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風不死岳・樽前山東山(2012/6/3)

ランニングの延長で


美笛キャンプ場を後にして、樽前山の7合目ヒュッテへと向かう。
風不死岳へはこのヒュッテ側からと支笏湖側から登る二つのルートがある。晴れていれば支笏湖側から登ろうと思っていたけれど、今日の天気では素直にヒュッテコースを登った方が良さそうである。

それに、かみさんが何処かで聞いたのか「支笏湖側の北尾根コースは熊が多いから絶対に嫌だ」と言い張るのだ。
ネットで検索すると確かにそんな情報が沢山ヒットするけれど、どれも他から聞いたような不確かな情報ばかり。付近にクマが生息するのは確実だろうけれど、風不死岳だけに何頭もの熊が住み着いているなんて、直ぐに信じる気にはなれない。
インターネットが普及すると、こんな話も一人歩きしてしまうのだろう。

樽前山に向かって国道を曲がる。
今年の2月には国道沿いの駐車場に車を停めて、冬季間通行止めの道を樽前山まで山スキーで歩いたものである。同じ道を車で走りながら「こんなところを良く歩いたものだ」と、自分でも感心してしまう。

心地よい緑のトンネルの中を走っていくと、やがて木々の向こうに樽前山の姿が見えてきた。
信じられないことに、樽前山の背後には眩しいほどの青空が広がっていた。途中では霧雨さえ降っていたのに、予想外の青空である。
樽前山の大斜面駐車場から溢れた車が既に道沿いに並んでいた。
車を整理していたおじさんに聞いてみると、ここは朝からずーっとこんな天気だったとのこと。雲に覆われていたのはどうやら下界だけだったようである。

風不死岳へは、駐車場から少し下ったところにある目立たない登山口から登り始める。
背の低いダケカンバの樹林帯を抜けると、樽前山の大斜面が目の前に広がる。
冬にここを登ったばかりなので、見覚えのある風景である。

その時に目指した932m峰と、その右にはこれから向かう風不死岳が姿を見せていた。
これから歩くべきコースが全て一望できると、やる気をかき立てられる気がする。

風不死岳と932m峰雲海に覆われた下界が既に足元に見えていた。
風不死岳に登るのに、樽前山ヒュッテコースと北尾根コースではかかる時間に大した差は無い。
それでも標高差は北尾根コースが843mなのに、樽前山ヒュッテコースは445m。その差約400メートルを車で登って来れるのだから楽なものである。

イソツツジはまだ蕾のものが多いれど、ウコンウツギが所々で花を咲かせて目を楽しませてくれる。
そんな花の写真を撮りながら歩いていると、後ろからソロの男性が近づいてきていた。
足を痛めて一ヶ月近く朝ランを休んでいたので、今日はその分のトレーニング替わりで登るつもりだった。抜かされない様に歩くスピードを上げる。


イソツツジ ウコンウツギ
場所によっては既に開花しているイソツツジ 微妙に花弁の色が違うウコンウツギ

4月に屋久島を縦走していたけれど、北海道の夏山に登るのは今日が初めてとなる。
縦走装備の重たいザックを背負って歩いていたのと比べると、信じられないくらいに身体が軽く感じる。
まるで走る様な速さで歩いていくと、遥か前の方を登っていた登山者の姿が見る見るうちに近づいてくる。
大きく手を振って登り続けるそこをトレイルランの装備で二人の男女が駆け下りてきた。
その姿を見るとなぜか私もますますやる気が湧いてきて、登り坂に入ってもスピードを落とさずに歩いていく。

そうして先を歩いていたグループを追い越した。
そこから樽前山や932m峰へと向かう登山道から離れて、風不死岳方向へと向かう。
火山灰に覆われた歩きづらい上り坂が続く。
そこでもスピードを落とさない。
写真を撮るのにかみさんを前に行かせると、かみさんの登るペースもかなり早い。
何時もならばそこで引き離されるのだが、今日は負けじと付いていく。
テレビのマラソン番組で上り坂を走る時のコツとして、息を大きく吐き、手を後ろに大きく振ると言っていたのを、山登りの際にもそのまま使うことにした。
「ハーッ、ハーッ、スー、スー」マラソンの呼吸法で、手を大きく振って登り続ける。

風不死岳が目前に迫るそこを登りきると、樽前山から932峰の下をトラバースしてくる道と合流する。
そちらの方から若者たちの賑やかな声が近づいてきていたので、追い越されてなるものかと、一息着く間もなく歩き始める。
今回は水はハイドレーションシステムで飲むようにしていたので、水分補給で立ち止まる必要もないのだ。
やや平らな地形を上り下りしていくと、やがて風不死岳の姿が目の前に迫ってきた。
いよいよそこから急な登りが始まるのだ。
その手前に風不死岳登山口の看板が立っていた。
「さんざん歩いてきて、こんなところが登山口なの?」と不思議な感じもしたが、そこから先は看板通りの本格的な山登りとなる。

両手をフルに使い、木の枝や岩を手掛かりにしながら登っていく。
岩のわずかなくぼみに登山靴のつま先をかけて登らなければならない様な岩場もある。
背の低いかみさんは足をかける場所がないと言って悲鳴を上げている。
鎖場を登るかみさんでもそれはまだ序の口で、鎖の付けられた急な岩場には面喰ってしまった。
「ここを本当に登るの?」
まるでロッククライミングをするような岩壁に見えてしまう。
ガイドブックには「今までの鎖場は迂回して登れるようになった」と書いてあるが、これがその迂回ルートなのだろうか?
確かにその手前に、ロープの張られた鎖場があったが、この迂回ルートと大して差がない気がする。
他にルートも見当たらないので諦めてそこを登る。
私は鎖に頼らずに何とか登れたけれど、心配なのはかみさんである。
「こんなとこ登れない!」と駄々をこねられたら困ってしまうのだ。
上から見守っていると、意を決して何とかそこを登ってきてくれた。

引き離したつもりが、後ろの方からまだ若者たちの話声が聞こえてくる。かなり疲れが溜まってきていたけれど、頑張って先を急ぐことにした。
前方に大きな岩が見えてきて、何となくそこが頂上のように思われる。でも、ガイドブックには偽のピークに騙されると書いてあったので、そこでは気を抜かない。そこを過ぎた先に本当の頂上らしいところが見えてきた。

そこを間近にして時計を確認すると、登り始めてから1時間15分しか経っていない。ガイドブックのコースタイムでは2時間50分となっていたので驚異的な速さで登ってきたことになる。
これなら登山マラソンにも出られるかもしれない。

本物の頂上はまだ先だったしかし現実はそんなに甘くは無かった。
それが本物の偽の頂上だったのである。
かみさんから「そんなに早く着くわけがないと思っていたわ」と言われてしまう。

一気に足取りが重くなってきた。
考えてみれば今日の朝はハンバーガーを1個食べただけである。これはシャリバテかもしれない。
でも、本物の風不死岳山頂は既に視界に捉えているので、最後の力を振り絞って歩みを進める。
そんな私を励ましてくれるかのようにムラサキヤシオが赤い花を咲かせている。
既に周囲には素晴らしい風景が広がってきているが、それをじっくりと楽しむのは登頂を果たしてからにしよう。


ツツジの赤い花 最後の登り?
ムラサキヤシオの花が鮮やかだ これが最後の登りか?

これが本物の山頂そしてついに山頂へ。

「あれ〜?」

何故か、その先にもう一つの山が見えていた。

先程の本物の偽の頂上だと思ったのはただの偽の頂上で、本当に本物の偽の頂上がここであって、本物の頂上はこの先に見えているのである
頭の中が混乱して何が何だか分からなくなってしまったが、もう一頑張りしなければならないことだけは確かである。

茂みの中の細い登山道を下っていくと、シラネアオイの群落が花を咲かせていた。
そして、今度こそが最後の登りである。
ついに本物の頂上に立つヒュッテ前から登り始めて1時間40分、ついに風不死岳頂上に立つことができた。
そこには既に数名の登山者がいて「お疲れ様」と声をかけてくれる。

今朝出てきた美笛のキャンプ場は、まだ低い雲に覆われたままである。
その雲は雲海となって太平洋の方まで続いていた。
ホロホロ山や徳舜瞥岳がその雲海の上に頭を出していた。
羊蹄山と尻別岳がまるで親子のように並んでいる姿も印象的だ。
恵庭岳から支笏湖の温泉街にかけては、雲も消えて青い支笏湖が姿を見せている。

予定していた時間よりも、かなり早く登頂できたので、目の前に見えている羊蹄山まで足を延ばすことにした。
軽くエネルギーを補給してから下山開始。
入れ違いに、すぐ後ろに迫っていると思っていた若者グループがようやく登ってきた。その様子を見ると、途中で追い抜かれる心配は全く無かったようである。


風不死岳から見る支笏湖
温泉街の方向は青い支笏湖が見えていた

恵庭岳から西は雲海の下
今朝までいた美笛の方は雲海の下に

羊蹄山と尻別岳
雲海の向こうに浮かぶ羊蹄山が印象的だ

風不死岳から眺める樽前山
予定を変更して樽前山まで足を延ばすことに

雲海を眺めながら昼食再び急な鎖場までやってきた。
小学生くらいの子供を連れたファミリーがそこを降りているところだった。
そんな子供でもここを登って来られるのだから、この程度で恐れをなしていたら本格的な山登りは無理かもしれない。

風不死岳の登山口まで降りてきて、その先の眺めの良い場所で昼食にする。
照りつける太陽は、まるで夏の陽射しの様だ。
汗で濡れた長袖のTシャツから半袖のTシャツへと着替える。

昼食を終えて再び歩き始める。
途中の分岐から、932m峰の下をトラバースする道へ入る。
932m峰と風不死岳今年の冬に932m峰を目指し、途中で登頂を諦めた場所までやってきた。
その時は、強風に飛ばされそうになりながら、雲に隠れてしまいそうなそのピークを見上げていたものである。

冬のリベンジを果たしたいところだが、今回は予定外の寄り道登山なので、樽前山の東山山頂に登るだけで我慢することにする。
そこの鞍部から東山までの高低差は約200m、特に急な傾斜もないので、再び坂道ランニング走法で、大きく手を振り、力強く息を吐きながら登り始める。

樽前山の外輪山は、岩がゴロゴロと転がる荒涼とした風景のイメージを持っていたが、意外と花を楽しめるところだった。
コメバツガザクラコメバツガザクラが可愛らしい花を咲かせている。

後ろを振り返ると、真っ青な空を背景にして、932m峰と登ったばかりの風不死岳が仲良く並んでいる。
そして雲海の上にポカリと浮かぶ羊蹄山など、素晴らしい風景が広がる。
更に高度を上げていくと、樽前山山麓の広大な樹海、そこを覆い隠すように太平洋から連なる雲海、雄大な眺めが眼下に広がる。
溶岩ドームの割れ目からは白い噴煙が上がり、硫黄の臭いが漂ってくる。
前を歩いていた登山者を次々に追い抜きながら東山山頂に到着。


走るように山を登る 東山ピークを目指す
気分は登山マラソン 東山ピークまで一気に駆け上がる

雲海を眺めながら登る
雲海の向こうには日高の山も見えている

溶岩ドームと西山7合目の駐車場から50分程で登って来られるだけあって、登山者とは思えないような人も沢山登ってきていた。
少しだけ汗を流せば、これだけの素晴らしい眺めを楽しめるのだから、登山をしない人にもお勧めの山である。

夕張岳や日高山脈の山々も雲海の向こうに見えている。
雲海に隠されている部分も多いけれど、そのおかげでかえって印象的な風景を楽しめた気がする。

外輪山の一周は次の楽しみにとっておくことにして、下山開始。
下山時もトレイルランニング風に一気に駆け下りようとしたが、重たい荷物を背負っていなくても、下りはやっぱり苦手である。
階段の登山道を下山特にここの登山道は、ほとんどが階段となっているので、余計に苦手なのだ。
一段一段の落差が大きいので、膝に負担がかかり、おまけに一か月前に痛めた足の甲も気になるので、とても駆け下りるなんて状況ではない。
結局、下りの時間は標準タイムと殆ど違いは無かった。

そのまま支笏湖温泉の休暇村へまっしぐら。
車から降りると寒さに身震いする。気温は13度だった。
これで暑い暑いと言いながら歩いていたのだから、これからの季節はもっと高い山でないと登っていられないかもしれない。

風不死岳登山の写真 


樹海と雲海
樹海と雲海を見下ろしながら下山

樽前山ヒュッテ 分岐 風不死岳 分岐 東山 樽前山ヒュッテ
0:40 1:00 0:55 0:40 0:30
距離(ヒュッテ〜登山口):4.2km 標高差:415m

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