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トナシベツ川

(羽沢橋〜五月橋)

6年前に見たトナシベツ川6年前の5月、かなやま湖キャンプ場に泊まったついでに十梨別渓谷の新緑を見ようと、トナシベツ川沿いの林道を奥の方まで走ってみた。
その時に羽沢橋の上から見たトナシベツ川の美しい風景に感動して、できればこの川を下ってみたいと思ったものである。

しかしその数年後、実際にここをカヤックで下った人がいて、その方の話によると「大型のカナディアンではちょっと無理だろう」とのことだった。
それっきりトナシベツ川を下ろうとの気持ちは失われていたところに、突然「トナシベツ川を下ろう」との話が降って湧いてきたのである。

今年のクラブの例会は二日間のうちで一日は初心者でも下れる川を入れるように企画されていた。
それで5月例会の2日目は、空知川のかなやまダムから下流の区間を下る予定になっていた。
前日の鵡川を下り終えた後、かなやま湖スポーツ研修センターに泊まったのは、ベテランメンバーばかりのわずか8名。
このまま明日になっても他に参加者がいなかったとしたら、このメンバーだけでその区間を下っている様子は、ちょっと頭の中に思い描けなかった。
美しいかなやま湖の風景我が家はそれでも何の不満もないのだが、他のメンバーはホワイトウォーター大好きな人達ばかりなのだ。
そこで、このまま誰も来なければトナシベツ川に変更しようとの話になったのである。

日曜日は朝から素晴らしい青空が広がっていた。
風も全くなく、かなやま湖の湖面には新緑に彩られた山の風景が、まるで鏡に映っているかのように広がっていた。
まずは予定されていた集合場所である空知川の新生橋へと向かう。
美しいかなやま湖の風景を眺めながら、かみさんは「かなやま湖でカヌーに乗るツアーに変更できないかしら」などと、今にも逃げ出しそうな様子である。

そもそも、トナシベツ川は大型カナディアンでは下るのは無理と言われていたはずだ。
それなのに、トナシベツ川に変更しようとの話になった時、誰も我が家の存在を気にもかけてくれないのである。
そんな扱いを受けるのは少し嬉しかったけれど、それでもやっぱり不安である。
他の人達は、我が家のスキルを信頼してくれているのではなく、ただ単に自分たちが楽しむことしか考えていないのかもしれないのだ。

川の上の障害物途中で通り過ぎたトナシベツ川は結構な水量だった。
空知川の上流部では水も減ってきていると聞いていたが、こちらの方はまだ雪解け水による増水が続いているようである。
集合場所の新生橋に到着。橋の上から見る空知川も水が多かった。
こちらの方の水量は、かなやまダムの放水にも影響されるので、なかなか予想がしづらいところだ。

橋の下流には何本ものロープやワイヤーが川を横断して張られていた。
何の目的で設置されたものかは不明だが、川を下るパドラーにとってはかなり危険な存在である。
ここを下る様な人など殆ど居ないとは言っても、川に人工物を設置する時は、そこをカヌーで下る人間がいるかもしれないことを常に考えて欲しいものである。

I上さんが、橋のたもとにウドが生えているのを目ざとく見つけて、早速収穫を始めた。
何処にいようとも常に山菜に目を配り続けるその熱意に感服してしまう。

6年前と同じ風景結局、集合時間になっても誰も現れず、既に気持ちはトナシベツ川に傾いていたメンバーは、嬉々としてそちらへ向かったのである。
スタート場所は国道から6.3キロ程入った羽沢橋。
私が6年前に橋の上から川を見下ろし、その美しさに感動した、正にその橋だった。
今回初めてこの風景を見たメンバーも一様に感動の声を上げる。

川原近くまで降りられる林道はゲートで塞がれていたので、釣り人が付けたような崖の道から苦労してカヌーを降ろす。
川の水は笹濁り気味だけれど、その色がコバルトブルーというか、空の青さと全く同じ色に染まり、かえって澄んだ水よりも美しく見える。

スタート前の記念撮影今日の8人のメンバーの中で、ここを下ったことがあるのはI上さんとI山さんだけ。
その二人の記憶もあやふやで、「その時は、例会で下るのは無理だと思ったんだよな〜」程度しか覚えていないらしい。
この先で何が待ち構えているのかは分からないが、周りの美しい景色に魅せられて、そんなことは大して気にならない。

いよいよトナシベツ川を下り始める。
I上さん達が前回下った時よりも水は少ないようだ。
早い流れの中、岩や石を避けながら快調に下っていく。

周りの新緑も、昨日下った鵡川の上流部よりも色付いてきている。
その中で花を咲かせるサクラが一際鮮やかだ。
流れる水は青く染まり、これ程美しい風景の中を下ったことは記憶にはない。


青い川に漕ぎ出す   新緑に青空
青く染まった川の水   天気も申し分なし

美しいトナシベツ川
最高の川下りである

瀬を下る次々に現れる瀬。
初めての川なので皆の後ろから慎重に下っていく。
水は多いけれど、エディが潰れる程ではないので、瀬を越える度に一息いれることができる。
ちょっと困ったのは、カヌーの中に入った水を汲みだすベイラーを積み忘れたことである。
波の高い瀬を下ると必ず水が入ってくるので、その度に上陸してカヌーをひっくり返して水を抜かなければならないのだ。
波が高いからと言って必ずカヌーの中に水が入るわけでもない。
波へ突っ込むタイミング、角度などによって、その量は変わってくるのだ。
今日はベイラーが無いので、いつも以上に一つ一つの波を観察しながら、水が入ってくる量が最小になるように、カヌーを操作する。
勿論、そんな努力など通用しない様な大波に突っ込むと、一発でカヌーは水舟になってしまう。

危険な倒木先の様子が全く見えない右カーブがあった。
先頭を漕いでいるI山さん、I上さんから距離を開けて、様子を見守る。
そこの瀬に入る手前で二人が上陸したので、私達もそれに従う。
そしてその先の川の様子を見てゾッとしてしまった。
流れを塞ぐように大きな岩がでんと構えていて、おまけにそこの横の流れには太い倒木が1本引っ掛かっているのだ。
岩を挟んだ反対側にも、その倒木が水中に隠れていそうだ。
そのまま下っていたならば、速さを増す流れから逃げ出すことができず、その倒木に捕まってしまうと命に係わる事態にもなりえる状況である。

何時も面白可笑しくこの川下り日記を書いているけれど、事故を防ぐための注意だけは常に怠っていないことを知っておいてもらいたい。
川の中には何処にでも危険が潜んでいるのである。

そうは言っても、突然見舞われるトラブルはどうしようもない。
流れが急になって岩にぶつかっている様な所は、こんな川では頻繁に現れる。
特に注意もしないで下っていくと、前を下っていたN島さんが突然浅瀬に乗り上げて横向きになってしまった。
IW田さんを潰すところだった今日は珍しく参加していないI田さんが前を下っていたならば、これは十分に予想される事態なので絶対に近づかない様にするのだが、それがN島さんだったのでこちらも油断していたのだ。
避けるスペースもなく、私達もそのまま横向きになってN島さんにぶつかってしまった。
その拍子にN島さんのカヌーは無事に浅瀬から脱することができた。
ところが私たちのカヌーはそこで後ろ向きになって、真っ直ぐに岩に向かって流される。
タイミングの悪いことに、私たちの後ろから下ってきていたカヤックのIW田さんが、私たちとその岩の間に入ってきてしまった。
自分たちが岩に張り付くことよりも、IW田さんを押しつぶしそうなので焦ってしまう。
幸い、岩にぶつかった流れは素直な反転流を作っていたので、IW田さんも私達もそこに張り付くことなく、無事に押し流されたのである。
直ぐ近くで動画で撮影していたI山さんも一瞬焦ったようである。(その動画はこちら

同じような流れの場所でもう1回失敗していた。
流れが岩にぶつかった後、本流は右へ流れているのに、そちらに進めずに左側のグルグルと渦巻いているエディへと入ってしまったのである。
それが私達だけならちょっと格好悪いところだったが、そのエディには先客が2艇も捕まっていたので、それだけ難しい流れになっていたのだろう。(この時の様子が写ったI山さん撮影の動画
増水時にできる強い流れのエディでは、そこから抜け出せずにグルグルと回り続けることになったりするが、今回は何とか脱出できた。

トナシベツ川の風景そんなトラブルはあったけれど、嫌らしい瀬があるわけでもなく、私としては歴舟川の支流であるヌビナイ川よりも下りやすい印象を受けた。
途中の休憩した川原でO橋会長から「こんな川を夫婦でタンデムで下るなんて普通じゃないよね」って言われたけれど、言われている本人はそんな気はしていなかった。

ファミリーで下っているから「ファミリー向けカヌーフィールド」で紹介したりして、なんて冗談も出てくる。
でも、「カナディアンカヌーで下る北海道の川」のページでは、ちょっと難しい川程度で紹介するつもりになっていたのは確かである。
どうも最近は、感覚が麻痺してきたようで、川の難易度を客観的に判断することができなくなっている様な気がする。

途中でまたアイヌネギ狩りが始まった。
我が家は、アイヌネギは昨日の夜に食べただけで十分なので、川原で日向ぼっこしながら、必死になって崖をよじ登っている皆の様子をのんびりと眺める。


トナシベツ川でネギ狩り   トナシベツ川1号橋
ここでもやっぱりネギ狩りが始まった   トナシベツ川1号橋

風景が開けてきた1号橋を過ぎると周りの風景も開けてきたが、相変わらず瀬が続いている。
何時もの川下りならばドキリとするような大きな波でも、そんな波ばかりを何度も越えていると何も感じなくなってくる。
穏やかな流れの川を下ると、直ぐに「退屈だ」と文句を言い始めるO橋会長も、今日はさすがに「もうお腹いっぱいです〜」と言っているくらいだ。

水を抜くのも面倒なので、次第にチキンルートばかりを下るようになってくる。
国道の岩根橋の下が少し危ないかもと言われていたが、特に問題は無かった。
そこで川幅が一気に狭まっているので、もっと水量が多い時にはえげつない流れになっているかもしれない。


トナシベツ川の風景   トナシベツ川の風景
エディで一休み   新緑が美しい

流れのない空知川本流その先でI上さんが、「ここが空知川の本流との合流部だよ」と教えてくれる。
その空知川本流の様子を見てびっくりしてしまった。
全く流れが無く、川と言うよりもただの澱みでしかない。

この上流に金山ダムがあるのだけれど、そこからの放流が止まっている訳でもなさそうだ。
周りの様子を見ても、ここを水が流れることは殆どないのかも知れない。

ここから先は一応、空知川と名前が変わるのだが、流れている水は殆どがトナシベツ川の水である。
何とも奇妙な気分だ。

山肌がすっぱりと切れ落ちたような、迫力のある景観が迫ってきた。
その下を通過する時は、頭の上から岩が転がり落ちてきそうな恐怖感を覚える。


切り立った崖   崖の下を下る
崩れ落ちる崖   崖の下は急いで抜ける

岩壁に張り付く旧道その先に金山ダムの放水口らしき施設があった。
かなやま湖の水は、ダムの下に直接流れ出るのではなく、地下のトンネルを通ってここから放流されているのだろう。

ここまで止むことの無かった瀬の水音が全く聞こえなくなる。
羽沢橋から下り始めてから初めて訪れる静寂である。
この先にも小さなダムがあるのだ。
今までさんざん瀬に揉まれ続けていたので、この静かな流れがとても新鮮に感じる。

切り立った崖の中ほどに、旧道の跡が残っていた。
安全が最優先の今の時代の基準で考えると、あんな場所を良く車が走っていたものだと感心する。

五月橋の下は川岸が急すぎるので、そのやや手前で上陸。道路までカヌーを引き上げるのに、藪漕ぎで少し苦労する。
こうして、とても楽しいトナシベツ川の川下りが終わった。
道路際にワラビが生えているのを見つけて、最後の最後まで山菜採り。
川と山菜を満喫できた二日間だった。

2012年5月20日 晴れ


ゴールの五月橋が見えた   最後まで山菜
ゴールの五月橋が見えてきた   最後の最後まで山菜採り

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