9時からの開会式が始まり、その最後に全員で準備運動をする。
ラジオ体操でもするのかなと思っていたら、コナミスポーツのインストラクターがステージに上がって、いきなりエアロビクスが始まった。
数千人の参加者が、音楽に合わせてエアロビクスをしながら「イェーイ」と歓声を上げる。
このようなイベントに初めて参加する私は、「な、何なんだ、この乗りは!」と驚いてしまったけれど、参加したからには思いっきり楽しんだ方が良いことをこの時に理解したのである。
そして10時に、4時間耐久レースが始まる。
一周4.2キロのコースを、3〜10人のチームで4時間で何周できるかを争う。一周毎に交代しても良いし、一人で4時間乗り続けても良い。
スタート方式は、カーレースのようなローリングスタート。ローリング中には、私達のいるAピットまで回ってこないので、場内放送でその様子を知るしかない。
アナウンサーが「間もなくスタートになりますが、大変危険ですので絶対にコース上には出ないでください。」と、繰り返ししゃべっている。
いよいよスタート。
しばらくして、トップ集団がもの凄い速さで私達の目の前を通過していった。それからやや遅れて、団子のようになった集団が次々と通り過ぎていくが、それもやっぱり凄いスピードである。
「これってママチャリレースじゃなかったの?」
タイヤサイズは26インチ、3段変速までなどと、参加する自転車の仕様は細かく定められているけれど、早いチームはその許される限度内で改造も加えているようだ。
クラブのAチームのママチャリも、ギア比を改造しているとのことだ。
そんな改造されたママチャリに現役の競輪選手が乗ったりすると、それはもうママチャリではなく完璧なロードレーサーである。
ハンドルの前に付いているカゴだけが、唯一のママチャリの証だ。
400チーム以上が参加しているので、全部が通過し終わるのにやや暫く時間がかかる。
さすがに後の方になると、いかにもママチャリレースらしい、のんびりとした風景に変わってきた。
仮想部門のエントリーもあるようで、見ている人達の笑いを誘っている。
そのうちに第一走者が交代のためにピットインして来る様になると、のんびりとした空気は一気に消し飛んでしまった。
まるでコンマ何秒を争っているかのように乗り手を交代して、直ぐにピットから出て行く。
ピットへ入る自転車、出て行く自転車、その横を猛スピードで追い越していく自転車、これで事故が起こらないのかと思っていたら、やっぱり時々衝突シーンも繰り広げられる。
何だか、転んで怪我をしないか、そちらの方が心配になってきた。
いよいよ私の順番が回ってきた。
前の走者は女性だったので、ピットインと同時にサドルを一番上まで引き上げ、それに飛び乗ってスタート。
私達のピット前は下り坂になっていて、しかも追い風も吹いているので、一気にトップスピードまで上がる。
レースに出るのが嫌だ嫌だと愚図ってはいたけれど、最近は朝に十数キロ程度のロードワークをしているし、帰宅する際は駅から自宅までの1.5キロを全力で自転車をこいで今日のレースに備えてきたので、少しは走りに自身を持っていた。
次々と前の走者を追い抜いていく。
時折、猛スピードで追い抜かれることはあるけれど、そんな人達は私自身の勝負の対象外なので、全く気にもならない。
私のターゲットはあくまでも、ヨタヨタと前を走っている遅そうな自転車だけなのである。
各チームのピットが並ぶ場所まで戻ってくると、まともに向かい風が吹き付けてきた。
雨は止んだけれど、風の方は次第に強くなってきているようだ。
スピードはガクッと落ちたけれど、意地になってトップギアのままそこを走り抜ける。
ピットだけでAからNまであって、私達のAピットは一番端。人が大勢いるピットの前は颯爽と走り抜けたいところだけれど、向かい風と疲労で、ぐしゃぐしゃの顔になって走ることになる。
そしてようやくAピットの前までたどり着いて、次の走者に自転車を渡した時は、立っている力さえ残ってはいなかった。
ヨロヨロと芝生の上まで歩いていき、そこにバタリと倒れこんだ。
運動した後にこんな状態になるなんて、高校生の頃の部活以来かも知れない。
それだけ激しい運動を、50を過ぎた体でしていたら、翌日はどんな状態になるのか。慌てて起き上がって、太腿の筋肉をほぐす。
T津さんがマッサージをしてくれて、少し楽になったところで自分のタイムを確かめた。
9分50秒。
去年は皆、一周8分台で走ったと聞いていたし、自分としても精一杯の走りをしたので、私のタイムも当然8分台だと思っていたら、予想以上の遅さである。
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