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湧別川

(幽仙橋 〜 旧白滝)

 7月のカヌークラブ例会は、道北の白滝村を流れる湧別川である。
 会報の例会案内文には、「ほんとに素晴らしい川で、道東でも1,2を争うところです。」と書かれてあり、かなり魅力を感じる内容であった。
 ただ、カヌーのガイドブック等を見るかぎりでは、中・上級者向けの区間となっている。
クラブ役員の方の「多分、初心者の方でも大丈夫だと思いますよ。」の言葉は、そのまま鵜呑みにはできないということが、最近になって徐々に解ってきた。
 たとえばスキーで、「大丈夫、初心者でも何とか降りられるような斜面だから」なんて言って、初級レベルのスキーヤーをコブだらけの急斜面に連れて行くようなものだ。
 まあ確かに、横滑りでズリズリと降りれば何とかなるし、途中で転倒してそのまま斜面の半分以上を滑り落ちてしまえば、それだけで降りられたことになる。
 これは、川も同じことで、沈して大部分を流されたとしても、「ほらね、何とか下れたでしょう。」ということになってしまう。
 スキーもカヌーも同じようなもので、難しい場所にチャレンジした方が上達も早くなるのは確かだ。ただ、「初心者でも大丈夫」と言った話は真に受けない方が身のためではある。

 今回の例会では、最初に希望者だけがチャレンジャーコースと命名した湧別川の支流である支湧別川を下り、その他のメンバーは途中から合流して一緒に下るという予定になっていた。
 我が家は当然、途中からの参加メンバーになるつもりでいたが、参加するメンバーの顔ぶれを予想すると、もしかしたら途中参加メンバーは我が家だけになってしまう恐れもある。
 唯一、ファルトボートで参加のIさんだけが、仲間になってくれそうだ。ただ、そのIさんも前回の空知川例会では一度も沈をしないで激流を下りきっているので、自信を持ってしまって「私もチャレンジャーコースに行きます」なんて言われたら大変である。
 前日の下見から帰ってきたとき、ちょうどそのIさんが到着してテントを張っているところだったので、「いやー、今見てきましたが、とんでもないところです。あんなところを下ったら、間違いなくカヌーがバラバラになっちゃいますよー。」と念のために脅しを入れておいた。
 結局はそんな心配も取り越し苦労で、前日の下見に予想以上に時間がかかったことから、全員で湧別川を下ることになったのである。

スタート地点 スタート地点は白滝村インターチェンジ近くの幽仙橋である。
 前夜の雷雨の影響で、川の水もやや増水して濁り気味だった。
 おまけに最近の情報では、スタート地点から直ぐの場所にある砂防ダムで、溜まった泥の浚渫作業を行っていて、その影響でそこから下流ではかなり水も汚れていると言う話だ。
 せっかくの清流湧別川を期待していたのに、ちょっと残念である。それに、そんな水ではなるべく沈もしたくない。
 川幅が狭く、参加人数も多いので、三つのグループに分かれて下ることになった。
 私は2番目のグループ、スタート地点の流れはやや速いものの、まだ川幅も広く障害物もないので比較的楽な気持ちで流れに漕ぎ出した。
 やがてダムの姿が見えてきたので、その手前の右岸に上陸。浚渫工事のため水門が開いていて、そのまま流されてしまうと命が危ないと言う話なので、上陸するときも必死になってしまう。
 そこからダムの下流までカヌーを運ぶのだが、これがきつかった。
 距離もあるし、川からの高低差もかなりある。ドライスーツを着ているので汗も噴き出してくるし、何回か休みながら、何とかダムの下の川までカヌーを降ろすことができた。
 ところがその場所は、ダムの水門から噴き出してきた水が轟々と音を立てて流れているような場所である。
 「ゲゲッ、こんな場所から漕ぎ出さなきゃダメなの!」
 少しでも流れが緩やかな場所を探して、もう少し下流に移動したが、それも限界がある。狭い場所なので、準備ができたら直ぐにスタートしなければ、後がつかえてしまう。
 千歳川で練習したストリームインの要領でやれば良いだけだ。ただ、千歳川とは流れの速さが全然違う。
 上流に向かって漕ぎ出し、直ぐにかみさんが流れにパドルを差し込む。そのままカヌーのバウが流れに乗って下流へ向きを変える。この瞬間にカヌーが横から波を受ける形になるので、一番沈をしやすい瞬間だ。
 心配していたほどバランスを崩すこともなく、あっさりと流れに乗ることができた。
 「あれ?結構上手になってたりして」
 なんて一瞬喜んだものの、その先の流れを見て一気に緊張が高まった。岩の間を縫うように急な流れがずーっと先まで続いている。
 普通ならば一度上陸して、じっくりと下見をするような場所のはずだ。でも、下見をしたところで川の流れは一本道、横に逃げれる場所があるわけでもなく、ひたすら流れに乗って下っていくしかないのである。
 「うわっ、岩だ!おおっ、何だこの落ち込み!ぎゃあーっ、波がもろに!ゲゲーッ、また落ち込みが!おーっと、横波だ!ど、どこまで行くわけ?」
 やっと前方にエディに入っているカヌーを発見、小さなエディなのでそのカヌーに体当たりをするような感じで、そこに突っ込んでやっと一息つくことができた。
 「な、何なんだ?この川は。」
 これまでに経験した川とは全然違った。瀬があればその下は瀞場になっているのが普通なのに、この川には瀬しかないのだ。
 カヌーから降りると、腰が抜けたような感じでヘナヘナと座り込んでしまった。ポーテージしたときの疲れと、急流の中での極度の緊張感で体力が奪われたような感じだ。
 呆然としながらカヌーに入った水をくみ出す。しばらく休んでいると、ようやく立ち上がれる程度の体力が戻ってきた。グループのメンバーが揃ったのを確認して、再び流れに漕ぎ出した。
 そこから先もほとんど同じような流れだ。全く気を抜くような暇もない。やがて前方にメンバーが上陸しているのが見えたので、その手前のエディにカヌーを入れた。
 その先の川は、大きな岩に塞がれていて、全く様子が分からない。穏やかな流れでないことだけは確かだ。
 すると、何人かが岩を超えてカヌーを運び始めた。
 「なーんだ、ポーテージするような場所なんだ。」
 ホッとして我が家もカヌーを運ぶことにする。大きな岩を乗り越えなければならないので、これが結構大変だ。かみさんには、もうカヌーを持ち上げるような力も残っていないようである。
 ちょうど、アメリカ人のカートさんが近くにいたので、ポーテージを手伝ってくれた。
 彼はカヌークラブのメンバーの知り合いで、3ヶ月の夏休みを利用して北海道に遊びに来ているとのことだった。重たいカヌーを軽々と頭の上に持ち上げてしまうパワーにビックリである。
 「サンキュー!」
 初めて彼と英語で会話することができた。
 今回の川下りでは、ここが最大の難所となっている場所のようである。そこの下流までカヌーを運び終えて、やっと一息つくことができた。
 カヤックのメンバーがそこにチャレンジしているみたいだが、それを見に行こうと言う気力も既に残っていなかった。
 皆が遊び終わるのを待って、再スタート。
 再び流れに揉みくちゃにされながらも、これまでに一度も沈していないことに気が付いた。最近の我が家の沈パターンは、隠れ岩に引っかかってと言うのが多くなっていた。
 ところが今回は、水量が増えていたおかげで嫌らしそうな岩も全て水面下に隠れてしまい、岩に腹をぶつけるようなことが一度も無いのだ。その分、流れは激しく、波もかなり高くなっているような瀬もあったが、岩が出ているよりは全然ましである。
 落ち込みの下の複雑な波の中でも、バランスを崩すこともなく下れるようになってきた。
 前方の大きな波の向こうに、他のメンバーが上陸しているのが見えてきた。自信を持ってその波を乗り越えて、その下のエディに入る。

昼食の場所 ここで昼食にすることになった。岩の上によじ登って、やっと体を休めることができる。体力の消耗も激しいので、持参した食べ物をひたすら腹の中に詰め込んだ。
 パワフルな他のメンバーは、瀬の中でサーフィンを楽しんでいる。
 そこへ、去年の新入会員Mさんがチャレンジするみたいだ。このMさん、体がでかくて、ネバーエンディングストーリーに出てくるロックバイターにそっくりだったりする。
 パワーが有り余っていて、瀬の中では波を押しつぶし邪魔な岩は体当たりで砕きながら下りそうな感じである。
 以前は大型のカナディアンを一人で漕いでいたのだが、最近はOC1を他のメンバーから譲り受けて、やたらに張り切っているのだ。
 しかしさすがのロックバイターも、波に翻弄されて敢えなく沈、そのまま下流に流される。そんなときに無理に立ち上がると、足が岩に挟まれ骨折する恐れもある。足を下流に向けて流されるのが鉄則である。
 ところがMさん、そんなセオリーなどお構いなく、ムクッと急流の中で立ち上がり、カヌーを鷲づかみにして岸に向かって歩き出した。
昼食の場所2 さすがにロックバイターである。本物の岩よりも力強く流れの中に立っているのだ。そのまま岸まで這い上がってきて、岩の上をごりごりとカヌーを引っ張りながら、再び先ほどの瀬にチャレンジする。
 水の中では安定しているロックバイターも舟の上ではぐらつくみたいだ。再び沈して流されてしまった。
 それで諦めると思ったら、再びカヌーを引きずって・・・。底知れないパワーにあきれ果ててしまった。

 そこから先は川幅もやや広がり、その分流れも緩やかな部分が現れるようになってきた。
 しかし、その代わりに大嫌いな隠れ岩が目立ちはじめる。何とかそれを避けつつ下っていったが、とうとうその中の一つに乗り上げてしまった。何とかもがいて、その岩を離れることはできたが、忘れていた疲れが急に出てきたような気がする。
 ちょうど小砂利の岸があったので、そこで一休みしようとカヌーを寄せた。ところが周りを見渡すと私のグループのメンバーが見あたらない。後ろから迫ってきたメンバーは、最後に下っているグループの人たちだ。
 隠れ岩と格闘している間において行かれたようである。
 しょうがないので、疲れた体にむち打って下り続けることにする。突然岩だらけの流れが目の前に現れた。
 「右だ!、左だ!、次は右!、左!」
 前を漕ぐかみさんに声をかけて、かろうじて、その難所を通過することができた。それでも他のメンバーの姿は見えてこない。こんな場所も、皆すんなり通過してしまったのだろうかと思い焦ってしまう。
 突然目の前に隠れ岩が、いや、水面にはっきりと顔を出しているので隠れ岩と言う表現は正しくない。
 「み、右?、あれ?左かな、ど、どうしよう?」
 疲れで思考能力が鈍ってしまっていたので、そのまま、もろにその岩に乗り上げてしまった。
 カヌーの底の中央部が、気持ち悪いくらいに盛り上げっている。そのまま上流側に傾いて、水が入ってきたりしたら、アリーは簡単に折れてしまいそうだ。
 二人ともカヌーを降りて、何とか岩から引きはがすことができた。
 再乗艇して下り続けるが、グニャリと曲がったアリーのフレームがとっても惨めである。
 今年の例会では、毎回のように岩にぶつけてアリーのフレームを曲げてしまっている。今回だけは無事に下れそうだと思ったのに、またこの有様だ。
 前方にまた白い水しぶきを上げている流れが見えてきた。確実に岩が絡んでいそうである。
 「やめた、やめた!」
 すっかり意気消沈してしまっているので、あっさりとポーテージすることにしてしまう。それでも、こんな姿を他の人には見られたくないので、前や後ろを気にしながらカヌーを運んだ。
 その流れ近くでみると、波が高くなっているだけで、特に障害物も見あたらない。逃げてしまったことをちょっと後悔する。
 そこを越えると、ようやく先行していたメンバーが見えてきた。皆、カヌーを岸に上げているところだ。やっと追いついたと思ったら、そこがゴール地点のようである。
 「これで終わりだー」とは、まだいかない。そこから車を停めてある場所までは結構距離があるのだ。
 まさに、最後の力を振り絞る感じでカヌーを運んで、ようやく今回の川下りが終わった。
 結局一度も沈はしなかったけれど、最後に岩に乗り上げ、臆病風に吹かれて何ともないようなところでポーテージしてしまったことが、やたらに口惜しい川下りであった。
 それと、アリーで川を下り続けることにも、そろそろ限界を感じてしまうよな川下りでもあった。

(2004.7.18)

※後日談
 同じカヌークラブの方から、アリー一式を頂いてしまいました。
 これで、どこの部品が壊れてもすぐに修理可能です。
 こうなったら、とことんアリーで川を下り続けようかな。(^_^;


 
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