朝の5時前に平和の滝の駐車場に到着すると、曇り空なこともあってまだ辺りは薄暗かった。
駐車場に他の車の姿は見えない。
車から降りて準備体操をしていると、頭上の水銀灯がボッと音をたてて消えた。
今日の日曜日の天気予報は曇りのち雨。
かみさんは4時半から1時間のウォーキング、私は8キロのランニングと、何処にも出かける予定の無い時の、我が家の週末のパターンである。
でもどうせ歩くのならば、同じ時間から手稲山に登って上で朝食を食べて降りてくる方が面白そうだ。
それに、最近の毎朝のランニングやウォーキングの成果も確かめられるかもしれない。
そう考えて、まだ暗いうちからここへやって来たのである。
登山ガイドを見ると、平和の滝登山口から手稲山山頂までのコースタイムは3時間となっている。
最近のランニングの成果に自信を持ち、家から毎日見上げている山ということもあり、2時間もかからずに登れるだろうと考えていた。
5時に登り始めれば7時に山頂で朝食、下りは1時間半程度だろうから9時には帰ってこられる。朝の散歩に毛が生えた程度の山登りである。
薄暗い森の中を、かみさんの1キロ9分のウォーキングペースで歩いていく。
最近、札幌周辺の山では熊の目撃情報が相次いでいて、手稲山周辺でも山麓のキャンプ場が閉鎖されたりしている。
特に熊と遭遇しやすい時間帯は早朝なので、かみさんはそれをかなり気にしていた。
実はこの数日前に手稲山のもう一つの登山ルートで熊の糞が発見されていることを、かみさんには内緒にしていたのである。
そんなことを話すと、登るのは絶対に嫌だ言い始めるのは目に見えているのだ。
でも、私だって内心はちょっと不安だった。
ザックに付けた鈴の音だけでは心許なくて、テレビで見た知床の自然ガイドがやっていた方法を真似て、歩きながら「はっ、はっ」と大声を上げる。
特に登山道の先がブラインドになっている場所では、自然と声が大きくなってしまう。
でも、横を流れる琴似発寒川の水音が大きくて、私の声が本当に熊に届いているかは不安である。
登山道沿いではトリカブトが爽やかな青い花を咲かせ、森の中ではオオカメノキが赤い実を付けている。
何時もなら一つ一つ写真に撮りながら登るところだけれど、今日はタイム優先で登っているものだから、それらは下山の時に写すことにしてひたすら先を急ぐ。
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