マナブでかみさんとバウを変わってもらう。
今回は最初から私がバウを漕いでみようとしたのだが、かみさんに断られてしまった。
バウを漕げば自分の好きな様にカヌーを操れると思ったけれど、スターンを漕ぐ人間と息を合わせなければ、カナディアンは思うように動いてくれないことを思い知らされる。
いよいよ蛇篭まで下ってきた。
今年は、左岸の蛇篭が流されて無くなったとのことである。
そのために、今までは落ち込みの手前で左岸側に簡単に上陸できていたのが、蛇篭が一つ無くなったために、気をつけないとそのまま落ち込みに吸い込まれそうになるらしい。
ただ、落ち込み自体は幅が広くなって、落差も若干小さくなったようで、右岸寄りから入れば流れは素直である。
それなのに何故か、私の前を下る人達は皆、左岸側から落ち込みへ入っていた。
蛇篭が無くなった後には針金が残っていることも考えられ、右岸側を下った方が安全な様な気がする。
私達は右岸側を下ってそのまま右のエディに入るつもりだった。
しかし、操作が少し遅れてかなり下まで流され、何とか漕ぎ上がって右岸の蛇篭に上陸した。
苦労してそんな事をした理由は、勿論Tヒラさんのためである。
信じられないことにTヒラさんはここまで一度も沈をしないで下ってきていた。
これで蛇篭の落ち込みまで沈しないで下ってしまったら、新たな伝説となること間違いなしである。
皆がかたずを飲んで見守る中、Tヒラさんが落ち込みへと入る。
そしてあっけなくKヒラさんのカヤックはひっくり返った。
ついに沈脱か!いや、沈脱できるのか?
地上で乗り込む時に足が入らずに苦労している姿を見ていたので、沈した後にカヌーから直ぐに出られるかが心配だったのだ。
でも、人間必死になれば何でもできるものらしく、普通に沈脱して流され始めた。
そこへI山さんからレスキューロープが投げ入れられる。
「まさか外さないよな?」
ちょっと不安がよぎったが、さすがにあの距離で外すことは無かった。
初めての沈脱で、投げ入れられたロープがとんでもない方向に飛んでいったとしたら、それがトラウマとして一生心の中に残ることになっていたはずだ。
それにしても、初めて沈脱して流され、投げられたレスキューロープにしっかりとつかまり、しかもパドルはしっかりと確保している。
初めての川下りでその非凡さを現したKヒラさんは、沈してもなお非凡だった。
その時の写真を後から見てみると、周りの人達が本当に楽しそうな笑顔を浮かべていた。
一つの沈に皆をこれほど幸せにする力があるとは驚きである。
特にK岡さんにとっては格別な沈であったはずだ。
最初に集合場所にやってきた時、「今日は生け贄を連れてきました」と言ってKヒラさんを皆に紹介していたK岡さん。
K岡さんがクラブの例会に初めて参加した時のことは今でも伝説としてクラブの中で語り継がれている。
「今度はKヒラさんが伝説を作る番だ」
そう思っていたのが、このままでは逆の意味での伝説が作られてしまう。
でもやっぱりKヒラさんも人の子で、期待していたとおりのお約束の沈を披露してくれて、皆を喜ばせてくれたのである。
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