川霧が薄くなって前方の視界が開けると、中州を挟んで川が分流しているのが見えてきた。
「ここが二股ね」とかみさん。
かみさんの方が良く覚えているみたいだ。
先を下っているメンバーは右と左に分かれる。
これまでは左側の分流を下っていた気がしたので、私がそちらに進もうとすると、かみさんが「いや、右よ」と言い始める。
どちらに入っても変わりは無さそうなので、かみさんの意見に従うことにしたが、判断が遅れた分、コース取りが乱れて、カヌーの底を擦ってしまう。
右側を下っていくと、二つの分流が再び合流する手前で、巨大な岩が流れを分けていて、その岩の左にルートをとる。
できればそのまま大岩の後ろに回り込みたかったが、かみさんに指示を出すタイミングを失してしまい、そのまま先へと下っていく。
どうも今日はかみさんとの息が微妙に合ってない気がした。
この川は、水量が増えると、大きなエディが殆ど無くなってしまうので、大勢で下る時は苦労させられる。
皆が瀬を下っている写真を撮ろうとしても、留まっていられる場所が無いし、誰かが沈して流されたとしても、レスキューできるポイントも少ないのである。
まあ、レスキューできないまま流されたとしても、最後にはダム湖に流れ着くので、それ程心配することも無い。
ただ、4年前にカヤックで沈脱して、レスキューできないままかなりの距離を流された人がいたが、できればそんな目には遭いたくない。
流れの中に岩が点在するスラロームの瀬へと入っていく。
水が多いので、岩はほとんど隠れ岩となり、その先には大きなホールができている。
大型のカナディアンならばホールに捕まることはないけれど、できれば避けて下りたい。
今日はここでもかみさんとの息が合わなかった。
私は、流れの先にある隠れ岩を避けるため流れの中を横切るように進路を取るのだが、そうすると大きな波の中に斜めに入ってしまうことになる。
かみさんは沈を避けるため、波に対して直角に下りたがる。
しかし、そうしていると隠れ岩にまともに乗り上げることになる。
私の意図が分からないかみさんは、イラッとした表情で後ろを振り返る。
後ろの方から「そこは右だ!、ドローッ!、次は左!」と大きな声が聞こえてくる。
タンデムで下っていよしひろさん夫婦である。
何だか、昔の自分達を見ているみたいな気がした。
これだけ大声で指示を出せば、バウが迷うことはない。
たまに間違った指示を出して、それが原因で沈をしたとしても、後で「あれは貴方のせいよ!」と責められるだけの話である。
やっぱり、声を出してお互いの意思疎通を図るのがタンデムで川を下る時の基本なのだろう。
あうんの呼吸でパドリングができるほど夫婦タンデムカヌーは簡単ではないと、若い夫婦パドラーに教えられた気がした。
スラロームの瀬でかなり水を汲んでしまったので、着岸できそうな場所を探して上陸する。
こんな時もエディの少なさに苦労させられる。
岩の後ろにできた小さなエディに入ることはできても、そこではベイラーで水をくみ出す程度しかできない。
水が沢山入ってしまった時は、岸に寄せてカヌーをひっくり返すしかないのである。
岸で水抜きをして再び漕ぎ始める。
前方に、大きな白波が見えてきた。
流れが一ヶ所に集まり、その真ん中に巨大な三角波が立っている。
最近は、増水した鵡川、増水した歴舟川を連続して下り、絶対に沈したくないとの意識の元で徹底してチキンルートばかり下っていた。
それが今日は、レスキュー要員には事欠かず、ドライスーツに身を固めているので、殊更に沈から逃げる必要もない。
しかし、鵡川と歴舟川でチキン魂が染み付いてしまったようで、微妙に波を避けながらルートを取っている自分がいた。
それに比べて、まさひろさん夫婦は何のためらいもなく波の頂点を潰しながら下っていた。
そんな姿を見せられ、自分達が恥ずかしく思えてくる。
川の流れも速く、途中で遊べるような場所も少なく、事件も起こらなかったので、あっという間にゴール地点の河原まで下ってきてしまった。
あっさりと終わり過ぎて、もう一度下ろうとの話が直ぐにまとまった。
その前に、まずは腹ごしらえである。
いつの間にか青空が広がり、陽射しを浴びながら河原で食べるおにぎりはとても美味しい。
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