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我が家のファミリー通信 No.59

そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014


去年初めて見に行った、旧住友奔別炭鉱石炭積み出しホッパーの建物を利用して開催された奔別アートプロジェクト2013。
今年もこのアートプロジェクトが会場を拡大して開催されると聞いて、何も予定の入っていなかった日曜日にドライブがてら見に行くことにした。


奔別炭鉱立坑櫓
旧住友奔別炭鉱のシンボル、立坑櫓

ガイドの説明を聞くまずは去年と同じ幾春別の奔別炭鉱会場へと向かう。
ちょうど10時からのガイドツアーが始まっていたので、そのツアーと一緒に回ることにした。
展示されている作品は炭鉱に関連したものが多く、去年の経験からも、説明を聞かなければ作者の意図が全く分からないものもが多いのである。

私は芸術に造詣が深い方ではないが、説明を聞いて初めて云々とうなずく様な作品ってどうなのかな〜と思ってしまう。
それでも私の場合は、アート作品よりも、普段は入ることのできない廃墟と化した炭鉱施設の内部を見られる事を楽しみに来ているので、それは大して気にしていない。

フロッタージュ作品が建物の魅力を隠してしまったしかし、石炭積み出しホッパーとして使われていた巨大な建物に足を踏み入れた瞬間、がっかりしてしまった。
この建物は、2列のコンクリートの柱がずらりと並んだ景観が魅力なのに、その柱の1列が赤い布によって完全に隠されていたのだ。
長さ100mと言う建物の大きさを利用した作品なのかもしれないが、それならば壁に沿って展示した方が、建物の素晴らしさと作品の魅力の両方が伝わる気がするのは私だけだろうか。

釈然としないまま、ガイドツアーの後ろについて歩いていく。
去年はこの建物の方々に小さな作品が展示されていて、宝探し的な楽しみも有ったのに、今回はこの赤い布と、もう1列の柱の間々に下げられた布のフロッタージュ作品だけ。
ガイドの方の説明には、作品の解説よりも、炭鉱の歴史の話しの方に聞き入ってしまう。

過去から現在へと続く足跡建物の外をあるている時に、かみさんがコンクリートの叩きの上に残された動物の足跡を発見した。
多分、コンクリートがまだ固まっていない時に、その上を犬かキツネが歩いてしまったのだろう。

選炭ホッパーが作られたのは昭和35年なので、この足跡もそれくらいの時期に付けられたものかもしれない。
過去から現在まで、その足跡は炭鉱の歴史を見続けてきたのである。
そう考えると、この会場での一番のアート作品はこの足跡ではないだろうか。


奔別炭鉱積み出しホッパー
水たまりに映る積み出しホッパー

二人で三人前を注文奔別会場を後にして、幾春別市街地にある更科食堂で昼食にする。
ここの食堂はそばが美味しいのだけれど、以前から不思議に思っていたのはここのお客さんはほとんどの人が2人前注文するのである。
それもラーメンと蕎麦、暖かい蕎麦と冷たい蕎麦、丼物と蕎麦といった具合で、組み合わせは様々。

炭鉱町独特の気質なのだろうかと色々考えた結果、今回は自分でもかけそばともりそばを注文してみた。
そうすれば理由が分かるだろうと思ったのだが、一緒に食べて美味しさが増す訳でもなく、疑問が解けないままで店を出てきた。

その後は北炭送電線鉄塔の道と名付けられた道道夕張岩見沢線経由で夕張を目指す。
途中の幌内線廃線跡にある唐松駅、万字線廃線跡の朝日駅にもアート展示があるので寄り道する。
唐松駅道路沿いでキノコの直売店を見つけ、かみさんの大好きな椎茸を格安で購入できて嬉しそうである。
地崎農園の直売所では私の大好きなブドウのポートランドを安く購入でき、おまけにくずジャガイモの無料詰め放題まであって、大満足。

鉄塔アートの方は、古い小さな鉄塔に旗を取り付けただけのもので「あれ?」って印象でだった。
それでも、普段は気に止めることもない鉄塔が、昔は産炭地と発電所を繋ぐ送電線網を築いていたことを知ると、立派な歴史遺産に見えてくるのである。

道道夕張岩見沢線沿線には、他にも万字炭山跡や、芸術家が多く住んでいたり美味しいパン屋もあったりする上美流渡地区など面白い場所が多い。
それらは以前、「良いところ」でキャンプした時に回っていたので、今回は時間も無く素通り。
お菊人形で有名な萬念寺はまだ入っていないし、紅葉ドライブを兼ねて改めて訪れたい場所である。

廃屋に見えてもまだ人が住んでいる峠を越えて夕張の街へと降りてくる。
美流渡付近では古い民家の廃屋が目だったけれど、夕張では巨大な建物が廃屋化していて、こちらの方がよりうら寂しさを感じてしまう。

大きな建物ほど廃屋化しているのが、ここの特徴だろう。
煙突に書かれた「夕張希望の丘」の文字が空々しく見える。

それでいて、本当の廃屋にしか見えない建物にはまだ人が住んでいて、何だかそれでホッとさせられる。
小さな店でソフトクリームを買ってから、アートプロジェクト最後の会場である夕張清水沢へと向かった。

旧北炭清水沢火力発電所の建物がその会場である。
建物の回りは産業廃棄物の処分場として使われているようだ。
旧住友奔別炭鉱石炭積み出しホッパーの周辺が次第に緑に覆われてきているのとは対照的である。
廃墟の美しさとしては奔別炭鉱の建物の方が断然勝っているのだが、こちらの火力発電所の方はまだ有効利用されているとも言えるだろう。

清水沢火力発電所私は勝手に、同じ夕張にある滝の上発電所の様なレンガ造りの建物を思い浮かべていたのだが、こちらの発電所はまるで要塞の様な無骨なコンクリート造りだった。
でも、これはこれで違った美しさがある。
窓ガラスの割れ具合など、映画のセットとして計算して作り上げたくらいに、微妙なバランスの美しさを醸し出している。

建物の内部も期待に反しない美しさだった。
この建物は平成3年まで火力発電所として機能していたそうである。
平成3年と言えば、私の中ではそんなに昔のことではない。
それでも20年以上も経てば、この様な廃墟になってしまうことに改めて驚きを感じてしまう。


火力発電所内部
内部の迫力は奔別の積み出しホッパーよりこちらの方が勝っている

火力発電所2階 ガラスの割れた窓
発電所の2階部分も素晴らしい空間だ 割れた窓ガラスさえアートの一部に思える

窓辺のききクマさんここには多くのアート作品が展示されていて、去年の積み出しホッパーでの宝探し的な楽しみも味わえた。
特に「ききクマさん」とのタイトルが付けられた小さなクマは、会場内に6体あって、親子連れで来ていた子供は、それを探して回るのがとても楽しそうだった。

インスタレーション作品とは、場所や空間全体を作品として体験させる芸術のことを言うらしいが、この火力発電所の建物は作品を飾る空間としては素晴らしいものである。
そこにアート作品が無かったとしても、私から見れば建物内のあらゆる場所に美しい空間が存在しているのである。

壁に開いた穴もアートである事務所として使われていた部屋の、机の引き出しの中に色とりどりの千羽鶴が納められていた。
それはアート作品ではなく、その状態のままで残されていたそうである。
煤ぼけた室内の中で、その原色の千羽鶴は立派なアート作品となっていた。

壁に開いた穴から見える緑の風景も、それだけで芸術作品である。
私が廃墟に魅力を感じるのは、そこにアート的な美しさがあるからなのだろう。
このアートプロジェクト、もっと会場を拡大して続けてもらいたいものである。

アートプロジェクト2014のアルバム 


事務室として使われていた部屋 映像よりも空間が素晴らしい
事務所として使われていた部屋がアートになる 映像よりも空間の方が素晴らしい

清水沢火力発電所内の美しい壁
この壁が写真をより美しく見せてくれる


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