それでも、川岸には巨大な流木が流れ着いていたりして、自然河川の荒々しさは完全には失われていない。
クラブの例会案内では「初心者でも大丈夫な川です」と紹介していたけれど、私は以前から十勝川のこの区間は結構危ない川だと感じていた。
流れも早く、所々に流木のストレーナーもあり、本当の初心者では本流から抜け出せないままストレーナーに引っ掛かってしまうことも考えられるのだ。
今回の例会はベテランばかりの参加なので、何も心配することなく下っていられる。
ただ、心配なのは自分の身だった。
次第に向かい風が強くなってきて、何度もカヌーが後ろ向きに回されてしまう。
タンデムの時ならば、倒木があってもそのすぐ近くを余裕を持って漕ぐことができるけれど、こんな状況である。
倒木の近くまでいってから、向かい風でカヌーのコントロールを失っては大変である。
倒木や障害物を確認したら、その遥か手前から進路を変更して、なるべく離れるようにする。
流れが早く、向かい風も強く、そんな事にも苦労する有様だ。
放水路からの水が入った後は、十勝川は本来の力強さを取り戻す。
何せ、広大な十勝平野を造りだした大河である。
何時も下っている様な川と比べると、全く違った印象を受ける。
初めてここを下った時、川を塞ぐようにテトラが一列に並んでいる場所があって、寸前で岸に上がって事なきを得たことがある。
次に下った時はそんなテトラは消えてなくなり、その代わりに護岸からテトラの列が櫛状に伸び出た水制ができていた。
今回は、そのテトラの列も全て消えて無くなっていた。
幾つものダムでその本来の姿を失ったように見えても、十勝川はやっぱり、人間の力で簡単に制御できるような川ではないのである。
とうとうと流れる十勝川には途中で遊べるようなスポットもほとんど無く、皆は黙々と下るだけである。
私は後に付いていくのだけで精一杯。
途中で音を上げ、半ば悲鳴のように「そろそろ昼にしませんか〜」と呼びかけた。
休憩中、誰かが「この辺りはクマは出ないのかな?」と話していた。
確かに、周りの鬱蒼とした河畔林を見ているとクマが出てきても不思議ではない雰囲気である。
しかし、その河畔林の周りには広大な畑作地帯が広がり、とてもクマが現れる様な地域ではないのである。
川の上からは人工物も殆ど見えず、全くの自然河川を下っている様に感じるのも、この川の良いところかもしれない。
遠くから雷の音が聞こえてくる。
雨雲レーダーを確認すると、発達した雨雲がもうすぐ近くまでやってきていた。
上空には時々青空ものぞくけれど、時々雨粒もポツポツと落ちてくる
その雨粒に追い立てられるように、再び下り始める。
|