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我が家のファミリー通信 No.34

ママチャリレース参戦


 モエレ沼公園を会場にして行われるママチャリ耐久リレー大会、私の入っているカヌークラブではこのレースに毎年参加していて、今年は私も初めてそのメンバーに入れられてしまった。
 「入れられてしまった」と、後ろ向きな表現になっているのは、毎年の参加者から、そのレースの過酷さを散々聞かされていたからである。
 一度このレースに出ただけで「私はもう絶対に出ない」と言い張っている人も、少なくはない。
 ただでさえ乗り気でないのに、当日の天気は雨の予報になっていて、ますます気持ちが萎えてくる。
モエレ沼公園に到着 駐車場も大混雑となってレース終了後に公園を出るまで2時間もかかると聞かされ、誘われた時に軽々しく「出ます」と返事してしまったことを悔やんだが、もう後の祭りだった。
 混雑を避けるため、車はモエレ沼公園の外に停めることにして、雨に備えてテントも用意する。駐車場所から公園内の集合場所まで2キロもあるので、そのテントを大型ザックに詰め込んで背負って歩く。
 朝8時に着いたのに、既にコース内の各ピットにはテープやテントがびっしりと張られていた。
 私達のチームはAピットで、入り口からはもっとも遠い場所だ。これなら、公園内の駐車場に停めたとしても、歩く距離は大して変わり無さそうである。
 既にAピットにも、所狭しとタープが張られていて、我が家のテントなど入る隙間も無い。
 雨は既に止んでいたけれど、もしもの時に備えて一番奥にテントだけ立てておくことにする。


既にテントが立ち並ぶ すき間無くテントやタープが張られている

準備エアロビクス 9時からの開会式が始まり、その最後に全員で準備運動をする。
 ラジオ体操でもするのかなと思っていたら、コナミスポーツのインストラクターがステージに上がって、いきなりエアロビクスが始まった。
 数千人の参加者が、音楽に合わせてエアロビクスをしながら「イェーイ」と歓声を上げる。
 このようなイベントに初めて参加する私は、「な、何なんだ、この乗りは!」と驚いてしまったけれど、参加したからには思いっきり楽しんだ方が良いことをこの時に理解したのである。

 そして10時に、4時間耐久レースが始まる。
 一周4.2キロのコースを、3〜10人のチームで4時間で何周できるかを争う。一周毎に交代しても良いし、一人で4時間乗り続けても良い。
 スタート方式は、カーレースのようなローリングスタート。ローリング中には、私達のいるAピットまで回ってこないので、場内放送でその様子を知るしかない。
 アナウンサーが「間もなくスタートになりますが、大変危険ですので絶対にコース上には出ないでください。」と、繰り返ししゃべっている。
 いよいよスタート。
仮装も登場 しばらくして、トップ集団がもの凄い速さで私達の目の前を通過していった。それからやや遅れて、団子のようになった集団が次々と通り過ぎていくが、それもやっぱり凄いスピードである。
 「これってママチャリレースじゃなかったの?」
 タイヤサイズは26インチ、3段変速までなどと、参加する自転車の仕様は細かく定められているけれど、早いチームはその許される限度内で改造も加えているようだ。
 クラブのAチームのママチャリも、ギア比を改造しているとのことだ。
 そんな改造されたママチャリに現役の競輪選手が乗ったりすると、それはもうママチャリではなく完璧なロードレーサーである。
 ハンドルの前に付いているカゴだけが、唯一のママチャリの証だ。
 400チーム以上が参加しているので、全部が通過し終わるのにやや暫く時間がかかる。
 さすがに後の方になると、いかにもママチャリレースらしい、のんびりとした風景に変わってきた。
 仮想部門のエントリーもあるようで、見ている人達の笑いを誘っている。
ピットでの交代も大変 そのうちに第一走者が交代のためにピットインして来る様になると、のんびりとした空気は一気に消し飛んでしまった。
 まるでコンマ何秒を争っているかのように乗り手を交代して、直ぐにピットから出て行く。
 ピットへ入る自転車、出て行く自転車、その横を猛スピードで追い越していく自転車、これで事故が起こらないのかと思っていたら、やっぱり時々衝突シーンも繰り広げられる。
 何だか、転んで怪我をしないか、そちらの方が心配になってきた。

 いよいよ私の順番が回ってきた。
 前の走者は女性だったので、ピットインと同時にサドルを一番上まで引き上げ、それに飛び乗ってスタート。
 私達のピット前は下り坂になっていて、しかも追い風も吹いているので、一気にトップスピードまで上がる。
 レースに出るのが嫌だ嫌だと愚図ってはいたけれど、最近は朝に十数キロ程度のロードワークをしているし、帰宅する際は駅から自宅までの1.5キロを全力で自転車をこいで今日のレースに備えてきたので、少しは走りに自身を持っていた。
颯爽とスタートしたが・・・ 次々と前の走者を追い抜いていく。
 時折、猛スピードで追い抜かれることはあるけれど、そんな人達は私自身の勝負の対象外なので、全く気にもならない。
 私のターゲットはあくまでも、ヨタヨタと前を走っている遅そうな自転車だけなのである。
 各チームのピットが並ぶ場所まで戻ってくると、まともに向かい風が吹き付けてきた。
 雨は止んだけれど、風の方は次第に強くなってきているようだ。
 スピードはガクッと落ちたけれど、意地になってトップギアのままそこを走り抜ける。
 ピットだけでAからNまであって、私達のAピットは一番端。人が大勢いるピットの前は颯爽と走り抜けたいところだけれど、向かい風と疲労で、ぐしゃぐしゃの顔になって走ることになる。
 そしてようやくAピットの前までたどり着いて、次の走者に自転車を渡した時は、立っている力さえ残ってはいなかった。
 ヨロヨロと芝生の上まで歩いていき、そこにバタリと倒れこんだ。
 運動した後にこんな状態になるなんて、高校生の頃の部活以来かも知れない。
 それだけ激しい運動を、50を過ぎた体でしていたら、翌日はどんな状態になるのか。慌てて起き上がって、太腿の筋肉をほぐす。
 T津さんがマッサージをしてくれて、少し楽になったところで自分のタイムを確かめた。
 9分50秒。
 去年は皆、一周8分台で走ったと聞いていたし、自分としても精一杯の走りをしたので、私のタイムも当然8分台だと思っていたら、予想以上の遅さである。


プレイマウンテンをバックに

 今回、クラブからは2チームをエントリーしていて、精鋭を揃えたAチームと、昔は多分精鋭だったような人達を集めたBチーム。私はもちろんBチームである。
 Aチームタイムを見てみると、さすがに全員が8分台で走っている。それに比べてBチームは、殆どが10分台のタイムだ。
 私としては、この差がどうも納得できなかった。
 精鋭揃いのAチームと書いたけれど、見かけ上はどうしても精鋭とは思えないような人もその中には含まれている。それなのにやっぱり、皆が8分台で走っているのだ。
 それまでの小さな自信が、ガタガタと崩れ落ちていく。

Mさん BチームのMさんが、私のタイムを5秒上回るタイムで戻ってきた。
 「そ、そんなバカな。」
 Mさんの正確な年齢は知らないけれど、私よりかなり年上であることだけは確かである。
 何時もおっとりとしていて、スポーツマンのようなイメージも感じさせないMさん。
 最後の自信の欠片さえも消し飛んでしまい、それと同時にMさんに対する対抗心がメラメラと私の心の中で燃え上がってきたのである。

 10人で交代で走り、平均タイムが10分なので、一度走れば次の順番まではかなり間がある。
 ピットの前のプレイマウンテンに登ってみた。
 彫刻家イサム・ノグチの設計によるモエレ沼公園、工事中に何度か訪れていたけれど、全体が完成してから訪れるのは今日が初めてだった。
 とても素晴らしい公園なのだけれど、休日に公園を訪れるても、どうしても仕事の延長のような気がするので、敢えて足を向けずにいたのである。
 頂上からの眺めを楽しんで、強風で吹き飛ばされそうになりながら下まで降りてくる。


プレイマウンテンからの眺め

 2回目の順番が回ってきた。
 体も慣れてきて、2回目の方がタイムが早くなるだろうと思っていたのに、スタート直後から体が重たく感じられる。
呼吸も荒くなってくる。
 このペースでは10分をオーバーしそうだと必死になって頑張るものの、上り坂ではとうとう堪らずに、ギアを1段落としてしまった。
 そんな状態でも、女性チャリダーにだけは負けたくなくて、意地になって追い越しをかける。
 ピット前の一番向かい風のきつい箇所へとさしかかった。
 前を走る遅い自転車を抜こうかと思ったけれど、そんなパワーも既に失われ、風除け代わりにしてその自転車の直ぐ後を付いて走る。
倒れる人達 風が弱まったところで一気に抜き去り、ピットに到着。
 またしても、そのまま倒れこんでしまった。
 他のメンバーも、ピットに戻ってくるなり、皆そのまま倒れてしまう。
 誰かが、「高い参加料を払って、何でこんな辛いことをしなければならないんだ?」とこぼしていたけど、私も「何でそこまで一生懸命走らなければならないの?」と思ってしまう。
 別に優勝を狙える位置にいるわけでも無いのに、いい歳をした大人達ががむしゃらになって自転車をこぎ、そして力尽きて芝生の上に倒れこむ。
 普段の生活の中でこれだけ一生懸命になれることって、そうは無いだろう。
 そんなチャレンジが楽しくて、皆が夢中になっているのかもしれない。

レース風景 しかし、私には明確な走る目的ができていた。それはただ、Mさんに勝つことだけ。
 2回目のタイムは1回目と同じ9分50秒で、Mさんより2秒早かったけれど、そんなタイム差では全く満足できない。
 年齢差を考えれば、最低でも10秒以上の差をつけなければ、勝ったことにはならないのだ。
 AチームのIさんは、「あと少しで8分を切れたのに」と悔しがっているし、前回のタイムを更新して喜んでいる人もいるし、それぞれが自分自信の目標の中で頑張っていた。

 今回の優勝チームは4時間で34周、回っていたが、一般的なチームでは20周台でレースを終了する。
 3順目では順番が変更になって、Mさんが先に走ってその後を私が走る。
 残り時間も少なくなり、私の次の人でレースは終わりになりそうだ。
 前の2回は最初から全力で漕いでいたけれど、コースの最初の方は平坦で風も当たらず、ここでいくらスピードを上げても、それほどタイムに差はつかない。
 ポイントは、後半の上り坂や向かい風の部分で如何にタイムをロスしないように走れるかである。
 3回目にしてようやくそれに気が付き、Mさんから自転車を引き継いだ後は90%の力で自転車を走らせた。

Mさんと交代 そのまま最後の走りへ

 そのまま上り坂に差し掛かっても呼吸も乱れず、スピードもそれほど落ちない。
 急に体が軽くなったような気がした。風を切って自転車が走る。
 向かい風も気にならず、自分の方が風になったような感覚である。
 最後に残った力、全てを吐き出すようにペダルをこいで、最終走者に自転車を引き継いだ。
ゴールイン! 芝生の上に倒れ込んだままでタイムを聞くと、9分12秒で、ついにMさんを12秒上回ることができたのである。
 「やった〜!」
 それを聴いた瞬間、体を被っていたこれまでの疲れが一気に吹き飛んで、目の前には青い空だけが広がっていた。

 後日、去年参加した人の話を聞くと、その時もMさんはBチーム上位のタイムを記録しながら、休んでいる間は読書をしながら飄々と過ごしていたそうである。
 何年後かに私がMさんと同じ年齢に達したとき、果たしてMさんと同じタイムで走ることができるかどうか、全くそんな自信は無いのである。

2009/06/21

成績(成人の部)360チーム中
Aチーム  24位
Bチーム 152位


頑張ったチャリダー達



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