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石狩川(層雲峡 大函小函)

(大函駐車場〜層雲峡温泉街)

 カヌークラブの有志で層雲峡の大函・小函を下ることになった。
 層雲峡と言えば高さ200mの柱状節理の断崖が見所である。
 昔は国道39号からその景観を楽しめたのが、昭和62年の崩落事故をきっかけに造られた銀河トンネルが平成7年に開通してからは、柱状節理の核心部分が全く見られなくなってしまった
 旧道を利用して遊歩道が作られていたのも、落石の恐れがあるために最近はそれも閉鎖されたままだ。
 そうなると、柱状節理の景観を見るためには、峡谷の中を流れる石狩川を下るしか手段がないのである。
 しかし、そんなところはエクストリームカヌーの世界になってしまうだろう。
 と思っていると、数年前にここを下っているI山さんが「川のレベルはヌビナイ川程度ですよ」と言うものだから、それならば我が家の大型カナディアンでも何とかなりそうだと考え、参加を決意した。

雪化粧した大雪の山並み 旭川紋別自動車道の上川ICを下りて国道39号を層雲峡へと向かうと、真っ青な空を背景にして大雪の山並みが白く雪化粧しているのが見えてくる。
 例年よりもかなり遅れ気味だった紅葉も、層雲峡付近ではちょうど見ごろを迎えていた。
 ただ、今年の紅葉は9月が暖かすぎたせいか色付きもパッとしなくて、温泉街を過ぎると既に散ってしまった木々も目に付く。
 銀河の滝の駐車場に車を停めて、川の様子を下見した。
 心配していたとおり、水が少ない。数日前に降った雨は、この川に何の変化も与えなかったようだ。
 ここから直ぐ上流に大きなダムが二つも連なっている石狩川なので、ちょっとくらいの雨などは全部そこで受け止められてしまうのだろう。
 ちなみにこの日の大雪ダム貯水率は、僅か5%程度だった。水は少ないけれど、何とか岩と岩の間をすり抜けながら下ることはできそうだ。
 それよりも心配なのは観光客の多さである。
 流星の滝・銀河の滝見物に集まっている大勢の観光客の目の前で、沈して流されることだけは避けたいところだ。

 集合場所の大函駐車場に到着。
 今回はクラブの有志だけの企画だったのに、普段の例会以上の30人近くが集まってしまった。
 これはきっと、天気に恵まれた紅葉真っ盛りの層雲峡という条件のほかに、前述のIやまさんの一言がかなり影響したのだろう。
観光客に見送られて 車を温泉街の川原に回している間、残っていたかみさんはそこに集まっていた観光客から「写真に撮りたいんだけど何時になったら下り始めるの?」と急かされていたそうである。
 観光客が絶対に川に近づかないようにと、ぐるりと張り巡らされた柵を乗り越えてカヌーを川原に下ろす。
 川の中から後ろを振り返ると、柵の周りに集まってこちらに注目している観光客が、檻の中に閉じ込められている羊の群れのように見えてしまう。
 今の世の中は、安全確保の名目でそこら中に柵が作られているけれど、逆にその柵が人々の自由を奪ってしまっているのである。
 そんな檻の中から抜け出して、私達は自己責任を持たされた自由の世界へと足を踏み入れる。
 いよいよ大函小函の川下りが始まった。

冬の大函 1年前の冬にここ大函の中をスノーシューを履いて歩いたことがある。
 そのときは全てが雪に覆われていて川の様子は分からなかったけれど、巨大な饅頭のような雪の山が幾つも連なっていた記憶がある。
 その饅頭の餡となっていた岩が全て剥き出しになっていたとしたら、下るのにも相当苦労しそうだ。
 そんな心配をしていたものの、大函の中の流れはいたって穏やかである。
 大函の中に初めて足を踏み入れる感動はその冬に体験済みだったので、特にその時以上のものは湧いてこなかった。
 凍り付いていた滝が水しぶきを上げている程度が、その時との違いだろうか。
 もう少し大函の中でゆっくりとしたかったけれど、他のメンバーがどんどんと先に下っていってしまうので慌ててその後を追った。

 
滝を真下から見上げる   大函の中は下りやすい

 大函は、駐車場側とトンネルを抜けた先の橋の上からとで、ほぼその全容を見渡すことができる。
 しかしこの橋から下流は、新しいトンネルができて遊歩道も閉鎖された今、パドラー以外は立ち入ることのできない世界となる。
kenjiさんご夫婦 川の様子も、大函を過ぎると急に険しさを増してきたようだ。
 川の中にゴツゴツと顔を出している岩、水面ギリギリに沈んでいる隠れ岩、必死になってそれらを避けながら漕ぎ下る。
 kennjiさんご夫婦の乗るカナディアンが、そんな岩を相手に悪戦苦闘している。
 水量が少ないので岩に張付いてしまったとしても、上流側に艇を傾けない限りはそれほど危ないことはない。
カナディアンのタンデムは、他にサダ吉さんご夫婦と我が家の3艇だけ。
 他にOC-1が1艇いる以外は、全てがカヤックでの参加。元々が、大型のカナディアンで下るようなフィールドではないのである。


断崖絶壁 延々と岩を避け続けてようやく小休止。
 それまでは木々に隠れて見えなかった高さ200mの柱状節理の断崖が、いよいよその姿を現し始めていた。
 トンネルができる以前でも覆道になっているところが多く、道路から見える断崖絶壁の景観は殆どが対岸だけに限られていた。
 それが川の上からでは、道路上に切り立つ200mの断崖がまともに自分達の上に覆いかぶさって見えるのである。
 今となっては、その下を車が走っていたなんて俄かには信じがたい話だ。
 休憩を終えて再び川に出たところ、その気持ちが増幅されるような光景が行く手に見えてきた。
 崖から崩れ落ちたらしい大量の岩が、道路があるべき場所を埋め尽くしているのである。
 その岩が道路を越えて川の中にまで流れ込んでいる様子だ。
 S藤さんがその手前に立って下るルートを指示してくれているので、カヌーが通れる場所はありそうである。
 恐る恐る近づいていくと、Y田先生から「kennjiさんはポーテージしてください!」との有無を言わせぬ指示が飛んだ。
崖崩れ跡を下る 「あれ?我が家は?」と思ってY田先生の顔を見ると、「ヒデさんとこはそのまま行って下さい」とのこと。
 その言葉に安心して下っていくと、ようやくそのがけ崩れ現場の全貌が明らかになった。
 岩と流木に挟まれた狭い落ち込みがカヌーで通過できる唯一のスペースだけれど、艇の操作さえ確実にできれば特に問題のあるところではない。
 ただし、ちょっとでも操作を間違えれば大変なことになるのは確実である。
 M板さんが、その直ぐ脇の流木の上に仁王立ちになってこちらを見下ろしていた。
 今回M板さんは「温泉街から下も下りましょう」と皆を誘っていたけれど、賛同者は一人もおらず。
 来る途中にその辺の川の様子もチラッと見えたけれど、岩だらけで「水は何処を流れているの?」って感じの場所である。
 それこそエクストリームカヌーの世界である。
 目の前に迫る落ち込みよりも、そんなM板さんの方が恐ろしい。

小函の大峡谷、奥には崖崩れの跡が見えている

崖崩れ現場

 そこは無事に通過したけれど、この辺りが層雲峡の核心部なのか、川の中に転がる岩がその数も大きさも増してきたような気がする。
 GPSを付けて下っていても、この辺りだけが衛星の電波も届かなくなるのか、後で確認するとGPSの軌跡が400mほど欠落していた。
 そして次に現れた難所は、一目見ただけで迷うことなくポーテージを選択した。
 断崖絶壁から崩れ落ちてきたような大岩が川を塞ぎ、川の水は道路のコンクリート擁壁ギリギリのところの狭い落差を轟々と流れ落ちているのだ。
サダ吉さんポーテージ? その落ち込みの手前にも岩が複雑に絡んでいるので、それがここの難易度を更に大きくしていた。
 それでもOC-1とカヤックは全員がここに挑戦する様子である。
 皆が下る様子を見たかったけれど、ポーテージするのにも一苦労するようなところで、自分のことだけで精一杯だ。
 一緒にライニングダウンしていると思っていたサダ吉さんが、突然一人でカヌーに乗り込みそのまま落ち込みを下っていったのには驚かされた。
 何とか無事に下れたようだけれど、私は無理はしないでそのままポーテージをする。
 帰宅してから、ここを下った人達の写真を見せてもらったけれど、痛い目にあった方も結構いたみたいで、パスしたのは正解だったようである。

 

落ち込みの手前の岩が嫌らしい   その岩に引っ掛かるY谷さん

 こんな場所をタンデムで下るときは、バウとスターンの息が合わないとなかなか大変である。
 我が家の場合スターンの私が指示を出すことにしていて、目の前に迫る岩の右か左のどちらに行くか「次は右行くよ」、「左だ!」などと声を出す。
 たまに「左!」と言っておきながら、流れの具合から寸前で「やっぱり右!」などと変更したりするものだから、バウの方からぶつぶつと文句を言う声が聞こえてくる。
 一つの岩だけなら良いけれど、岩が多くなってくると「あれを右に避けてから直ぐに左ね」と、指示も複雑になってくる。
二人で息を合わせて・・・ 「何やってる!右だろー!」
 「え〜っ、左って言ったじゃない!」
 「うわ〜ぁ!」
 「きゃ〜ぁ!」
 今回は岩への乗り上げは2、3回で済んだので、比較的息が合っていた方になるのだろう。

 ベテランメンバーにも沈を繰り返した人がいるくらいで、さすがに皆も疲れてきた様子である。
 日の当たる場所を探して休憩をとることにした。
 スタートしてから2時間程度、距離的にもそれほど下ってきたような気はしないけれど、その中身は濃すぎるくらいだ。
 余裕があったのは大函の中くらいで、小函に入ってからは常に全神経を流れに集中させ、岩を避けるためのブレスやドローもその度に全力を出さなければならず、こんな川下りは他に記憶がない。
 疲れすぎて食欲もわかず、二個目のおにぎりは一口かじっただけで食べるのを止めてしまった。
 体を動かしていないとどんどん冷えてくるので、早々に休憩を切り上げ再び下り始める。

銀河の滝
銀河の滝が見えてきた

 しばらく下ると、断崖絶壁が続くその先に銀河の滝が見えてきた。
 層雲峡の景観と言って真っ先に思いつくのが、柱状節理の絶壁の間から真っ直ぐに流れ落ちる銀河の滝の姿である。
ギャラリーの前を下る 険しい峡谷の中を漕ぎ抜けてきた後にその姿を目にすると、何か懐かしさに似た気持ちが湧いてきてホッとしてしまう。
  しかしその滝の下では大勢のギャラリーが待ち受けているはずである。
 絶対に沈だけは避けたいところだ。
 急流の中を下っていくと、観光バスから降りてきたような団体さんが一塊になってこちらの方を見ている姿が視線の端にちらりと捉えられた。
 岩を避けるのに忙しくてそちらを見る余裕も無い。
 隠れ岩にぶつかりカヌーがぐらりと傾いたけれど、ブレスを入れてリカバリーし、何とか無事に下流のエディにたどり着くことができた。
 ホッと一息ついていると、「パドルの破片が流れているぞ」と誰かが言ってそれを拾い上げた。
 「えっ?まさか!」と思って自分のパドルに目をやると、ブレードの半分が見事に無くなっていたのである。
 以前からひびが入っていて、最初は木工ボンドでくっ付けていたけれど直ぐにまた割れてしまい、今度は人から教えられたエポキシ系ボンドで補修したばかりのパドルである。
パドルが割れた! 先ほどのブレスを入れたところで岩にでもぶつかったのだろうか。
 破片を拾ってもらえたおかげで、また補修して今のパドルを使い続けることができる。
 しかし、予備のパドルも用意していなかったので、ここから先をどうやって下るかが問題だった。
 とりあえず割れたパドルをかみさんに渡して、私がかみさんのパドルを使って漕ぐことにする。
 直ぐその先に大岩が待ち構える嫌らしい場所があったので、そこは私一人で下ることにした。
 初めてかみさんのパドルを手にしたけれど、私が持つとまるで子供用パドルみたいな大きさである。何時もの感覚でパドリングすると水面で空振りしてしまう。
 パドルのせいかどうかは分からないけれど、その大岩を避けきれずにカヌーの横っ腹をぶつけながら何とかクリア。

 小函の中からは抜け出したけれど、岩がらみの流れは変わらずに続いている。
 割れたパドルではかみさんのカヌー操作も殆ど期待できず、私が短いパドルで何とかしなければならない。
 しっかりとパドルを水に挿さなければ、力が伝わらない。
 今までは何も考えずにパドリングしていたけれど、パドルに伝わる水の圧力を感じ、それを意識しながらパドリングするのは初めての経験だった。
 おかげでパドリング上達のきっかけがつかめたような気がした。

楽しいダウンリバーだった

もうすぐゴール やがて温泉街が見えてきた。
 太陽の光が真正面から射してくるので、水面がキラキラと光り輝き眩しくて何も見えない。
 サングラスをかけなければ岩にも気が付かない感じだ。
 温泉街の橋の上からは、おじさんが一人、もの珍しそうに私達を見下ろしている。
 そうして温泉街の川原に上陸。
 疲れはピークに達していたけれど、感じるのは爽快感だけだった。
 全力を出して一つの川を下りきった。その満足感に浸れるのは、鵡川の福山から下流と忠別川を下ったとき以来のような気がする。
 到着したときはまだ川原は日に照らされていたのに、いつの間にか太陽の姿が見えなくなってしまっていた。
 峡谷の日没は早い。
 日が陰ると吹きぬける風も急に冷たく感じてくる。
 その風に吹き散らかされる落ち葉のように、川原に停まっていた車が次々別れの挨拶をして走り去っていく。
 ここの全てがモノトーンの世界に変わってしまうのも、もう後わずかだ。

2008年10月13日晴れ
当日12:00石狩川水位(層雲峡観測所)626.06m
下った区間の地図はこちら

写真提供 I山さん、サダ吉さん



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