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我が家のファミリー通信 No.39

手稲山で朝のお散歩


平和の滝駐車場 朝の5時前に平和の滝の駐車場に到着すると、曇り空なこともあってまだ辺りは薄暗かった。
 駐車場に他の車の姿は見えない。
 車から降りて準備体操をしていると、頭上の水銀灯がボッと音をたてて消えた。

 今日の日曜日の天気予報は曇りのち雨。
 かみさんは4時半から1時間のウォーキング、私は8キロのランニングと、何処にも出かける予定の無い時の、我が家の週末のパターンである。
 でもどうせ歩くのならば、同じ時間から手稲山に登って上で朝食を食べて降りてくる方が面白そうだ。
 それに、最近の毎朝のランニングやウォーキングの成果も確かめられるかもしれない。
 そう考えて、まだ暗いうちからここへやって来たのである。

 登山ガイドを見ると、平和の滝登山口から手稲山山頂までのコースタイムは3時間となっている。
 最近のランニングの成果に自信を持ち、家から毎日見上げている山ということもあり、2時間もかからずに登れるだろうと考えていた。
 5時に登り始めれば7時に山頂で朝食、下りは1時間半程度だろうから9時には帰ってこられる。朝の散歩に毛が生えた程度の山登りである。

熊が出そうな山道 薄暗い森の中を、かみさんの1キロ9分のウォーキングペースで歩いていく。
 最近、札幌周辺の山では熊の目撃情報が相次いでいて、手稲山周辺でも山麓のキャンプ場が閉鎖されたりしている。
 特に熊と遭遇しやすい時間帯は早朝なので、かみさんはそれをかなり気にしていた。
 実はこの数日前に手稲山のもう一つの登山ルートで熊の糞が発見されていることを、かみさんには内緒にしていたのである。
 そんなことを話すと、登るのは絶対に嫌だ言い始めるのは目に見えているのだ。
 でも、私だって内心はちょっと不安だった。
 ザックに付けた鈴の音だけでは心許なくて、テレビで見た知床の自然ガイドがやっていた方法を真似て、歩きながら「はっ、はっ」と大声を上げる。
 特に登山道の先がブラインドになっている場所では、自然と声が大きくなってしまう。
 でも、横を流れる琴似発寒川の水音が大きくて、私の声が本当に熊に届いているかは不安である。
 登山道沿いではトリカブトが爽やかな青い花を咲かせ、森の中ではオオカメノキが赤い実を付けている。
 何時もなら一つ一つ写真に撮りながら登るところだけれど、今日はタイム優先で登っているものだから、それらは下山の時に写すことにしてひたすら先を急ぐ。


山道 布敷の滝

険しい道 布敷の滝を過ぎると、それまでの緩やかな登りが次第に険しい道へと変わってきた。
 熊避けの声も、それまでの「はっ、はっ」から「は〜、ひ〜」と情け無い声に変化してくる。
 岩が積み重なったような登山道を必死になって登っていると、それはまだ序の口にしか過ぎなかった。

 通称「岩場」と呼ばれる場所に出てきた。
 これが自然の力で作られた場所だとは、その説明を受けたとしても直ぐには信じられないだろう。
 まるで何処かの石材店の土場で見かけるような、ゴロゴロと石が積み重なった風景である。
 柱状節理の巨大岩壁が崩れ落ちてできた場所らしいが、その時の様子を頭の中に思い浮かべようとしても、私の想像力では無理な作業だった。
岩場を登る そこを登るのもまた大変である。両手両足を駆使して登らなければならない。
 岩場の中に赤いペンキでルートが示されているので、それだけを頼りに登り続ける。
 後ろの方から「もう嫌!」と、かみさんの半ば切れかけた声が聞こえてきた。
 登るのも大変だけれど、転げ落ちそうな恐怖感にも苛まれているようだ。
 私も雪の急斜面ではそんな恐怖を何時も味わうけれど、ここでは滑落の心配も無いので恐怖感は全く無い。
 岩場の斜面をほぼ登りきったところで最初の休憩を取ることにした。
 座り心地の良さそうな石を見つけてその上に座ると、かみさんが「お願いだからあまり動き回らないで〜」と悲鳴をあげる。
 自分だけじゃなくて人の姿を見ても恐怖を感じるようである。


岩場で休憩 岩場に咲く花

険しい登りが更に続く 10分ほど休んで再び登り始める。
 ところが、終わったと思っていた岩場は樹木に囲われたその先にも、まだ延々と続いていたのである。
 体力も尽きかけて、先に続く岩場を見るとウンザリしてくる。
 朝飯を食べずに登るには少しハード過ぎる道だった。
 ようやくそこを登り終えたと思った頃に、霧雨が降り始める。
 午前中は雨の心配はないはずだったのに、これは予定外だった。
 雨具の用意はしているけれど、体中から汗が噴出しているような状況で雨具を着る気にはなれず、そのまま登り続ける。

ケルンに到着 そうして大きなケルンに到着。
 ここまで2時間、まずまずのペースで登ってこれたけれど、想像していたのとは随分違う道のりだった。
 後ろを振り返るとスキー場のリフトが目の前に見える。
 分かってはいても、頂上まで苦労して登ってきて、そんな風景を見るのはやっぱり嬉しくない。
 そこから更に林の中を進んでいくと、突然の様に車道に出てきて、その周りには放送局各社の電波塔がずらりと立ち並び、一気に現実の世界に放り出された気になる。
 まあ、冬の間はリフトやロープーウェイに乗って何度もやって来ている場所なので直ぐに馴染むことはできる。
 霧雨は止んだものの、風がかなり強い。
石狩湾の風景 ロープウェイの駅舎横から下界の風景を見下ろす。
 雲がかかっているものの、ここから見る札幌の街並みの風景には何時も圧倒させられる。
 そんな景色を楽しんでから後ろを振り返ると、そこを1人の男性が走っていた。
 登山口の駐車場には他に車も停まっていなくて、そしてかなり早いタイムで登ってきて、当然頂上には誰もいないと思い込んでいたので、その姿を見たときは思わず目が点になってしまった。
 でも、ここのスキー場の下までは車で来ることができて、そこから山頂までは舗装された道もあるので、そこにランナーがいたとしても何の不思議も無いのである。
 三角点のある手稲山の本当の山頂からの展望も楽しむ。
 ここからは札幌の市街地ではなく、その反対側の広大な山岳地帯の風景が見渡せる。
 手軽に登れる山の割にはその展望が素晴らしいのが手稲山である。


山頂からの風景

 強風を避けて朝食を食べれるような場所を探していると、今度は犬の散歩の人とすれ違った。
 リフトの降り口が、風も当たらず下も板張りで乾いているので、そこを使わせてもらうことにした。
リフトの降り場で朝食 眼下に札幌の街並みが広がる最高の場所である。
 今度は冬のスキー場の斜面を黙々と登ってくる人もいた。
 別のランナーがまた車道を走って登ってきた。
 さすがに市街地から手軽にこられる手稲山だと改めて感心してしまう。
 汗が冷えて寒くなってきたので雨具を羽織る。
 この「寒い」と言う感覚は、今年の夏になってから一度も感じたことの無いものだった。
 今日も朝から蒸し暑かったのに、身近に感じる山であっても、やっぱり山の上は山の気象なのである。


素晴らしい下界の眺め 山を下りるランナー

 食事を終えて8時に下山開始。
 再び霧雨が降り始めたが直ぐにそれも上がった。
 登ってくる時もそこで霧雨に降られたので、もしかしたらこの場所だけでずーっと降り続けていたのかもしれない。
登山道の脇に咲くアキノキリンソウ アキノキリンソウの花が登山道沿いを彩っている。
 登る時には花を楽しむ余裕も無かったが、下りはゆっくりと花を眺めながら歩けそうだ。
 と思ったが、ガレ場を降りる時は、その余裕もいっぺんに吹き飛んでしまう。
 両手を使ってよじ登ってきた岩場を降りる時は、手を後ろについて海老反りのような体勢で降りることになる。
 これならばはっきり言って、登る時の方が楽かもしれない。
 岩場まで降りてくると、私達が休憩したのと同じ場所で今流行の山ガール二人連れが休んでいた。
 「おはようございます!」と明るい声で挨拶してくれる。
 もう少し下ったところでは山おばさんの二人連れが休んでいた。
 こちらはおしゃべりするのに夢中で私達には気付く様子も無い。


下りも大変 岩場でびびりながら記念撮影

 次第に陽も射すようになってきた。
 曇りのち雨のはずが、これでは逆の天気である。
 木漏れ日に照らされる森の風景がとても美しい。
木漏れ日の森 次第に気温も上がってきたようで汗が吹き出てくる。
 次々と登ってくる人たちとすれ違うが、朝の時間帯でさえあれだけ汗をかいたのに、これから登るとどうなるのだろうと人事ながら心配してしまう。
 途中に湧き水の出ている場所がある。
 エキノコックスの恐れがあるので飲まないでと書かれた看板が立っている。
 その場所から湧き出しているのではなくて、湧き水がガレ場の石の下を流れてきて、そこで地上部に現れているのだろう。
 石に囲まれた穴の中を湧き水が流れ、まるで小さな井戸の様な感じである。
 手を浸けてみたが数秒も耐えられないくらいの冷たさである。
 そこでタオルを濡らして顔を拭くとひんやりとしてとても気持ちが良い。


美しい森の風景

オオカメノキの赤い実 トリカブトの花

美しい渓流 途中で沢にも降りてみた。
 清冽な流れが清々しい。
 誰もいなければ裸になって淵の中に飛び込みたいところだが、さすがにここではそれもためらわれる。 
 カーテンの様に堤体を流れ落ちる水の姿は美しいが、その水からは微かに泥臭い臭いが漂ってきた。
 先ほどの美しい沢水に感動した場所と少ししか離れていないのに、この様な構造物は川を汚すものだと改めて思い知らされた。
 そうして10時過ぎに駐車場に到着。
 登りとほぼ同じ時間がかかっていた。
 最後に駐車場横の平和の滝を見学。
 この滝を見るのも初めてだったけれど、我が家から直ぐの場所にこれだけ自然に恵まれた場所があったとは新しい発見である。
ちょっとハードだったけれど、楽しい朝の散歩だった。

2010/9/5


平和の滝


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