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剣山(2013/6/30)

半世紀の思いが


多分、もう50年近い昔の話だった気がする。
まだ幼かった私は、母方の祖父が剣山に登頂した時の写真を見せられ、その姿がとても格好良く感じたのである。
その印象がずーっと心の中に残っていて、何時かは自分もその山の頂に立ってみたいと思いながら、半世紀の時が過ぎてしまった。
そしてようやくその機会が訪れたのである。

壊れたカヌーをどんころ野外学校のカヌービルダーのところに持ち込み、そのまま清水町の実家に一泊。
何もしないで札幌まで戻るのも馬鹿らしいので、この機会に剣山に登ることにした。
まずは剣山神社に参拝剣山は、地元の人には人気のある山らしいけど、わざわざ札幌からやってきて登るほどの魅力までは無い。
何かのきっかけが無ければ、なかなか登る機会のない山でもあったのだ。

実家から登山口までは車で20分もかからない。
朝7時半頃に現地に着いた時には、駐車場には既に3台の車が停まっていた。
登山口の脇の神社に参拝。
全く信心深くない私達夫婦だけれど、神社があればとりあえず手を合わせることにしている。
実家の母親の話によると、剣山の山開きでは毎年この神社で火渡りの儀式が行われるらしい。
山頂には剣も祭ってあり、信仰の山でもあるのだ。

7時40分に登山口を出発。
今年は4月に屋久島を縦走して以来、山には全く登っていなかったので、久しぶりの山登りに心も弾んで足取りも軽い。
お地蔵さんに手を合わせる信仰の山らしく、登山道沿いにはお地蔵さんが沢山立っている。
折角なので、お地蔵さんが現れる度に軽く手を合わせる。

一気に100m程登った後は、ミズナラ林の中の緩やかな傾斜となる。
夏を感じさせるセミの声に包まれながら、足早に登っていく。
再び傾斜がきつくなり、さすがにこれまでの様なスピードでは登れなくなる。
最近、毎朝のランニングの時は、なるべく呼吸を乱さない様に気を付けて走っている。
登山の時もそうしようとチャレンジしたが、傾斜がきつくなると直ぐにハーハー、ゼーゼーと呼吸が荒くなってしまう。
一方のかみさんは、ランニングの時と同じく、全く呼吸を荒げることなく登り続けている。
この辺りが、私とかみさんの体力の違いなのだろう。

スタスタと登っていくかみさんこの日の十勝の予想最高気温は25度。山を登るのにはちょっと厳しい気温だ。
それでも朝のこの時間はまだ肌寒いくらいで、半袖Tシャツの上に長袖シャツを重ね着していた。
さすがに汗ばんできたので、半袖Tシャツ1枚になる。

急な登りが延々と続いている。
腕時計の高度計の数字がどんどん増えていく。
少し傾斜が緩くなってきて、樹木の開けた場所に出てきた。これでようやく急な登りから解放されるかと喜んだら、直ぐまたその先から傾斜が急になる。
オダマキの花が時々見られるようになってきたが、カメラで写す余裕もない。

そうしてようやく尾根の上に出てくると、ミズナラのの幹に打ち付けられた木の看板には一の森と書かれていた。
その隣には906mの標高の標示もあった。
一の森に到着登山口から1時間弱で標高差500m近くを一気に登ったことになる。
これでは、きつく感じるのも当然である。

木の看板の上には、展望台と書かれた小さな矢印の看板も付いていた。
しかし、その矢印の方向に続いている道は笹に覆われ、その先にも展望の効きそうな場所も見えないので、ここはパスすることにした。
ここで無理をしなくても、剣山の山頂では素晴らしい展望が待っているはずなのである。

北海道夏山ガイドでは山頂までのコースタイムは3時間になっている。
でも、標高差780mのうち、ここで既に500m近くを登ってしまい、本当に3時間もかかるのだろうかと疑問に感じてくる。
ここで地図さえ見れば大方の見当はつくのだけれど、地図を取り出すのが面倒なので、何時もそのまま歩いてしまう。
私の悪い癖でもある。

マイヅルソウここまで単調な登りが続いたけれど、登山道にも変化が表れてきた。
ゴゼンタチバナにマイヅルソウ、オオヤマオダマキなどの花も見られるようになってきた。
所々に巨大な岩も現れる。
かみさんの、北海道夏山ガイドで読んだうろ覚えの解説によると、名前の付いた大岩が途中2か所ほどあるらしい。
私はこのガイドをあまり読んでいなくて、ネットで調べていて、胎内くぐりの岩があると言うことだけ知っていた。
私の場合、ガイドブックは登る前より登った後に読むほうが楽しいので、登る前は流し読み程度しかしないのである

看板の付いた不動岩だけ確認できたが、もう一つの岩の方は、岩が多すぎてどれがどれだか分からない。
名前が有る無しにかかわらず、そんな岩達は登山の楽しみを増やしてくれる。


巨大岩 割れ目に自生する植物
巨大岩に張り付くかみさん 岩の割れ目で生育する植物が面白い

尾根上の登山道を歩いていくと、二の森と書かれた看板の立つ場所があり、その先にも三の森があった。
登山道の区切りとして付けられた名前の様だが、森の意味が良くわからない。

展望岩の上で突然、展望の開けた場所が現れ、そこには展望テラスの様に岩が突き出ていた。
その末端は垂直に切れ落ちているようで、近くに寄るのが恐ろしい。
でも、そのおかげで岩の上からは素晴らしい展望が楽しめる。

そしてそこからは剣山の山頂が見えていた。
山の上からニョキリと突き出た様な岩峰。
そのてっぺんが山頂なのである。
そこに立てば360度の大展望を楽しめそうだが、ここから眺めた限りでは、恐ろしくてとてもその山頂には立てない様な気がした。


展望岩から剣山の山頂を望む
あの山頂に立てるのだろうか?

胎内くぐり胎内くぐりの岩は、母の胎内と書かれた看板があったので、直ぐにそれと分かった。
ザックを背負ったままでも、何とかその中をくぐることができた。

そこをくぐれば何か御利益があるのかは定かではないが、私が勝手に解釈するに、そこをくぐることにより新しく生まれ変わった気持ちになれるのだと思う。
ただ、4年前に歩いた熊野古道にも同じような胎内くぐりの岩があって、女性がそれをくぐると安産になると言われているらしい。
私が苦労してくぐり抜けた意味は、無かったようである。

その後は、ロープは張ってあるものの、もしもそこから落ちたら絶対に助からない様な絶壁の脇を通り過ぎて、山頂に向かっていく。
そして梯子場を二つ登る。
山頂直下の梯子こんな場所を登るのは慣れていないので、かなり緊張する。
でも、最後のほぼ垂直に近い梯子と比べれば、それらはまだましだった。
最後の梯子の先には青い空しか広がっていないので、これを登ったところが山頂なのだろう。
この梯子が微妙に傾いていて余計に恐怖心を掻き立てるのだ。
太い番線で固定されているので、倒れることは無いのだろうがあまり気持ちの良いものではない。

そしてそこを登りきった瞬間、「おおーっ!」と思わず声をあげてしまった。
かみさんも続けて梯子を登ってくる。
「怖くてダメッ」って弱音を吐くかと思ったが大丈夫なようだ。
もしもそう言ったとしても、この風景を見せるために、無理やりにでも頂上に引きずり上げていたことだろ。
9時35分山頂到着。
結局、2時間もかからずに登ることができた。

へっぴり腰で山頂に立つ針の先端の様な頂上を想像していたが、もう少し広くて、安全な場所にいれば足がすくむこともない。
ただ、剣が刺さった本当の山頂の先に立つのはやっぱり無理だった。
少し下がったところから恐る恐る立ち上がるのが精一杯である。

でも、無理してそこに立たなくても360度に広がる大パノラマは十分に堪能できる。
正に足元に広がる十勝平野。
残念ながら今日は霞がかかって遠くの方は霞んでいるが、その雄大さは十分に感じられる。

それよりも素晴らしいのが、日高山脈の眺めである。
剣山は日高山脈に含まれる山なのだが、ここだけが十勝平野に突き出た様な場所に位置しているおかげで、日高山脈の全体の姿を一度に見渡すことができるのだ。


日高山脈のパノラマ写真
日高山脈の展望台と言っても良いだろう

十勝平野の展望日高の山の名前には詳しくなくて、それぞれが何という山なのかは分からないが、一際残雪が多く見えるのは日高山脈最高峰の幌尻岳あたりかもしれない。
左から右へと視線を転じていくと、その先には一際白さが目立つ十勝岳連峰の山並みが緑の平野の上に浮かんで見えている。

360度の展望を楽しめる山は他にもあるのだろうが、その場に立ったままぐるりと一回りするだけで、この360度の展望を手にできる山はそう無いだろう。

男性が一人梯子を登ってきたので、山頂を彼に譲って、私達は下山することにした。
山頂直下の梯子は降りる時も怖い。
そこさえ降りてしまえば、最初は緊張して登っていた他の梯子も余裕で降りることができた。
山頂付近で昼食にしようと考えていたが、あまりにも早く登頂してしまったので、実家に帰ってから昼を食べることにした。


剣山山頂から十勝岳連峰を望む
十勝平野の向こうには残雪を抱く十勝岳連峰や東大雪の山々が

剣山山頂から日高山脈を望む
幌尻岳や札内岳、エサオマントッタベツ岳など日高山脈の山が一望できる

剣山山頂の安全地帯 剣山山頂の剣
山頂の安全地帯? 山頂の剣

姉夫婦と遭遇地元住民には人気の山らしく、次々に登山者とすれ違う。
その登山者の一人に突然声をかけられて驚かされた。こんなところで知っている人間に会うなんて考えてもいなかったのだ。
驚き過ぎて、声をかけてきた相手が誰なのか直ぐには分からず、とりあえず「あれ〜っ!」とか言いながら愛想笑いを浮かべておいたが、何とそれは札内に住む姉夫婦だったのである。
その後も登ってくる人は後を絶たず、あの狭い山頂は一体どうなっているのだろうと心配になってくる。

下りのコースタイムは2時間。
登りはコースタイムを上回っても、下りは遅くなるのが我が家のパターン。
先日見たテレビの番組で、トレイルランニングでの下りの走り方を解説していたので、それを真似してみる。
左右にステップを踏むように駆け下りるのだが、これは意外と使えるかもしれない。
でも、調子に乗りすぎて、岩の上で足を滑らせ、3回も尻もちをついてしまった。
ミヤマハンショウヅル結局、下山にかかった時間は1時間40分。
登山届を見てみると、私たち以外は全員が十勝管内に住む人達だった

夏山ガイドでは中級レベルの山として紹介されている剣山。
覚悟して挑んだ割には、短時間で登頂できて、ガイドブックが大げさなのか、それとも私達のレベルが上がったのかは良くわからない。
私達の前に登っていた3組の登山者とのすれ違った時間などを考えれば、登りのコースタイム3時間は少し多すぎるような気もした。
50年の思いが実って山頂に立つことができた剣山。比較的簡単に登れて頂上からの素晴らしい展望が楽しめる、元清水町民の私にとっても胸を張って自慢できる故郷の山であった。

剣山登山の写真 




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