昼食は西興部村で食べるつもりだった。
雪景色を楽しみながら快調に車を走らせる。
しかし道路の路面ははほぼアイスバーン状態。今シーズンに購入したばかりの新品スタッドレスタイヤとは言えども、何処まで信頼して良いのかはなかなか分からない。気温が低いので、その分だけはグリップ力も落ちずにすみそうだ。
山を越えると西興部村の市街地が見えてきた。周りを完全に山に囲まれた小さな街である。
しかしその中に、やたらに豪華な建物が沢山建っているのに驚かされる。
森の美術館「木夢」、マルチメディア館「IT夢」、道の駅フラワーパーク「花夢」、そして昼食を食べる予定のホテル「森夢」、その他の福祉施設なども立派な外観である。
こんな小さな、山里とも言えるくらいの村で、どうしてこれだけの立派な公共施設を作ることができるのだろう?
村の何処かに放射線廃棄物でも埋められているんじゃないかと本気で考えてしまった。それくらいの補助金をもらわないと、こんな施設は造れない筈である。
昼食はホテル「森夢」の中にあるレストラングリーンリーフで「村長ラーメン」を食べた。
美味しいラーメンだったけれど、それにしても立派なホテルである。どうやったら
この村で経営が成り立つのだろうか?
「何で?どうして?」と疑問が次々と湧いてくる中、キツネにつままれた気分で西興部村を後にした。
滝上町から西興部村、興部町へと走る道すがら、農家の廃屋がやたらに目に付いた。
廃屋好きのぼくなので、雪に埋もれたそれらの廃屋にどうしても目が向いてしまうの。
雪の重さで屋根が落ちてしまったものから、まだ人が住んでいそうに見えるものまで様々である。
後者の方は、道路からの入り口が除雪されているかどうかで見分けるしかない。
古い廃屋には開拓者の苦労が偲ばれるが、新しい廃屋は高齢化したそこの住人が息子夫婦の家に移り住んだとか、そんな理由によるものが多いのだろう。
真っ白な風景の中に屋根に雪が積もったままポツンと取り残されている廃屋は、まるでおとぎ話の一シーンに出てくるような美しさである。
海に近づくにしたがって、空は再び鉛色へと変わってきた。
興部町の手前でチーズ工房らしき建物を見つけたけれど、売店らしきものが見当たらない。
道の駅まで行けば何か売っているだろうと考えそのまま先を急いだけれど、興部町の道の駅の売店は冬期間は営業していないようだ。
観光客も立ち寄らないような冬の道の駅は、ある種の物悲しささえ漂っている。
何の収穫も無いまま興部町を通り過ぎ、雄武町の日の出岬に寄り道する。
車のドアを開けるのにも苦労するような猛烈な風が吹いていて、かみさんは車から降りようともしない。
鉛色の空と鉛色の海、カメラを向ける気にもならない風景しか広がっていないけれど、ぼくには流氷キャンプ適地調査と言う陰の目的もあったので、長靴に履き替えて車を降りた。
岬の展望台ラ・ルーナのトイレは冬でも使え、駐車場も除雪されているので、流氷キャンプには最高の場所かもしれない。
でも、その季節には観光客も沢山やってきそうで、さすがにそんなところでテントを張る気にはなれないだろう。
岬から国道に戻ろうとしていると、目の前の道路に鹿が飛び出してきたので、そのままゆっくりと鹿の後ろを付いていく。
するとその鹿、国道に出る赤信号の手前で立ち止まって左右を確認しているのには大笑いしてしまった。
道内の他のエゾシカにも見習ってもらいたいものである。
雄武町の道の駅にも立ち寄ったけれど、やっぱりここでも何も売られていなかった。
道の駅の隣りに出塚食品の店舗があったので、そちらの方に入ってみる。
ぼくは知らなかったけれど、かみさんの話ではかまぼこで有名な店だそうである。
かまぼこ屋かと思ったら何故か焼きたてパンも置いてあったので、明日の朝食用にクロワッサンとくるみパンを購入した。
このパン、店内で焼かれているようだけれど、美味しくてお勧めである。
オホーツク海沿いの道を車を走らせる。
雲が低く垂れ込める暗い空、荒々しい波が打ち寄せる海岸線、地吹雪で飛ばされて来た雪が舗装の表面を這うように流れていく。
「これが冬のオホーツクの本当の姿だよな〜!」とかみさんに言ってみたが、さすがのぼくも気持ちが沈んできていた。
こんな天気の時は、地元の人達は家の中でじっとしているのだろう。人影も殆ど見えない。
交通量も少なく、道を走っているのもトラック程度だ。まして、観光目的で走っているのは、我が家だけかと思われる。
再び雪が激しく降り始め、堪らずに道の駅「マリーンアイランド岡島」に逃げ込んだ。
入り口には雪が積もったままなので「まさか閉鎖中?」と驚いたが、除雪が間に合っていないだけのようだ。
もちろん他にお客さんの姿は無く、従業員が暇そうにレジの隅で話しこんでいるだけだった。
ここには売店もあったが、枝幸の道の駅だけあって売られているのは海産物ばかり。さすがにチーズは置いていなかった。
100円のインスタントコーヒーを飲みながら一服。
ここの道の駅の営業時間は午後4時まで。ぼくも何とかその時間までには宿に入りたいので、再び先を急いだ。
今日の宿泊は浜頓別町のファームイン「ぶんちゃんの里」である。
山の方に入った場所にある農場らしいので、この風と雪の中、果たして宿までたどり着けるのかが心配になってきた。
雪も少し小降りになってきたので、枝幸町を過ぎたところでウスタイベ千畳岩に寄り道する。岬の先端まで除雪されているようなので、ここも流氷キャンプの候補地になりそうだ。
先端まで行こうとしたら吹き溜まりで道が塞がっていたので、慌ててバックする。こんなところで雪に埋ったら大変なことになってしまう。
雪も完全に止んで、無事に宿までたどり着ける目途が付いたので、ようやく心に余裕が生まれてきた。
そうすると、枝幸神威岬の荒々しい冬の風景さえ、とても美しいものに感じられる。
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