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忠別川

(東三号付近〜東神橋下流)

 カヌークラブの6月例会初日は忠別川。
 4年前の例会で初めて下った時の快適な瀬が続く清らかな流れが忘れられず、今年の例会の中に組み入れたのである。
 ただ、その時は水が少なくて下るのにちょっと苦労していたので、できればもう少し増水して欲しいところだった。
 この川は上流にある忠別ダムの放水量次第で水位が変化するので、国土交通省のサイトから毎日チェックしていたが、春先からずーっと20トンのままで変化なし。これは4年前の時と殆ど変わらない数字である。
 それが例会2日前から急に倍の40トンへと増えてきた。過去の記録を調べてもダムの貯水率が80%を越えてくると放水量を増やす様である。
 これはスリリングな例会になりそうだと嬉しいような怖いような複雑な気持ちでいると、今回の例会で一緒に下ることになっている旭川カヌークラブの方から「以前に50トンの放水の時に下って大変な目にあったことがある」との話を聞き、ちょっと不安になってきた。
 そして朝、出かける前に最後の放流量チェックをしたところ、その50トンに達していたのである。

 集合場所へ向かう途中で見た石狩川や他の川は、何処も真っ茶色な濁流が流れていた。
 後で聞いたところによると旭川付近では昨日、高速道路が通行止めになる程の雨が降ったとのこと。
 これは忠別川も酷い事になっているのかと思いきや、途中の橋から様子を見た限りでは灰色に濁っている程度で水量もそれ程多くはなく、これならば予定通り例会を行えそうだとホッとした。
 集合場所のひがしかぐら森林公園の駐車場に集まったメンバーは我が家を含めて11名だけ。掲示板に「かなり水が増えて大変そうだ」と正直に書いてしまったのが悪かったのだろうか。それでも集まったのは、懲りない面々ばかりと言えそうだ。
 そこへ、旭川カヌークラブのメンバーが到着。事前に川の様子を見てきたらしく、相当厳しい流れになっているとのことである。
 その話を聞いて我が家は早々にリタイア宣言をした。ただでさえかみさんは「怖いのは嫌だ」と前日から言い続けていたので、無理に下らせる訳にもいかない。それに私自身も最近は何となく弱気になっていて、下らない理由ができてホッとしたところもあったのだ。
 それでも一応は全員で川の様子を見てから最終判断をすることにして、旭川のMいさんの案内でスタート予定地点の比志内橋へと向かう。
堰堤上流の様子 集合場所に来る前に寄ってきたゴール予定地点の東橋付近はそれ程の流れにも見えず、そして比志内橋付近も何とか下れそうな様子である。
 もしも今日、我がクラブのメンバーだけで下るとしたら、それ程恐れることもなくここから出艇していた気がする。
 先導のMい車は比志内橋をそのまま通り過ぎて堤防上の作業用道路に入り、そこからしばらく下流にある堰堤まで私たちを案内してくれた。
 そしてそこの人道橋の上から川の様子を見て、私たちの足はすくんでしまった。
 まずは圧倒的な流速の早さ。
 こんなに早い流れの川はあまりは見たことがない。
 勿論波も高い。
堰堤から先も一面のホワイトウォーター そして、堰堤の上流部は普通は瀞場になっているはずなのに、その速い流れのまま堰堤を越えているのである。
 もしも途中で沈でもしたら、岸に上がることもできないまま堰堤に吸い込まれることになるだろう。
 激しい水の音に混じって、足下から違う音も聞こえてくる。Mいさんによると、川底を玉石が転がりながら流れていく音だそうである。
 堰堤から下流は白波しか見えない。
 とりあえずは堰堤の上からは絶対に下れないと皆が納得して、更に下流へと向かうことにした。

 次にMいさんが連れてきてくれた場所。
 そこで皆はまた、口をポカンと開けたまま固まってしまった。
 川全体が完全なホワイトウォーターとなっていて、エディと言えそうな場所は何処にも見あたらない。一度沈したらひたすら流されるだけである。
 そして、岸から見ることができない場所にはもっとすごい核心部があるという。


皆で下見   皆で下見
カヤックだと捕まりそうなストッパー   その下流も一面のホワイトウォーター

ゴール予定地点の様子 皆、言葉を無くして公園の駐車場へと戻ってきた。
 そこでどうするか話し合った結果、旭川カヌークラブの方の提案で最初に見た堰堤の下から下る組と、核心部を過ぎたもっと下流から下る組に分けて、ゴール地点も予定よりもう一つ下流の橋まで延ばすことにする。
 それならば我が家も何とか下れそうだ。
 まずはゴール地点に車を回す。
 その辺りまで来ると、忠別川もごく普通の川にしか見えない。
 そこから舟や人を何台かに分乗させて2ヶ所のスタート地点へと向かう。
 我がクラブで上からスタートするのはF本会長にG藤さん、I上さん、遅れて到着したN山さん夫婦。
 この辺のメンバーは当然として、なぜかその中にK岡さんまで混ざっているのが何とも不思議だった。
 誰もが「??」と思っていたはずだ。K岡さんはクラブの中で語り草となっている沈伝説を作った方でもあり、その後猛練習をして飛躍的に上達した、何て話は誰も聞いたことがない。
 しかし、自分で川の様子をしっかりと見た上でそれでも下るというのだから、誰も止めるわけにはいかない。カヌーは自己判断、自己責任の大人のスポーツなのである。
 それでも私は心配だった。
 去年は例会にもあまり出ていなかったのが、今年はこれまで皆勤賞である。
 何かから逃れようとしているのか?普段の生活から離れて大自然の抱擁に身を任せたくなる何かがあるのか?
スタート地点でびびるO橋さん まあ、その程度ならば心配もしないのだが、この激流を自ら望んで下るなんて、もしかしたら「もう命なんかどうでも良い」と捨て鉢な気持ちになっているんじゃないのか?

 そんなK岡さんの事はとりあえず放っておいて、下流からのスタートを選択したのは我が家の他に4名(旭川カヌークラブの方は除く)。
 その中の一人であるO橋さんは、前日までは水が増えた事を一番喜んでいたはずだった。
 それが、下見の結果、下流から下ることに甘んじてしまい、しかもK岡さんが上流組に入った事に嫉妬をして、「どうせ俺たちは下々の人間だから」とすっかりいじけてしまっている。
 でも、下々組のスタート地点でも流れはかなり早い。
 しかもその上流の方は一面のホワイトウォーターである。

上流組が下ってきた しばらくするとそのホワイトウォーターの中に小さなカヤックが1艇だけ姿を現し、それを合図にして次々と他のカヤックも下ってきた。
 普通は皆が同じコースを下ってきそうなところだが、何故か川幅一杯に散らばるように下っている。
 何処へ行っても大波ばかりなので、それぞれが自分の判断でコースを選択しているからなのだろう。
 先頭で下ってきたのはK岡さん。
 O橋さんの「きっと舟と人間がバラバラに流されてくるだろう」との予測は完全に外れてしまった。
 それどころかK岡さんの顔には余裕の笑みさえ浮かんでいたのである。
 後で本人から聞いた話しでは、上流組に入ったのはただの勘違いで、もっと下流から下るのだと思っていたらしい。
 その理由はともかく、他のエキスパートメンバーと同じ場所を沈脱もせずに下ってきたのは現実であり、その笑みはパドラーとして一つの壁を越えた証明だったのかもしれない。


余裕の笑み   波と戯れる
余裕の笑みを浮かべるK岡さん   楽しそうで羨ましい

うなだれて歩くH本さん 波と戯れる人達を羨望の眼差しで眺めていると、波音の中にホイッスルの音が響いた。
 誰かが沈したらしい。
 やがて目の前にカヤックとパドルが別々に流れてきた。
 一緒に下っていた人達がそれを回収しようとするが、流れが速くて上手くいかず、そのままカヤックとパドルを追いかけて下っていってしまった。
 その後、憔悴しきった旭川のH本さんが川岸をフラフラと歩いてきて、まるで夢遊病者のように自分の舟を求めてそのまま下流へと歩き去っていった。
 本当はここで全員が一旦上陸して、改めて例会本番のスタートになる予定だったけれど、既にそんな悠長な状況ではなくなっていた。
 幸い、流された舟も回収できたようなので、下々の組もその場所を目指して各々で漕ぎ下った。
 そしてようやく全員が揃っての川下りが始まる。
緊張するような瀬も無い 最初は緊張していたけれど、そこから下流に下見で見たような瀬は現れず、次第に拍子抜けしてくる。
 決して穏やかな流れというわけではないが、過去に下ったことのある増水した鵡川や沙流川と比べたら、全く恐れる必要のない流れなのである。
 これは、旭川カヌークラブの方が無理をしないで下れるだろうと選んでくれ区間なのだから、当然のことだった。
 最初は例会を諦めようとも考えていたのだから、川下りができるだけでも感謝しなければならないのだ。
 それにしても、上流部の一面のホワイトウォーターと比べたら、川の様相は全く違っていた。
 川幅が広がった分、水位の上昇もそれ程目立たなく、これがダムの力なのだろう。
 上流部を除けば、完全にコントロールされた流れとなっているのだ。


穏やかな瀬   入道雲が湧いてきた
この程度の瀬しかない   入道雲が湧いてきた

パークゴルフ場の隣をポーテージ 当初のゴール予定地点だった東橋の下をくぐり、その下流の堰堤の前で一旦上陸する。
 その辺りの河川敷はパークゴルフ場になっていて、忽然と川の中から現れた異様な軍団に、プレー中の人達は面食らっていたようだ。
 そこから堰堤の下流までのポーテージはきつかった。
 距離にして300m以上。
 あらかじめこのポーテージが分かっていれば、絶対にカナディアンカヌー運搬用のキャリーを用意していたところだ。
 そのポーテージが終わったところの草むらの中でそのまま休憩。
 あまり良い場所とは言い難いが、全員の体力は限界に達していたのだ。
 青空に真っ白な入道雲が湧き上がる。
 前回忠別川を下った時も空の美しさに感動したが、今回も上空の空は美しかった。


入道雲
春紅葉に色付く山を眺めながらの快適なダウンリバー

ルピナスの咲く川原に上陸 休憩を終えて再び下りはじめると、真っ白だった入道雲がいつの間にか真っ黒に変わり、やがて雷がなり始める。
 幸い、雨に打たれることもなく、ルピナスの花が咲く河原に上陸して、今日の川下りは終了。
 何だか今回の川下りは、実際にスタートする前に、その半分以上が終わってしまったような川下りだった。
 あのホワイトウォーターを目の前にして、何もせずに終わってしまったことは非常に心残りなのである。
 ちなみに、後で分かったのだけれどこの日の放水量は昼頃には55トンに達していたそうである。

2011年6月11日 晴れ時々曇り
当日12:00 忠別川水位(暁橋観測所) 209.28m
忠別ダム放水量 54.85トン


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