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暑寒別岳(2014/07/06)

蚊に追い立てられ


完全装備のつもりが暑寒野営場にテント泊して、この日は暑寒別岳を目指す。
前日からのキャンプで蚊の多さは身を持って味わっていたので、頭から防虫ネットを被って山に登ることにした。
山登りで防虫ネットを被るのはこれが初めてで、ちょっと邪魔くさいが、蚊に刺されるよりはましである。
山小屋に泊っていた人の話では、登っている後ろから蚊の群れが追いかけてくるらしい。
でも5合目付近を過ぎれば蚊もいなくなるとのこと。

登山届に名前を記入。時間は午前4時50分。
今日は私達がトップバッターの様だ。
上空には昨日から引き続き、灰色の雲が垂れ込めたままである。

登山口から森の中へと入っていく。
直ぐにトドマツ林の中の急登となる。
山スキーシーズンが終わった後は、GWに雌阿寒岳に登っただけで、それ以来の約2か月ぶりの山である。
トドマツの森を登るその2ヶ月の間にフルマラソンを走ったりしていたので、体力的には全く問題はない。
暑寒荘から登る暑寒コースは標高差約1200m、北海道夏山ガイドのコースタイムは4時間半である。
去年、利尻岳の標高差1500mを登って自信を付けたので、日帰り装備の荷物ならば1000mを越える標高差も恐るるに足らずである。
ただ、1週間前の川下りの時、河原で岩の上に尻餅をついてしまい、その痛みが全然ひいていないのが心配だった。

森の中に足を踏み入れた途端に、蚊の襲撃を受ける。
でも、こちらは防虫ネットに守られているので、大して気にならない。
と思いながらしばらく歩いていたが、下半身が全くの無防備状態であることに気がついたのである。
サポートタイツにショートパンツ、そしてショートスパッツと言う姿。
肌に密着したサポートタイツは、蚊の針を簡単に通してしまうのである。
良い感じの森の中これでは、蚊の大群の中で足を剥き出しにして歩いているのと大して変わりはないのだ。
かみさんはロングスパッツを付けているので、露出部分は私よりかなり少ない。

1合目でようやく急な登りが終わって、尾根の上のなだらかな道へと変わる。
森の様子も、ミズナラやダケカンバが混じる自然林へと変化する。
そこにツルアジサイが絡み、良い雰囲気の森となっていた。

しかし、蚊の多さは相変わらずだ。
この付近の登山道は、昔は車も通っていたみたいで路面も歩きやすい。蚊を振り払おうと、一気にスピードを上げる。
かみさんと先頭を変わると、その直ぐ後ろに蚊の大群が群がっているのが良く分かる。
と言うことは、自分の後ろにもそんな大群が付いてきているのである。

蚊の集中攻撃を受ける虫よけスプレーを使おうと思って立ち止まったところ、攻撃チャンスを待っていたかのように蚊の大群が体の回りに群がってきた。
その羽音も凄まじいほどである。
落ち着いてスプレーをかけることもできずに、直ぐにまた歩き始める。
これでは疲れても休むこともできない。

気温はそれ程高くないが、湿度は高めだ。汗をかくと、虫よけスプレーの効果も直ぐに消えてしまうようだ。
汗をかかないようにゆっくりと歩けば、直ぐにタイツの上に蚊がとまってくる。
しょうがないので急ぎ足で登ると余計に汗をかき、その汗の匂いが更に蚊を呼び集める。
完全な悪循環である。
とにかく、早くこの蚊の大群から逃れることが目標である。

周辺にいた蚊だけが集まってくるのか、それとも同じ蚊がずーっと追いかけてきているのか。
もしも後者だとしたら、追いかけてくる群れはどんどん大きくなってくることになる。
腹を空かせた蚊の生息地の中に先頭を切って足を踏み入れた私達なので、余計に集中攻撃を受けているような気もする。

シラネアオイマイヅルソウの花が登山道の両脇を埋め、ヤマユリ、シラネアオイも花を咲かせていた。
しかし、そんな花をゆっくりと写真に撮る余裕も無い。
構図も考えず、パッと座り込んでシャッターを切り、直ぐに立ち上がってまた歩き始める。
万事がこの調子だ。

ここの登山道には合目毎に標識が建っていて、周りの景色を眺める余裕もなく、2合目、3合目と蚊がいなくなる場所を目指してひたすら登り続ける。
もっとも、雲が低くて周りの風景もパッとしない。尾根の上に続く登山道なので、晴れていればそれなりの展望もありそうなところである。

そうして、一度も休むことなく5合目まで一気に登ってきた。
コースタイムで2時間のところを1時間30分で到着である。
3合目標識でしかし、5合目を過ぎれば蚊もいなくなるという話は全くの期待外れだった。
相変わらず頭の回りをブンブンと羽音をたてて沢山の蚊が飛び回っている。
それでも、さすがに疲れが出てきていたので、ここで小休止することにした。
水を飲むのにも、防虫ネットを少しだけめくり上げて素早く飲まなければならない。
そうしないと、ネットの中に蚊が入ってきてしまうのだ。

本当ならば、ここで雨具の下だけでも履いておけば、もう少し被害を軽減できたのだろうが、とてもそんな余裕はなかったのである。
水分補給して、防虫スプレーをもう一度念入りにかけてから、直ぐにまた歩き始める。
下半身ばかりでなく上半身も狙われ始める。
特に肘の部分が服と肌が密着しているので、そこから直接針を刺してくるのだ。

目の前の防虫ネットにとまった蚊を何度も追い払うが、直ぐにまたとまってくる。
もしやと思って確かめてみると、その蚊はいつの間にか防虫ネットの内側に侵入していたのである。
おでこが痒いなと感じていたのは、そいつの仕業だった。
とうとう、聖域だった顔面も被害を受けることとなってしまったのである。

最初のロープ場7合目の手前にロープ場があった。
ロープを使わなくても何とか登ることができるが、足元がガレ場なので歩きづらく、注意しないと後ろに石を落してしまいそうだ。

いつの間にか周りはガスに包まれ、展望は全く楽しめない。
樹林帯を抜けて周りはハイマツの林に変わっていた。
それでも相変わらず蚊には付きまとわれている。

眺めの良さそうな尾根の上に出てきたが、相変わらずガスの中だ。
滝見台と書かれた看板があるが、もちろん何も見えない。


後ろに雲が 雲に囲まれた滝見台
いつの間にか後ろまで雲が迫ってきていた 滝見台では何も見えず

8合目屏風岩8合目の屏風岩に到着。
ここで2度目の休憩をとる。
風が吹き抜けるので、さすがに蚊も少なくなる。
ここで雨具の下を履くことにした。
遅きに失した感もあるが、これでこの先は肘にとまってくる蚊にさえ注意を払えば、蚊の猛攻からは逃れることができそうだ。

屏風岩の岩肌ではチシマギキョウが花を咲かせ、なかなか美しい。
尾根を離れると再び蚊に纏わり付かれるが、足を刺される心配もなくなったので、こちらも余裕である。

ゴゼンタチバナやオトギリソウなど次第に花の姿も増えてきたなと思いながら登ってくると、9合目の標識が立っていた。
ここにきてようやく蚊の姿も少なくなり、初めて防虫ネットを外すことができた。


チシマギキョウ ゴゼンタチバナ
屏風岩の岩肌で咲くチシマギキョウ 足下を埋めるゴゼンタチバナ

ロープ場の横で咲くウコンウツギ2か所目のロープ場が現れた。
急な登山道の横では、ウコンウツギびっしりと花を咲かせている。

前方の空が何となく青みがかって見えていた。
「もしかしたらあれは青空?!」
これだけ苦労して登ってきて、頂上に立ってもガスの中だったとしたら、あまりにも悲しい。
「苦労はきっと報われるはずだ」と思いながら登ってきたので、その青空が見えた時は本当にうれしかった。

そのロープ場を登りきったところで出迎えてくれたのは、マシケゲンゲの花畑だった。
紫の花色が鮮やかだ。
青空は見えているけれど雲の流れも速い。このまま晴れてくる確率より再び曇ってしまう確率の方が高そうなので、花を楽しむよりまずは山頂を目指すことにした。
箸別コースとの分岐までやって来て、ようやく前方に暑寒別岳の山頂が見えてきた。


暑寒別岳山頂が見えた
晴れている間に山頂までたどり着きたい!


エゾツツジ山頂へ急いでいると、エゾツツジの真っ赤な花が目を惹いた。
その美しさに感動し、山頂へ急ぐのは止めにして、ゆっくりと花を楽しむことにした。

そこから少し下がったところにもお花畑が広がり白や黄色の花が咲き乱れていた。
その先には雪渓も広がっている。
ここまで来てようやく、美しい山岳景観に出会うことができた。

白と黄色は、エゾノハクサンイチゲとシナノキンバイの花だった。
チングルマはもう綿毛に変わってしまっている。


雪渓と花畑 エゾノハクサンイチゲとシナノキンバイ
雪渓と花畑、山岳景観である エゾノハクサンイチゲとシナノキンバイの花畑

暑寒別岳山頂からの展望その花畑を登りきると暑寒別岳山頂だった。
登山口をスタートしてから3時間50分、午前8時40分に暑寒別岳山頂に到着。
蚊に追い立てられるように登ってきたので、標準のコースタイムよりも結構早かったようだ。

上空には青空が広がっていたけれど、周りは全て雲海である。
雲海が広がる風景もそれなりに良いものだが、山頂のすぐ下まで雲海に覆われているので、展望は全く楽しめない。
それでも、ガスに包まれて視界が全く効かないよりは、ましである。

私達よりやや遅れて、男性二人連れが登ってきた。
ずいぶん早いなと思ったら、彼らは箸別コースから登ってきたとのことである。
蚊の様子を聞いてみると、やっぱり9合目までは蚊に追いかけられたらしい。

暫くすると、再び雲が広がってきた。今日はやっぱりすっきりと晴れることはなさそうだ。
男性二人を見送って、私達も下山しようとしている所に、雨竜沼コースから1名、私達と同じ方向から1名が登ってきた。
雨竜沼コースも蚊は多かったとのことで、この季節の暑寒別岳はどのコースから登っても蚊に付きまとわれることに変わりはないのだろう。

箸別コースの花畑午前9時15分、再び雲に覆われてしまった山頂を後にする。
箸別コース分岐で箸別コースから登ってきた男性とすれ違う。
その男性の「何度か登っているけれど、今年は凄く花がきれいに咲いている、暫くは平坦だから歩いてみると良いですよ」との話を聞いて、直ぐに寄り道することに決める。

確かに箸別コースの花畑の方が見ごたえがあった。
マシケゲンゲの紫とエゾツツジの赤が混ざり合って咲く様子は、暑寒コースでは見られなかったものだ。
他の花もこちらの方が見ごたえがあり、花畑の面積も広い。
残念なことに、下から湧き上がってきたガスが美しい花畑を隠してしまった。
15分ほど寄り道をして、再び分岐まで戻ってきた。


霧に包まれる花畑
霧に包まれた花畑も良いものだ、晴れていればもっと良いはずだけど・・・

雪渓と花畑 エゾノハクサンイチゲとシナノキンバイ
雪渓と花畑、山岳景観である エゾノハクサンイチゲとシナノキンバイの花畑

下山時の屏風岩からの眺めすっかり雲に覆われた中を下っていくと、日曜日だけあって次々と登山者とすれ違う。
山頂の様子を聞かれ、「私達が登った時は頂上は晴れてましたよ」と答えると、皆嬉しそうな表情を浮かべて、元気を取り戻すようだ。
でも、青空が見えたのは私達が本当にラッキーだっただけで、多分この後はずーっと曇り空のままの気がする。
人間、どんな時でも希望を持つのは良いことなのである。

それにしても、すれ違う登山者は誰も防虫ネットを被っていない。被っている人でも、それを帽子の上にまくり上げたままである。
信じられないことに、ランニングシャツ姿で登っているおじさんまでいた。
さすがに私達も、それまで被っていた防虫ネットを外すことにした。
やっぱり、蚊が多いのは朝の時間帯だけで、日中は蚊の活動も鈍くなるのかもしれない。
それとも、私達の血をたっぷりと吸ったので、それで満足してしまったのだろうか。

2合目から下の森は良い雰囲気それでもやっぱり、2合目から下の森の中では再び蚊に囲まれることとなった。
登る時に聞いた「上の方に行けば蚊はいなくなる」との話しは、昼間の時間帯の話しだったようである。

増毛市街まで戻って来たが、そこも曇り空。当然ながら、暑寒別の姿はそこからは全く見えなかった。
やっぱり、頂上の青空は奇跡だったのかもしれない。

岩尾温泉で風呂に入りながら蚊に刺された箇所を数えてみたが、あまりにも多すぎて数えるのも面倒になった。
多分、100カ所は刺されていただろう。
私がこれまで生きてきて、一度に蚊に刺された数はせいぜい4、5カ所程度が最高である。
それが一度に100カ所刺されても、人間は耐えることができると言うことを知っただけで、今回の山行はある意味有意義だったのだ。

暑寒別岳登山のアルバム 



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