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支湧別川

(上支湧別橋〜その次の橋)

カヌークラブ6月例会の初日は支湧別川。
今年は6月中旬になっても道北方面の川の増水が続いていて、それだけが心配だった。
我が家は、4年前に一度だけここを下ったことがある。
その時の写真を見ると、緑に包まれた中の渓流はとても美しく、クラブのO橋会長も「これまで下った川の中でも一番かも」と言っている程である。
白滝ICに集合ただ、その時の自分が書いた川下り日記を読むとかなり苦労しながら下っていたようでもある。
しかし、自分が書いたものでありながら、時には面白おかしく大げさに書いていたり、本当に危ない場所をサラリと書き流していたりするので、川下りガイドとしては全く参考にならないのである。

昨日の夜から降り始めた雨が、集合場所の白滝IC駐車場に着いてもまだ降り続けていた。
午後からは天気が良くなる予報なので、そんな雨は誰も気にしていない。

ゴール地点の幽仙橋に車を置いてから、皆でスタート地点に向かう。
4年前の記憶もほとんど薄れていて、そこまでの道も良く分からない。
そして到着した場所は、明らかに私の記憶には無い場所だった。

スタート地点の川原今回のツアーリーダーはI山さん。
白滝ICに集まった時には「今日は水も多いので、上流からのスタートは難しいかもしれない。」と話をしていたので、スタート地点は当然、4年前に我が家が例会で下った時の場所だと思っていたのだ。
着いた場所は、その難しいはずの上流部だった。
この何時ものI山さんペースのおかげで、過去に何度も怖くて楽しい経験をさせてもらっているので、今回もそれを期待することにした。

確かに、川の水は増水していて濁りもあるけれど、川原が無くなるような大増水ではない。
これならばそれ程苦労することもなく下れそうだ。
相変わらずポツポツと雨粒が落ちてくる中、集まったメンバー11名が順々に下り始める。
川幅が狭いので一列縦隊になって下っていくしかない。
流れが速く、カヌーはどんどん進んでいく。
瀬の流れは速い川幅は狭くても、そこに立つ波は大きな川と変わりはない。
しかも、避けることができないので、逆に始末が悪いかもしれない。
Y賀さんが岸に上がってOC-1の水を抜いていた。
「えっ?もう沈したの?」
そこで一旦カヌーを岸に付けるが、エディが無いので留まっていられず、直ぐにまた下り続ける。
全員が入れるような大きなエディも無く、スタートしてからノンストップで下り続け、体制を立て直す余裕もない。

先頭を下っていたI山さんが止まっているのが見えた。
先に何があるか分からない様な川で先頭に出てしまうことはできないので、私達もそこで着岸する。
大型カナディアンがエディの無い場所で止まるためには、強引に岸に乗り上げるしかない。
流れが速いところならば、それだけではカヌーは止まらず、更にそこから飛び降りてカヌーを確保しなければならない。
やっと止まることができて下流に目をやると、まだ葉を付けた樹木が川を塞ぐように倒れ込んでいるのが見えた。
後続メンバーも次々に着岸するが、倒木の左岸側に通り抜けられるスペースが見つかったので、順にまた下り始める。


嫌らしそうな倒木   倒木の横を通過
嫌らしい倒木が見えている   本流から外れれば倒木をかわせる

そしてその先にようやく大きなエディが見つかり、そこでようやく全員が一息つくことができた。
今回、久しぶりに川を下ると言うOさんは「緊張で心臓がバクバクしている」と引き攣った表情で語っていた。
元クラブ会長でバリバリのカヤッカーだったOさんも、お子さんの誕生と共に良きマイホームパパに成り果ててしまい、久しぶりに下る川がこれでは、昔の感覚も直ぐには戻らないようだ。

体制を立て直して再び下り始める。
次第に川霧が濃くなってきて、先の様子が見えづらくなってくる。
しかも川の流れは速い。
倒木の手前で着岸これでは真っ暗な田舎道をヘッドライトをロービームにしたまま時速100キロで走っている様なものである。
そのヘッドライトの灯りの中に道路に転がった樹木が照らし出され、慌ててハンドルを大きく切った。
ではなくて、川霧の中から川を完全に塞いでいる倒木が浮かび上がってきて、慌ててカヌーを岸に寄せる。
そのまま飛び降りようとするが足が引っ掛かって、なかなか抜けてこない。
かみさんを乗せたままカヌーはぐるりと下流を向いて流れていきそうになる。
やっとカヌーから降りれた私は川の中で尻もちをついたまま、必死になってカヌーを確保。
倒木の手前ギリギリである。
O橋さんも私達の隣で青い顔をしていた。

川霧はますます濃くなってくる。
これが流れの穏やかな川の川霧であれば、「幻想的な風景だ〜」なんて脳天気に喜んでいられるけれど、こんな川を下っている時は、命取りにもなりそうな邪悪な川霧でしかない。
川霧の中に現れた橋そんな川霧の中に橋が浮かび上がってきた。
先を下っていたメンバーがその手前で上陸していたので、私達も岸に上がる。

見ると、川の中に立っている2本の橋脚の左側の方に倒木が引っ掛かっていた。
左のルートはその倒木に塞がれ下れな。2本の橋脚の真ん中のルートはその倒木に引っ掛かる恐れもある。右のルートが一番安全そうに見えるが、流れの速い本流がまともに橋脚にぶつかっているので、早めにそこから抜け出ないと橋脚に張り付いてしまう。
その橋の先には、川岸の樹木につかまりながら岸に這い上がっているY賀さんの姿が見える。
Y賀さんはそのまま真ん中のルートに入ってしまい、倒木に引っ掛かって沈したらしい。

橋の下を通過他のメンバーは順番に右ルートを下っていく。
OC-1のN島さんはギリギリで橋脚をかわした。
その動きを見ていると、カヌーのバウが本流から抜け出してさえすれば、スターンが少しくらい橋脚にぶつかっても大丈夫そうなのが分かった。
幸い、橋脚にぶつかることなく私達もそこをクリア。

一番最後にO橋さんが下ってくるのが霧の中に微かに見える。
しかしその姿は途中で橋脚の後ろに入り見えなくなってしまった。
「えっ?張り付いたの!」
実際には、見えなくなっていたのは一瞬の間だったのだろうが、私には結構な時間が経過した様に感じられた。
後で確認すると、張り付いていた本人にとっては永遠の時に感じていたようである。
結局は真ん中のルートから舟と人間が一緒に流れ出てきた。
構えていたカメラをしまい、腰に付けていたレスキューロープを慌てて取り外す。
ロープを取り出すのに手間取っている間に、主のいなくなったカヤックだけが早い流れに乗って目の前を通り過ぎていった。
一発でロープがかかった「えっ!また放しちゃったの?」
先月のルベシベ川例会でも、沈脱して舟を流したO橋さんなのである。
誰かが「K岡さん、舟追いかけて!」と叫ぶ。
「えっ?それで大丈夫??」周りを見回したが、この時点でカヤックに乗っているのはK岡さんしかいなかった。
一瞬躊躇した様にも見えたが、意を決したのか、流される舟の後を追いかけはじめるK岡さん。
そんな様子を横目にチラッと見ながら、ようやくロープの用意ができて、目の前を流れ過ぎようとするO橋さんに向かって投げる。
本当は事前に声をかけアイコンタクトができてからロープを投げるものだが、そんな余裕は無い。
私の投げたロープは一発でO橋さんの首に引っ掛かった。
これが投げ縄だったら、完全にO橋さんの首を締め上げたことだろう。

ロープには凄い重さがかかるO橋さんがそのロープにしがみつき、ロープが一杯に伸びきった瞬間、ガツンとした衝撃がロープを伝わり、私も危うく水の中に引きずり込まれるところだった。
軽量級のO橋さんが身体一つで流れているのだから、そんなに引っ張られることはないだろうと予想していたのだが、川の流れの速さが計算から漏れていたのだ。
それでも、228君も手伝ってくれて何とかO橋さんを救出。

T津さんが、O橋さんの舟と、それを追いかけていったK岡さんを探すために、カヤックで出ていく。
Y賀さんと、久しぶりの川下りのOさんはここでリタイアすることとなり、歩いて車を取りに戻る。
この先、川は更に厳しい区間に入っていくとのことで、ツアーリーダーのI山さんにより例会の中止が決定された。
私がカヌークラブに入ってから、初の途中中止である。
私はO橋さんを真ん中に乗せて、そのまま下り続けるつもりでいたので、この決定はちょっと意外だった。
でも、この先はそれだけ大変だと言うことなのだろう。
かみさんだけは、この決定を一人で喜んでいるみたいだ。
I山さんとI上さんは、先に下っていった二人を追いかけることとなる。
その場に残されたのは舟を失ったO橋さんと、N島さんに228君。
N島さんと228君は、この先も下る気満々だったようで、ちょっと不満そうである。
何時もは元気なO橋さんだが、さすがにしょぼんとしている。

O橋さんの張り付いた橋脚皆、別れ別れになってしまったが、この付近は携帯が通じるので助かった。
途中でI山さんから連絡が入る。
O橋さんの舟は見つかったけれど、K岡さんとT津さんの姿が無いので、そのまま追いかけるとのこと。
それが意味することは、K岡さんが沈して、T津さんがその後を追いかけていったと考えてほぼ間違いはないだろう。
O橋さんは、責任を感じて、ますますしょぼんとなってくる。

次に入った連絡によると、二人と合流できたけれど、K岡さんの舟が流木のストレーナーに張り付いていて、それを回収するのに苦労しそうだとのこと。
でも、これで何とか事件は解決することになりそうで、皆ホッとした。
歩いて車に戻ったY賀さんに電話して、迎えに来てもらう。

そうして次に入ったI山さんからの報告。
何と、回収に失敗してK岡さんの舟を流してしまったというのだ。
そしてそれを追いかけている途中で今度はT津さんが、水面ギリギリに倒れ込んだ1本の倒木ストレーナーにまともに張り付いてしまい、危ういところだったという。
一体現地では何が起きているんだ?


ストレーナーに張り付いたK岡さんのカヤック   T津さんの張り付いた倒木
K岡さんのカヤック、この後回収に失敗して流してしまう   T津さんが張り付いた倒木ストレーナー、これでは避けようがない

この橋で全員が集まれた結局、K岡さんは一人で歩いて道路まで出、残りの3人は次の橋まで下るという。
残っていた皆でY賀さんの車に乗り、途中で意気消沈したK岡さんを拾い、下流の橋までやって来ると、I山さん達3人が人も舟を全部揃って上陸してきたところだった。
これでようやく、バラバラになっていたメンバーが2時間ぶりに全員集まれたことになる。

そしてそこから、地元の警察にカヌーを喪失してしまったことを届けに行く人、途中に放置されているO橋さんのカヤックを回収しにいく人、自分の車を取りに戻る人と、再びバラバラに分かれることとなる。

その後、手分けして下流部を捜索したけれどK岡さんのカヤックは見つからず、そのまま丸瀬布のキャンプ場へと向かう。
そして、キャンプ場で宴会を始めた頃、警察からカヌーが見つかったとの連絡が入ったのである。
この日は途中で暗くなったためにカヌーの回収は諦め、翌朝、川下りに出かける前に回収することとなる。

美しい風景そして翌朝、カヤックが発見された現場に行ってみると、ルピナスやセイヨウアブラナの花が咲き乱れる美しい川原の先に、昨日より濁りの取れた支湧別川の美しい流れがあり、その流れの真ん中で真っ赤なカヤックが腹を見せてプカプカと浮いていたのである。
それは、一幅の絵と言っても良い様な美しい光景だった。
カヤックに取り付けてあったロープの先端が水中に沈んでいる倒木に引っ掛かり、その状態で流れの中に浮いていたのである。
近くの畑で仕事をしていた人が発見して、警察に連絡してくれたのである。
もしも警察に届けを出していなかったとしたら、大騒ぎになっていたような状況だった。
川でカヌーを無くしてしまった時は必ず警察に連絡を入れるのが鉄則である。

結果的に今回の支湧別川で失われたのは、O橋会長のカヤックのシートと、T津さんが間違えて川の中に放り込んでしまったI上さんの高級カラビナだけで済んだのは、まさに不幸中の幸いと言えるだろう。

2013年6月15日 曇り時々雨のち晴れ

支湧別川川下りの動画


皆で協力してカヤックを回収
皆で協力してカヤックを回収、それにしても昨日と同じ川とは思えない美しい風景だ

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