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歴舟川

(坂下仙境 〜 キャンプ場)

 カヌークラブの歴舟川例会最終日は、坂下仙境からキャンプ場までを下る。
 前日のヌビナイ川で消耗しきっていたので、我が家はこの日は川を下らずにそのまま帰るつもりでいた。ところが朝になって体力も回復してきたし、何と言っても歴舟川のこの区間は初めて下るところである。2年前の例会でもここを下っているが、その時の我が家は大雨で増水した川の様子にビビッてしまって、敵前逃亡していたのである。
 その時の札幌までの帰り道、どれだけ慙愧の念に捕らわれたことか。もう一度そんな思いをすることを考えたら、少々の疲れなど全く関係ないと、朝になって急遽我が家も下ることにしたのである。
 それでも例会三日目のダウンリバーともなると参加者も少なく、我が家を含め7名5艇と言う少人数の川下りである。
 上陸地点まで車を移動させてくれるサポートメンバーの見送りを受けて、歴舟川の未体験区間川下りをスタートした。
 一緒に下るメンバーは、水の上の荒川静香と呼ばれる女性カヤッカーのN野さん、下り終えた後に函館まで帰らなければならないクラブ唯一の二十代メンバーI林君、二人でカナディアンのスラローム艇を操るS吉さん夫婦、水の上のアンパンマンと呼ばれるOC-1乗りのI田会長である。

出発前に記念撮影   見送りの人々
7人の勇者達   4人の助っ人達

 下り始めて直ぐにゴルジュ帯と言われる両岸を岩壁に囲まれた地形の中に入っていく。
 間近に迫る見上げるような岩肌、カヌーで下ってこなければこんな風景を見る機会はそう無いだろう。カヌーをやっていて本当に良かったなと思えてしまう風景である。
 小砂利の川底がくっきりと透けて見える。
 水の透明度では昨日のヌビナイ川の方が上だろうが、透けて見える川底はゴロゴロとした巨大な玉石ばかり。散々その玉石に苦労させられた身としては、小砂利の川底を見ると何だかホッとしてしまう。
 瀬に入っても底をこする心配が無いと言うのは、何と気持ちの良いことなのだろう。
 やがて川の流れが正面の岩壁にもろにぶつかり、川はそこから右へ向きを変えているのに流れはそのまま左へ渦を巻くように流れている場所が現れた。
 水量が少ないので全然危険は感じないけれど、これで川の水が増えてくると一体どんな流れに変わってしまうのかと恐ろしくなってしまう。
 それはこのゴルジュ帯全てに共通して言えるのだろう。今は穏やかな表情で流れている歴舟川も、ひとたび増水すればこの岩に挟まれた狭い場所を濁流が一杯になって流れることになる。
 2年前のここでの例会が、まさにそんな状況の中で行なわれていた。
 我が家は下る前にキャンセルして悔しい思いを味わったけれど、後になって聞いた話しではとてもアリーで下れるような状況では無かったらしい。沈した人がヘルメットを水流で引っ張られ首に赤い痣ができたなんて話を聞くと、ちょっとゾッとしてしまう。
 それと比べれば今日は本当に平和な川下りである。
 次の瀬を越えたらその先にはどんな風景が広がっているのだろうと、そんなことにドキドキしながら川を下り続けた。

景色にうっとり   ゴリュジュ帯の様子
景色に見とれる夫婦   ゴルジュ帯の中は別世界

 S吉さんから、もう直ぐゴルジュ帯の出口だからと声をかけられた。その手前にちょっとした瀬があるらしい。もしかしたら岩に乗り上げるかもしれないとのこと。
 昨日2回も岩乗りしている我が家は、それだけは絶対に避けたい。
 次第に流れが速くなり、前方にいやらしい岩の配列が見えてきた。素早いパドリングでS字を描くようにその岩の間を通り抜け、最後に静かな水面へとカヌーは着水した。
 最高に気持ちの良い瞬間である。
 昨日の川下りでは一度もこんな快感を得られていなかった。歴舟川最高ー!って気分だ。
 もっともこれで途中で岩に引っかかっていたりしたら、盛り上げっていた気分も一変にしぼんでいたかも知れない。
 そこから振り返ると通り抜けてきたばかりの岩の回廊の風景が、前を向くと広々とした川原の風景が広がっている。感動するほどダイナミックな景色の変わりようである。

ゴルジュ帯出口   ゴルジュ帯出口
ゴルジュ帯の出口が見えてきた   ゴルジュ帯出口の瀬

 そこからは新たな川下りのスタートと言った気分だ。川幅も一気に広がる。
 まず驚かされたのが、岸から張り出す倒木の多さである。倒木と言っても、岸から川の上に真横に倒れるように張り出していて、しかもその根はしっかりと岸の土を保持している。
 歴舟川はちょっとした雨でも直ぐに増水して、その度に濁流となった川の中を緑の葉をつけた倒れたばかりの樹木が流されてくる。
 そんな様子を何回か見ているので、目の前の倒木が増水した時もその状態のまま流されずに残っているのが信じられなかった。
 もっとも、それとは別に増水するたびに川岸が削られているような場所も有って、そんなところが倒木の供給源となっているのだろう。
 川幅が広がった分、水深も浅くなり、カヌーが座礁することが多くなってきた。そして昨日散々悩まされた玉石の瀬も再び現れるようになってきた。
 下ってくる途中でそんな玉石の場所は見かけなかったし、一体何処から出てきたのだろうと疑問に思ったが、直ぐにその理由が分かった。川の流れで削られる垂直の岸辺の様子を見ると、土の中から丸い大きな玉石が幾つも顔を覗かせている。
 これならばいくらでも玉石が湧き出してくるはずである。
 再びカヌーの底から突然突き上げてくる石に怯えながらの川下りとなってきてしまった。
 それでも川の様子は次第に歴舟川らしい景観になってきた。下流部でも時々現れる見上げるような土の壁、その風景を見ると歴舟川を下っているのだと言う実感が湧いてくる。

倒木だらけ   歴舟の風景
川岸から倒木が張り出す   歴舟らしい土の壁の風景

 自然の堰堤のように川底の岩が横一列に並んでいるような場所が続けて現れてきた。特に下るのには問題は無いが、川底の様子に気を付けていないと突然座礁してしまうことになる。
 そこを通り過ぎると今度は本物の堰堤が川幅一杯に広がっていた。落差は30cm程度で、底を擦りながらも何とか通り抜けられる。以前はもっと落差のある堰堤だったが川の土砂で埋まってしまったのだろう。もう少し水量が増えればそこに堰堤があることさえ気がつかずに下ってしまいそうだ。

 相川橋が見えてきた。
 そこでは、この後函館まで帰らなければならないI林君だけが先に上陸することになる。
 I林君を見送った後、相川橋の下をくぐり抜ける。
 ここは少し荒れた瀬になっていて、その先に崩れたコンクリートの古い橋脚があるものだから、ちょっと嫌らしい場所だ。
 そこでコース選択を間違えてしまい、浅瀬の岩に乗り上げてしまった。同じ岩乗りでも、昨日の様に岩を避けきれずに乗り上げるのとは違って、精神的なショックは感じない。
 ズリズリとカヌーを引きずってそこを脱出。その後は川幅も思いっきり広がり、しばらくすると昨日下ったヌビナイ川と合流した。
 二つの川の水が混ざり合うところで両方の水に手を入れてみたところ、歴舟川本流の方が少し暖かく感じる。見かけは似たような川でも、やっぱり本流と支流は違うみたいだ。
 後は昨日と同じコースでキャンプ場まで下るだけだ。
 その途中に流木が沢山張り付いている古い橋脚がある。そこを大きく避けることもできるけれど、浅瀬に入って歩かなければならなくなるので、昨日はギリギリのところでその橋脚の直ぐ下流に出るルートを通った。
 それでもやっぱり底を擦ってしまったので、かみさんは今日は橋脚の直ぐ上流部分から入るつもりらしい。
 「結構大胆なことするな〜」と思いながらも、直ぐに左に向きを変えれば別に問題は無さそうだ。
 予定通り座礁することなくカヌーは流れに乗って進む。
 「はい、そこでドロー」心の中でつぶやく。
 「ド、ドロー・・・って、ど、ど、どうしてフォワードなんだ?」橋脚に張り付いた倒木の山が目の前に迫ってくる。
 「ドローだろっ!!」声を張り上げるとようやくかみさんが反応した。
 「遅すぎ・・・」
 かみさんが思いっきり体を乗り出してドローを入れるものだから、カヌーが大きく左に傾く。
 上流側に沈してそのまま橋脚に張り付いたら一巻の終わりである。橋脚を避けるのは諦めてカヌーの体勢を元に戻す。
そしてカヌーが横向きになったまま倒木の山へ。その倒木に手でつかまりながらカヌーをずらして、何とか脱出できた。
 流れにそれほど力が無かったのでそれで済んだが、ちょっとヒヤッとした瞬間である。
 もしもここでアリーを潰していたら、「何で、何も無いこんな広い場所で、真ん中にポツンと立っている橋脚に、わざわざ好き好んで張り付くわけ?」と呆れた目で見られることになっていただろう。

相川橋が見えてきた   最後に危機一髪
相川橋の手前で   最後にちょっとしたアクシデントが

 最後にちょっとした事件が起こりかけたけれど、無事にキャンプ場に到着。
 昨日は同じ距離のヌビナイ川を4時間以上かけて下ったのに、今日はここまで2時間ちょっとしかかからなかった。
 人数が少なかったこともあるが、カヌーを降りて歩く回数が少なかったのが一番の要因だろう。やっぱり川下りはこれくらいでなくては楽しくない。
 それぞれ後片付けを済ませて、歴舟川を後にした。
 体の疲れと強烈な眠気と戦いながらも、晴れ晴れとした気持ちでハンドルを握り札幌へと車を走らせた。

川下り当日の歴舟川の水位(2006年7月17日12:00)
歴舟川尾田観測所 102.07



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