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第19回石狩川オープンカナディアンカヌーレース

(永山橋 ~ 新橋)

 空知川の落合で開催されたカナディアンスラローム大会、そのレースを初めて見て、カヌーレースに俄然興味が湧いてきた。
 しかし、急流を沈しないで下るだけでも精一杯なのに、ゲートをくぐりながら下るなんて我が家のレベルでは到底無理な話である。
 ところが、旭川カヌークラブが主催する石狩川オープンカナディアンカヌーレースは、ヨーイドンでスタートしてどちらが先にゴールまでたどり着くかを競う単純なレースみたいだ。
 参加条件は「カナディアンカヌーを二人でシングルパドルで漕ぐ」と言うものだけ。
 テクニックなど何もなく、瀬の中ではただひたすら前に漕ぐしかないような我が家にとってはおあつらえ向きのレースかもしれない。
 嫌がるかみさんを無理矢理説得して、と言うか、半ば無視して勝手にレースに申し込んでしまった。
 私たちが入っているカヌークラブからは他に3チームが出る予定だ。
 その中の1チームはサルゲッチュの仮装で出ると張り切っている。前の週の洞爺湖キャンプでその衣装を見せてもらったが、ここまでやるかと言うくらいの力の入った仮装である。
 レースに出るのを嫌がっていたかみさんも、「どうせ順位はビリの方なんだから仮装でもして出ましょうよ」なんて言い出す始末だ。
 レースの日が迫っていたので、結局我が家の仮装は無しになったが、私の頭の中には来年の仮装のイメージができあがってしまった。

サルゲッチュの仮装 心配していた台風もそれて、まずまずのカヌー日和である。
 スタート地点の永山橋下の石狩川河川敷には、既に色とりどりのカナディアンカヌーを積んだ車が集まっていた。
 前日からゴール地点の橋の下でキャンプをしていたグループも結構いたみたいだ。我が家もこのキャンプに誘われていたが、万全の体調でレースに臨むため当日朝早くに札幌を出てきたのだ。
 話を聞いたら、やっぱり皆、深夜1時、2時まで宴会をしていたようである。
 サルゲッチュチームが仮装にとりかかる。衣装だけでも十分に人目を引くのに、メイクまでし始めた。その出来映えの素晴らしさに思わず笑い転げてしまう。
 ところが周りを見渡しても、誰もそんな仮装をしているチームなんて見あたらない。事前に聞いていた話では、出場チームは皆仮装に力を入れているということだったのに、小さな小物を身につけているような感じが数チームあるだけである。
 仮装部門があれば間違いなくぶっちぎりで優勝しているだろうが、この中では明らかに目立ちすぎと言った感だ。

 参加は54チーム、これを二つのブロックに分けて一斉にスタートするのである。
 別々に1.5kmを下ってそれぞれの上位半分が決勝に進出するという仕組みだ。決勝に残れなかったチームも順位決定戦のような感じでゴール地点まで下ることになるので、順位さえ気にしなければ、のんびりとダウンリバーを楽しめば良いだけのレースのはずだった。
Aブロックの予選ゴール地点 クラブのメンバーは皆、このレースに初参加なので要領が今ひとつ解らない。
 受付時にどちらのブロックにはいるかは自分で決められるのに、皆同じBブロックに入ってしまった。
 仲間内の争いというか、気のあった仲間同士でのんびりと下るのか、果たしてどちらになるのだろう。
 最初にAブロックがスタートして、私たちのスタートはAブロックのゴール地点からになるので、先にその場所まで下って前の予選組のサポートをすることになる。
 そこまでの区間、のんびりと下れば良さそうなものだが、何故か皆、既に本番モードに入っているみたいで結構力の入ったパドリングだ。
 1.5kmの距離は、川の流れも結構早いのであっと言う間に漕ぎ終わってしまう感じだ。でも、本番前に早くも筋肉痛の予感がしてきた。
 やがて最初の予選組が次々とゴールしてきた。あまり差が付かないみたいで団子状態でゴールに入ってくる。

 そしていよいよ我々の組のスタートだ。
 受付順に下流側から川岸に1列に並べられる。これならば、もっと早い時間に受付しておけば良いポジションを取れたのに・・・。
 審判の「用意は良いかー!」の声に、皆一斉に「オーッ!」と答える。
 「ゴーッ!」のかけ声に合わせてカヌーに飛び乗り一気に流れの中へ。
 と思ったら、出たのは我が家のカヌーだけ。その後に「ヨンッ・サンッ・ニーッ」と続いたものだから、慌てて後ろに戻る。
 27艇のカナディアンカヌーが一斉に川の流れに漕ぎ出した。
 パドルがぶつかり合って思うように漕げない。
 我が家の隣に若い女子ペアのカナディアンがくっついてきた。これでは私のパドルを入れる場所が無くなってしまう。
 何とか離れようとするが、なかなかそのカヌーが離れてくれない。考えてみれば、お互いに反対側しか漕ぐことができないので漕げば漕ぐほどくっついてしまう訳である。
 やっと離れることができたが、その間にも何艇かに抜かれてしまった。
 前方には団子のように固まったカヌーの群れがデッドヒートを繰り広げている。その群れから少し間をおいて、後ろから様子を窺いながらカヌーを進める。
 やがて前方に、川幅が狭まり白い波が立つ場所が見えてきた。
 団子状態の一団は横に広がっているので、そのままではそこを通り抜けられなさそうだ。
 案の定、慌てて中央に寄ろうとするものの、間に合わずに次々と両岸の岩に乗り上げたりひっくり返るカヌーが続出。
 中央付近は結構な波高だ。横から飛び込んでくるカヌーを避けながら、何とかその難所をクリアすることができた。
 気が付くと、いつの間にか前を行くカヌーの数が少なくなっていた。目の前にはサルゲッチュチームのカヌーがいる。
 「サルになんか負けないぞー。」
 そこから力一杯のパドリングに切り替えたつもりが、もう腕に力を入れることもできず、ヨレヨレになりながらもゴール地点を通過した。
Bブロックゴール地点 「何とか上位半分以内には入れたかな?」
 そんな思いが頭をよぎったとき、アリーが隠れ岩に乗り上げてしまった。
 ゴールした後で良かったと思いながら、いつものようにカヌーから降りて岩から引き離し再乗艇。
 直ぐに岸に付けようとしたが結構流れが速い。慌てて上流に漕ぎ上がろうとするが、如何せんパワーゲージは既にゼロを指していた。
 そのまま後ろ向きに流され次の岩に引っかかる。そのままカヌーを回して下流を向かせようとしたが、その途中で上流側に大きく傾きガンネルを越えて水が流れ込んできた。
 「あーっ、もうっ、なんでー」
 かみさんの怒った声と共に、夫婦揃って石狩川の流れの中に吸い込まれてしまった。
 レースには関係無いけれど、とても情けない沈である。
 結局この予選では、我がクラブ代表のNさん・Iさんペアが2位、サルゲッチュチームが9位、我が家が10位という結果だった。
 職場の仲間と急造チームを作って参加したYさんは残念ながら予選落ちしてしまったが、仲間内でつぶし合いをしないで3チームが決勝進出とはまずまずの成績である。
 しかし、のんびりとダウンリバーを楽しむつもりが、とんでも無いことになってしまった。
 既に体力は限界を通り過ぎているのに、決勝のコースは4km以上もある。
 例年ならばこの下流にある落ち込みの下からレーススタートということみたいだが、今年は初の試みでこの場所からスタートするというのだ。
 セミドライのスーツを着ていても、先ほどの沈の影響で冷たい水がウェアの中まで入ってしまい、体が次第に冷えてきた。
 体をまた温めるためにはもう一度一生懸命漕がなければならなそうだ。

 そうして決勝レースがスタートした。
 同じように岸に並んでの一斉スタート。並び順は予選レースの順位によるので、我が家はかなり後ろの方になってしまう。
 このメンバーでの上位入賞は最初から諦めていたが、せめて夫婦ペア部門で優勝できたらと言う儚い望みだけは持っていた。
 直ぐに前方に例の落ち込みが見えてきた。
 サルゲッチュチームは、あらかじめレースの区間を下見を兼ねて下っていたようである。そうして、完璧なこの落ち込み対策を練り上げているというのだ。
 その作戦を聞き出そうとしても、チーム秘密としてなかなか教えてくれない。
 ちょうど隣を併走していたので「どこから入れば良いんだー」と問いかけても、漕ぐのに一生懸命でまるで聞いてくれない。
 そんな冷たいサル達は無視することにして、目前に迫ってきた落ち込み対策を考える。
 普通のダウンリバーならば、直前で上陸してじっくりと下見をするような場所だろうが、そんなことはしてられない。
 予選の時の落ち込みよりも遙かに大きく、波の高さも相当だ。コースを選ぶ余地もない。とりあえずはど真ん中に突っ込むしかなさそうだ。
 覚悟を決めて落ち込みに入る時、視線の片隅に右岸側へ舟を寄せるサルの姿が映った。
 「エッ?、秘密の作戦ってポーテージすることなの?」
最大の落ち込みで そこを落ちた瞬間にアリーは一気に大波に飲み込まれ、あっと言う間にカヌーの中が水浸しになってしまった。
 前方に、岸に上陸して水抜きしているカヌーが見える。我が家のカヌーには、水をくみ出すための道具は積んであったが、とてもそれで一杯一杯くみ出すような量ではない。
 そこから先のクランク状に曲がった先でも結構な波が立っていた。一気にそこも下って、その先で水抜きすることにする。
 上陸する場所を探していると、クランクを抜けた先の大きなエディに捉まって、カヌーがくるりと向きを変えてしまった。
 ここで時間を無駄にするわけにはいかない。そのままバックストロークで岸に向かい、水深が浅くなったところでカヌーから飛び降り、二人で息を合わせてカヌーをひっくり返す。
 水がザーッと流れ出したら直ぐにカヌーを元に戻し、そのまま飛び乗って再び流れに漕ぎ出した。
 F1レースのピットインさながらの早業である。
 しかし、このあたりで完全に自分たちの順位が解らなくなってしまっていた。
 そこから先は川幅も広がり大した瀬も無い。後は流れの本流に上手く乗りながらカヌーを進めるだけである。
 直ぐ後ろにカヌーの気配を感じる。必死になってパドリングするが、徐々にそのカヌーの舳先が横に並びかけてきた。ふと横を向くと、予選の時にカヌーをくっつけながら併走した若い女子ペアである。
 そしてその直ぐ横にも夫婦ペアらしきカヌーが並びかけてきた。
 若いお姉さんには頑張ってもらいたいが、夫婦ペアには抜かれるわけにはいかないのだ。
 3艇並ぶようにしばらく進んだが、突然我が家のカヌーが止まってしまった。
 水中を覗くと、憎たらしい隠れ岩が我が家が進んでいたコースの部分だけを塞ぐように潜んでいたのだ。
 注意して下っていれば水面の変化で直ぐに気が付くのに、3艇併走した状態では真っ直ぐに進むしか無いのである。
 後ろから来たもう1艇にも抜かれてしまった。
 岩からカヌーを外して再び漕ぎ始めたときには、前を行くカヌーとの差はかなり開いてしまっていた。
 後ろを振り向いても他のカヌーの姿は見えない。この時点で、勝負あった!、である。
 後はのんびりと漕いでも順位は変わらなそうに見えたが、かみさんは「前にいる夫婦ペアを抜くのよ!」と、全然力を抜く様子がないので、しょうがないので私も力を振り絞ってのパドリングを続ける。
 しかし、よほど漕力に差がない限り、簡単にその差は縮まるものではない。
 旭橋の下をくぐり抜けて、ようやくゴールへたどり着いたときは完全にヘロヘロになっていた。

 やっとの思いでカヌーを岸に上げると、そこには2匹のサルが死んだような状態で転がっていた。
 「エッ!あそこの落ち込みでポーテージしていたのでは!」
 サルゲッチュチームの秘策とは、その落ち込みの右岸よりに波のないチキンルートがあり、そこを下ったのだという。
表彰式で 我が家が水抜きしている間に抜かれてしまったようだ。
 確かに、勝負の分かれ目はそこでカヌーに水が入るか入らないかの違いだったような気がする。
 猿知恵とはよく言ったものである。
 決勝レースの順位はNさん・Iさんチームが7位、サルゲッチュチームが16位、我が家が23位という結果だった。
 夫婦ペア部門の優勝者の順位は18位、落ち込みを上手に抜けて途中で隠れ岩にも捉まらなければ、もしかしたら我が家でも優勝に手が届いたかもしれない。
 軽い気持ちで参加したカヌーレースだったが、負けるとやっぱり悔しい。
 最初は参加をためらっていたかみさんも、途中の意地になった漕ぎを見ていると、かなり悔しかったみたいだ。
 Nさん・Iさんチームは目の前にゲートが下がっていないと力が湧いてこないみたいである。
 サルゲッチュチームの順位は、周りから「サルに負けるな!」とか「サルを追い越せ!」と厳しいマークを受けていた中で、立派なものである。
 確かに私も、目の前にサルが漕いでいるカヌーがいたら絶対に抜きたくなるだろうし、まして後ろからサルに追い抜かれたりしたら堪ったものではない。
 湧別川の岩をも砕くロックバイター、ベンツに乗ったカヌー乗り、この二人がサルゲッチュチームのメンバーなのだが、二人の息が合ってカヌーが真っ直ぐに進むようにさえなれば、来年は上位進出も期待できそうだ。
 一度レースに参加すると、次こそはと心の中でリベンジの炎が燃え上がるのが人の常である。
 来年はもっとヒートアップした大会になりそうな気がする。

インタビューを受けるサルゲッチュ この日、NHKがレースの様子を取材しに来ていた。
 それを見つけたお猿さん達は大喜び、取材を受けている学生の後ろでカメラに写ろうとサルの姿でウロウロ。
 終いには半ば強制的にインタビューを受けて、と言うか受けさせてしまい、まじめなカヌーレースを取材するつもりでやってきたNHKのスタッフは、まるで場違いなお猿さん達にかなり面食らったみたいだ。
 当然のようにそのインタビューシーンはニュースの中でカットされていたが、学生の後ろでカメラをのぞきこむ二匹のお猿さんの姿は、その日の夜、北海道中のお茶の間に流れてしまったのである。
 何だか来年はサルゲッチュチームのおかげで、このカヌーレースが一大仮装カヌーレース大会に変わってしまいそうなイヤーな予感もするのであった。

(2004.10.10)


 
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