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鵡川(赤岩青巌峡)

(赤岩橋〜仁々宇橋下流)

カヌークラブ例会10月例会最終日は、当初は沙流川下流の振内付近を下ることになっていた。
ところが前夜、O橋さんが「沙流川は水は少ないし、振内の辺りって何もないよね〜、赤岩青巌峡を下ったほうが面白いんじゃない?」と言い始めた。
それに対して反対意見は全くなし。
「本当にそんなとこ下れるの?」と心配そうな表情を浮かべるがんちゃんやN野さんに対して、O橋さんやI山さんが「ぜーんぜん大丈夫!水が少ない時は簡単に下れるから」と何時もの騙しの言葉を次々に並べ立てる。

私にしても、結構ハードな川を2日連続で下った後に赤岩青巌峡となるとさすがに腰が引けてしまうが、今更何もしないで札幌まで帰る気にもなれない。
ところが、かみさんは完全にパスするつもりらしく、当日の宿を出る頃になっても着替えるそぶりも見せない。
今回の参加メンバーならば、赤岩青巌峡を下るのにスキル的には問題なし。
ただ、ビンバさんだけが心配だった。
前日の沙流川を下った時の様子を見れば、赤岩青巌峡でも何とか下れそうだが、何と言っても彼はカナディアンに乗り始めてまだ2年目なのだ。
「ビンバさんはどうするの?」jとさりげなく聞いてみたところ、「はい、下ります!」と何の迷いもない返事が返ってきた。
赤岩青巌峡がどんな場所なのか、全く分かっていない様子である。

スタート地点に舟を下ろすOC-1のY須賀さん、N島さんの両重鎮が、寄る年並みには勝てずに今日は不参加。
もしも我が家が参加しなければ、カヤックメンバーに混じってビンバさん一人でカナディアンで下ることになる。
有り得ない話だ。
「ビンバさんを一人で下らせるつもりか!」
その一言で、かみさんもようやく下る決心がついたようだ。

スタート地点は赤岩橋の下流。
皆で協力しながら、ロープを使って川までカヌーを下ろす。
カヌーフィールドとしての赤岩青巌峡といえば、本来はこの赤岩橋の上流部分である。
しかしそこは、本当のエキスパート向けの区間であり、大型カナディアンで下れるような川ではない。

わざわざ上流へ舟を運ぶこれから下るところは、観光地としての赤岩青巌峡である。
とは言っても、厳しい流れであることに変わりはない。
川まで降りてみると、巨大な岩が積み重なる光景に圧倒されてしまう。
カヤックのメンバーは、岩に挟まれた小さな落ち込みを下るために、わざわざその岩の上流から舟を出す。
スタートして暫くは穏やかな流れが続くので、少しでもスリルを味わいたいのだろう。

そして全員が揃ったところで集合写真を撮り、いよいよ川下りのスタートである。
穏やかな流れと言っても、巨大な岩の間をすり抜けるように下るその感覚は、他の川では味わえないものである。
ビンバさんもそんな風景に「やっぱり来て良かった」と感動している。
それを言うのは核心部を越えてからにした方が良いと思ったが、ここでは敢えて黙っておくことにした。


赤岩青巌峡
ビンバさんもこの風景には感動

鵡川の瀬穏やかだった川の様子が次第に荒れてくる。
小さな岩が多く、水が少ない時は下るルートの選択に苦労するところだ。

ところが意外にあっさりとそこを抜けてしまう。
福山観測所での今日の鵡川の水位は、2年前にここを下った時と同じなのだが、実際にはその時よりも水が多い気がした。
家に帰ってから、2年前の写真と見比べてみると、やっぱり今回の方が水が多くて、その分下りやすくなっていたようである。

そしていよいよ最初の難所である。
前回は全員がポーテージしたポイントだけど、私はその時は「カナディアンならば下れそうだ」との印象を抱いていた。
下見をした結果、その印象は更に確実なものとなり、他のメンバーがポーテージしたとしても私たちはここを下ろうとの結論に達した。
I山さんも今回は下ることに決めたらしく、私たちは先を譲ることにする。

そのためにはレスキュー体制を整える必要があり、何人かが下流に回らなければならない。
そんな時にビンバさんが「僕が先に行ってます」と手を上げた。
これには感心してしまった。
途中で引っ掛かったビンバさんカヌーに乗り始めて2年目で初めて下る赤岩青巌峡。普通の人ならそんなところまでは気が回らないものである。
瀬の下流へと回るためには、フェリーグライドで対岸に渡り、右岸側をポーテージすることになる。
ところがビンバさん、フェリーグライドしている間にどんどんと下流に流されはじめた。

「あ〜、やっぱり」
「僕が行きます」と言って直ぐにカヌーに乗り込むビンバさんを見て、「えっ!大丈夫?」と心配していたのである。
案の定、途中で岩に引っかかって舟が大きく傾く。
そのまま沈した状態で瀬の中を流される。
見守っていた誰もがそんな状況を頭の中に思い浮かべたであろうが、何とか事なきを得て、一応レスキュー体制が整った。

全員がI山さんを見守る一番最初に颯爽と下っていくI山さんの後姿を見送る。
落ち込みの回りでは、決定的な瞬間を撮そうとカメラマンが待ち構える。
落ち込みで一瞬姿が見えなくなった後、その先で再び、カヌーに乗ったままのI山さんが姿を現した。

その様子を見ていた人達が、石山さんが無事に下ったのを見て一斉に動き始める。
しかし、続いて流れに漕ぎ出した私たちの姿を見て、皆の動きが止まった。
私たちもチャレンジするとは、誰も思っていなかったようである。

岩に挟まれた狭い場所が、2m近い落差の落ち込みになっている。
そこを落ちた瞬間にどうなるかが一番のポイントだった。
その先に隠れ岩があるけれど、そこに引っかかって沈したとしても、その下は瀞場なので問題なはい。
ただ、落ちた瞬間にひっくり返ると狭い場所なので岩に身体をぶつけたりと、色々とアクシデントが起こる可能性がある。
それでも2年前より水が多い分、落ち込みの流れも素直なものになっていたので、意外とあっさりとクリアしてしまった。


落ち込みにチャレンジ   落ち込みにチャレンジ
緊張の一瞬   落ち込みへと吸い込まれる

落ち込みにチャレンジするI上さんもしかしたら、ポーテージを考えていた人もいたかもしれないが、私たちがカナディアンで下ってしまったのを見ては後には引けないのだろう。
がんちゃんとN野さんの女性陣を除いて、結局は全員がチャレンジ。

K岡さんだけが沈して、ビンバさんの投げたレスキューロープに釣り上げられることとなった。
ただ、人間とカヤックをまとめて1本のロープで釣り上げると結構な重量となるので、危うくビンバさんも、釣り上げた魚によって水の中に引きずり込まれそうになっていた。

その瀬の下流も、岩の間を縫っていく急な流れとなっている。
岩にぶつかりながらそこを下っていくと、瀬を過ぎた先でS本さんが沈脱していた。
これでは後から下ってくるビンバさんも沈は免れないだろうと、直ぐに岸に上がってレスキューロープの準備をする。
ところがビンバさんは、私たちよりも危なげなく、その瀬を颯爽と下ってきたのである。


岩にぶつかり前のめり   颯爽と下るビンバさん
岩にぶつかって前のめりに   ビンバさんは颯爽と下ってきた

絡んだまま投げられたロープそれでも、用意したロープは無駄にならなくて済みそうだ。
IW田さんが瀬の途中で沈して、流れてきたのである。
「ロープいきます!」と声をかけ、狙いを定めてロープを投げた。
ところがそのロープ、とんでもない方向に飛んでいってしまった。
慌ててロープを引き寄せ、以前のレスキュー講習で教えられたとおりに、ロープの反対側を使って2投目を投げる。
今度はそのロープ、ぐちゃぐちゃに絡まったままで私の目の前にポトリと落ちた。

考えてみれば今シーズン、目の前に沈している人がいても、私はそれをカメラで記録するだけ。ロープを投げたのは今日が今シーズン初めてだった。
それではまともに飛ぶわけがない。
ロープレスキューもビンバさんの方が上手だったのである。

昼の休憩そこで昼の休憩。
ここまで2回沈脱しているIW田さんは、一人でロール練習を始めた。
沈脱の速さでは誰にも負けないIW田さんだけれど、どうやらその速さを追い求めるのは止めたらしい。

そこから下流を眺めると、この付近がV字谷の地形になっていることが良く分かる。
V字谷と言えば黒部渓谷とか四国の祖谷渓などが思い浮かぶ。
北海道でV字谷の底を流れる川は、ここ赤岩青巌峡くらいな気がする。
層雲峡も深い渓谷の中を石狩川が流れているけれど、そこはV字谷の地形ではない。

それはともかく、素晴らしい紅葉に染まった深さ200〜300mV字谷を谷底から見上げる風景は筆舌に尽くしがたい美しさである。
生憎今日は曇り空なのだが、それがかえってここの紅葉を美しく演出している気がする。
まるで深山幽谷の紅葉風景を見るかのようだ。


V字谷の紅葉
紅葉に彩られたV字谷の絶景

休憩を終えて下り始めた最初の瀬でIW田さんが沈。
先ほどのロール練習の成果を見せることも無く、またしても電光石火の沈脱を披露してくれた。

2カ所目の瀬の様子2箇所目の難所までやってきて、皆と一緒に下見をする。
最初の落ち込みさえクリアすれば、その下の岩がらみの流れも何とか下れそうである。
私の頭の中には攻略ルートが完全に出来上がっていたが、かみさんは見た途端に「絶対無理!」と拒絶の姿勢に入ってしまった。

説得するのも面倒なので、さっさとポーテージすることにした。
ここのポーテージ距離が一番長く、たとえ沈しても下ったほうが余程楽である。
ただ、大きな玉石がごろごろしている場所なので、摩擦係数が小さく、何とか一人で下流まで引きずっていくことができた。

ここでもビンバさんは、一人でポーテージし終わった後、N野さんのポーテージも手伝ってあげていた。
そのナイスガイ振りには、感心するしかなかった。

ポーテージを終えて、皆が瀬を下る様子を見に戻ると、かみさんが「あら?ポーテージしちゃったの?せっかく下ろうと思ったのに」
瀬を見た途端に攻略方法も考えようとせずに「絶対無理」と言う癖は、直してもらいたいものである。

ここはチャレンジした全員が問題なくクリア。
写真を撮っていても今一つ迫力に欠けて、瀬のレベルとしては見た目ほどには高くないのかもしれない。


鵡川の瀬を下る   鵡川の瀬を下る

皆は左岸側の落ち込みを下っていた

  この程度の落差なら大丈夫だったのに・・・

最後の難所核心部最後の難所までやってきた。
巨大な岩が積み重なり、見ただけでその迫力に押しつぶされそうになる。
瀬の方は岩が多い流れになっていて、ここはさすがにカナディアンにとって難易度が高そうだ。

それでも岩と岩に挟まれた狭いルートを真っ直ぐに抜ければ攻略できそうな気もする。
かみさんもここでは、私と一緒に真剣に攻略ルートを考えている様子だ。

そこにI山さんの一言「張り付いたら終わりですね」
確かに、岩の間隔も狭く、途中で少しでもミスったら直ぐに岩に張り付いてしまうだろう。
そうすると、流れも速いので、かなり悲惨な事態になりそうである。
2年前も確か、I山さんの同じ言葉によりポーテージを決断した気がする。

瀬の途中から下るポーテージの距離的には先ほどの場所より短いが、巨大な岩が山の様に積み重なった場所を越えなければならないので、ポーテージの厳しさはここが一番である。
さすがにここでは一人でのポーテージは無理で、皆で協力し合ってカヌーを移動させる。

瀬が終わる場所までポーテージするのも大変なので、一番危ない場所を過ぎたところからカヌーを出すことにした。
大岩の間で苦労しながらカヌーを引っ張っていると、水の流れている場所ならば少々危ない場所でも喜んで下りたくなる気持ちになるのだ。
小さな落ち込みもするりと下って、巨大な岩の間を抜けると大きなエディへと出てきた。


瀬の出口   瀬の出口

瀬の最後はこの岩の間を抜ける

  瀬の出口から見た様子

最後の瀬仁々宇橋が見えてくると最後にちょっとした瀬がある。
前回はそこで座礁し、最後にはかみさんを降ろして、私一人で下った場所である。
今回は水が多かったせいか、問題なくクリアすることができた。

ここを過ぎれば、後はV字谷の風景をのんびりと下ることができる。
そしてラフトのゴール地点で岸へと上がった。

2年前は、核心部の3箇所を全てポーテージしたので、赤岩青巌峡を下ったと言う充実感は全く得られなかった。
それが今回は、3箇所のうち1箇所半を自力で下り、その他の場所も下るルートは見えていたので、これでようやく本当に赤岩青巌峡を下ったと言える気がしたのである。

2014年10月13日 曇り 
当日12:00鵡川水位(福山観測所) 168.41m 
  (占冠観測所) 329.86m 


紅葉の鵡川
この色合いの素晴らしさ、言葉もない

紅葉の鵡川
仁々宇橋付近は深山幽谷の様相だ

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