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尻別川

(尻別橋〜京留橋)

 「真っ白な雪を抱いた羊蹄山を眺めながら今シーズンの初カヌーを楽しみましょう」
 今年からカヌークラブの企画委員長となり、自信を持って考え出した最初の企画が早春の尻別川例会。
 うららかな春の陽射しを体一杯に浴びながら、真っ青な空と真っ白な羊蹄山の素晴らしいコントラストに目を奪われ、雪解け水で増水した川を颯爽と下る。
 そんなイメージを抱いていたのに、今年は春の訪れそのものが遅れていた。
雪に覆われた河川敷にカヌーを降ろす その影響としてまずは、スタートを予定していた川原がまだ雪に覆われていたため、そこから2キロ上流の国道230号の尻別橋にスタート地点を変更。
 初めての場所を下れることになったのでこれは逆に嬉しい影響なのだが、心配なのは4月になっても全然上がってこない気温だった。
 この日も喜茂別町の予想最高気温は5度、おまけに朝から雨降り、シーズン初カヌーに向けてのテンションは下がってくるばかり。
 それでもこの日を待ち焦がれ、雨をものともせずに集まってきた物好きパドラーは19名にもなった。
 幸い、現地に到着する頃には雨も上がり、青空さえも雲間から覗くようになってきていた。
 ところが、川原にカヌーを降ろし、車を回送して戻ってくると、再び雲が厚さを増してきていて、目の前に見えていた尻別岳の姿さえ見えなくなっていた。


ミーティング中   集合写真
スタート前のミーティング   集まった物好きパドラー達

 簡単なミーティングを済ませて、今年初めて水の上にカヌーを浮かべる。
 雪解け水で増水気味の川は流れも速く、久しぶりのこともあって、皆少し緊張気味である。
 尻別橋から下流は、減水時には下るのが厳しいところだけれど、今日は水もたっぷりで下るのには全く問題ない。
尻別川ダウンリバーのスタート 逆に水が増えすぎて、途中に大きな瀬が出来ていないかの方が心配になってくる。
 一週間前に下見した時は、水量が増えている割には川底まではっきりと見えるくらいに水が澄んでいて、川を下るのにこれ以上は無いようなベストコンディションだった。
 それが今日は更に水量が増え、その分、水の透明度もかなり下がってる。
 水面にカヌーを浮かべると、その早い流れに乗って、漕ぐ必要も無いくらいに快適にカヌーは進んでいく。
 この調子だと、あっと言う間にゴールまで着いてしまいそうだ。
 川岸はまだ雪に覆われ、所々で雪の解けた場所から顔を出しているフキノトウは、まだ硬くつぼまったままである。
 ネコヤナギの芽も膨らみ始めたばかりで、とても4月の末とは思えないよう周りの風景だ。

 今回の例会には去年の4月の千歳川以来、2度目の川下りだというS森君がゲストで参加していた。
 一年前の記憶があまり無かったので、その時の写真をみて見ると、蛇籠の落ち込みを横向きで落ちるS森君がそこに写っていた。
 もう一組、去年の歴舟川例会にゲスト参加していたK鍋さんご夫婦が、今回は新入会員として参加している。
 S森君のことが心配だけれど、歴舟川を下っているK鍋さん夫婦ならば、尻別川の今回下る区間は全く問題ないだろう。
 所々に波の立つ瀬があったが、邪魔な岩も全て水面下に沈んでしまっているので、こんな川は増水している時の方が障害物も無く、下りやすい。


K鍋さんご夫婦   S森君
楽しそうに下るK鍋さんご夫婦   緊張気味に下るS森君

 あいかわ橋の手前にかなり大きな波のできている瀬があった。
 今日、スタート地点の下見をしている時に橋の上からこの瀬のことも見ていたけれど、実際に近づいてい見ると想像していた以上の波の高さである。
 緊張しながらその瀬の中に入り、左岸に小さなエディを見つけて強引にそこにカヌーを入れる。
 沈する恐れもあったけれど、写真撮影のためには少々の危険は冒さなければならないのだ。
 おかげでベストポジションを確保でき、ニヤリと笑みを浮かべながら後から下ってくるS森君やK鍋ご夫妻を待ち受ける。
瀬の中を下る ところが、S森君は緊張で引き攣った顔をしながら、K鍋さんご夫妻は弾ける様な笑顔を浮かべながら、その大きな波を乗り越えて下っていってしまった。
 沈の危険を冒してまでの努力が実らず、ちょっと気落ちしながら再び下り始める。
 橋の下を抜けるとその先で喜茂別川が合流し、何時ものスタート地点である。
 自分が先頭に出たと思ったら、その前にもう1艇のカヤックがいるのに気がついた。K藤さんの艇である。
 そしてK藤さん本人は、そのカヤックに必死にしがみつきながら流されているところだった。
 慌ててホイッスルを鳴らしその後を追いかける。カヤックは他の人に任せ、K藤さんに我が家のカナディアンの後ろに掴ってもらって、岸へと漕ぎ寄せる。
 ドライスーツを着ているとは言え、ずぶ濡れになったK藤さんの姿は、この寒空の下で見るには忍びないものがある。
 おまけに、この辺りまで下ってくると、北西の風がもろに吹きつけてくるようになっていたのだ。
 再び体制を整えて下り始めた時、折角の沈事件の写真を一枚も撮っていなかったことに気が付いた。
 レスキューするのに忙しくて写真を撮っている余裕など無く、唯一のシャッターチャンスと言えばK藤さんが我が家のカヌーの後ろにしがみついている時くらいだろう。
 でもさすがに、そのK藤さんに向かって間近からレンズを向けるほど、私は冷酷にはなりきれなかったと思う。

氷山? 待っている間に体が冷えてしまい、吹き付ける風が更に体の熱を奪っていくようだ。
 冬期間雪捨て場になっている河川敷からは、氷山のような雪の壁が川に向かってせり出していて、そんな光景がますます寒さをつのらせている。
 晴れていれば、その付近からは羊蹄山の姿が川の真正面に見えるはずなのに、その裾野の姿がかろうじて見えるだけである。
 残りはどんよりとした灰色の雲に隠されてしまっている。
 その雲は、風に吹かれて流されていくのか、それとも風に吹かれて広がってきたのか。
 じっと空を見上げていると、どうやら後者の方であることは確実みたいだ。


羊蹄山が見えない
真正面に羊蹄山が見えるはずなんだけど・・・

 夏の渇水期には瀬らしい瀬は一箇所しかないのだけれど、これだけ水が多いと普段は何でもないような流れが、楽しい瀬に姿を変えるている。
 障害物も無く、波に乗っていくだけで気持ち良く下れる。
 これで天気が良ければもっと気持ち良くなれるのだけれど、天気には文句も付けられない。


K鍋さんご夫婦   S森君
必死な表情の妻と、後ろでニタニタ笑っている夫   頑張るS森君

休憩中 昼食のため途中の川原に上陸したけれど、風がまともに吹きつけてくる場所なので、ゆっくりと休んでいられそうにない。
 でも、この区間では休むのに適当な川原もほとんど無いので、我慢してそこで小休止することにした。
 じっとしていると体が冷えそうなので立ったままでおにぎりを食べる。
 ドライスーツの下には何時もより1枚多く着込んだつもりだったけれど、それでは足りなかったようだ。
 そして濡れたパドリングシューズからも寒さが体の中に伝わってくる感覚である。
 パドリンググローブはまだ濡らしていないけれど、指先の無いタイプなので、体を温めることにはあまり役に立っていない。

 体が冷える前に再び下り始める。
 留産橋の下流には川を横断するように石が並べられている場所が何箇所かあり、水が少ない時は上流からその石が見えるけれど、今日は全て水の中に隠れているので、知らずに近づくと痛い目に遭いそうだ。
 その後はポーテージが必要な堰堤まで、これと言った瀬も無く、向かい風の中を黙々と漕ぎ進むだけである。
 この堰堤では過去に死者が出たことも有ったそうで、水量の増えている今回はちょっと心配していた。
 しかし、その上流部は流れも緩く、余裕をもって上陸することができ、苦労するのは重たいカナディアンを堰堤の下流まで運ぶことだけである。
 そこの護岸に張られたコンクリートブロックが少しだけ温まっていたので、そのブロックの上にへばり付いて暖をとるメンバーまで出てきた。
 冷え切った川から上がると、冷たいコンクリートブロックまでが暖房器具に見えてくるのである。


堰堤手前で上陸   堰堤をポーテージ
堰堤手前で右岸に上陸   100mのポーテージ

 再び川の上にカヌーを浮かべる。
 直ぐ下流に、この区間で唯一の難所、尻切れの瀬の白波が見えていた。
 難所と言っても、落差がやや大きい程度で、ちょっとしたスリルを味わえるような瀬である。
尻切れの瀬 来る時に道路上から確認したところでは、一週間前に見えていた中州も水没しており、波も更に大きくなっている様子だった。
 護岸ブロックから舟を出したS森君がそこに留まることができずに、水流に押し流されそうになっている。
 水量が多いおかげで、何時もは下ることができない右岸側にチキンルートができていたので、S森君に「右岸寄りを下った方が良いよ」と声をかけた。
 そうして声をかけたことにより、今度は自分達の方が水流に流されて、そこに留まっていることが出来なくなってしまった。
 もうそのまま下るしかないと覚悟を決めたが、先頭で下って沈するとレスキューしてくれる人が誰もいないのだ。
 波が大きいだけで障害物は何も無く、ただ真っ直ぐに下れば良いところを、写真撮影のために瀬の途中で上陸したい気もする。
 瀬の直前まで来たところで、想像以上の波の高さにドキリとして、過去に一度だけ空知川で波沈のした時のトラウマが頭の中に蘇ってくる。
 大波に煽られながら左岸に小さなエディを見つけたので、かみさんに「左に!」と声をかけると素早く反応してくれて、そのエディにスルリと入ることが出来た。
尻切れの瀬で撮影中 直ぐにカヌーから降りて撮影ポイントへ行こうとすると、かみさんが「レスキューロープはどうするの?」と声をかけてきた。
 一瞬「ん・・・?」と迷ったが、瀬の下流の状況、下るメンバーなどの条件を総合的に判断し、直ぐにレスキューよりも撮影の方が大切だとの結論に達する。
 そうして舌なめずりしながら待ち構えていると、波の中を大きく上下に揺られながら、次々と私の前を下っていく人達。
 そしてK鍋さんご夫婦が乗るファルトがやって来た。
 カナディアンの様に波をかき分けるのではなく、ファルトは波に突き刺さるように進むので、バウに乗っている奥さんは頭の上から思いっきり水をかぶることになる。
 そんな奥さんの苦労も知らずに、スターンのご主人は弾ける様な笑顔で楽しそうだ。
 気が付くとS森君も、チキンルートに逃げることなく、尻切れの瀬に突っ込んで来るところだった。
 そして大波を次々と越えていくその後姿は、これが川下り2回目とは思えない堂々としたものに見えたのである。


楽しそうに瀬を下るメンバー

 その後はゴールの京留橋までほぼ真っ直ぐに川は流れ、そして真正面から北西の季節風が吹き付けてくる。
 鉛色の雲が空を覆い、風と共に白いものが舞ってきても全く不思議ではない天候である。
 手がかじかむので、股の間に挟んで暖めながら、黙々と漕ぎ続ける。
ゴールはもうすぐ そしてようやくゴールの京留橋の姿が見えてきた時は心底から嬉しかった。
 何時もなら橋の上流部で上陸するのだけれど、そこも雪捨て場になっていて雪の壁がそそり立っているので橋の真下で上陸する。
 何時もならば川下り後の充実感に浸りながら、暫くそこで時を過ごすのだけれど、そんな余裕は誰にも無く、そそくさと着替えを済ませた後は、皆、逃げるように川を後にする。
 桜の開花も大きく遅れそうな今年の春。
 そんな中で行われた尻別川例会は、今年の寒い春を象徴する出来事として、参加者の心の中に永く記憶されることになるかもしれない。



2010年4月25日 曇り
当日12:00 尻別川水位(三崎観測所) 219.80m
(喜茂別下流観測所) 253.10m



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