北海道キャンプ場見聞録
楓沢(2017/11/03)
散歩のつもりが思わぬ苦戦
最近、ネットで時々見かけていた風不死岳山麓の楓沢。
その風景は、遠い昔に歩いた苔の洞門とそっくりである。
11月に入ったばかりの小春日和の日に、その涸れ沢を歩いてみることにした。
林道脇のスペースに駐車
楓沢への入口は、国道276号に架かる紋別橋。
車は、その近くの林道を入ったところの空き地に停める。
林道入口にはゲートがあるけれど、開いたままだ。
作業用の車が出入りしている様子もないので、停めている間にゲートを閉められる心配もなさそうである。
楓沢は風不死岳や樽前山に登るルートの一つにもなっている。
一応は登山用の装備でやって来たけれど、今回は苔の風景を楽しむことが目的なので楓沢を往復するだけの予定である。
そもそも今年のグリーンシーズンは、川にばかり出かけていたので、山には一度も登っていなかった。
おかげで、出発して直ぐに熊避け鈴を付け忘れているのに気が付いて車に取りに戻り、改めて再出発したら、今度は帽子を被り忘れているのに気が付いて引き返したりと、完全に勘が鈍っているようだ。
誰かが置いてくれた丸太がありがたい
沢の中は砂地で歩きやすい。
大雨が降れば水が流れるのだろうが、そんなに水が流れた様子もない。
周辺の土壌は火山灰なので、少々の雨はほとんどが土の中に染み込んでしまうのだろう。
砂防ダムを2箇所ほど越えたが、1箇所はほとんど埋もれていて、気が付かずに通り過ぎてしまうくらいだ。
もう一箇所のダムには、誰かが置いてくれたのか玉切りされた木が階段代わりになっていた。
地面は歩きやすいけれど、倒木が多いのでその下をくぐったり上を乗り越えたりと大変である。
エノキダケの採れる季節である。
数日前に雨も降っていたので、キノコが生えるには好条件である。
ところがこの付近ではそんなに降らなかったのか、乾燥気味である。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていくが、キノコの生えていそうな気配はなかった。
時々現れる崖面は苔に覆われている。
しかし、それ程密生しているわけではない。
崖を覆う苔はまだ疎らである
そのまま涸れた沢の中を進んでいくと、次第に沢の両岸が切り立った崖となって函の地形へと変わってくる。
函の中は周辺よりも湿度が高くなるのか、その崖面は見事な苔に覆われていた。
函の中に入ると苔が密生してくる
毛足の長いビロードの様な美しい苔である。
ただ、晩秋を迎えて、さすがにその色も少しくすんできているようだ。
それでも、函の中まで射し込んでくる太陽の光がその苔を照らし出すと、急に生き生きとして見えてくる。
苔に覆われた函の中を進む
前方から人の話し声が聞こえてきた。
その時である。
1羽の鳥が、函の中を滑空するようにこちらに向かって飛んできた。
あまり見かけないシルエットだったので、何だろうと思っていたら、近付いてきた鳥の顔は写真などで良く目にするものと全く同じだった。
それは真正面から見たフクロウの顔だったのである。
人の話し声に気を取られて、最高のシャッターチャンスを逃してしまった。
話し声の主は女性二人組だった。
カメラのシャッターを押してあげて、先へと進む。
函の中には落ち葉の絨毯が敷き詰められ、歩いているとカサカサと音を立てる。
そこに時々小鳥の声が混じる。
何の実だろう?
名も知らぬ木や草が赤い実を付けていた。
色を失いかけている函の中で、太陽の光を浴びたその赤い実だけがやけに目立っている。
函は更に深さを増してきた。
函の上に屋根のように覆い被さる倒木。
函の中に倒れ込んだ倒木。
その上を乗り越えて先へと進む。
今度は函を塞ぐように転がる苔生した大岩が現れた。
僅かな隙間をよじ登って、その大岩をかわす。
その先で函は二つに分かれていた。
正面に続く部分は、行き止まりを示すようにロープが張られていた。
ここでは一旦、巻き道から函の外に出なければならないようだ。
苔の風景に圧倒される
所々に倒木もある
急な斜面にロープが下がっていて、かみさんが最初にそこを登っていく。
しかし、もう一息で上に出られるところでかみさんの動きが止まってしまう。
「これ以上は無理!」
泣きそうな顔になっていた。
この巻き道は最後の部分を越えられず撤退
かみさんと交代して私が登ってみたが、確かに足場がなくて、木の根が邪魔で簡単には登れそうもない。
ロープに頼って腕力だけで登れば何とかなりそうだが、心が折れてしまったかみさんは再チャレンジする気もなさそうだった。
この先にも同じ様な函が続いているはずなので、何とかして先に進んでみたい。
左に続いている函の方に巻き道がないかと奥まで入ってみる。
そこも150m程進んだ先で行き止まりだったが、途中の左右2箇所に函の上に登れそうな場所を見つけた。
しかしそのどちらも、上には出られたけれどその先へ進む道が無く、藪こぎも大変なのでここで引き返すことに決める。
そもそも今日は楓沢の中を散歩するつもりで、こんなロッククライミングみたいな山登りをするつもりは無かったのである。
ここは登れたけれど、元のルートまで遠すぎた
ここが一番登りやすかったがその先の藪こぎが大変
最初の行き止まりのロープの先まで行ってみると、そこには見上げるような崖の下に大きな洞窟がポッカリと口を開けていた。
無理して楓沢を奥まで進まなくても、この巨大洞窟を目的にして歩いてくるだけでも、十分に楽しめそうである。
写真では伝わらないけど、かなり大きな洞窟である
そこからまた苔の風景を楽しみながら引き返す。
来る時よりも太陽の光が函の中まで射し込んで、苔の風景を明るく照らし出していた。
苔の風景を満喫
お弁当を持ってきていたので、途中で食べようかとも思ったが、このまま沢を下って支笏湖の湖岸まで出て、湖を眺めながらお弁当を食べることにする。
そうして出てきた湖岸は、砂利の浜が広がりなかなか良い場所だった。
支笏湖の湖岸まで下りてきた
今日は気温が高いせいか、まるで春霞のような霞がかかり、恵庭岳の姿もハッキリと見えないくらいだ。
次回は、苔がもっと生き生きとした季節に楓沢を訪れたいものである。