皆、言葉を無くして公園の駐車場へと戻ってきた。
そこでどうするか話し合った結果、旭川カヌークラブの方の提案で最初に見た堰堤の下から下る組と、核心部を過ぎたもっと下流から下る組に分けて、ゴール地点も予定よりもう一つ下流の橋まで延ばすことにする。
それならば我が家も何とか下れそうだ。
まずはゴール地点に車を回す。
その辺りまで来ると、忠別川もごく普通の川にしか見えない。
そこから舟や人を何台かに分乗させて2ヶ所のスタート地点へと向かう。
我がクラブで上からスタートするのはF本会長にG藤さん、I上さん、遅れて到着したN山さん夫婦。
この辺のメンバーは当然として、なぜかその中にK岡さんまで混ざっているのが何とも不思議だった。
誰もが「??」と思っていたはずだ。K岡さんはクラブの中で語り草となっている沈伝説を作った方でもあり、その後猛練習をして飛躍的に上達した、何て話は誰も聞いたことがない。
しかし、自分で川の様子をしっかりと見た上でそれでも下るというのだから、誰も止めるわけにはいかない。カヌーは自己判断、自己責任の大人のスポーツなのである。
それでも私は心配だった。
去年は例会にもあまり出ていなかったのが、今年はこれまで皆勤賞である。
何かから逃れようとしているのか?普段の生活から離れて大自然の抱擁に身を任せたくなる何かがあるのか?
まあ、その程度ならば心配もしないのだが、この激流を自ら望んで下るなんて、もしかしたら「もう命なんかどうでも良い」と捨て鉢な気持ちになっているんじゃないのか?
そんなK岡さんの事はとりあえず放っておいて、下流からのスタートを選択したのは我が家の他に4名(旭川カヌークラブの方は除く)。
その中の一人であるO橋さんは、前日までは水が増えた事を一番喜んでいたはずだった。
それが、下見の結果、下流から下ることに甘んじてしまい、しかもK岡さんが上流組に入った事に嫉妬をして、「どうせ俺たちは下々の人間だから」とすっかりいじけてしまっている。
でも、下々組のスタート地点でも流れはかなり早い。
しかもその上流の方は一面のホワイトウォーターである。
しばらくするとそのホワイトウォーターの中に小さなカヤックが1艇だけ姿を現し、それを合図にして次々と他のカヤックも下ってきた。
普通は皆が同じコースを下ってきそうなところだが、何故か川幅一杯に散らばるように下っている。
何処へ行っても大波ばかりなので、それぞれが自分の判断でコースを選択しているからなのだろう。
先頭で下ってきたのはK岡さん。
O橋さんの「きっと舟と人間がバラバラに流されてくるだろう」との予測は完全に外れてしまった。
それどころかK岡さんの顔には余裕の笑みさえ浮かんでいたのである。
後で本人から聞いた話しでは、上流組に入ったのはただの勘違いで、もっと下流から下るのだと思っていたらしい。
その理由はともかく、他のエキスパートメンバーと同じ場所を沈脱もせずに下ってきたのは現実であり、その笑みはパドラーとして一つの壁を越えた証明だったのかもしれない。
|