トップページ > カヌー > 川下り日記

 

沙流川

(右左府橋〜三岩橋下流)

 カヌークラブの納会は終わったけれど、まだまだ川で遊びたい人は、私を含めて他にも沢山いるようで、沙流川の紅葉ツアーが企画されていた。
 ところがその日の天気予報は雨マーク。
紅葉の沙流川 10月半ばの北海道で雨に濡れながらの川下り。
 いくらドライスーツを着ていたとしても、気持ちの滅入るシチュエーションである。
 おまけに夫婦二人とも風邪気味で、数日後には東北旅行も控えていて、そんな時に冷たい雨に濡れながら川を下って風邪が悪化したらたまったものではない。
 「誰か、中止しようって言ってくれる人いないかな〜」と思いながら、とうとう当日を迎えてしまった。
 それでも、日高回りで集合場所の道の駅へ向かう途中は雨も降らず、それどころか一部に青空さえも見えていた。
 その途中、橋の上から眺める沙流川の渓谷は赤や黄色の紅葉に彩られ、その中をカヌーで下れると思うと次第にテンションが上がってくる。

スタート風景 集まったのは、旭川カヌークラブからの飛び入り参加5名を加えて総勢21名。
 10月半ばで、しかも雨の予報が出ているというのに、普段の例会よりも多い参加者。
 この季節の沙流川の紅葉に期待を寄せていた人がそれだけ多いということなのだろうか。
 集合時間に合わせてポツリポツリと降り始めた雨が、車の回送をする頃には暴風雨の様な状況に変わってしまった。
 家を出る時に確認した雨雲レーダーでは、日本海から活発な雨雲が近づいてきていたので、それが多分上空を通過中なのだろう。
 装備を整えて川を下り始める頃には、雨も小降りになり、空も少し明るくなってきていた。

 私が沙流川を下るのは2年前の5月例会で下って以来2回目である。
 前回は雪解け水で増水した中で沈して流される人が続出したりと、大変な川下りだった。
 今回はほぼ正常水位。少し底を擦り、岩避けも忙しそうだけれど、前回よりは気軽に下れそうだ。
展望台下の瀬 キャンプ場を過ぎたあたり、崖の上に展望台らしき施設が見えるところに、ちょっとした瀬がある。
 前回はここで沈脱者が続出して流され、その後、体制を立て直すのにしばらく時間がかかったのである。
 今回は水も少ないので大丈夫だろうと瀬に近づいていくと、その瀬のど真ん中に巨大な岩が鎮座しているのが目に入った。
 右に避けるか、左に避けるか。こんな川を下る時は、一瞬の判断の遅れが命取りになる。
 「右に行こう!」と言った後で、「やっぱり左の方が下りやすかったかな?」と思ったものの、もう変更する時間は無い。
 早めに右側に避けたつもりが、予想以上に流れが速く、一気に大岩に向かって吸い寄せられる。
 「あっ、まずい!」と思ったものの、ぎりぎりで大岩をかすめ、何とか無事に瀬をクリアすることができた。
 ホッとしながら後ろを振り返ると、kenjiさん・姫さんの乗るカナディアンが真横からその大岩に激突するのが目に入った。その瞬間にカヌーから放り出される二人。
 後で、I山さんの撮った動画を見せてもらったけれど、まるで自動車事故の映像を見るような強烈な衝突シーンが写っていた。
 二人をレスキューしていると、I田さんのカヌーも赤い底を見せながら流れてきた。
 瀬の下が緩やかな流れになっているのでレスキューに苦労はしないけれど、前回の時はここで沈してもレスキューは不可能で、そのまま下流まで流されていくしかなかったのである。


沈シーン1 沈シーン2 沈シーン3
動画で見るともっと衝撃的な沈シーンです

素直な瀬を下る カヤックのメンバーがそこで遊び始めたので、カナディアン組はブラブラと先に下ることにする。
 再び叩きつけるような雨が降ってきた。
 錦に染まった周辺の山々の美しい紅葉が、雨のために霞んでしまう。
 その雨も直ぐに止んだところで、目の前に結構な高低差のある瀬が現れた。
 障害物もなく気持ち良く下ることができる。

 その下流にも岩盤の露出した瀬があり、座礁しない様に岩盤の間を縫う様に下る。
 そしてその先には、両岸から岩壁がせり出し、まるで門の様になっている場所が見えていた。
 その門を抜けた先では、美しい紅葉の風景が待ち構えていた。
岩の門を通り抜ける まるで沙流川が私達を歓迎するために、そんな仕掛けを作ってくれたかの様である。
 そこからが紅葉劇場の始まりだった
 天気が悪いので紅葉の見栄えも今一かなと思っていたが、雨に濡れた紅葉はかえってその艶めかしさを増したようである。
門を通り抜けた先の川原で、ちょっと早めの昼食タイムとする。
 何となく見覚えのある場所だなと考えていたら、前回はカヤックを流してしまったN野さんをここで皆でレスキューしたのである。
 展望台下の瀬で沈脱してここまで流されたのならば、距離にして約600m。
 2年前のここでの川下りは、かなりハードなものだったのだ。


紅葉の沙流川   川原で休憩
紅葉にうっとり   紅葉を眺めながら昼食タイム

紅葉の瀬を下る 昼食を終えて再び下り始めると、瀬を越えた先で流れは二つに大きく分流していた。
 私の川下り日記でも図解入りで説明した生き別れ事件の現場である。
 その時は最終的に右岸側を皆でポーテージしていた。
 勿論今回はポーテージしなくても大丈夫だけれど、右と左、どちらの分流を下るかが迷いどころだ。
 右側の真っ直ぐな流れは先まで見通せるけれど、途中で岩が何か所か頭を出していてそれを避けるのに苦労しそうだ。
 左の流れは中州の陰に隠れて全貌が見えないけれど、先行メンバーは全員がそちらの分流を選択していたので私達もそちらを下ることにした。
結果は、最後の方にちょっとした瀬があっただけで、左の分流の方が下りやすかったようだ。

滝も現れる 周辺は次第に渓谷の様相を深め、所々で川に流れ落ちる滝も見かける。
 紅葉の美しさも更に際立ってきた。
 先程まで瀬で遊んでいたメンバーも、それぞれがカメラを構えて紅葉や滝の写真を撮りまくっている。
 木々の紅葉が一番美しくなるのは、その散り際だろう。
 雨は止んだけれど、風は相変わらず強いままだ。
 それが時折、突風となって沙流川の渓谷を吹き抜けると、紅葉真っ盛りの木々の枝先から、木の葉が一斉に舞い上がる。
 やや青みを帯びた水の中を色取り取りの落ち葉が流れているのが見える。
 所々にできたエディの水面はそんな落ち葉で完全に埋め尽くされている。
 渓谷を形造る岸壁が更にその高さを増し、その肌には錦の衣をまとって、圧倒的な美しさで私たちの行く手に立ち塞がる。
紅葉の沙流川渓谷 以前に秋の層雲峡、大函小函の中を下ったことがあるけれど、その美しさでは沙流川渓谷は勝るとも劣らない。
 2年前の増水時には下るだけで精一杯だったけれど、通常の水位ならば適度に瀬も楽しめる。
 こんなに楽しい沙流川なのに、これまで例会でもほとんど下っていなかったのが不思議に思えてしまう。
 私が入会する前には何度も下っていたと聞いたけれど、この先の三岡橋の落ち込みで怪我人が続出したこともあって、その後は例会の川からは外されていたらしい。
 今回もスタート前のミーティングで、三岡橋の落ち込みはポーテージすることで既に決まっているのだ。


紅葉の沙流川渓谷
次第に深さを増してくる沙流川渓谷

楽しく瀬を下る1   楽しく瀬を下る2
カメラに向かってポーズ   ついついカメラを意識してしまう

ドキッとさせられた落ち込み その場所が近づいてきたころ、手前に突然予期していなかった大きな落ち込みが現れてドキッとさせられた。
 かみさんと「前に下った時に、こんな落ち込み有ったっけ?」と話をしたけれど、多分増水のために潰れていたのだろう。
 落ち込みじゃなくて、ホワイトウォーターが渦巻く恐ろしい瀬を下った記憶だけが残っていた。

 そしていよいよ三岡橋の落ち込み。
 少しでも楽にポーテージしようと、落ち込みの直ぐ手前で上陸しようとしたけれど、そこまでの間の瀬が思っていた以上に波が高く、ちょっとビビってしまう。
 ここで沈してそのまま落ち込みへと流される事態だけは絶対に避けたい。
 バランスを崩さないように本流の中央部分をを下ったところ、そこから抜け出すのが遅れて、一気に落ち込みの近くまで流される。
 慌てて飛び降りてカヌーを確保。危うくカヌーが後ろ向きになったまま落ち込みに入ってしまうところだった。

注目の的のN山さん そして全員がポーテージしたところで、N山さんだけが果敢にそこに挑戦するらしい。
 N山さんは今年、ドッグパドルのメンバーとここを下っているはずなので、安全なルートは分かっているのだろう。
 何台ものカメラがN山さんに向けられる中、全く危なげなく落ち込みをクリアした。
 何となく皆の顔には落胆の表情が浮かんでいたが、一番がっかりした表情だったのはN山さんの奥さんだった様な気がした。
 昔はここでカヤックが岩に衝突し、その衝撃で乗っていた人の体全体がスッポリとカヤックの中に填ってしまったとの信じられない話しを聞かされていたが、カナディアンでならば問題なく下れそうにも見える。
 でも、決められたローカルルールには素直に従うことにする。

 三岡橋の落ち込みを過ぎれば後はこれといった難所もなくなる。
 三岡橋を過ぎた先には砂利採取場みたいな施設が有って、ちょっと興ざめさせられるが、そこを過ぎれば沙流川は再び深い渓谷の中へと入っていく。
 その付近には川に隣接して走っている国道237号の橋が3か所ほど架かっている。
沙流川轟淵を下る 何れの橋も水面からはかなりの高さがあって、そこから見下ろす紅葉の風景は素晴らしいものがある。
 一般の観光客はその風景だけで我慢するしかないが、カヌーがあればその美しい渓谷の中を下ることができる。
 こんな場所を下る時は、カヌーを趣味にしていて本当に良かったとしみじみと思えるのである。
 轟淵と呼ばれるその渓谷に入っていくと最初に見えてくるのが、川からほぼ垂直に立ち上がった崖のはるか上の方に、へばり付くように架かっている轟橋だ。
 下から見上げると、早大な自然の風景の中で、その人工物がとても頼りないものに見えてしまう。
 そこを下っているカヌーやカヤックにいたっては蟻のような存在でしかない。
紅葉の轟淵を下る 畏怖の念を抱きながら、圧倒される風景の中を下っていく。
 この辺りから更に風が強まってきた。
 渓谷の中を吹き抜けてくる風は向かい風となって私たちを襲ってくる。
 結構な流れがあるのに、漕ぐ手を休めるとカヌーは上流へと押し戻されてしまう。
 その風が雲を吹き飛ばしてくれたのか、上空には青空も見えるようになってきた。
 そうして沙流川渓谷の紅葉を太陽の光が照らし出す。
 今までも十分に素晴らしい風景だったのに、やっぱり太陽の陽射しを浴びた紅葉はその鮮やかさが全然違っていた。
 瀬は無くなったものの、所々に現れる滝、岸壁に開いた自然の洞窟など、見どころが一杯で飽きることがない。
 たっぷりと紅葉を満喫して、車を回しておいた場所に到着。
 これが今シーズン最後の川になるかもしれないけれど、シーズン最後を飾るにふさわしい楽しい川下りだった。

2011年10月16日 雨のち晴れ
当日12:00 沙流川水位(幌毛志橋観測所) 57.20m


紅葉の轟淵
息を呑む様な美しい風景に圧倒される

沙流川の名もない滝   日射しを受けて紅葉が映える
名もない滝があちらこちらで流れ込む   日射しを受けて紅葉が映える

青空も広がってきた  
ようやく青空も広がってきた   下るのは本当に楽しい川だ

集合写真
一緒に沙流川の川下りを楽しんだ皆さん

戻 る