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釧路川

(二本松橋上流〜細岡カヌーポート)

 真冬の釧路川を下ろうと思い付いての道東遠征。
 細岡のカヌーポートに車を置いて、そこから二本松橋上流のスタート地点まで、今回利用した宿「B&Bかむほーむ」のご主人に送ってもらう。
 そこは、コッタロ湿原へ向かう砂利道と釧路川がちょうど接している場所で、小さな駐車スペースもあってちょうど良い出艇場所になっている。
氷の岸からカヌーを出す 何度も下っている釧路川だけれど、冬に下るのは初めて。
 恐る恐るカヌーに乗り込み、ご主人の見送りを受けて真冬の湿原川下りが始まった。

 朝方に広がっていた雲も、次第に薄れてきて太陽の光が川面を照らす。
 陽が陰った時はさすがに寒さを感じるものの、陽射しを体一杯に受けていると、まるで早春の川を下っているような錯覚に囚われる。
 しかし、今回期待していたのはこんな川下りではなく、河畔の木々が樹氷で真っ白になり、カヌーの周りを蓮氷が流れ、そして川面からは川霧が立ち昇る、そんな風景の中での川下りだった。
 今朝の気温は−10度にも届いていないだろう。
 木々が樹氷で覆われるためには、少なくとも−15度以上には冷え込まなければならないのだ。
 でも、これはこれで快適な川下りである。
 釧路川のゆったりとした流れにカヌーを任せて、進路を変える時くらいしかパドル操作は行わず、周囲の風景を楽しみながらのんびりと流れ下る。


釧路川の川下りがスタート   太陽の光がありがたい
倒木も多いのであまり油断もできない   日が射してくると春のような心地よさだ

えぐられた土壁 前方に、昨日夕日を見るために登った二本松の丘が見えてきた。
その名前の由来となった2本の松が並んで生えている。
川の流れでえぐられた土壁には、巨大なツララが垂れ下がっていた。
そのえぐられたところに入ってみたが、頭の上からパラパラと砂が降ってくるので、怖くなって直ぐに逃げ出す。

 スタートしてから20分で二本松橋の下をくぐる。
宿のご主人から15分くらいと言われていたので良いペースである。
と言うのは、SL冬の湿原号が運行を始めていて、川の上からそれを間近に見られるポイントは細岡の少し手前。今の時間は9時20分で、そこをSLが通過するのは11時40分頃と聞いていたので、ゆっくりと下らなければ早く着き過ぎてしまうのである。


川岸の風景   二本松の丘の土壁
自己主張する木   あの穴に入ってみよう!


 河畔林の中から、エゾシカが私達の様子をうかがっていた。
 川岸の雪の上は何処もエゾシカの足跡だらけなのに、その姿を見かけるのは稀である。
 その代わりに沢山見かけたのが釣り人の姿だった。これだけ沢山釣り人が入っていては、エゾシカも警戒して川には近づいてこないのかもしれない。
 他の季節にはそれ程釣り人は気にならないのだけれど、冬の間は川へのアプローチもしやすくなるからなのか、何処まで下ってもその姿が見えなくならないのである。
 釣り人の多さは週末の千歳川以上だろう。


川岸に現れたエゾシカ   釧路川の釣り人
私たちの様子を窺うエゾシカ   寒くないのだろうか?

葉を落とした河畔林 エゾシカやタンチョウくらいしか見ることの無い冬の釧路川、今まで抱いていたそんなイメージが完全に崩れ去ってしまったが、それでも冬の釧路川は素晴らしかった。
 特に、河畔の木々が葉を落として丸裸になっているので、視界を遮るものが何も無くなって、回りの風景がとても良く見えるのだ。
 水位が下がっているので上陸できる場所も多く、その河畔林の中を自由に歩き回る事ができる。
 積雪が少なく、湿地の水も凍っているため、普段は立ち入る事の出来ない湿原の中も歩けてしまう。
 そしてもう一つの良いところは、冬の風は殆どが北や北西からの風。つまり、釧路川を下るときには追い風になるという事である。
 今回も時々強い風が吹いてきたが、追い風になるので、風が吹いていることさえ気が付かないほどだった。


冬の釧路川の風景
ちょっと上陸

 雪に覆われた広々とした川原を見つけ、砕氷船のようにバリバリと氷を割りながらカヌーを岸に乗り上げる。
 その周りはエゾシカやキタキツネやタンチョウヅルや、湿原の生き物達の足跡だらけだ。
 エゾシカが付けた獣道に沿って湿原の中に入っていく。
 遠くに真っ白な阿寒の山並みが見える。
 時間が許せば、釧路湿原の奥深くまで分け入ってみたいものだ。


動物たちの足跡   釧路湿原でジャンプ
動物たちの足跡だらけだ   アサ妻ジャンプを披露するかみさん

氷の上に上陸
氷を割って上陸

 宿で入れてもらった暖かいコーヒーを飲んで体を温め、再び下り始める。
 冬の川下りでは氷の造形物を発見するのも楽しい。
 川に張った氷の縁に小さなツララがずらりと並んでいる。それが場所によって様々な形をしているのだ。
 どうしたらこんな形のツララが出来上がるのか、まさに自然の妙としか言いようが無い。


氷の造形   氷の造形
氷の造形   氷の造形

 川岸に張った氷のところで、黒っぽい生き物が出たり潜ったりしているのが見えた。
 カワガラスが魚を取っているのかなと思いながらその横を通り過ぎたが、何となく様子が変わっていたので、もう一度確認してみようとカヌーをUターンさせる。
アメマスをくわえて泳ぐミンク すると、何かが水面に波を立てながらこちらに向かって泳いできていた。
 どうやらそれは、鳥ではなく、動物のようである。
 更に近づいてみると。そいつは、大きなアメマスを口にくわえていたのである。
 そのアメマスが大きすぎるため泳ぐのに必死で、私達には構っていられないと言った様子だ。
 そしてそのまま対岸まで泳ぎきり、川岸の氷の下にその姿を隠してしまった。
 多分ミンクだったのだろう。
 川を下っていてミンクの姿は何回か見ていたけれど、大きな魚をくわえて泳ぐ姿は初めてである。
 貴重な経験をさせてもらった。

 ゆっくりと下って、ちょうど良い時間帯にSLを見られるポイントまでたどり着けそうだ。
 カーブを曲がると、そこの川原に赤いカヌーがあったのでびっくりした。
 私達もそこで上陸して挨拶をする。
赤いカヌーと遭遇 女性のお客さんを乗せたカヌーツアーのようである。
 そこで突然「もしかしたらウィルダネスですか?」と聞かれて、更にびっくりさせられた。
 せめて「ウィルダネスカヌークラブですか?」と聞いてくれたらもう少し答え易かったけれど、突然見ず知らずの人から「ウィルダネスですか?」と聞かれたら一瞬答えに詰まってしまう。
 クラブのN島さんの名前などが出てきたので、こちらも「もしかしたらラピッズの方ですか?」と聞き返したら、「ひげのおじさんと言えば、昔の人なら知っているかも」とのこと。
 北海道のカヌー人口は少ないので、必ずどこかでお互いに繋がりがあるのである。
 ひげのおじさんからSLがやってくる詳しい時間を教えてもらえたので、それに合わせて再び下り始めた。

 それにしても私達の姿を見ただけで何故突然「ウィルダネスですか?」と聞かれたのか、それが不思議だった。
 今の季節に川を下っているのはウィルダネスカヌークラブの人間くらいしかいない、と言う訳ではないだろう。
釧路川でもドライスーツ 多分その理由は、私達がドライスーツを着て川を下っていたからなのだと思う。
 かむほーむのご主人も「冬でも普通の服装で下ってますよ」と言っていたし、このツアーの方も普通の防寒服を着ているだけだ。
 お客さんを乗せるツアーでは沈することなど100%有り得ないのだから、ドライスーツを着る必要など無いのだろう。
 一方の私達は100%沈しないとまでは言い切る自信がないので、迷った挙句にドライスーツを着ることにしたのだ。
 多分、一般の人が冬の釧路川を下る時、ドライスーツなど着る人は殆どいないと思われる。
 冬と言えども、ドライスーツを着て川を下るのは何処かのカヌークラブに所属している人間くらいなのかもしれない。
 まあ、格好良く言えばそれだけ安全に対する意識が高いということになるが、それでいきなり「ウィルダネスですか?」と聞かれたのなら、ちょっと嬉しかったりする。

 SL対面ポイントまで下ってくると、遠くからSL独特の汽笛の音が聞こえてきていた。
 そして間もなく、真っ白な煙を吐きながら山の陰からSLが姿を現した。
 かむほーむのご主人から「この付近は湿原の眺めも良い場所なのでSLもゆっくり走ってくれる」と聞いていたのに、全くスピードを緩める気配も無く、挨拶代わりの汽笛を鳴らして、あっと言う間に通り過ぎてしまった。
 ひげのおじさんが「何だよ〜!」って文句を言っていたが、当初は予定していなかったSLの姿を川の上から眺める事ができて、私達は十分に満足していた。


SL冬の湿原号
SL冬の湿原号とご対面

 その後、直ぐ下をSLが通り過ぎていった急な山の斜面に、カメラマンが一人へばり付いているのを見つけて驚いた。
 この付近にアプローチできる道は無いはずで、一体どうやってここまで歩いてきたのだろう。
 釣り人、鉄ちゃん、そしてカヌーイストは、真冬でも元気に遊んでいるのだな〜と改めて感心してしまった。

細岡カヌーポート そこから先は細岡までゆっくりと流されるだけ。
 そうして、ずらりと並んだ釣り人の間に適当なすき間を見つけて上陸し川下りは終了。
 冬の釧路川は本当に楽しいところだった。
 次はもっと冷え込んだ日にも下ってみたいし、我が家の冬の行動範囲がまた広がってしまったような気がする今回の川下りだった。

2011年1月23日 晴れ
当日12:00 釧路川水位(五十石観測所) 11.98m


釧路川の風景   釧路川の風景
広い空と釧路川   自己主張する木その2


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