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我が家のファミリー通信 No.29

穴滝探訪


 山スキーシーズンを間近に控えて、少し長距離を歩くトレーニングをしておこうと考え、小樽の穴滝を見に行くことにした。
 朝から素晴らしい青空が広がる小春日和の一日。
 こんなに良い天気で、しかも山スキーのトレーニングも兼ねるのならば、塩谷丸山に登るのがベストな選択だったかもしれない。
 それをわざわざ「穴滝」などという如何にも薄暗そうなイメージしか湧いてこない場所に行こうとするのだから、自分でもどうかと思ってしまう。
 奥沢水源地を通り過ぎ、天神浄水場の手前から道幅の狭い林道へと入っていく。その林道入り口には「穴滝4km」と書かれた小さな看板が立っている。
 その距離なら十分に歩くことができるけれど、車で走れるところをわざわざ歩く気にはなれないのだ。トレーニングを兼ねると言っておきながら、楽をすることしか考えてない自分である

ゲート前駐車場 狭い道を、対向車が来ない事を願いながら車を走らせる。
 でも、道路上の水溜りに氷が張ったままなので、その可能性は低そうだ。
 1km程のところで林道は二股に分かれ、そのどちらもゲートで塞がれていた。ゲートの手前の駐車スペースは、ここへ来るまでの道が狭すぎたのでとても広く感じてしまう。
 予想に反して、そこには1台の乗用車が停まっていた。
 運転手は見当たらなく、少なくとも昨日からはそこに停まってままのはずだ。
 ここから泊りがけで山に登るような場所でもないだろうし、何だか薄気味悪い。

林道ゲート ザックを背負って林道を歩き始める。
 かみさんから「荷物も無いのに何でそんな大きなザックを持ってきたの?」と突っ込みを入れられるが、一応はトレーニングなのだから、山スキーの時と同じ装備でなければならないのだ。
 突っ込みを入れておきながら、大きいのを良い事に「私のフリースも入れておいてくれる?」などと頼み込んできて、私のザックは衣類だけで膨れ上がってしまった。
 林道はずーっと緩やかな上りが続いていて、普段から登山には縁の無い私なので、これだけでも十分なトレーニングになりそうだ。

 小樽ならばまだ紅葉も残っているかもしれないと少し期待していたけれど、既に紅葉は完全に散ってしまい、裸の木々が立ち並ぶだけの味気ない風景が広がっているだけだった。
 そんな一切の色が消えてしまったような風景の中で、カラマツだけが今が盛りのような見事な黄葉に染まっていた。
 カラマツの黄葉は太陽の光に鮮やかに照り映える。
 澄み渡った青空に向かって真っ直ぐに伸び上がる黄葉したカラマツの姿は最高に美しい。
 今の季節の私の好きな風景である。


林道を歩く カラマツの黄葉

 林道に沿って流れる勝納川が、遥か下の方に見えている。
 対岸の山の斜面には日が当たらないので、それが暗い背景となり、太陽の光を一杯に浴びたこちら側の木々の枝が光り輝いているようだ。
 逆光に透けるツルアジサイの冬花、実を全体にまとった名も知らぬ樹木、冬枯れの森がとても生き生きとしたものに見えてきた。


光溢れる森

名の知れぬ木 ツルアジサイの枯花

 そんな風景に見とれていると、林道を一台の軽自動車が登ってきた。
 横に避けてその車をやり過ごす。
 運転していた男性が頭を下げて通り過ぎていく瞬間、その車の中を素早く観察したけれど、これから仕事に向かう人にはどうしても見えない。
 多分、ゲートの合鍵を何処かで手に入れて、山に入ってきた目的は今次期ならばキノコとしか考えられない。
 私も、自宅の庭に突然発生したエノキタケを食べたところ、すっかりその美味しさにはまってしまって、今回は穴滝探訪と山スキートレーニングのほかに、実はエノキタケ採取と言ったもう一つの目的もあったのである。
勝納川の流れ 周りの美しい風景を眺め、梢を飛び交う鳥達の姿にも目をやり、そして道沿いの木の根元にもしっかりと視線を注ぐ。
 単調な林道歩きのはずが忙しくて困ってしまうくらいだ。
 残念ながら、林道沿いは日当たりが良すぎて、キノコの生えてきそうな雰囲気は全く無かった。

 途中で林道が勝納川を渡る。
 苔むした岩の間を流れる渓流がとても美しい。
 でも、この時は、それが勝納川に流れ込む支流のひとつだとばかり思っていた。
 しばらく歩いていくうちに、それが勝納川本流であることに気が付く。
 まるで小川のようなその流れに、この先の穴滝への期待も少し萎んできてしまった。

 やがて林道から分かれる場所までやってきた。
 そこには「穴滝0.5km」の看板が出ている。
 その看板の横に、先ほど私達を追い越していった軽自動車が止まっていた。
 きのこ採りかと思っていたが、もしかしたら私達と同じく穴滝が目的なのだろうか。
 休みの日ならそれもありそうだけれど、今日は水曜日の平日なのである。
霜で真っ白の山道 そんなことは気にしないで、山道へと足を踏み入れる。
 林道と違ってこちらの山道はほとんど日が当たらないので、そこを埋め尽くした落ち葉は霜に覆われて真っ白のままである。
 小さな池のような水溜りも完全に氷が張り詰めている。
 周りの空気も急に冷たくなり、ここまで汗をかきながら歩いてきたのに、その変わり様に驚かされた。
 大きな倒木が道を塞いでいたり、橋とは言えない様な代物で川を渡ったりしなければならず、おまけにそれらは凍り付いて滑りやすくなっているので、注意しながら歩かなければならない。
 でも、滝を見に行くならば、サンダル履きで行けてしまうようなところよりも、そこまでのアプローチが険しい道程であるほうが楽しいものである。


凍り付いた池 川を渡る

 入り口に停まっていた軽自動車の運転手らしい男性が、川を挟んだ向かい側の急斜面にへばり付くようにして何かをしているのが見えた。
キノコ採り?のおじさん 遠くから挨拶をしてくれたので、こちらも挨拶を返す。
 どうやらキノコを探しているらしい。
 わざわざそんな急斜面を登っていくのだから、キノコが発生するポイントをしっかりと押さえているのだろう。
 私達が歩いていく先にもキノコが生えているんのを発見。
 我が家の庭に生えてきたのとは外観がかなり違っているけれど、エノキタケであることに変わりは無さそうだ。
 手にとって見るとカチカチに凍り付いていた。
 冷凍して保存するくらいだから、別に凍っていても大丈夫なのだろうが、そのままにして通り過ぎる。
 少し古くなっていたこともあるけれど、私の場合、エノキタケを見つけただけでもう十分に満足なのである。


急傾斜の山道 エノキタケ発見

洞窟が見えてきた 前方に洞窟らしきものが見えてきた。
 2度ほど川を渡って道なき道を進み、ようやくそこまでたどり着く。
 目の前に聳える岩壁の下部に幅30m、高さ10m程の洞窟が口を開けている。
 奥行も10m以上はありそうだ。
 その光景に圧倒されながら、「ところで滝は何処にあるの?」と思ってしまった。
 それらしい姿も見当たらないし、水音さえ聞こえてこない。
 とりあえず洞窟の中に入ろうとしたら、足元に氷の塊が散らばっていた。
 頭上を振り仰ぐと岩壁から水がポタポタと滴り落ちてきている。
 朝方にはきっとその岩壁も氷で覆われていたのだろう。
 洞窟の中に足を踏み入れ、あらためてその広さに驚かされる。
 そして、その洞窟の一番端の方に、ささやかに流れ落ちる滝があった。
洞窟の奥に滝があった 洞窟の大きさに比して、その滝はあまりにも小さく見えてしまう。
 しかし、近づいてみると小ぶりながらも端正な形の美しい滝である。
 後ろにも回りこむことができて、水のカーテンを透して洞窟の外の風景を眺められる。
 暑い季節ならばその水に打たれてみるのも気持ち良さそうだ。
 三脚まで用意してきて滝の写真を撮ろうとしたけれど、晴れているせいもあって洞窟内部と日の当たる場所の明暗差が大きすぎ、満足できるものは撮れなかった。
 洞窟の壁には所々に四角い窪みが彫られている。
 仏像でも祀られていた跡だろうか?
 そこにロウソクでも灯して一晩過ごしてみたら、森の霊気に触れることができそうだ。
 でも、森の霊気と一緒に別の霊も彷徨い出てきそうで、それを実行に移す気には全くなれないのである。


穴滝


 他では目にできないような風景に満足して穴滝の洞窟を後にする。
 そこから300m程戻ったところに、遠藤山への登山道の分岐がある。
 遠藤山山頂までは2km、そこからは塩谷丸山や天狗山まで登山道が繋がっている。
一休み 穴滝探訪のついでにこの遠藤山まで登れば、トレーニングとしては完璧なものになりそうだけれど、穴滝で満足してしまった私達に、そんな気は毛頭も無い。
 ただ、日の当たる場所で少し休憩したかったので、急な登山道を落ち葉で足を滑らせながら途中まで登ってみた。
 傾斜が緩やかになったところで直ぐにダウン。倒木の上によろよろと座り込んでしまった。
 こんな有様で、果たして山スキーで冬山に登ることができるのか、いささか不安になってくる。
 一休みして下山開始。
 林道に出てからはずーっと下り坂が続き、つま先が痛くなってくる。
 スキーを履いていればこんなところは一気に滑り降りられるのにと、楽をすることばかりが頭に浮かんできてしまう。
 でも、雪の積もっている次期に山スキーとスノーシューで穴滝をもう一度訪れると言うのも良い考えかもしれない。

カラマツ林の道 途中でわき道に逸れて、カラマツ林の中に伸びる林道を歩いてみる。
 カラマツの落ち葉で黄色く染まった林道を、林の中を抜けてきた日の光が縞模様に照らし出す。
 かみさんが突然、道の真ん中で仰向きに寝転がった。
 そのまま上を見上げると、黄色く染まったカラマツが青空に向かって一斉に伸び上がっている様子が視界一杯に広がった。
 冬が間近に迫りつつある小春日和の一日、軽いトレーニングになって、エノキタケも見つかって、美しい風景も沢山見られて、そして風変わりな穴滝の姿に感動し、とても楽しく過ごすことができたのである。

2008/11/12

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