川岸に張った氷のところで、黒っぽい生き物が出たり潜ったりしているのが見えた。
カワガラスが魚を取っているのかなと思いながらその横を通り過ぎたが、何となく様子が変わっていたので、もう一度確認してみようとカヌーをUターンさせる。
すると、何かが水面に波を立てながらこちらに向かって泳いできていた。
どうやらそれは、鳥ではなく、動物のようである。
更に近づいてみると。そいつは、大きなアメマスを口にくわえていたのである。
そのアメマスが大きすぎるため泳ぐのに必死で、私達には構っていられないと言った様子だ。
そしてそのまま対岸まで泳ぎきり、川岸の氷の下にその姿を隠してしまった。
多分ミンクだったのだろう。
川を下っていてミンクの姿は何回か見ていたけれど、大きな魚をくわえて泳ぐ姿は初めてである。
貴重な経験をさせてもらった。
ゆっくりと下って、ちょうど良い時間帯にSLを見られるポイントまでたどり着けそうだ。
カーブを曲がると、そこの川原に赤いカヌーがあったのでびっくりした。
私達もそこで上陸して挨拶をする。
女性のお客さんを乗せたカヌーツアーのようである。
そこで突然「もしかしたらウィルダネスですか?」と聞かれて、更にびっくりさせられた。
せめて「ウィルダネスカヌークラブですか?」と聞いてくれたらもう少し答え易かったけれど、突然見ず知らずの人から「ウィルダネスですか?」と聞かれたら一瞬答えに詰まってしまう。
クラブのN島さんの名前などが出てきたので、こちらも「もしかしたらラピッズの方ですか?」と聞き返したら、「ひげのおじさんと言えば、昔の人なら知っているかも」とのこと。
北海道のカヌー人口は少ないので、必ずどこかでお互いに繋がりがあるのである。
ひげのおじさんからSLがやってくる詳しい時間を教えてもらえたので、それに合わせて再び下り始めた。
それにしても私達の姿を見ただけで何故突然「ウィルダネスですか?」と聞かれたのか、それが不思議だった。
今の季節に川を下っているのはウィルダネスカヌークラブの人間くらいしかいない、と言う訳ではないだろう。
多分その理由は、私達がドライスーツを着て川を下っていたからなのだと思う。
かむほーむのご主人も「冬でも普通の服装で下ってますよ」と言っていたし、このツアーの方も普通の防寒服を着ているだけだ。
お客さんを乗せるツアーでは沈することなど100%有り得ないのだから、ドライスーツを着る必要など無いのだろう。
一方の私達は100%沈しないとまでは言い切る自信がないので、迷った挙句にドライスーツを着ることにしたのだ。
多分、一般の人が冬の釧路川を下る時、ドライスーツなど着る人は殆どいないと思われる。
冬と言えども、ドライスーツを着て川を下るのは何処かのカヌークラブに所属している人間くらいなのかもしれない。
まあ、格好良く言えばそれだけ安全に対する意識が高いということになるが、それでいきなり「ウィルダネスですか?」と聞かれたのなら、ちょっと嬉しかったりする。
SL対面ポイントまで下ってくると、遠くからSL独特の汽笛の音が聞こえてきていた。
そして間もなく、真っ白な煙を吐きながら山の陰からSLが姿を現した。
かむほーむのご主人から「この付近は湿原の眺めも良い場所なのでSLもゆっくり走ってくれる」と聞いていたのに、全くスピードを緩める気配も無く、挨拶代わりの汽笛を鳴らして、あっと言う間に通り過ぎてしまった。
ひげのおじさんが「何だよ〜!」って文句を言っていたが、当初は予定していなかったSLの姿を川の上から眺める事ができて、私達は十分に満足していた。
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