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我が家のファミリー通信 No.44

初ハーフマラソン


 体重とコレステロール値を下げるためにウォーキングや自転車に取り組み、そして去年の夏頃からは本格的にランニングも始めた。
 私の走る目的はそれだけであって、マラソン大会に出場するつもりなど全く無く、周囲にもそう宣言していた。それ以外には、山スキーのための基礎体力を付けることを付加価値程度に考えていただけである。
 しかし、一冬越えて、体重は目標まで落とせ、コレステロール値は運動だけでは下がらないことに気が付き、基礎体力もそれなりに付いてくると、その後は走るキロ数とかタイムの短縮とかが自分の中での新たな目標となってくる。
 そうなると、必然的にどれくらいの力が付いたのかを試してみたくなり、カヌークラブのこうめさんに誘われるがままに余市味覚マラソンにエントリーすることとなったのである。
 その後は月に150〜200キロは走るようになって、6月からは20キロの距離にも何度かチャレンジ。タイムも、10キロ程度の距離ならばキロ5分30秒のペースで走れるようになり、頑張ればハーフマラソンで2時間を切ることも満更ではないと思えてくる。

青空が広がるマラソン当日 そうして迎えた余市味覚マラソン当日は、秋晴れの空が広がる絶好のマラソン日和。
 10時半スタートで受け付けは8時から始まる。
 あまり早く行っても時間を持て余しそうだと、受付時間ぎりぎりの8時に現地に着いたが、既に余市運動公園内の駐車場は満車で、周辺の少し離れた臨時駐車場へと誘導されてしまう。
 これから20キロも走るのだから駐車場の遠い近いは関係なさそうだけれど、いくら日頃から走っていても少しでも楽をしたい気持ちは変りようがなく、もっと早く家を出れば良かったと後悔することになる。

抽選に外れて果物はもらえず まずは総合体育館内で受け付けをする。
 参加賞のTシャツや果物、それに試食用果物までもらって荷物が一杯になった。
 事前の抽選で当選した人には受付時に箱入りの果物ももらえる。
 結構当たる確率が高いと聞いていたし、ここまで来る途中にも果物の箱を抱えて歩く人を沢山見ていたので、二人のうちのどちらかは何か貰えるだろう期待していたが、やっぱり我が家はくじ運が悪いようだ。

 いったん車まで戻って9時過ぎにスタート地点の陸上競技場に来ると、同じカヌークラブのT津さんと会ったので、荷物を一緒に置かせてもらうことにした。
 初めて出場するマラソン大会なので、走っている間は荷物はどうするんだろうとか、着替えをする場所はあるんだろうかとか、分からないことばかり。
スタートゲートで記念撮影 結局は両方とも体育館の中で事足りるのだけれど、テントを張っている人も結構いたので、天気の良い時はこれもありかもしれない。

 スタートまで時間があるので、入念にストレッチをしたり余市川の堤防の上を軽く走ったりする。
 何時もは20キロを走る前でも10分程度のストレッチで済ませているのに、準備運動のし過ぎで疲れてしまいそうだ。
 スタート地点へと移動する。
 ます最初に20キロの部のスタート。
 全体では1500名ほどの参加だが20キロの部のエントリーは約540名。
 30年近く前に札幌マラソンの10キロに出場したのが、私の唯一の大会出場経験だが、その時は参加人数も多くスタートラインを通り過ぎるまでにしばらく時間がかかっていた。
 これくらいの人数ならば殆ど同時スタートみたいなものだ。
 かみさんがやたらに緊張していてこうめさんに笑われている。
スタート前に 何しろ昨日の夜から緊張していて息子からも呆れられていたくらいなのだ。
 短距離レースのスタートならば緊張するかもしれないけれど、上位入賞を目指しているわけでもなく、何でそんなに緊張するのだろうと思えてしまう。
 スタート2分前になって隣に並んでいた人から突然「ホームページ見てますよ」と声をかけられた。
 過去には交差点で信号待ちをしている時に隣に並んだ車のドライバーから声をかけられて驚いたことがあるけれど、その時は車の屋根にアリーを積んでいたので直ぐに面が割れたのだろう。
 今回はランニングウェアに身を包んだ状態だったので、さすがにびっくりさせられた。

 そしてピストルの音と共に走り始める。
 さすがに最初はゆっくりと走るしかなかったけれど、競技場を出るころには直ぐに何時ものペースで走れるようになる。
 しかし、自分達だけならば「キロ5分30秒ペースかな」とか「今日はちょっと遅いな」とか直ぐに分かるのだけれど、回りに人がたくさんいるので、今のペースが速いのか遅いのかが良くわからない。
 ただ、周りのランナーを次々に追い越していくのでそのペースを守って走り続ける。
 最初の上り坂でかみさんが私の前へと出てきた。
 余市のハーフマラソンのコースは折り返し地点までずーっと登りが続くと聞いている。
 一緒に走っていても上り坂になるとスピードアップするかみさんなので、「俺のことは気にしないで先に行って」と言っておいたけれど、こんなに早くから置いて行かれるとは思っていなかった。

 5キロの部の折り返し地点を通過。
 時計を見て「えーと、5キロの半分だから2.5キロ、これを2キロに換算すると、えーと・・・」
 普段走っているコースでは、あそこの橋の上で2キロ、あの交差点で4キロとか、2キロおきに目印にしている場所があるので、時計を見れば直ぐにその日のペースが分かるのである。
 それが中途半端な2.5キロの距離では、走りながらでは頭の中で計算できない。
 T津さんからGPS機能の付いた腕時計を貸してあげると言われたのを断っていたのだけれど、これならば素直に借りておけば良かったと後悔した。

 早くも喉が渇いてくる。
 気温はそれほど上がってはいないようだけれど日差しが強いのが影響しているのだろうか。
 そんな時に最初の給水地点が現れた。
 少し前を走っているかみさんは水を取らずにそのまま通り過ぎる。私は紙コップに入れられた水を手にして、そのまま走りながら飲もうとしたが、上手く飲めずに危うく気管に水が入るところだった。
 テレビ中継されるマラソン大会のランナーの様には上手くいかないのである。

 追い越しも一段落して周りのランナーと同じようなペースになってきた。
 そんな時に後ろから、やたらに早い人達に一気に追い抜かれる。
 「あの人たちはどうして今までゆっくり走っていたんだろう」と疑問に思いながらしばらく走っていると、早くも折り返しを過ぎたランナーとすれ違う。
 「うわっ、トップの人ってこんなに早いんだ」と驚いたが、彼らは私達から5分遅れでスタートした10キロの部の出場者だったのである。
 その先で10キロの部の折り返し地点を通過した。
 2.5キロより5キロの方が1キロのラップタイムを計算しやすそうだけれど、暑さで頭が惚けているのでまたしても計算できない。
 私の目指しているペースはキロ5分30秒。それだと2キロで11分と計算しやすいので、偶数の距離標示も作ってほしいものだ。
 タイムは気にしないで現在のペースで走り続けることにした。ハーフの折り返し地点はまだまだ先である。

 かみさんの姿は既に見えなくなっていた。
 緩急の差はあるものの、上り坂が延々と続く。
 何時も走っている道でも途中で跨線橋などを3か所ほど超えるので、坂道には慣れているつもりだった。
 でも、跨線橋では上ったた後は必ず下りになるので、上り坂もそれほど苦にはならないけれど、こちらのコースはたまに下りはあるものの延々と上り坂だけが続くのである。
 海の近くからスタートして、折り返しは山の方に位置するので、上り坂が続くのは当たり前の話なのだ。
 その高低差は100m以上はあるだろう。
 それにしても初めて走る道は距離感がつかめない。5キロ地点の先は距離表示が何も無いので、スタートしてからの経過時間を見て、どれくらいの距離を走ったかを知るしかない。
 その時計のタイムが遅々として進まないのだ。

 ようやく2か所目の給水ポイントまでたどり着いて、今度は歩きながらゆっくりと水を飲んだ。
 折り返したランナーが走ってきた。今度こそハーフマラソンの折り返しを回ってきた人たちである。
 その中に混ざっていたこうめさんから「頑張って!」と声をかけられる。
 こうめさんの前に女性の姿はほとんどいなかったので、かなり上位の方を走っているみたいだ。
 沿道の人から「頑張って!もう少しで折り返しよ!」と声をかけられ気合を入れ直すが、走れでも走れども折り返しが見えてこない。
 「どこがもう少しなんだ〜」と愚痴りながら走っていくと、かみさんとすれ違った。
 それで「今度こそ折り返しは近いぞ!」と思ったが、それでもまだ折り返しは見えてこない。
 つまり、かみさんともかなり差を開けられていると言うことだ。
 そうしてようやく折り返し地点を回った。しかしここは本当の折り返しではなく、そっから少し走った先に10キロの表示がある。
 ここで時計を見て、結構速いペースで走ってきたことを初めて知ることができた。
 そうして次にハーフマラソン中間地点の表示があったのでそこで時計を見ると、ぎりぎりで1時間を切っていた。
 上り坂の続く前半で1時間を切っているのだから、これで目標にしていた2時間切りは間違いないと確信する。
 後はストライドを伸ばして坂道を駆け下りるだけである。
 ところが、私の前を走っている集団とはかなり間隔が開いていたのだけれど、その差が一向に縮まってこない。
 「こんな筈ではない。もっと急な下りになればスピードが上がるはずだ」と思ったけれど、やっぱりスピードが上がらない。
 それどころか、逆にスピードを上げたランナーから追い越される始末である。

 ここにきて、これはちょっとまずいかなと思えてきた。暑さのため、体力の消耗が激しいのかもしれない。
 いつの間にか汗も乾いてしまっていた。汗が出ないということは体温調節もできなくなることである。
 何とか給水ポイントまでたどり着いたところで紙コップを両手に持持ち、片方を飲み干した後、もう片方の水を頭の上に直接かけようとした。
 ところが何と、その紙コップには水が殆ど入っていなくて、頭の上にはポツリと水滴が落ちてきただけだったのだ。
 もう一度戻るわけにもいかないので、そのまま走り続ける。

 ここのハーフマラソンのコースは途中で脇道に逸れて、そこを往復して距離を調整している。
 その脇道へと曲がった。
 事前にT津さんから「心が折れるような上り坂がある」と聞いていたけれど、ここがそれらしい。
 まずは「折り返しまで800m」の看板を見て、そんなに長い距離を遠回りしなければならないのかと心が折れそうになった。
 そこでかみさんと再びすれ違う。
 先程すれ違った時とは表情がかなり変わっていた。
 私が「もうだめかもしれない」と声をかけると「私も〜」との返事が返ってくる。かみさんが走っている途中に弱音を吐くのを初めて見た。
 その先の急な上り坂を見て再び心が折れそうになる。
 それでも「そこを登って折り返したら次こそは下りだけになる」と考えながら必死になってその坂を上りきった。
 ところがその先で待ち構えていたのは下り坂だったのである。
 折り返しはその坂を下った先。つまり、折り返した後にもう一度ここまで登ってこなくてはならないのだ。
 いったい何度、心が折れそうになるのだろう。
 殆ど歩くようなスピードまで落ちながらも折り返し後のその坂をクリア。しかし、これで残っていた体力を殆ど使い果たしたような気分だった。
 坂を下りる途中にすれ違ったT津さんから「頑張れ」と声をかけられるが、既に笑顔で答える余裕も無くなっていた。
 かみさんとすれ違ったあたりで時計を見ると7分くらいは差が開いているようだ。
 私はもう2時間切りは諦めていたけれど、かみさんは多分2時間を切れるだろう。

 再び本来のコースへと戻ってきた。
 相変わらず汗は出なくて、指先にもしびれを感じてくる。これはもう完全な脱水状態かもしれない。後ろから来たランナーに次々と追い越されていく。ゴールまであと何キロなのだろう。
 それよりも、まずは給水地点までたどり着くことの方が当面の問題だった。
 ここまで頑張って走り続けたけれど、とうとう心が折れてしまった。
  それでも大きく手を振りながら競歩の様なスタイルで歩き続ける。そうして体力が回復したところで再び走り始めるけれど長続きはしない。
 沿道から「頑張って〜」と声をかけられるが、そんな励ましだけでは折れた心は元には戻らない。
 私が欲しいのは励ましの言葉よりもコップ1杯の水だった。
 沿道の自販機を見て、どんな時にでも小銭は持ち歩いた方が良いのだと思い知る。
 ようやく給水地点にたどり着いて水をがぶ飲みしたけれど、それだけではやっぱり体力はもとには戻らない。
 残り3キロの看板が現れる。
 私のベストラップのキロ5分ペースで走れば、まだ2時間は切れそうだけれど、それは到底無理な話だ。
 その辺りからは歩いたり走ったりの繰り返しとなる。
 回りはヨレヨレになったランナーばかりだけれど、私が追い越せるのは歩いている人だけで、その他はただひたすら追い抜かれるだけである。
 でも、私が歩いていても、走っている人との距離はそれほど開かない。
 私が走り始めたら直ぐにその差は縮まるけれど、追い越した後に歩いてしまうのは格好悪いので、追い越す手前で歩き始める。
ゴールへ向かって最後の直線 そんなペースで残り1キロの看板を通り過ぎた。
 その距離なら走り通せるかと思ったけれどやっぱりダメである。
 競技場に入るところでこうめさんが声援を送ってくれていた。
 まだゴールまでは200mくらい。「ダメだ〜歩きそうだ〜」と弱音を吐くと「歩いちゃダメ!」と叱咤される。
 意地になって残りの200mを走り切ってゴールイン。
 ゴール後に配られていたポカリスエットは私がこれまでに飲んだ飲み物の中で一番美味しく感じたのである。
 出迎えてくれたかみさんはすっかり消耗した様子で「もうマラソンなんか2度と走らない」と言っていた。
 タイムを聞くと1時間54分19秒、女子の部105人中17位の成績である。
 それでも一度歩いてしまって、後ろから来たおじさんに「もう少しだから頑張ろう」と励まされて、再び走り始めたのだとか。
 私のタイムは2時間8分56秒で40歳以上の部300人中210位と言う結果だった。
 私もかみさんも暑さにやられた他に、坂道の続く前半で飛ばしすぎたのが、これだけ酷く消耗した原因だったようである。
 こうめさんは女子の部4位の成績。さすがである。

潮を噴いたTシャツ こうして終わった私たち夫婦の初ハーフマラソンチャレンジ。
 完走するだけなら簡単だろうと甘く考えていたけれど、普段の練習の成果をそのまま出せないのが本番のレースなのかもしれない。
 自分の着ているシャツを見てびっくりした。潮を噴いて真っ白になっていたのだ。
 これだけ消耗するのだから、水分補給とか栄養補給、走るペースなど、もっと色々と気を配らないと良い結果を残せないのだろう。



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