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歴舟川

(カムイコタン公園キャンプ場〜河口)

 カヌークラブ9月例会二日目は歴舟川本流を下る。
 集合時間はキャンプ場へ8時となっていたので、早朝に清水町を出て余裕を持って7時過ぎに現地に到着。
 カムイコタン公園の駐車場はカヌーを積んだ車で溢れかえっていた。
 年々例会参加者が減ってきているけれど、歴舟川例会にだけは何時も沢山の人が集まってくる。
 北海道のカヌーイストに下りたい川のアンケートをとったとしたら、歴舟川が多分一番になるのだろう。
 同じアンケートを道外の人にしたとしたら、一番は釧路川になりそうな気がする。

 今回の例会は会長の強い意志により、キャンプ場から河口までを一気に下ることになっていた。
 8時にミーティングが始まった。会長から車の回送について、しつこいくらいの説明がなされる。まるで小学生の子供達に言って聞かせている感じである。
 「まだ分からないと言う人はいませんか?完全に理解できましたか?」
 河口までの回送となると2時間近くかかるし、これまでの例会でも回送途中に行方不明者が出るのも度々で、会長が心配するのも無理はない。
 私自身、あれだけしつこく説明されたのにも関わらず、後になってから「あれ?尾田の方から行くんじゃないの?」とピント外れのことを聞いたりする始末なのだ。
 多人数の聞き分けの悪い大人達を引率するのも楽じゃない。

いよいよスタート 歴舟川にカヌーを浮かべる。
 上空には素晴らしい青空が広がり、水の透明度も申し分なし。
 最高の川下りができそうな予感に心が弾んでくる。
 水が少ない時はキャンプ場前は全て瀞場になっていて、川下り前のウォーミングアップをするのにちょうど良い。
 総勢40名でいよいよダウンリバーの開始。
 このうち河口を目指す精鋭チームは21名、その他は大樹町市街地に架かる大樹橋までのショートツーリングだ。
 神居大橋の下をくぐると急に流れが速くなる。
 美しい川底の様子がくっきりと見えて、その上を飛ぶようにカヌーが進んでいく。

美しい川
美しい流れに乗って歴舟川の川下りが始まる

 直ぐに最初の土壁が見えてくる。
 歴舟川の写真には必ずと言っていいくらいに登場するこの土壁。
 キャンプ場から大樹町市街地まで幾つかの土壁があるけれど、美しさではこの最初の土壁が一番だと思う。
 幾筋もの水の流れが土壁を伝い落ちてくる。
 そんな光景に圧倒されながら土壁ギリギリにカヌーを進めた。

土壁   土壁
最初の土壁が見えてくる   土壁を眺めながら下る

 川幅一杯に広がるザラ瀬。
 水量が少ないので、瀬の中ではカヌーの底に玉石がごつごつとぶつかるけれど、ルートさえ誤らなければ問題なく下ることができる。
 真っ白な波が玉石の間でキラキラと輝き、真っ青な空の下で見るそんな瀬の様子は感動的に美しい。
 次に現れる二つ目の土壁。
 この土壁はやや乾燥気味で、今でも崩れ続けているみたいだ。
 土壁の上では、根元の土を奪い取られてしまった樹木がまるでそれに気付いていないかの様に空中に根を広げている。

ザラ瀬
キラキラと水の輝くザラ瀬

 途中の川原で一度目の休憩を取ることになった。
 去年の川下りキャンプで我が家がテントを張った思い出の場所である。
熊の足跡 先に上陸したメンバーが何やら騒いでいた。砂の上に熊の足跡が残っていたのだ。
 比較的新しい足跡で子熊と思われる足跡も混ざっている。
 歴舟川のこの付近は周りが畑になっているはずで、熊などいるわけないと思い込んでいたけれど、やっぱり油断はできない。
 我が家がここにテントを張ったときは鹿しか現れなかったけれど、以前に鵡川の川原でキャンプした時も朝目覚めると近くに真新しい熊の糞が残されていたし、北海道の川原キャンプでは熊対策が必須である。

澄み切った水 休憩を終わって再びカヌーを浮かべる。
 それにしても素晴らしい水の透明度だ。
 昨日下った上流のヌビナイ川よりも水が澄んでいる気がする。
 天気が良いので、川底の石までが太陽に照らされ、余計に澄んで見えるのかもしれない。
 絶好の川下り日和である。
 歴舟川は広い川原の中を右へ左へと流れを変え、その流れが変わるところが全て瀬になっている。
 今回は例会初参加のS君がカナディアンのソロで参加していた。
 歴舟川は初心者でも何とか下れる川とされているけれど、瀬の中には結構大きな波の立つようなところもある。
初心者S これまでの川下り経験は美々川と釧路川だけだと言うS君が果たして無事に下れるのか、ちょっと心配していたけれど、そんな心配は全く無用だった。
 波に翻弄されながらも楽しそうに下っている。やっぱりカナディアンは、そう簡単にひっくり返るようにはできていないのだ。
 I上さんが連れてきた若者も初心者のようで、ちょっと危なっかしいながらも、何とかタンデムでカナディアンを乗りこなしている。

 左岸側の三つ目の土壁を過ぎた先に大きな波の立つ瀬が去年はあったけれど、今年はそこはおとなしい瀬に変わっていた。
 歴舟川の場合、一度大増水すると川の様子がガラッと変わってしまうこともあり、一年前の記憶などほとんど役に立たない。
 ただ、去年から今年にかけての歴舟川はマイナーチェンジしただけで、川の流れまで変わっているところは無さそうだ。
コンクリート壁前の障害物 土壁ならぬ巨大なコンクリート壁が見えてくると、もう少しで市街地である。
 昔はその手前に堰のような障害物があったのだけれど、現在はそれも全て埋ってしまって普通のザラ瀬になっている。
 ザラ瀬を下ってコンクリート壁に流れがぶつかる手前にテトラが一つ転がっている。
 この辺りは川幅も広いので、そのテトラの右でも左でも余裕をもってかわせるので、大した問題はない。
 と思っていたら、若者二人の乗るカナディアンがわざわざそのテトラにぶつかって沈してしまった。
 慣れないうちはどうしても行きたくない場所に行ってしまうのものである。
 その先にはテトラのストレーナーがあるので、流れが速いときならかなり危険な場所なのだけれど、水が少なければ瀞場になっているので、沈して流されてもそれほど心配はない。
 ただ、ジャージ姿で下っていたので、ずぶ濡れになってちょっと気の毒である。

 市街地の手前にもう一箇所の難所がある。
 大きな波の出来る落ち込み、カヌーが思いっきり煽られて一瞬ヒヤッとする。
テトラをかわす 河口までの区間でここの波が一番大きかった。
 そしてその先で待ち構えるテトラ、それをギリギリで右へかわす。
 ここを初心者が下るのは無理だろうと、直ぐにレスキューロープを用意してカヌーを降りる。
 すると、最初の落ち込みで初心者タンデム艇がひっくり返るのが見えたので、慌てて川原を走った。
 ツアーリーダーのI田さんが既にロープを投げていて、流された若者はそれにつかまろうと一生懸命に手を伸ばしている。
 ロープに手が届かなければ、生身のままテトラに向かって流されることになる。
 もしもの時に備えて、私もレスキューロープを投じた。
 しかし、そのロープは3m先でポチャンと水音を立てて川に落ちてしまったのである。慌てていたので、袋の口を緩めないままで投げてしまったのだ。
 それに、ロープを投げる前の相手とのコンタクトもとっていないし、全くお粗末としか言いようがない。
 でも相手に声をかけてから投げたロープが3mしか飛ばなかったら、流されている方も川の中でずっこけてしまうだろうし、若者は何とか最初のロープにつかまることが出来て事なきを得たので、これで良しとしておこう。

最初の落ち込み

 

待ち構えるテトラ

大きな波のできる落ち込み   その先で待ち構えるテトラ

 大樹橋の手前でトイレタイムの上陸。
 ショートツーリングの人達はここで川下り終了である。
 河口を目指す精鋭部隊にとってここはまだまだ中間地点、いや、中間地点にも達していない。
大樹橋 昼も過ぎているのでここで昼食にするのかと思ったら、「食事はもう少し下流のふるさと大橋を過ぎたところで取るので、ここはトイレタイムだけにして下さい!」とのS吉隊長の強い言葉。
 ずぶ濡れになった若者が、上陸する人からドライスーツを借りることになり、それに時間がかかりそうなので、ようやく「食事を取ってよし!」との隊長命令が下った。
 どうやらS吉隊長は、ここで昼にしてしまうと脱走兵が出るかもしれないと心配していたようである。
 ふるさと大橋を過ぎてしまえば周りには何も無くなり、例え脱走したとしても飢え死にするか熊に食われてしまうしかないのだ。
 確かに2名ほどの隊員が、しきりに疲れただの退屈だのと不平をこぼしているので、部隊の規律を大事にする隊長にとってはやむを得ない措置だったのだろう。

 食事を終えて後半戦、いやいや、前半戦の残りのスタートである。
 大樹橋を過ぎて左岸への分流へと進む。
 去年はここで我が家は右岸側の流れに入ったのだけれど、そちらは障害物が少し多すぎる。
洗濯板の瀬 大樹橋下流は川底が凹凸のある岩盤状になっていて、水量が少ないものだからまるで洗濯板の上を下っているような気がしてくる。
 尖った岩ではないので、カヌーの底がぶつかりながらもその上をスルリスルリと通り抜けられる。
 ただ、下るルートの先読みをしておかないと、直ぐに岩に乗り上げてしまう。
 ふるさと大橋までそんな流れが続き、そこを過ぎてやっと一息つくことが出来た。
 疲れた表情のS君を「この先はもう大した瀬もないから大丈夫だよ」と励ましてあげる。
 ところがその少し先にやや大きな波の立つ瀬があって、S君はそこで豪快な初沈を経験することとなったのである。
 初めての沈を清流歴舟川で経験できたのだからS君も幸せ者である。
 ただ、「この先は大したことない」と言うのは、少し早過ぎたかも知れない。

ふるさと大橋下流の瀬
ふるさと大橋下流の瀬、S君はここで沈初体験

 次第に分流も増えてくる。
 そして川幅も広がるので、注意しないと直ぐに浅瀬に乗り上げてしまう。
 こんなところを下りながらルート選びをするのが、私は結構好きだったりする。
 まるで、川の上でパズルを解いているような気分になれるのだ。
 座礁するメンバーを尻目に見ながら自分だけ正解のルートを下るのは、なかなか快感である。
S君の舟を奪った二人 次第に風も強くなってきた。
 脱走し損ねた隊員2名は、水上のパズル解きといった知的なゲームの面白さも理解できず、ひたすら退屈そうに「これなら美々川の方がましだ〜」と騒いでいる。
 そしていつの間にか新入隊員S君のカヌーを奪って、それに二人で乗り込んでいる始末だ。
 新入隊員S君は、無理やりOC-1を押し付けられてそれに乗らされている。
 私も一度OC-1に乗ってみたことがあるけれど、安定性が悪くて直ぐに沈しそうになってしまった。
 これではまるで新入隊員苛め、と思ったらS君、あっさりとそのOC-1を乗りこなしているように見える。
 このままではS君が悪い先輩隊員二人の仲間に引き入れられてしまいそうで、私はとても心配である。

 途中で3度目の休憩。
 さすがに皆、かなり疲れた様子である
 休憩の合間にkenjiさんのオールドタウンチャールズリバーやS君のマッドリバーExploler14フィートを試乗させてもらう。
 他の人達も色々と乗り比べて、曲がり易い舟だとか批評していたけれど、私は例によって全く違いが分からない。
 14フィートの舟に乗っても、せいぜい感じるのは「かみさんが何時もより近くに見える」程度の違いである。
 私が本当に実感できるのは、カナディアンとカヤックの違いくらいかもしれない。

精鋭部隊?
疲れ切った精鋭部隊

 そして再スタート。
 下るにしたがって、どんどんと空が広がってくるような感覚に囚われる。
 難しい瀬も無くなり、それぞれのペースで漕ぐようになってくるので、前後の間隔も次第に広がってきた。
 先頭を下るカヌーも、後ろから付いてくるカヌーも、広大な風景の中で豆粒のように見えている。
 「間隔が開き過ぎているからもっとゆっくり漕ごう」とかみさんに言っても、「私はこの方が疲れないから」と黙々と漕ぎ続ける。
 圧倒的な大きさの自然の中でちっぽけな人間が生きていくにはこうやって頑張り続けるしかない。
 かみさんのそんな姿が、ここの風景にとっても似合っているような気がしてきた。

広い空
空が次第に広くなってくる

倒木のベンチ 河口までの間に架かる最後の橋である「歴舟橋」を過ぎると、ますます空が広くなってきた。
 そして最後の休憩。
 川原に転がっている巨大な倒木に、何となく皆が集まってきて腰掛ける。
 そんな様子はまるで無邪気な子供のように見えてしまう。
 ここまで下ってくる間に歴舟川の清流と十勝の青空が大人達の心を洗い流し、その下に隠れていた子供の心が表に出てくるのかもしれない。
 この後はもう河口を目指すだけである。
 先を下っているカヌーが自分達より高い場所にいるように見える。何だか不思議な感覚だ。
 「海が見えた」との声が前の方から聞こえてきた。
 歴舟川の河口付近は海との間が小高い砂丘で隔てられているので、直接海は見えないはずと思ったけれど、確かにそこまで下ると遠くに水平線が見えていた。
 ほとんど平らのように感じても、歴舟川はまだ高低差を保ったまま流れ続けているのだ。
 先ほど感じた不思議な感覚もこれによるものなのだろう。

海は直ぐそこ
もう海は直ぐそこだ

ゴール やがて腹に響く波の音も聞こえてきた。
 去年は低く垂れ込めた雲の下、我が家のカヌー1艇だけで海を目指し、その波の音を聞いたときは恐怖さえ感じたものである。
 今日は素晴らしい青空の下、沢山の仲間のカヌーとともに海を目指している。
 去年とは違う晴々とした気持ちがする。
 河口付近は大きなプールのようになっていて流れはほとんど無くなる。
 静寂の中に波の音だけが聞こえてくる。
 プールを漕ぎ渡り海岸の砂丘に上陸。
 砂利に足を取られながらそこを上ると、目の前には巨大な波の打ち寄せる太平洋が広がっていた。
 川下りは海に出てこそ完結する。
 あらためてそれを実感した歴舟川の川下だりだった。

2008年9月14日晴れ
当日12:00歴舟川水位(尾田観測所)102.25m

写真提供 I山さん、サダ吉さん


脱走しかけた二人
脱走しかけた二人の隊員も最後は子供に戻って波と戯れる


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