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鵡川

(ニニウ~福山大橋)

 カヌークラブの6月例会は、初日に鵡川のニニウから福山までを下る。
 鵡川のニニウ~福山は私の憧れの川である。
 十数年前、ニニウキャンプ場へ泊まるのに福山からニニウへ向かう途中、断崖の上から見下ろした美しい渓谷と清らかな流れ。
 その時から、何時かはここを下ったみたいというのが、カヌーを始めて来の私の夢になってた。
 その夢がとうとう現実のものとなる日がやってきたのだ。

 国道274の福山からニニウへ向かう道道は、土砂崩れや高速道路工事等の影響で長い間通行止めになったままなので、赤岩青巌峡の方から大きく迂回してニニウへと向かう。
 出艇場所に予定していたサイクリングターミナル付近には適当な駐車スペースが無く、盛んに行われている道路工事の邪魔にもなりそうなので、そこのやや上流にある我が家の秘密のキャンプサイトに出艇場所を変更する。
 そこの川原では2度ほどキャンプを楽しんだことがあり、サイトの前の流れを見ながら「ここからカヌーに乗って鵡川を下れたら良いな~」と考えていたものだ。図らずも今回、その希望も実現することになったのである。
 3週間前に下見でここを下ったメンバーの話では、今回下るところは岩が多くクイックなターン技術が求められ、おまけにその時よりも水位が下がっているので更に岩避けが大変そうだとの話で、今日の例会はかみさんを家に残して私一人での参加することにした。
 何時も岩がらみの瀬を下る時は、「右だ!左だ!ドローッ!」と後ろで大声を張り上げなければならない。
 それが今日は自分の思ったように、好きなように、望みのままに漕ぐことが出来るのである。
 いや!、別に普段はそう出来ていないと言うわけでは無く・・・。

 そしていよいよ鵡川ダウンリバーのスタート。
 憧れの鵡川を愛艇「フリーダム」の名前のとおり自由に漕ぎ下れる喜びで、自然と笑みがこぼれてくる。
 ところが・・・。

渓谷を下る
渓谷を流れる鵡川
鵡川の瀬   鵡川の瀬
こんなザラ瀬が続く   岩を避けるのに忙しい

 自由自在に操れるはずのカヌーが、思い通りに動いてくれない。
 「あれれ?パドリングが下手になったのかな・・・。」
 その原因は、河畔の木々の梢を僅かに揺るがすほどの風だった。そんな初夏の爽やかな風に大きなカナディアンが翻弄されている。
疲れた私 ただでさえ浅瀬が多く岩を避けるのにも忙しいのに、正面から、横からと、向きを変えながら吹いてくる風にカヌーを回されないようにするのに余計な力を使わなければならない。
 下り始めて直ぐに、今日は大変な川下りになりそうだとの予感がして、先ほどまでの高揚した気分はあっと言う間に萎んでしまった。
 先を下る他のメンバーとの距離がどんどん開いてくる。もう付いて行くのが精一杯だ。
 大きな飛び込み岩のところで皆が上陸しているのを見たときは、これでやっと休めるとホッとしたものである。
 まだ全行程の四分の一ほどしか下っていないのに、既に体力は限界に達していた。

大岩 その飛び込み岩は、頂上から水面まで二階建ての家の屋根くらいの高さがある。
 そこから飛び降りる人、下から声援する人。川下り途中のちょっとしたイベントに興ずる皆の輪の中に、入っていくような気力も無い。
 それよりも、この間に少しでも先に下っておいた方が楽を出来そうだ。
 無理に漕がなくても、これくらいの流れがある川ならばある程度の速さでカヌーは進むものである。
 しかし、風に翻弄されながら一人で漕ぐ大型カナディアンとカヤックでは、足の速さに差があり過ぎる。
 後ろのメンバーが見えなくなるくらいに先に下っていたはずが、飛び込み岩で遊んでいたメンバーが再び漕ぎ始めるとあっと言う間に追い抜かされ、その後はまた置いていかれないように必死になって皆を追いかけて漕ぐ破目になる。

美しい川
私一人でソッと流されていく

 その次の昼食タイムでエネルギーを補給すると、いくらか体力も回復してきた。ただ、体力は回復しても筋力だけは簡単には回復してくれない。
いよいよ核心部へ これから先は、大岩がごろごろと転がる鵡川の核心部へと入っていくのに、この状態ではちょっと心もとない。
 再スタートしてしばらく下ると、その先で川が突然消えてしまっていた。
 人間の背丈以上の大きな岩が両岸に積み重なり、上流から見るとその岩の間に川が吸い込まれていくように見えるのだ。
 地形図で確認しても、ここから先は両側に崖マークが続いているところだ。まさに、大岩が牙を向いて待ち構えているような風情である。
 次々と迫ってくる大岩に捕まらないように必死のパドリング。 水量が少ないのでまだ何とか下れているが、水が増えたときの様子を想像するとゾッとしてしまう。
 これまでは家に残してきたかみさんを恋しく思っていたけれど、さすがにここをタンデムで下るのは不可能である。
 一人で下っていても迫ってくる岩の直前までどのルートで下れば良いか決めかねているのに、これを二人で漕いでいたら全ての岩に正面衝突、もしくは真横になって岩に張り付くかのどちらかだ。
 そもそもここは、大きなカナディアンで下るような川ではないのである。

核心部の瀬   核心部の瀬
そこら中が岩だらけ   岩の間をすり抜ける
核心部の瀬   核心部の瀬
下るルートを探すのも一苦労   ここはかなり危うかった

 一つの岩を避けても次の岩が目の前に迫ってくる。そこで素早くクロスドローを入れて向きを変えるつもりが、腕に力が入らなくなっているので、思ったとおりのルートにカヌーを進められない。
 それでも水量が少なくて水のパワーも弱いので、パドル操作が間に合わず途中で後ろ向きになることもあったけれど、何とか体制を立て直すことが出来た。
 途中から岩を避けるのはもう諦めて、岩に体当たりしながら下ることにした。

ヨレヨレの私 やっと核心部を抜けたところで小休止してくれたが、もうヨレヨレである。
 そうして最後の落ち込みにやってきた。
 下見をするという話だったのが、皆そのまま次々と下っていってしまう。。
 誰かのOC-1が腹を見せているのがチラリと見えたり、落ち込みの先では色々と事件も起こっているようだけれど、上流からではその先がどうなっているのか全く様子が分からない。
 私の前に下っていった会長のOC-1は無事にそこを降りられたようだ。
 岸に上がっているY田さんが「上陸しろ」の合図をしているのが見えたが、会長も下ったのだから同じルートで行けば問題は無いだろうと、合図を無視してそのまま突っ込むことにした。
 ところが、普通ならば誰かが下るルートを指示してくれるはずなのに、皆、ポカーンとした顔で見ているだけである。
 しょうがないので自分で判断する覚悟でカヌーを進めていったら、「えっ?えっ!、ど、どこを降りれば良いんだ?」

何処から下りれば
合図に従わなかったおかげでこんな事に

 これでは誰も指示を出しようが無いはずです。大きなカナディアンで通れるような場所はどこにも無かった。
 慌ててバックストロークで岸に寄せようとしたものの、時すでに遅し。こうなったら無理を承知で目の前の岩の隙間を抜けるしかない。
 しかし、それはやっぱり無理な試みで、すっぽりと岩の間に挟まってしまった。
 直ぐに飛び降りて、カヌーを引っ張り上げて事無きを得たものの、水がもっと多ければちょっと危ないところだったかもしれない。

挟まった
水が少ないので助かった

 そこから先は、残された最後の力を振り絞ってゴールを目指すだけ。
 と言うか最後の力も残っていなくて、横風に耐え切れず、そのまま岸に打ち上げられてしまう。何だかサケのホッチャレになったような気分で、とっても惨めである。
 そうしてようやくゴールの福山大橋の手前に上陸し、鵡川のダウンリバーが終了。
 15キロ5時間の川下りは、その中身は全然違うけれど11年前の天塩川炎天下向かい風30キロの川下りに匹敵するくらいに疲れるものだった。
 そして下り終えた後の充実感も、11年前と同じくらいに大きかった。

 追記
 十数年前に見て憧れていた鵡川の清流。
 その後、ちょっと増水するだけで直ぐに茶色く濁ってしまう鵡川の様子に心を痛めていたが、今回下ってみてその理由が良く分かった。
 川に向かって無造作に押し出されている砂利の山など、あちらこちらで行われている道路工事で、かつての清流鵡川はすっかり痛めつけられてしまったようである。
 鵡川の失われた清流が再び昔の姿を取り戻す日が訪れるのか、それがとても気になるところだ。

高速道路工事   これは何の工事?
数年後には高速道路が通る   これは何の工事だろう?

2008年6月28日晴れ
下った区間の地図はこちら

当日12:00 鵡川水位(鵡川福山観測所) 168.60m

写真提供 サダ吉さん、I山さん


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