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沙流川

(キャンプ場〜三岩橋下流)

カヌークラブのミニ例会で日曜日にトナシベツ川、その前日に沙流川を下ろうとの話になる。
雪解け水による増水具合が気になるが、トナシベツ川は多分、近くの空知川の水位を見ても、水はそれ程多くは無いだろうと予想していた。
問題は沙流川の方である。
かなり下流にある水位計データを見る限りでは、水位はかなり高い状態が続いていた。
2009年の例会で下って大変な思いをした時の水位よりは下がっているが、ダムの下流の水位計なのであまり当てにはならない。

沙流川三岡の瀬札幌から日高へと向かう道中、ずーっと低い雲が垂れ込め、途中からは霧雨も降り始めた。
日高に到着しても天気は回復せず、テンションも上がらない。

時間も早かったので、先に三岡橋から川の様子をのぞいてみる。
予想通りに水は多く、橋の下の落ち込みも潰れてしまっている。
水の濁りもそれ程酷くはなく、三岡の瀬もこれならば下れそうに見えるが、橋の上から見るのと実際に流れの横で見るのとでは全く様子が違っていることは良く分かっていた。

スタート地点は沙流川オートキャンプ場の前。
いつもならば、そこには広い川原があるのだが、今回は完全に水没していた。
霧雨は止んだものの、相変わらず空低くガスがかかったままだ。

パッとしない天気参加者は、ガンネルズから2名、HCCCから1名のゲスト参加を加え10名。
その中で、自分が何時になく緊張しているのが分かる。
川下り前にこんな気分になるのは、増水したルベシベ川を下った時以来だ。
その時は、堰堤落ちでカナディアンを折ってしまい、今回も何だか嫌な予感がしてたまらない。

そんな気分のまま、川を下り始める。
スタートしたら直ぐに右岸のテトラ護岸の横を下るのが普通なのだが、今回は左岸側に新しい流れができていたので、そちらを選択する。
そこもちょっとした瀬になっていて、中央部では高い波が立っていた。

その中を下っていくと、波をまともに受けてカヌーの中にかなり水が入ってしまった。
かみさんが険しい表情で後ろを振り返り、「何でわざわざ波の高い場所に入るの!」と言いたげに私を睨みつけた。
後で考えてみると、これがその後の事件を引き起こすきっかけになったことは間違い無さそうだ。

展望台下の瀬が近づいてきた。
通常の水位ならば、流れの真ん中に大きな岩が飛び出ているのだが、今日の水量ではその大岩は完全に水面下に沈んでいた。
展望台下の瀬事前に下見をしていたN島さんの話では、そこは右側を下れば良いだろうとのこと。
しかし、N島さんをはじめ、前を下っていた人たちは皆左側のルートを選択したようだ。

私は最初から右を下ろうと考えていたので、そちら側に進む。
大きな白波が立っているところが多分大岩なので、その右に狙いを定めて下っていく。
しかし、流れに押されて結局はその大きな波の中へ。
カヌーの底が何かにガツンとぶつかる衝撃があったが、無事にそこを通過。
多分、まともに大岩の上を通過してしまったようだ。
無事に下れはしたけれど、自分の想定したルートからは外れてしまったので、何となく不満が残った。

気が付くと、O橋さんが沈脱して流され、ゲスト参加のT井さんが岸に上がって、ひっくり返ったカナディアンの水抜きをしているところだった。
T井さんはカヌーを始めてまだ間もないらしく、それで大型カナディアンに一人で乗って増水した沙流川を下ろうと言うのだから、この先がちょっと思いやられる。

体制を立て直して再び下り始める。
その先で川幅が狭まり、瀬になっているところがあった。真っ直ぐな流れで波も素直なので、何時もは爽快に下れる瀬である。

予定ルートしかし、上流から眺めた様子ではかなり高い波が立っていそうだ。
かみさんからまた睨まれるのも嫌なので、波の高い部分は避けて下ることにした。

「左側に行くぞ」
そうは言ったものの、どう見ても中央に寄せられてしまいそうだ。
それでも何とかなるだろうと思いながら瀬の中に入る。
そしてその波から抜け出そうとした時、ちょうど斜め横から波を受ける形になってしまった。
カヌーはゆっくりと右に傾き、リカバリー動作もできないままに、そのままひっくり返ってしまった。

この沈は、私にとって精神的なダメージが大きく残った。
最近の私達の沈は、岩に引っかかったり、落ち込みでバランスを崩したりするものが殆どで、波に煽られて沈するなんてことは久しく無かったのである。
「かなりの大きな波でも、それだけで沈することは無い。」
そんな自信も持ちかけていたのに、それが脆くも崩れ去ってしまったのである。


沈の瞬間   沈の瞬間
左からの波を受け   右からの波に引きずり込まれる

流されながら波を被る沈したまま流されていくと、次に横から分流がぶつかってくる瀬の中に入って、そこで思いっきり水を飲んでしまった。
その瀬を過ぎたところで流れが緩やかになり、岸に上がるならば今がチャンスだった。

そこへ、N島さんが投げてくれたロープがちょうど良いところに飛んできた。
直ぐにそのロープを掴んで、後はそのまま岸に近づくのを待てば良い。
しかし、流れは緩やかに見えても、増水した川の流れは結構なパワーを持っている。
細いロープに掴まった私と大きなカナディアンカヌー、そしてかみさん。
それらを支えながら片手でロープに掴まっているのは不可能だった。

そして次の瀬も間近に迫ってきている。
「ダメだ、このまま流れるぞ」
そう言ってロープを放した。

波で飛ばされてきたかみさん大きな波がかみさんの姿を一瞬隠してしまう。
私も再び水を飲まされる。
再び次の瀬が迫ってきていた。
普段は岩が絡んで幾つかの落ち込みができているところである。
危険を感じて、足を下流に向けた防御体制をとる。
思いっきり波を被った。

気が付くと、バウ側に掴まっていたはずのかみさんが、私の隣まで飛ばされてきていた。
お尻が岩にぶつかる。
堪らずにカヌーから手を離して一人で流れ始めるかみさん。

そこに、O橋さんの投げたロープが見事なコントロールで飛んできて、かみさんがそれに掴まった。
私はカヌーを確保したままそのまま流れようとするが、かみさんの掴まっているロープの端が私の首に絡みつき、慌ててそれを解く。

ストライクで飛んできたレスキューロープその先に見覚えのある岩のゲートが迫ってきた。
S嬢が「岩の後ろにエディがあるよ」と声をかけてくれる。
ここまでくれば一安心だった。
流れの緩くなったところでようやく岸に這い上がることができた。

しばらくして、上流に取り残されていたかみさんが、T井さんのカナディアンのバウに乗って送り届けられた。
今回の沈では、ロープを投げてくれた人、ボートレスキューを試みてくれた人、声をかけてくれた人、カヌーで送り届けてくれた人、本当に多くの人たちに助けられた気がする。
久しぶりに長い距離を流されて、チームで下る心強さを改めて感じることとなった。


送り届けられたかみさん   濡れ鼠の2人
HCCCのT井さんに送りと届けられたかみさん   濡れ鼠の私達

消耗した私達のためにそこで小休止をとる。
よしひろさんがチョコを出してくれた。身体も冷え切っていたので、それがとても美味しく感じる。
私もかみさんも、お尻を岩にぶつけたようだ。それに加えてかみさんは左手の小指も痛めたらしい。

一息ついて再び下り始める。
その下流の右岸側の流れの先にも波の高い瀬が見えていた。

鹿の屍を乗り越えてのポーテージそこは左のチキンルートっぽい分流を下るのかと思っていたら、皆はそのまま右岸側の流れを下っていく。
しょうがないので、一番最後からその後に付いていく。
私達の前を下っていたよしひろさんが、いきなり左の岸に上陸した。
かみさんも突然左に強引なドローを入れる。
その先の巨大な波を見てビビッてしまったようである。

中州を横断して左岸側の分流までカヌーを運ぶ。
その時、よしひろさんの足元に鹿の屍が横たわっていたのにはビックリした。
きっと増水した川に流され、ここに打ち上げられたのだろう。
その姿は私達にとって、とても他人事とは感じさせないものがあった。

左の分流も岩だらけで逆に下りづらかったけれど、何とか皆が待っている場所までたどり着いた。
笑われてしまったけれど、こうなったら完全なチキンとなってこの先も下り続けるしかないと心を決める。

三岡の瀬その後、三岡橋の瀬の手前まで何とか下ってきて、瀬を下見するため一旦上陸する。
三岡の瀬の上流部もかなりの迫力の瀬となっていた。
そこでそれなのだから、三岡の瀬そのものの状況は言うまでもない。
何時もならばその上から瀬を眺めていた岩場も、今日は増水のため水を被ってしまっている。

橋の上から眺めた時は下れそうな気もしていたが、今はそんな気は更々ない。
O橋さんとK岡さんも、瀬の迫力に圧倒されて今回はパスすることに決めたようだ。

下見を終えてカヌーまで戻る途中、その辺りの崖を見上げると見事なウド畑が広がっていた。
その大きさも太さも正に食べごろ。斜面をよじ登って収穫する。
N島さんなどは、皆が瀬の下見をしている間も、一人黙々とウドの収穫をしていたのである。

ウド畑そのままそこで昼食休憩となった。
核心部を目の前にしての昼食では、食べ物も喉を通らない。
核心部をポーテージするつもりの私達も、別の意味で食欲がなかった。
かみさんはお腹が痛いといって、何も食べようとしない。
腹までぶつけた訳じゃなさそうだが、川の水を飲みすぎたのだろうか。
川の水を飲んだのは私も同じだが、少しは食べておかないと元気が出ないので、おにぎりを一個だけ口にした。

休憩を終えてからカヌーをポーテージする。
その場に残った人たちは、三岡の瀬にチャレンジするつもりなのだろう。
ポーテージ組は撮影班、レスキュー班に分かれて、皆が下ってくるのを待ち受ける。

一番最初に下ってきたのは、ガンネルズのI垣さん。颯爽と瀬をクリア。
次に下ってきたN島さん、上手くクリアしたように見えたが途中で沈。
カヌーは小さなエディにはまって、体だけが流されていく。
人間はレスキューされたけれど、カヌーは対岸のエディに巻かれたままで、そこから出てきそうな気配もない。

エディに捕まったカヌーと流されるN島さん さてどうしようと考えていると、N島さんが下流側の流れの緩い場所で泳いで対岸に渡り、崖伝いにカヌーのところまで戻る。
そしてエディの中でひっくり返っていたカヌーをようやく引き揚げ、そこに乗せてあったウドが流されてなかったことを確認して、嬉しそうな表情を浮かべた。
多分、自分の身よりもカヌーに積んであったウドのことが心配でならなかったのだろう。

私達と一緒にチキンコースに逃げていたよしひろさんが、ここにチャレンジするみたいなので、驚いてしまった。
2年前、瀬に入る前に沈して、体一つで三岡の瀬を流されたタケさんの姿が目に浮かんでくる。

決定的瞬間を記録に残してあげようと、背を下ってくるよしひろさんにカメラを向け続ける。
しかし、私のそんな期待も空しく、豪快に瀬をクリアして会心の笑みを浮かべたのである。
よしひろさんが、チキンの殻を完全に脱ぎ捨てた瞬間だった。
ここでは5人がチャレンジし、2人沈という結果となった。


三岡の瀬   三岡の瀬
最初にクリアしたガンネルズI垣さん   会心の笑みのガンネルズさちえちゃん

三岡の瀬
チキンの殻を脱ぎ捨てたよしひろさん

ここに来てようやく青空が広がってきた。その空に、周りの山の新緑が美しく映える。
後は美しい風景を眺めながらゆったりと下るだけ。

青空が見えてきた しかし、水の増えた沙流川はそんな余裕を与えてくれない。
おまけに、沈のダメージが徐々に大きくなってきていた。
岩にぶつけたお尻が痛くて、カヌーのシートにまともに座れない。
右手の甲も何時の間にか青く腫れあがっていた。
かみさんはお尻はそれ程痛くはないようだが、左手の小指が痛くて曲げられず、パドルも満足に握れない。
そんな状態で瀬を下るのは、あまり気持ちの良いものではない。

轟渓谷の中に入ってきても、まだ激しい瀬が続く。
T井さんは隠れ岩にカヌーの先端をぶつけ、その箇所が見事にへこんでしまっていた。
それでも沈しないのだから大したものである。
GW中に行われた釧路川の100キロマラソンでも上位に入賞したらしく、それだけの経験があれば、大方のことには対応できるのだろう。
最初に沈した時の心配は、全く無用だったようである。


安定したパドリングのT井さん   美しい渓谷の中を下る
安定した漕ぎのT井さん   新緑の沙流川渓谷

沙流川渓谷を下る
渓谷美の中を下っていく

沙流川日高大橋その先の瀬でもたっぷりと水を汲んでしまい、皆が先に下って行ってしまう中、私達だけが岸に上陸して寂しくカヌーの水抜きをする。

日高大橋を過ぎると瀬らしい瀬もなくなり、ようやく風景を楽しみながらのんびりと下る余裕が出てきた。
そうして、車を停めてあった場所までたどり着く。

澄んだ青空とは対照的に、私たちは身も心もボロボロとなっていた。
この青空が最初から広がっていれば、もう少し違った結果になっていたかもしれない。
そんな事まで考えてしまう、とても悔しい川下りだったのである。

2015年5月16日 曇りのち晴れ 
当日12:00沙流川水位(幌毛志橋観測所) 57.45m 


沙流川を下る
新緑が日に映える

新緑の沙流川   ゴールに着いた
新緑を愛でながらのんびりと下る  

ゴール到着時は最高の天気に



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