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利別川

(大誉地〜愛和橋)

足寄陸別間の国道242号線を走っていると、蛇行して流れる利別川を何度も渡ることになる。
その橋の上から見る利別川の風景に、是非この川をカヌーで下ってみたいと以前から考えていた。
それが、今年度のカヌークラブ9月例会でようやく下れる事となって、kenjiさんご夫婦と事前に下見をする事となる。

スタート地点スタートとゴールは、kenjiさんが事前に目星を付けてくれていた。
ところがその区間をまともに下れば30キロはありそうなので、途中に車を置いて、そこから先はその時の状況で判断するようにした。

天気は曇り空だが、今日の帯広の予想最高気温は26度。
瀬があるような川とは聞いていないので、ドライスーツは着ないで下る。
午前8時、大誉地の集落付近からカヌーを出した。

水量は、この川にしては多い方なのだろう。
夏場はかなり水が減るらしく、9月に予定している例会でもそれが一番心配されているところだ。
ただ、道内の他の川がそろそろ渇水期になってきているにも係らず、利別川の水位はここしばらく一定している。
源流部もそれ程奥深い山域ではなく、夏場に水が減るのならばこの時期から減り始めても良さそうなものだ。

利別川の川下り水の透明度はまずまず。
上流に陸別の市街地があり、流域にも農地が広がっている事を考えれば、こんなものなのだろう。
全く新しい川を下る場合、その源流部まで含めて、その川の性質を色々調べてみるのも面白いものだ。

池田町の南で十勝川へと流れ込む利別川は、足寄から陸別の間は川の中流域と言えそうだ。
源流部の険しさも無く、下流部の単調さも無く、川下りを楽しむにはちょうど良いところだろう。

瀬と言える様な場所も殆んど無い。
kenjiさんご夫婦と何時も一緒に下っているカヌー犬コロちゃんは、何時もカナディアンの舳先から川の様子を窺っていて、瀬が近づくとカヌーの中に隠れてしまう。

カヌー犬コロちゃん 隠れるか隠れないかは、コロちゃんが瀬の音などから自分で判断している様子なのが面白い。
この利別川では、コロちゃんは終始カヌーの舳先でまったりと寛いでいたので、それだけ穏やかな川と言えそうだ。

クラブの中にはそんな川を「退屈するだけだ」と嫌う人もいるが、この川はスリルを求める川じゃなくて、その風景を楽しむ川だと思う。

その流れも、決して単調ではなく、川幅が狭まって波が立っている場所もあれば、倒木に塞がれてポーテージを強いられる場所もある。
その気になればサーフィンができそうな波だってある。
冒険気分は十分に味わえる川なのである。

かみさんが「あっ!タモギダケ!」と声を上げた。
私はそのまま通り過ぎるつもりだったが、かみさんは必死になって岸に着けようとしている。

流木の山を乗り越えてタモギタケを採りに行くしょうがないので上陸することにしたが、かみさんは流木の山をものともせずに歩いていき、タモギダケをゲット。
川を下りながら、一瞬で鹿の角を見つけたりキノコを見つけたりするかみさんの能力に、kenjiさんが半ば呆れていた。

交通量の比較的多い国道が並行して走り、流域に畑が広がる利別川だが、その中を蛇行して流れる様子は自然河川そのままである。
樹木の間を抜けるように下っていくと、時々姿を現す特徴的な岩盤や土壁。
今にも頭の上に崩れ落ちてきそうな土壁。
その土壁に根っこ1本でぶら下がるように育っている樹木。
そんな風景が飽きることなく次々に展開される。


利別川の風景   利別川の風景
両岸から樹木が倒れかかる   風景を眺めながらのんびりと下る

利別川の風景
様々な奇岩、いや、奇土壁?が姿を現す

巨大な土壁が前方に前方に巨大な土壁が見えてきた。
川を下っていると様々な土壁を目にする機会が多いが、次第に目の前に迫ってくる土壁は、これまでに見てきた土壁とは少し様相が違っていた。
土壁の表面には、所々が大きく剥がれ落ちたような跡があり、それが土壁全体を特徴的な姿に見せているのだ。

土壁の対岸にちょうど良い川原があったので、そこに上陸して一休みする。
圧倒的な迫力で聳え立つ土壁は、私がこれまでに見た土壁の中でも一番美しいと言っても過言ではないだろう。
利別川でこんな素晴らしい風景を見られるとは思ってもいなかった。


利別川の土壁
不思議な割れ目を見せる土壁

利別川の風景カヌーフィールドとしてはほとんど知られていない利別川だけれど、釣り人の間では結構有名な川らしい。
日曜日だけあって釣り人の数も多い。
聞いてみると、ニジマス狙いのようである。

釣り人が遠くから私達の存在に気付いてくれると良いのだが、中には釣りに夢中で、直ぐ近くに行くまで全く気付かない人もいる。
そして、後ろを振り向いた途端、目の前にカヌーがいるのだから、驚くのも最もである。

その方から、「ここでカヌーを見たのは初めてだ」と言われる。
総じて、カヌーに対して好意的な釣り人の方が多かったが、多分それはカヌーで下っている人が少ないからなのだろう。

美しい河原で休憩 これで、利別川を下る人が多くなってくると、その対応も違ってくるような気がする。
釣り人の多い川を下るときは、こちらも気を使ってしまう。

再び美しい土壁の向かいに川原があったので、そこで再び小休止をとる。
そこの川岸に生えていた柳の根には驚かされた。
まるで、屋久島で見たガジュマルのような姿なのである
根の部分が川の流れで洗い出されたのだろうか。
それにしても、こんな柳の根を見るのは初めてだった。
色々と初めてのものを見せられる利別川である。


利別川の風景   ガジュマルのような木の根
たまにこんな障害物も現れる   不思議な木の根だ

思い描いていた通りの素晴らしい川だと実感しながら、再び下り始める。
しかし、その先で行われていた河川工事の風景により、すっかり興ざめしてしまった。

河道拡幅の現場一目見ただけでは、何のための工事なのかさっぱり分からない。
河畔林を全て切り払い、その場所の土を積み上げたり掘り取ったりしている。
土が無くなり平らになった部分は、現在の水面から10センチ程度高いだけである。
これでは、少しでも増水したら、その部分が水について、平らになった土が一気に洗い流されてしまう。

やっと工事区間を通り過ぎてホッとしたが、その先に広がっていた広大な川原を見て、この工事の目的が判った気がした。
普通の川原にしてはちょっと様子がおかしい。
多分、この前の工事区間にあった様な低く削られた平らな土地が、川が増水した際に水に浸かり、そこの土が流された後にはこんな川原が広がるのだろう。

河川工事の事には詳しくないが、恐らく洪水時の流量を増やすための河道拡幅と言われる工事が行われていると思われる。
この工事は、下流側から上流に向かって順次行われているらしく、これまで下ってきた区間と比べると川の風景が一変してしまった。
殺風景な河原この変化は、カヌーで川を下っている人間でなければ分からないものである。

河道を拡幅すると言うことは、現状の河畔林を含めて、そこの土を丸ごと掘り取ってしまうことである。
極端な言い方をすれば、最悪の自然破壊である。
しかし、川の上から眺める景観に配慮する事など、一般的には全く有り得ない話しだ。
問題にするとすれば、数十年に一度の洪水を想定して行われているだろうこの工事が、本当に必要なものなのかどうかとの部分である。

複雑な思いに駆られながら、殺風景な川を下り続ける。
工事後、年月を経れば、また元のような河畔林が茂ってくるのだろうが、その景観はもはや自然河川とは言い難いものである。
所々にある広大な川原も、河畔林を削り取った跡にできた川原だと思うと、そこにテントを張りたいとの気持ちも湧いてこない。

そんな思いのまま、車をデポしてある橋まで下ってきた。
時間はまだ12時を過ぎたばかり。
ここまでの約18キロを下るのに4時間かかっていて、結構良いペースで下れている。
天気も素晴らしく良いので、当初に予定していた区間を下り通すことにした。
上流に停めてあった車を取りに戻り、そのまま1台を下流のゴール地点において再び戻ってくる。

ちょっとした瀬も現れる既に13時を過ぎていたが、もっと景色の良い場所を見つけて、そこで昼を食べる事にして後半戦のスタートとなる。
この辺りからは工事の痕跡も次第に薄れてきたような気がするが、ただ単に、今の風景を見慣れただけなのかもしれない。
それでも、工事で川幅が広がったことにより、浅瀬も多くなっていた。
注意して進路を選ばないと、何時の間にか浅瀬に入り込んで行き場を失う事になってしまう。

おまけに南西の風も強くなってきた。
川の流れる方向に対しては向かい風となるが、大きく蛇行しながら流れているので、その影響は限定的だ。
それでも、お腹が空いてしゃりバテ気味kenjiの姫さんは、苦労しながら下っているみたいだ。
天気も良すぎて、太陽の陽射しに晒されているのが辛く感じてくる。


利別川の風景
広々とした風景も良いものだ

そのうちに、小さな川原だけれど、風も陽射しも遮られ、隣には美しい沢が流れ込む、格好の休憩場所を見つけて上陸する。
既に午後1時半を過ぎていた。

休憩の河原沢が流れ込んでいるところは数メートルの土壁となり、沢の奥の方にも土壁が続いていた。
陸別方向の空には真っ白な入道雲らしきものが見えていた。
この時間、十勝北部には雷注意報も発令されていたようだ。

何時までも留まっていたくなる様な、本当に気持ちの良い川原だったが、まだまだ先は長い。
昼食を終えて再び下り始める。

この先にいよいよクライマックスが待ち構えているはずだ。
国道からでもその姿が確認できる真っ白な土壁。
途中で見た土壁も素晴らしかったが、この土壁もそれに勝るとも劣らないものだと思われる。


昼の休憩
最高の休憩場所

沢の流れ込み   利別川の風景
この沢もなかなか美しい   遠くには入道雲が

利別川の白い土壁その真っ白な土壁が、目の前に次第に迫ってきた。
この土壁も風雨の浸食を受け、他では見た事もないような模様を形作っている。

カッパドキアとか、似たような風景を雑誌やテレビ等でで見たような気がする。
その真下まで近づいたが、とても日本の風景とは思えないものだった。

そこから先、楽しみが終わってしまうと、ゴールまでがひたすら遠く感じてくる。
それでも、再び同じような真っ白な土壁が現れたりして、それなりの楽しみもある。


利別川の白い土壁
圧倒的な迫力の土壁

今回の下った距離は約30キロ。
これだけの長距離を1日で下るのは、カヌーを始めてまだ間もない頃、家族で天塩川を下って以来となる。
下半身の自由が利かないカヤックでこの距離を下るのは、苦痛にしか感じないだろうが、カナディアンならば平気である。

利別川の風景時間さえ気にしなければ、何もしないで浮かんでいるだけでカヌーは流れていく。
今回は、下り終わった後に札幌まで帰る事を考えると、どうしても先を急いでしまうが、それさえなければ30キロの距離も殆んど気にならなかった。
ソロで漕いでいるkenjiさんと姫さんは、風もあったので、私達よりもきつかったかもしれない。

午後3時半、無事にゴール地点までたどり着いた。
天気にも恵まれ、美しい風景にも癒され、充実した川下りとなったのである。

2015年6月14日 曇りのち晴れ 
当日12:00利別川水位(大誉地観測所) 156.29m

利別川の風景写真 


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