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白井岳(2011/2/2)

ひたすらラッセル修行


 週間天気予報を見ながら、天気の良さそうな水曜日に休暇を取って、白井岳に登る計画を立てていた。
 月曜日に久しぶりのまとまった降雪があり、水曜日は朝から文句なしの快晴。これ以上は無いような好条件に、浮き浮きしながら札幌国際スキー場に向かって車を走らせる。
 白井岳へは札幌国際スキー場のゴンドラを利用して、朝里岳経由で登るのが一般的なルートだが、今回はゴンドラを使わずに下から直接登るつもりでいた。
 スキー場に到着すると、上空には青空が広がっているものの、朝里岳や白井岳の付近は雲がかかっていて、その雲の動きを見ると風も強そうである。
 これならば尚更、下から登った方が良さそうだ。

突然こんなところに出てきた! 準備を整えたが、まず何処に向かえば良いのかが分からない。
 暫くは沢に沿って登るはずなので、奥の方の従業員駐車場から沢に入ってみた。
 予想はしていたもののトレースは何処にも見当たらず、歩くだけでも一苦労である。
 途中で3箇所ほど、スノーブリッジでこの沢を渡らなければならず、そのポイントは予めGPSに登録しておいた。
 ところが、最初のスノーブリッジはまだ先の筈なのに、何度も沢を渡らなければ前に進めない状況である。
 かみさんが「無理じゃないの?」と心配そうに聞いてくる。
 上の方に除雪したような雪山が見えたので、苦労してそこまで登っていくと、圧雪車の通った様な場所に突然出てきた。
 そしてその先に沢を渡れる場所があり、GPSに落としてあったポイントともピタリと一致する。
 何の事は無い。苦労しなくてもここまではスキー場のゲレンデを歩いて来れば良かったのである。
かろうじてトレースらしきものが見える スノーブリッジを渡った先には、微かだけれどトレースの跡も残っていた。
 ただし、雪面が僅かに窪んでいるだけで、注意して見ければ見逃してしまうようなトレースである。
 そして、ラッセルの苦労も、何も無い場所を歩くのとさほど変わりは無い。

 途中でかみさんに先頭を変わってもらったが、スキーの先端を雪面まで引き上げることができず、ブルドーザーの様に雪を押して歩く事しかできない。
 これじゃあラッセルは無理なので、今日は私がずーっと先頭で歩かなければならないようだ。
 と言うことは、白井岳の山頂まで達するのは殆ど無理だという事に他ならない。
かみさんではラッセルできない 他のパーティーが登ってきてくれたら良いのだけれど、今日は平日なのでそれは望み薄である。
 行ける所まで登って、後は引き返す。今日は自分の限界を試す山登りなりそうだ。
 微かなトレースのおかげで、二つ目のスノーブリッジの場所も直ぐに分かった。
 細いスノーブリッジだけれど、他には渡れそうな場所も無く、シーズン初めや終わり頃にはこのルートは通れなくなるのだろう。

 三つ目のスノーブリッジはその手前でトレースが完全に消えてしまったが、木の枝に赤いリボンが付いていたので、何とか場所は分かった。
 沢に向かって滑り降りると、小さなスノーブリッジを発見。
 これで無事に3カ所のスノーブリッジを渡ったので、後は白井岳に繋がる尾根に向かって高度を上げていくだけである。


ラッセル スノーブリッジ
白い森の中をひたすらラッセル 三つ目のスノーブリッジを渡る

 大まかなルートを示すポイントはGPSに落としてあるけれど、何処を登るかは自分で決めなければならない。
 三つ目のスノーブリッジを渡った先にちょっとした急斜面があった。誰かがそこを滑ったような跡もかろうじて残っている。
 そこを登らずに左に進む事もできたが、まずはその斜面にチャレンジする事にした。
急斜面の上にたどり着いた 登る角度が急になると、ラッセルの負担も大きくなる。
 一歩一歩ゆっくりと登って、何とかその上までたどり着いた。
 その先は細い尾根が続いていた。
 樹木も多くて、その隙間を縫うように歩かなければならない。
 尾根の下の方が歩きやすそうだけれど、せっかく標高を上げてきたのにまた下りる気にもなれず、我慢してそこを歩き続ける。
 小さなアップダウンも多い。
 途中で少し下った後、その先が急になっていて登れず、その横の斜面を斜めに進むことにした。
 ところが雪が深くて、傾斜も急になり、そのまま進むのが難しくなってくる。
 それじゃあ隣りの尾根との間の谷間を登ろうと思って一旦下りてみたが、そこはもっと雪が深くて、とてもじゃないがラッセルなどやってられない。
ひたすらラッセル 止む無く反対側の尾根を下に向かって登る形で、ようやく尾根の上に出る事ができた。
 この様な複雑な地形で、おまけに初めて登るような場所では、ルートの選択が本当に難しい。
 まるで迷路の中を歩いているようで、間違ったコースを進むとたちどころに行き詰ってしまう。
 そして時々、爆弾を投下されるときている。
 木々の上にたっぷりと積もった雪が、その重さに耐えかねたのか、それとも風に吹かれてバランスが崩れたのか、大きな塊となって落下した跡がそこら中にあるのだ。
 雪とはいっても、硬く締まった巨大な固まりの直撃を受ければ首の骨なんか簡単に折れてしまいそうだ。
 今日は風が強く、気温も上がってくるとのことなので、更にその危険は高まっている。
 しかし、気温が上がりそうな気配は全然感じられなかった。
 おまけに、登るに従って雲の面積が広がってきて、時折太陽の姿を消してしまう。
最後のラッセル 風も更に強まり、次第に上り続ける気力も失せてきた。
 前方に山の姿が見えるけれど、それが白井岳だろうか?
 その山頂はまだ遥か彼方である。
 ちょっとしたピークが前方に見えていたので、そこを今日の最終目的地と定めて、最後の気力を振り絞って登り始める。
 登りきった後は、風を避けるために、洞窟の様になったトドマツの枝の下に逃げ込む。
 地図を確認すると標高850m付近に来ているようだ。
 白井岳の山頂は標高1301mなので、やっぱり山頂はまだまだ遠かった。
 それでも歩いてきた距離自体は山頂までの半分にはなっていた。
 ここまで2時間半、一人でラッセルしながら良く登ってこれたものである。
 一息付いてそろそろ下りようかと思っているところに、私達のトレースの跡を若い男女の二人連れが登ってきたので驚いてしまった。
白井岳へ続く山の連なり 朝里岳の方が風が強いので、こちらから登ってきたとのことで、私達のトレースがあって本当に助かったと言ってもらえた。
 例によって、無茶苦茶なトレースだったけれど、人の役に立ったのなら苦労して登ってきた甲斐があるものだ。
 これが誰にも使われずに、また雪の下に消えてしまうのならちょっと寂しい気がする。
 もう少し登れば滑りを楽しめる斜面があると言われたけれど、天気もパッとしないし、私達はここから下りることにした。

 まずは最後に登ってきた急斜面を滑る。
 積もってから二日ほど経過している雪は、ずしりと重くて、スピードが全然でない。
 急な斜面でこれなのだから、緩斜面では全く滑る事ができない。
 結局下りでも、自分達のトレースを頼りにすることとなるのである。


本日のゴール   急斜面を滑る
ここが最終到達地点   雪が重たい

トレースの中を滑り降りる しかし、下る時にその中を滑るなんて全く考えてもいない無茶苦茶なトレースである。
 それでも、緩斜面をラッセルしながら下りるよりも、このトレースを使ったほうがまだましなので、苦労しながらもその中を下っていく。
 滑る楽しみが無いのならば、周りの風景を楽しむしかない。
 前回の迷沢山途中撤退と、とても似ているシチュエーションだけれど、森の風景はこちらの方が格段に美しいので、全く滑る場所がない不満は耐えることができる。


美しい森の風景
こんな風景が苦労を忘れさせてくれる

 スキー場側の山を見ると、森の中に何本ものシュプールが見えている。
 ダウンヒルコースからこちらの沢に向かって降りてくる人が結構いるみたいだ。
最後の急斜面 三箇所目のスノーブリッジの手前の急斜面まで降りてきた。
 ここを無理して登らなければ、全然違うルートで登る事になっていたかもしれない。
 その急斜面、せめて華麗に滑り降りようと意気込んだけれど、結局はへっぴり腰になって情け無い滑りで終わってしまった。
 スノーブリッジを渡った後の登りは結構きつかった。
 私はつぼ足で登ろうとしたけれど、トレースが固まっていないので、足がズボズボと埋ってしまうのだ。
 それでも、意地になってスキーを履いたまま登ってきたかみさんよりは楽だった様だ。
 その登った先は、スキー場側から下りてきた人達によって完全なスキーコースに変わってしまっていた。
 それを見ると、ここを必至にラッセルして登ってきた苦労は何だったのだろうと思えてしまう。

日射しを浴びながら昼食 その付近で昼食を食べることにした。
 いくらかは気温も上がってきているようで、寒さはあまり感じない。
 頭上の枝に乗っかっている雪の塊が落ちてこないかが心配だった。
 時々スキーヤーが滑り降りていく。
 皆「こんにちは!」と私達に声をかけてくる。
 バックカントリー愛好者の連帯感みたいなものだろうか。
 外人さんが「ナイスデイ!」と言って通り過ぎていったが、私達にはあまりナイスなデイではなかった気がする。

 食事を済ませて、私達もそのスキーコースを一気に滑り降りる。
 スピードが出過ぎて、二つ目のスノーブリッジでかみさんが転倒。
 朝にここを渡った時とは大きな違いである。


朝のトレースはスキーコースに変わっていた 二つ目のスノーブリッジ
朝のトレースはスキーコースに変わっていた 二つ目のスノーブリッジで転倒

スキー場に出てきた そうして最後はゲレンデへと出てきた。
 「やっぱりスキーを滑るのならスキー場のゲレンデの方が良いな〜」
 そう思えるような今回の白井岳であった。

 そして、朝里川温泉の宏楽苑でお風呂に入って帰宅。
 ここも良いお風呂だった。



スキー場の駐車場 三つ目のスノーブリッジ 860m地点
1:00 1:20
下り 0:50(休憩時間除く)
距離:3.0km 標高差:264m


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