その場所が近づいてきたころ、手前に突然予期していなかった大きな落ち込みが現れてドキッとさせられた。
かみさんと「前に下った時に、こんな落ち込み有ったっけ?」と話をしたけれど、多分増水のために潰れていたのだろう。
落ち込みじゃなくて、ホワイトウォーターが渦巻く恐ろしい瀬を下った記憶だけが残っていた。
そしていよいよ三岡橋の落ち込み。
少しでも楽にポーテージしようと、落ち込みの直ぐ手前で上陸しようとしたけれど、そこまでの間の瀬が思っていた以上に波が高く、ちょっとビビってしまう。
ここで沈してそのまま落ち込みへと流される事態だけは絶対に避けたい。
バランスを崩さないように本流の中央部分をを下ったところ、そこから抜け出すのが遅れて、一気に落ち込みの近くまで流される。
慌てて飛び降りてカヌーを確保。危うくカヌーが後ろ向きになったまま落ち込みに入ってしまうところだった。
そして全員がポーテージしたところで、N山さんだけが果敢にそこに挑戦するらしい。
N山さんは今年、ドッグパドルのメンバーとここを下っているはずなので、安全なルートは分かっているのだろう。
何台ものカメラがN山さんに向けられる中、全く危なげなく落ち込みをクリアした。
何となく皆の顔には落胆の表情が浮かんでいたが、一番がっかりした表情だったのはN山さんの奥さんだった様な気がした。
昔はここでカヤックが岩に衝突し、その衝撃で乗っていた人の体全体がスッポリとカヤックの中に填ってしまったとの信じられない話しを聞かされていたが、カナディアンでならば問題なく下れそうにも見える。
でも、決められたローカルルールには素直に従うことにする。
三岡橋の落ち込みを過ぎれば後はこれといった難所もなくなる。
三岡橋を過ぎた先には砂利採取場みたいな施設が有って、ちょっと興ざめさせられるが、そこを過ぎれば沙流川は再び深い渓谷の中へと入っていく。
その付近には川に隣接して走っている国道237号の橋が3か所ほど架かっている。
何れの橋も水面からはかなりの高さがあって、そこから見下ろす紅葉の風景は素晴らしいものがある。
一般の観光客はその風景だけで我慢するしかないが、カヌーがあればその美しい渓谷の中を下ることができる。
こんな場所を下る時は、カヌーを趣味にしていて本当に良かったとしみじみと思えるのである。
轟淵と呼ばれるその渓谷に入っていくと最初に見えてくるのが、川からほぼ垂直に立ち上がった崖のはるか上の方に、へばり付くように架かっている轟橋だ。
下から見上げると、早大な自然の風景の中で、その人工物がとても頼りないものに見えてしまう。
そこを下っているカヌーやカヤックにいたっては蟻のような存在でしかない。
畏怖の念を抱きながら、圧倒される風景の中を下っていく。
この辺りから更に風が強まってきた。
渓谷の中を吹き抜けてくる風は向かい風となって私たちを襲ってくる。
結構な流れがあるのに、漕ぐ手を休めるとカヌーは上流へと押し戻されてしまう。
その風が雲を吹き飛ばしてくれたのか、上空には青空も見えるようになってきた。
そうして沙流川渓谷の紅葉を太陽の光が照らし出す。
今までも十分に素晴らしい風景だったのに、やっぱり太陽の陽射しを浴びた紅葉はその鮮やかさが全然違っていた。
瀬は無くなったものの、所々に現れる滝、岸壁に開いた自然の洞窟など、見どころが一杯で飽きることがない。
たっぷりと紅葉を満喫して、車を回しておいた場所に到着。
これが今シーズン最後の川になるかもしれないけれど、シーズン最後を飾るにふさわしい楽しい川下りだった。
2011年10月16日 雨のち晴れ
当日12:00 沙流川水位(幌毛志橋観測所) 57.20m |