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忠別川

(志比内橋 ~ 東橋)

 カヌークラブの7月例会は忠別川。
 天人峡の渓谷美を作り出し、東川町や東神楽町の水田地帯を潤しながら、旭川市内で美瑛川と合流するのがこの忠別川である。
 これまでは雪解け水で増水している時期くらいしかカヌーで下れるフィールドではなかったけれど、今年の3月に完成した忠別ダムのおかげで夏でも安定した水量が保たれるようになったらしい。
 下るのは志比内橋上流の堰堤から東川町市街地近くの東橋までだ。
 スタート地点の堰堤はちょっと怖くなるくらいの高低差がある。藪の中を通ってその下までカヌーを降ろす。
 上流にダムがある割にはとても透明度の高い水である。ダムができる前の川の状況は知らないけれど、十分に清流と言える流れである。
 私は行けなかったけれど前日の例会では美瑛川を下っていて、そこでは牧場の香りがかなり強かったみたいである。
 後で写真を見せてもらうと、カヌーで下っている直ぐ横の川縁に放牧された牛が写っていて、とてものどかな風景だったけれど、この風景とその香りはセットになっているようなものだから、我慢するしかないだろう。

堰堤の上から   堰堤の下からスタート


  そんな香りとは無縁の美しい流れの中にカヌーを浮かべる。堰堤の直ぐ下流では発電所の放水口からの水が流れ込んでいるが、それでもクラブのメンバーが2週間前に下見で下ったときよりも水量は減っているみたいだ。

いよいよスタート

  志比内橋の下をくぐると直ぐに、最初の瀬が現れた。瀬の中では大きな岩がゴロゴロと頭を出していて、嫌らしそうな流れである。
 案の定、前を行くカナディアンが岩に引っ掛かってあずっていた。慌ててルートを変えようとしたけれど、岩が多すぎる。
 迷っているうちにバウを岩に乗り上げ、そのままカヌーは横向きになって、スターン側も岩に引っ掛かってしまう。
 かみさんは直ぐに諦めてカヌーから岩の上に乗り移ったけれど、その弾みでカヌーが上流側に傾き水がドドッと流れ込んできてしまった。
張り付き その瞬間に素早く対応すれば良かったのだけれど、それほど深刻な事態だとは考えずに、ゆっくりとカヌーから降りてスターン側を岩から引き離そうとしたが、カヌーはピクリとも動かない。
 あれ?まずいかな?と思っている最中にもどんどん水は流れ込み、とうとうほとんど全体が水没してしまった。買ったばかりの美しいウッドガンネルのフリーダムが、醜く歪んできているのが分かる。
 去年の十勝川での悪夢が蘇ってきた。
 スタート直後、バウとスターンが岩に引っ掛かった状態で横向きになり、上流側から水が流れ込む。全く同じ状況で、かみさんはそのときと同じく「ここからなら車まで歩いて帰れる」と考えていたそうだ。
 アリーと違ってリジット艇のフリーダムなら耐えてくれるだろうと思ったけれど、水圧とは恐ろしいもので、カヌーの材質など関係ないように押し曲げてくる。
 そこへレスキューのプロ、Bさんが駆けつけてくれた。
 Bさんは既に下流まで下っていたのに、私達とは反対岸を上流部まで駆け戻って、適当な場所から川を渡ってそしてここまで来てくれたのである。
 Bさんの指示で、Bさんが下流側のガンネルを押し下げるのに合わせて私が上流部のガンネルを上に持ち上げるようにする。息を合わせて一気に持ち上げたところ、一人でやっていた時にはビクともしなかったのに、簡単にカヌーはくるりと回って上流側に底を向けた。
 本当に危機一髪だった。カヌーは無事だったけれど、バウとスターンの岩に張りついた箇所には醜い皺がよっていた。

 気を取り直して再び川下りスタート。

気持ち良い~

  スタート地点からゴール地点までの距離が8kmで、その間の標高差が85mと急勾配の川で、全区間がほとんど瀬になっているようなものだ。
 息つく間もなく次々に瀬が現れる。上空には素晴らしい青空が広がり、瀬の中では波しぶきが太陽の光を受けて眩しいくらいにキラキラと輝いている。
 顔にかかるその波しぶきがとても心地良い。
 ただ、一つの瀬を越えるたびにカヌーの中にたっぷりと水が入ってしまうので、一々汲みださなければならないのがちょっと面倒である。

瀬の中を下る1   瀬の中を下る2

 瀬の中の一つで、岸から倒れ掛かっている倒木が流れをほとんど塞いでいるところがあった。それをかわそうと反対岸にカヌーを寄せたが、流芯から外れた拍子にカヌーがくるりと回され後ろ向きになってしまう。
 元に戻す余裕も無いので、後ろ向きのままバックストロークで漕ぎながらその倒木をかわして、何とか下流のエディまでたどり着けた。
 間もなくして、ホイッスルの音が響いてきた。岩の陰になって上流の様子が見えないけれど、誰かが先ほどの倒木に引っ掛かったのだろうか。
 やがて乗り手のいないカヌーが流されてきた。
 それは今回ゲスト参加していたTさんのインフレータブルカヌーだった。川の中に入ってそれを回収したけれど、ぐんにゃりと変形している。
 その後からTさんが何事も無く流れてきて、無事に岸に上陸。
 聞くところによると、まともに倒木の下に吸い込まれてしまったみたいで、後ろから見ていたBさんが一瞬青くなったと言うので、何事も無くて本当に良かった。

その後も幾つかの瀬を下って、ホッと一息付いて後ろを振り返ると、十勝岳連峰の山が川の向こうに雄大な姿を見せていて、その素晴らしい風景に息を呑んでしまう。

振り返ると山の姿が

  そこで昼食タイムにする。
 Bさんがたまに大きなカナディアンにも乗ってみたいと言うので、フリーダムを貸してあげる。その滑らかなパドリングを見ているととても参考になる。
 早速自分でも試してみたけれど、全然思うようにカヌーを操れないのでガッカリした
 澄んでいる川の水を見ていると、何となくその中へ入りたくなるのがカヌーイストの習性である。対岸へ泳いで渡ったり、レスキューロープを投げたり、そのうちに隊形を組んでの渡河訓練まで始まってしまった。

休憩です   渡川訓練?

 休憩後川下り再開、瀬を下って古ぼけた橋の下をくぐると、前方に巨大な堰堤が現れた。
ここは右岸に上陸して120m程のポーテージ。平らな芝生地になっているので歩きやすいのだけれど、疲れた体で重たいカヌーを引っ張るのは辛いものがある。

堰堤手前の右岸に上陸   堰堤をポーテージ

 その堰堤から先は川底全体が岩盤になっている。そして川幅も広がっているので水深も浅く、しばらくはライニングダウンしなければならない。
堰堤下流の浅瀬 ゴツゴツした岩ではなくて、うねる様に起伏している岩盤なので歩きやすい。ただ、表面がザラザラしているので、もしもアリーだったとしたら嫌な場所である。
 少し水深が深くなってきたけれど、まだ時々浅瀬もあるので私一人でカヌーに乗って、かみさんはもう少し下流まで歩かせることにする。
 何だか突然カヌーが身軽になったような気がして、そのまま一人で下り続ける誘惑に駆られそうだったけれど、ぐっと堪えて再びかみさんとのタンデムに戻った。
 そこからまた延々と瀬が続いた。
 川底はまだ先ほどの岩盤が続いているようだ。その起伏に富んだ川底の状態で水量が増えると、当然波も大きくなる。
次から次へと大波が襲ってきて、フリーダムがその波を切り裂くように進んでいく。
 一息つけそうなエディもなかなか現れないので、ひたすら漕ぎ続けなければならない。
 たまに避けきれないような岩が前方を塞いでくる。もうダメかと覚悟したけれど、ゴンゴンゴンと横っ腹を岩にぶつけながら、フリーダムはその岩の間をすり抜けてくれた。
 その後も何度か、同じようにして岩の間を通過した。
この感覚は初めて経験である。アリーでは絶対にこんな下り方はできない。一度くらいなら耐えられるだろうけれど、これが何度も続いたら船体布が裂けるかフレームが曲がるかして、航行不能になってしまいそうだ。
瀬の中を下り続けながら、今日はフリーダムに乗っていて本当に良かったと考えていた。

瀬の中を下る3   瀬の中を下る4

 相変わらず瀬が続き、前方にちょっと怖そうな場所が現れた。川幅が一気に狭まり大きなウェーブができている。そしてその前方に巨大な岩がドンと張り出してきているのだ。
ウェーブで遊ぶ人達 その岩さえ無ければ波の頂点を攻めたかったけれど、ビビッてしまって、その波を避けるようにしてギリギリ横を漕ぎ抜けた。
 昔は流れに任せて下っているだけだったので、そんな場所でもまともに波の中に突っ込んで行くしかなかった。
 それが最近は、ある程度カヌーをコントロールできるようになってきたものだから、やばそうな場所を見ると最初から逃げることを考えてしまうのだ。
 大きなカナディアンを上流まで引っ張っていって何度もそこを下るくらいの根性を持たなければダメだな~と、I会長のそんな姿を見ながら考えていた。

 その先の瀬がまた長かった。休めそうなエディもなく、頭から水をかぶろうが、カヌーの中にどんどん水が入ってこようが、とにかく漕ぎ続けなければならない。
 「右だ!ドロー!次は左!」大声でかみさんに指示を出す。
 そしてようやく瀬を過ぎて緩やかな流れの場所へと出てきた。ホッと一息付いて、皆そのまま岸に上陸する。
瀬を過ぎてホッと一息 これで山間部を抜けたようで、急に空が広くなったような気がする。
 白い雲が浮かぶ夏の空が最高に清々しい。
 その先も相変わらず瀬が続くけれど、これまでのような迫力のあるものではなくなってきた。
 一つの瀬を下ったところで後ろを振り返ると、夏の空と、川のずーっと上流に見える十勝岳連峰の山並み、感動的に美しい風景が広がっていた。
 そうしてゴールの東橋に上陸。
 そこは河川敷がパークゴルフ場になっていて、沢山の人達で賑わっていた。
 プレーをしていたおばさん達が川から上がってきた私達の姿を見て、「山の上から下ってきたのかい?」と聞かれたのには笑ってしまった。
 でも、まさにそんな感じの川下りだったかもしれない。
 久しぶりに心身ともに充実感を感じられる川下りだった。

素晴らしい風景

2007/7/15 晴れ




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