我が家のファミリー通信 No.28

道東流氷温泉ツアー


 我が家の年に一度の温泉旅行、今年は養老牛温泉の「湯宿だいいち」に泊まる事にした。去年の道東キャンプの時に、日帰り入浴でここを利用してすっかり気に入ってしまったのである。
 今年の冬は久しぶりの流氷キャンプに出かけようとも考えていて、それぞれの日程を決めようとしても、町内会の会合やら仕事の都合などもあって、なかなか2日間の連続した休みが確保できないでいた。
 そのうちに3月に入り、流氷もそろそろ去ってしまいそうな気配を見せ始め、このままでは温泉泊か流氷キャンプのどちらかを諦めなければならない。
 他人からは「それならキャンプを諦めれば良いだろう」とあっさり言われそうだが、私にとっては両者は全く同じレベルのものなので、どちらを選択するかで大いに迷ってしまうのである。
 そういえば去年も全く同じことで迷っていた気がする。
 結局は私も普通の人間なので温泉泊を選択したのだけれど、地球温暖化の影響で流氷は年々その勢力が衰えてきており、「今年が駄目なら来年に」なんて悠長なことも言ってられなくなるかもしれない。

 日曜日の朝7時に札幌を出発。
 この日は文句のない青空が広がり、日中の気温も10度以上まで上がるとの予報が出ていた。
 養老牛温泉までは旭川周りでも道東道経由でもそれほど距離は変わらないので、往路は北周りで走ることにする。
 旭川紋別自動車道はかなり工事が進み、途中で2箇所ほど切れているものの、丸瀬布まで一気に高速道路で行くことができるようになった。便利で良いのだけれど、今は無料で通れるこの自動車道が全線開通して有料に変わったとしたら、その金額を想像しただけで頭がクラクラしてしまいそうだ。
 このまま真直ぐに走っていけば直ぐに湧別町でオホーツク海に出られるけれど、途中の遠軽からは内陸部へ方向を変え、美幌、小清水を経由して浜小清水付近の海に出るつもりでいた。
 たとえ流氷キャンプは諦めても、せっかくここまで来たのなら流氷だけはこの目で確かめて、この手で触って、そして流氷の上をこの足で歩いてみたかった。
 昨日から北海道のほぼ全域で西風が強く吹いていて、今日になってもここへ来るまで西風が強かったので、北の方ほど流氷が離れてしまっていると思われる。
 浜小清水から斜里にかけての辺りなら、知床半島に遮られた流氷が岸に押し寄せていそうな気がするのだ。

斜里岳が見えてきた 斜里岳の姿が見えてきた。
 道南へ行く時は駒ケ岳、道北の日本海側を北上する時は利尻岳が出迎えてくれるが、道東のこの辺りはやっぱり斜里岳である。
 斜里岳から少し離れたところにも真っ白な山が目立っていて、地図で確認するとその山は知床半島の付け根に聳える海別岳だった。
 真直ぐと浜小清水に向かう直線道路を走っていると、遥か遠くに白い水平線が見えているような気がする。
 これで確実に流氷の姿を見られそうだと嬉しくなってきた。
 しかし、この付近では海岸砂丘が盛り上がっているために、近づくにしたがって海の様子は見えなくなってしまう。
 真っ白に凍結した涛沸湖を抜けて海岸線を走る国道244号にぶつかる。
 「もしかしたら白く見えていたのはこの涛沸湖だったのかも・・・」と、ちょっと心配になってきた。
 JRの原生花園駅前の駐車場が部分的に除雪されていたので、そこに車を停めて海に出てみることにした。涛沸湖とオホーツク海に挟まれた細長い砂丘が小清水原生花園で、ここの駅は5月〜10月の間のみの臨時停車駅だ。
 気温もかなり上がっていて、駐車場の中は雪解け水で水浸しになっている。
足元に注意しながら車を降りて長靴に履き替え、JRの線路を渡って、木柵で囲われた遊歩道を駆け上がった。
そして砂丘の上まで達すると、水平線の彼方まで流氷に埋め尽くされたオホーツク海が目の前に広がっていた。

一面の流氷 流氷のお家?

 「やった〜!」と歓声を上げながら、木柵を飛び越えて海岸へと駆け下りて、そのまま流氷の上に飛び乗る。
 何時ものことながら、流氷の姿を見るたびに圧倒的な自然の力に触れられる喜びで胸が一杯になってしまう。
 しかし、この圧倒的だったはずの自然の力も、最近は人間の営みによって弱められつつあり、一面を埋め尽くしている流氷も、以前ほどの迫力が感じられない。
 欠けらのような流氷がただ集まっているだけで、分厚い流氷の塊りが天に向かって突き上げられるように積み重なる、そんな迫力ある光景を作り出すような力のある流氷ではないのだ。
流氷の奥の海別岳 それでもこの時は、久しぶりに流氷の上を歩ける嬉しさだけで満足していた。
 ただ、大きな流氷の縁などに見られる流氷ブルーとも呼ばれる神秘的な色合いが、何処にも見られないのがちょっと残念だった。
 流氷原の彼方には海別岳が聳え、その先には知床連山の姿もぼんやりと見えている。
 今回の温泉旅行の大きな目的を達成して、満足してそこを後にした。

 次に小清水町の道の駅「はなやか小清水」に向かっていると、その直ぐ手前に踏切があって線路を渡れるようになっていた。
 国道244号と平行して、海側にはJR釧網線の線路が通っているので、海に出られるような場所はほとんど無い。
 それなので直ぐに踏み切りを渡って除雪された道を進んでいくと、突然キャンプ場の前に出てきてしまった。浜小清水前浜キャンプ場である。
 こんなところにキャンプ場があるとは知らなかったのでビックリしたけれど、私の習性で直ぐに流氷キャンプができるかどうかの視点で周りを見てしまう。
 車も近くに停められるし、トイレも、ちょっと遠いけれど道の駅まで歩いて行ける距離だ。
 ただ、隣の丘の上に展望台があり、冬の間でも物好きな観光客がそこまで登ってくることもあるので、見世物になってしまうことがあるかもしれない。
 それでも流氷キャンプ適地一箇所発見、と言ったところだ。

流氷ノロッコ号 ここの道の駅はJR釧網線浜小清水駅に繋がっていて、ちょうど流氷ノロッコ号が停車していた。
 その写真を撮ろうとしてかみさんが車から降りカメラを構えていると、動き出したノロッコ号がかみさんの前を通過していく。
 列車が通り過ぎた後で、かみさんが顔を赤くして戻ってきた。列車に乗っていたお客さん全員が、カメラを構えてこちら側を向いており、そこでかみさんは乗客全員の注目を浴びていたようである。
 道の駅の隣の「太郎山」と言うラーメン屋でラーメンを食べる。普通に美味しいラーメンだった。

 その後も海岸沿いの道路を走りながら、流氷キャンプの適地が無いか探してみる。
 すると小さな川の河口で、線路近くまで車で入れる場所を見つけた。そこに車を停めて、線路を超え海岸に出てみると、思わず「さあ、テントを張るか!」と言いたくなってしまった。
 そこの砂浜は既に雪も解けていて、適当な流木もゴロゴロしている。それに、流氷もこちらの海岸のほうが変化に富んでいて、知床に近づいた分、山並みの姿も美しく見える。
 流氷の縁で親子連れが網を持って何かを捕っているようだ。峰浜辺りの海岸ではクリオネを捕っている人もいるらしいので、近づいて聞いてみるとやっぱりそうだった。
 バケツの中を見せてもらうと、ちょうど今捕れたばかりの2匹のクリオネが浮かんでいた。体が透き通っているので良く見ないと分からない。
 これを氷の下から網ですくうのだから、なかなか難しそうである。上手な人なら百匹も捕ってしまうとのことである。

クリオネ捕りの親子 クリオネ

 ここでは川が流れ込んでいるので、海面も少し開いている場所がある。
 真っ青な空を映し込むその海面に、白い流氷がぽかりと浮かび、何とも言えぬ美しい風景だ。
 突然その中の一つの流氷が、何の前触れも無く大きく動いた。
斜里岳が美しい 目の前に広がるのは静の世界かと思っていたが、じっと見ていると川の水は結構な速さで流れていて、それにつれて流氷も動いているようである。
 全て流氷に覆われているようなところでも、静かにしているとミシッミシッと不気味な音が聞こえてくる。
  砂浜の方を振り返ると、その上に美しい斜里だけの姿が浮かび上がっていた。
 風も無く、暖かな陽射しが降り注ぎ、長袖のシャツでは汗ばんでくるような陽気である。
 「あ〜、テントを持って来れば良かったな〜」とつぶやいていると、かみさんから「私はホテルに泊まるから、あなただけここでテントを張っても良いわよ」と言われてしまった。
 後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、そこを後にして養老牛温泉に向かうことにする。


青い海に浮かぶ白い流氷

 清里町に向かって走っていると斜里岳の姿がどんどん大きく迫ってくる。海別岳の姿もとても美しい。
 この付近に住む人たちには、この二つの山の姿はどのように写っているのだろう。時間によって、天候によって、そして四季によって姿を変えるこの山の姿を何時も見られるなんて、羨ましい話だ。
 流氷見物に予定以上に時間を取られてしまい、この後に予定していた神の子池トレッキングは無理かなと諦めかけていたけれど、最近は日も長くなってきたので何とななりそうだ。
 なんと言っても今日はホテル泊なので、暗くなってからの到着でも全く問題ないのである。
神の子池へのスノートレッキング 日曜日の午後も3時近くになり、当然誰もいないだろうと思っていたら、神の子池へ続く林道入口には車がまだ3台も停まっていた。
  スノーシューに履き替えて歩き始める。
 しばらく雪も降っていないので、もしかしたらスノーシュー無しでも歩けるくらいに踏み固められているかもしれないと想像していたが、神の子池もそこまではメジャー観光地化はしていないようである。
 途中で多人数のツアーとすれ違った。3台の車に分乗して来ているところを見ると、ユースホステルのツアーだろうか。
 これでこのフィールドには自分達だけになったと思うと急に嬉しくなってくる。
 途中から林道を離れて、川沿いに歩いてみる。
 この川の水は、摩周湖の伏流水が神の子池から湧き出して、そこから流れ出してきたものである。
 雪の積もっている時期しか、こんなところは歩けないだろう。
 太陽は既にかなり西に傾き山陰に入ってしまったけれど、所々ではまだ森の中まで日が射してきていた。
神の子池 もう少し早い時間に来ていれば、暖かな陽射しの下で川のせせらぎを聞きながら、ゆったりとコーヒーでも入れて贅沢な時間を楽しんでいられただろうと考えると、ちょっと残念である。
 そうして神の子池に到着。
 出発前に冬の神の子池についてネットで検索したけれど、どのサイトを見ても例のコバルトブルーの綺麗な写真が載っていない。
 何となく予想していたけれど、現地についてその理由がはっきりとした。
 冬の間は周りの木々が全て葉を落としてしまっているので、水面に空や雪景色が映り込みやすく、湖底が透けて見えないのである。
 その対策としてカメラ用に偏光フィルターを用意していたけれど、人間にも偏光サングラスでも用意してきた方が良かったみたいだ。

摩周岳の夕暮れ 車まで戻って、後は宿に向かうだけである。
 日はかなり西に傾き、西別岳や摩周岳が赤く染まってきていた。かろうじて日没前に宿に到着することができた。
 「湯宿だいいち」は日帰り入浴で一度利用しただけだけれど、とても好印象を持っていたし、サービスの行き届いた宿としても知られている。
 宿に入ると、まずは大きなガラス窓の前の席に案内され、そこでお茶とお菓子を出してくれる。窓の外にはバードテーブルがあって、チラリと見ただけで色々な種類の鳥が目に入った。
 その後は良質のお湯につかって、美味しい料理を食べて、こんな宿に泊まるのは初めてなので、行き届いたサービスが何だかこそばゆい感じだ。
 駐車場側の部屋だったので、料金は1泊13800円。予約時には川側の部屋も空いていたけれど、そちらは18000円と、さすがにそこまで贅沢する余裕は無い。
 もしもその部屋に泊まるとしたら、何処にも寄らずに1時にチェックインして、一生懸命に元を取ろうとしていたかもしれない。そんな我が家には、駐車場側の部屋で十分である。
大きな窓からバードテーブルを眺める 朝のバードテーブルではミヤマカケスが群れを成していた。アカゲラもやって来て、木の幹を突いている。
 バードテーブルの下ではエゾクロテンが顔を出して、そこに置かれた脂身を食いちぎって持ち去っていった。
 全てがガラス窓越しの直ぐ近くに見られるのが素晴らしい。
 川の向こうの崖をキタキツネが歩いている。シマフクロウも毎日のようにやってくるとの話だ。
 朝食のバイキングも、美味しそうなものが沢山並んでいるのに種類が多すぎて、それらを全部味見できないのが悔しくなる。
 朝食を食べ終えると、ロビーで餅つきが始まっていた。それが宿泊客へのお土産となるらしい。
 餅つきを手伝った人には宿の手ぬぐいがプレゼントされる。
 餅つきが終わってそれを片付けている時、横で見ていたかみさんがお願いして杵を持たせてもらった。
餅つき かみさんは杵の重さを確かめるだけのつもりだったみたいだけれど、「杵に触った人には全員プレゼントすることにしているから」と言われて、ちゃっかりと手ぬぐいをもらっている。
 今までのお客さんの中で、一番楽をして手ぬぐいをもらった客かもしれない。
 帰りは宿の人が車が見えなくなるまで頭を下げたまま見送ってくれた。
 とても満足できた「湯宿だいいち」だったけれど、我が家のようなタイプは、鍵を渡され後は勝手にしなさい的な宿の方が落ち着けるような気もする。

 帰りは屈斜路湖や摩周湖に寄るつもりだったけれど、うす曇の天気なので、阿寒湖経由で真直ぐ札幌まで帰ることにした。
 それでも冬にこちらの方に来るのは初めてだったので何となく直ぐには去り難く、近くの西別川に寄り道する。
 以前、夏に訪れた時はびっしりとバイカモが生い茂り素晴らしい景観だった西別川も、さすがに冬季間はそのバイカモも元気が無く、期待していたほどではなかった。
 周辺の牧草地は既に所々で地面が顔を出しており、宿の人も言っていたけれど、今年の道東は例年に無く雪が少なかったようである。
パンケトー その後向かった阿寒湖周辺も、道路脇に除雪した雪山が無いのには驚いてしまった。
 雄阿寒岳の美しい姿をカメラに納めたり、雪に埋もれた双湖台に登ってペンケ・パンケの姿を眺めたりしながら、阿寒湖に到着。
 どこかに寄り道するところは無いかなと地図を眺めていて、太郎湖・次郎湖が目に留まった。以前に、阿寒湖周辺の穴場スポット的な場所を調べている時にここの情報を見たことが有ったけれど、詳しい場所などあまり覚えていない。
 道路沿いにそれらしい看板も見当たらず、登山道入口があったのでそこに車を乗り入れてみる。するとそこの案内看板に太郎湖・次郎湖が載っていた。どうやら登山道の途中にそれがあるらしい。
 太郎湖まではそこから480m、次郎湖はさらにその先400mだ。積雪も少なく、人の歩いた跡もしっかりと踏み固められていたので、長靴のまま歩いていくことにした。
 阿寒湖畔沿いにその踏み跡は続いている。阿寒湖の湖面はまだ白く凍っているけれど、所々で解けてきている場所もあるので、怖くて湖面に下りることはできない。
 やがて阿寒湖の流出口があり、道はその沢沿いに続いていた。そして直ぐに小さな湖が見えてきた。
 でも湖畔に出る道が何処か良くわからない。踏み跡はそのまま川を渡って対岸へと続いている。
 長靴を履いているので何とかその川は渡れたけれど、これが登山道とはとても思えない。
 よくよく見たら自分達が歩いているのは鹿が付けた獣道だったようで、元に戻ると別方向にスノーシューらしき足跡がちゃんと残っていた。
 冬の間にここまで来るのは僅かな登山者と鹿くらいしかいないのかもしれない。
太郎湖の風景 そしてようやく湖岸に下りることができた。岩場から滾々と水が湧き出してきている。
 これは湧き水と言うよりも、阿寒湖の水が岩のすき間から流れ出してきているものなのだろう。周りには藻が発生して、見た目ほど綺麗な水では無さそうだ。
 それにしても阿寒湖が凍結しているのに、小さな太郎湖が凍結していないのはちょっと不思議である。
 ハクチョウが一羽、そこで羽を休めていた。
 その先の次郎湖まではかなり道も険しそうなので、次の機会に訪れることにして阿寒湖を後にした。

 国道241沿いのログハウスのドライブイン「クマゲラ」で昼食にする。メニューの数は少ないけれど、とても落ち着ける店である。
 ここから見える雌阿寒だけや阿寒富士の姿も美しい。
 冬の間は、雪化粧した白い山の姿が真っ青な空に映えて、どの山もとても美しく見える。今回の旅行ではそんな各地の山の姿もたっぷりと堪能することができた。
 その付近から積雪もほとんど無くなり、十勝野はもう完全に春を思わせる風景である。
 昨日流氷の上を歩いたことが、もう遠い昔のことのように感じられた。

2008/3/10

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