。

私の憧れだった阿寒川。
その対象は源流部の流れだったけれど、今回はその中流域を下り、阿寒川は簡単に下れる川ではないことを十分に思い知らされた気がする。
良くも悪くも、私達にとってとても印象に残る川下りとなったことだけは確かである。

渇水時にはポーテージを強いられ、増水時にはアドレナリンが出まくる阿寒川。
ここを下る事は、多分もう2度と無いだろう。

2015年9月21日 晴れ 
当日12:00阿寒川水位(山花観測所) 7.78m 


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