気を取り直して集合地点の大江橋に到着、その橋の下もすごい状況になっていた。
ゴールの鮎見橋へ車の移動を終わらせてから、川下りのスタート。他クラブからのゲスト参加4艇を加えて合計20艇での川下りだ。
腕に自身のある人は、橋の上流から船を出す。我が家は当然、下流からのスタートである。
まずは上流スタート組を見学させてもらう。Tさん、IさんのOC-1が波に煽られて沈、私たちの目の前を一気に流されていく。スタート直後でこの状態だから、この先が思いやられる。
上流組が下ったところで下流組もスタート。普通なら川にカヌーを出した後で他のメンバーの準備を整うのを待つのだが、今回は止まっていられるようなエディも無いので、カヌーを出したらそのまま下っていくしかない。
先頭と最後尾でかなり間隔が広がったものの、無事に全員が川の上に揃った。
普段、この橋の上から見る余市川は小さな瀬が続く清らかな流れである。それが今日は、川幅一杯に増水して緑色に濁った大河のような様相だ。
流れも速く、うねりのような波が立っている。所々にそのうねりが大きくなっている部分があり、その中に入るとカヌーが大きく上下する。前に座っているかみさんが見上げるような位置まで高くなったかと思うと、次の瞬間は私のはるか下に位置している。
「ちょっとぉ!、もっと波の小さい方に行きましょうよ!」
機嫌の悪い声が前から聞こえてきたので、しょうがなく波の小さな方へカヌーの向きを変えた。
所々にそんな流れがあっても、川幅が広がっているので十分にそこを避けて下れるのである。
やがて前方にひときわ大きな波が見えてきて、その向こうにかなりの白波が立っているのが見える。これが例の巨大ウェーブだろうか。
そのウェーブができた時よりも水位がいくらか下がっているので、迫力も少なくなっているみたいだ。誰かがそこで遊ぶのだろうと思っていたら、前を行くカヌーはそれに見向きもせずにひたすら下り続けていく。
我が家もそのウェーブを遠巻きにして通り過ぎた。
かみさんが、「なんだか酔ったみたい。胸が悪い。」と言い始めた。
確かに何もしないでこれだけ上下に揺られていたら、誰でも気分が悪くなるだろう。
しかし、かみさんは一応カヌーを漕いでいるのである。車の運転手が車酔いしたなんて話は聞いたことがない。
ちゃんと本気で漕いでるのかと言いたくなる所だが、ここはぐっと堪えてひたすら穏やかな流ればかりを目指すことにした。
それにしても、ノンストップでひたすら下り続けるだけ。途中に面白そうな波があっても、近くにエディが無いので止まりたくても誰も止まれないのだ。
それにもし沈したら、レスキューポイントも無いので自力で岸に泳ぎ着くしかない。この流れの速さで、おまけに広い川幅では、岸に着くまでにかなり流されることになる。
実際に我が家は去年の雨竜川でそれを経験しているものだから、余計に慎重に下ってしまうのだ。
やがて前方に、スタートしてから始めて遭遇する川原が現れたので、そこで一旦上陸。昼には少し早いけど、その後ゴール地点まで休憩できる川原はなさそうなので、そこで昼食にした。
その頃には次第に青空も広がってきた。周りの山肌も、木々の芽吹きの色に染まり始めている。ここまで下ってくる途中では、そんな山肌でエゾヤマザクラがピンク色の花を咲かせている風景も見かけたが、何せ下り続けるのに精一杯で風景を楽しむような余裕も無かった。
昼食を終えて再スタート。相変わらず早い流れが続く。
ハッキリとした場所を思い出せないが(もっと下流だったかも知れない)、途中で川を横切って1本のワイヤーが張られているところに出くわした。減水時なら何の問題も無いワイヤーだが、増水しているためにそれがちょうど人間の首くらいの高さになっているのだ。
この流れの中で一生懸命漕ぐと、カヌーのスピードは時速15kmを越える。そのスピードで突然首にワイヤーが引っかかった状況を考えると、ちょっとゾッとする。
寸前で気づいて体を屈め事なきを得たが、まさに危機一髪。水位が今より4〜50cm上がっていれば、体を屈めてもくぐり抜けられないかもしれない。
その後、目の前に巨大な水門が現れた。
水門が開いていたので、ここも体を屈めて通過したが、川で一番危険なのはやっぱり人工の構造物である。
そしていよいよ次の人口構造物の難関、鉄橋下の落ち込みが迫ってきた。
先行していたSさん夫婦が右岸側の落ち込みを一気に下っていってしまった。無事に下り降りたかどうかは上流からは確認できない。
他のメンバーは一旦左岸に上陸して下見をする。下見をする前から、かみさんは全然そこを下る気が無いみたいだ。
Sさん夫婦は下流の橋を過ぎた中州に上陸していたので、どうやら無事に下ったようである。
実際に落ち込みの横に立ってその様子を間近で観察すると、落ち込みの後の流れは急なまま次の橋の橋脚にぶつかっているし、そしてその橋脚の横には流木が1本横たわっていていて、かなり危険な雰囲気が漂っている。
流木の大部分は水面下に隠れているので、その下がどんな状況か分からない。落ち込みで沈した場合、橋脚にアリーが張り付くか、倒木のストレーナーに吸い込まれるか、多分そのどちらかになるだろう。
こんな時、挑戦するかしないかは自己責任で判断しなければならない。まったくの初心者の場合は別にして、誰もアドバイスしてくれる人などいないのである。
ベテランの人は私たちの見ている前で何の危なげもなく下っていくが、弱気なかみさんの様子を見ていると次第に挑戦する気が失せてきてしまった。
カヌーのところまで戻ってきて、「さあ、カヌーを運ぶぞ。」と言ったときのかみさんの嬉しそうな顔といったらなかった。
私たちがポーテージしている間に、ほとんどのメンバーが下り終えてしまっていた。
ここでポーテージしたのは我が家を含めて4艇、もう1艇その仲間に加わるだろうと思っていたゲスト参加のSさん夫婦が下ってきたのでビックリする。
上手く落ち込みをクリアしたなと思った瞬間、突然カヌーがひっくり返ってしまった。下から湧き上がってくる水流にバランスを崩してしまったのだろう。
その後は私の想像したとおり、下流の橋脚に向かって真直ぐに流されていく。「足を上げて!」と言う声がどこかから聞こえてきた。橋脚を何とか避けられたと思ったら次は問題の流木、二人の姿が一瞬その下に見えなくなる。
ヒヤッとしたが、その下流で無事に浮かび上がったみたいだ。そうして見る見るうちに遥か彼方へと流れ去っていった。
かみさんと顔を見合わせて、「やっぱりポーテージして良かったね。」とうなづき合う。これでSさん夫婦が何事もなく下っていってしまったら、私たち夫婦の間には冷たい風が吹き抜けていたかもしれない。
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