我が家のファミリー通信 No.24

ニニウへのレクイエム


 高速道路の工事の影響で今年はオープンしないというニニウキャンプ場。工事が始まってからはニニウへ行ったことが無いので、どれだけ様変わりしているのか、十勝の実家へ帰省するついでに見に行ってみることにした。
 国道274の福山付近からニニウへ続く道道へと入る。入り口のゲートは開いていたものの、その横に「土砂崩れのため8km先で通行止め、開通未定」と書かれた看板が立っていた。
 高速道路工事の影響だけかと思っていたら、道路も通行止めである。
 それにしても最近のこの道路、開通している期間の方が短いくらいに何時も土砂崩れで通行止めになっている。
確かに急傾斜地に作られたほとんど整備もされていない様な山道だが、昔はそれほど頻繁に通行止めにはなっていなかったような気がする。
増水した鵡川 温暖化により集中豪雨が多くなったのか、それとも無理して道路を作ったために次第に自然の浸食作用が大きくなってきたのか。
 いずれにせよ、福山からの道が通行止めならば、日高町経由で占冠村側からしかニニウへ行くしかない。40km近い遠回りだ。
 占冠側へ回る前に、この道を少し進んでみることにする。横を流れる鵡川は雪解け水で増水し、濁流となって流れている。
 カヌーを始めてから一度は下ってみたいと夢にまで見ていた清流鵡川の面影はどこにも無い。最近はちょっとした雨でも直ぐに水が濁るようになってしまい、これも高速道路工事の影響なのだろう。
 そんな鵡川を見下ろして「ここをカヌーで下れるかな〜」とかみさんと話しながら走っていると、砂利採取場が目の前に現れた。その周りのカラマツ林は見事なくらいに皆伐されてしまっている。
 そんな有様にそれ以上進む気を無くし、いったん引き返して占冠村へと向かうことにした。

 占冠村は鵡川の上流部に位置しているが、そこでも川の水はかなり増えていた。
 占冠村からニニウの間の鵡川は山に挟まれた渓谷の中を流れ、赤岩青巌峡と言う景勝地にもなっている。
 大岩に絡みながら流れる急流は、カヌーのエキスパートだけが遊ぶことを許されたフィールドである。最近はここで商業ラフトも盛んになっているので、お金さえ払えばスリル満点の激流下りを楽しめるだろう。
 途中でも何度かラフトを積んだ車とすれ違った。
 赤岩青巌峡の横を通るのは20年ぶりくらいになるが、道路工事の大型車が走るようになったので、その頃よりは砂利道ながらもかなり走りやすくなっている。
 途中で時々車を止めては、激流の様子を恐々と見下ろす。20年前のおぼろげな記憶では、岩だらけの川だったはずだが、現在はその岩もほとんどが水面下に隠れてしまっている。
 所々で流れの上に顔を出した岩の周りでは濁流が渦を巻いている。
 カヌーで遊んでいると、川を見るたびにそこを下るイメージが頭の中に浮かんできてしまう。
 かなりの急流でも、頭の中だけではそこを華麗に下っている自分の姿をイメージできるのだけれど、さすがにこの赤岩青巌峡の流れでは、もみくちゃになって流され岩に張り付いて最後を迎えるアリーの姿しか見えてこなかった。

赤岩青巌峡の激流 渦を巻く激流
 砂利道が終わって2車線の舗装道路に変わるとニニウキャンプ場はもう直ぐである。
 突然目の前に、道路を覆うように作られた巨大なコンクリートのボックスが現れた。
 初めてニニウキャンプ場に来たときは、それまでの一歩間違えると崖下に転落してしまいそうな山道が突然立派な舗装道路に変わってしまうギャップに驚いたが、今回のギャップはその比ではない。
高速道路のボックス まったくの場違いとしか思えない構造物が、我が物顔で鎮座しているのだ。
 そのボックスだけで相当の威圧感を感じるのに、そこに高速道路が繋がってくると一体どうなるのか。ニニウののどかな風景は一変してしまうだろう。
 そのボックスの中を通り抜けると、直ぐにサイクリングターミナルの入り口だった。
 ニニウに高速道路が作られると聞いて以来、一体どの付近に高速道路が通るのかが常に疑問だったが、まさかこんな近くだとは思わなかった。
 サイクリングターミナルと高速道路は100mくらいの距離しか離れていない。
 サイクリングターミナルの奥の山肌にはトンネルの入り口がぽっかりと穴を開けている。
 その変わりように驚きながらも、とりあえずキャンプ場を見に行こうとサイクリングターミナルとは反対方向に道を曲がると、またまた驚かされてしまった。
 そこにあるべきはずの吊り橋が無くなってしまっていたのだ。鵡川を渡るこの吊り橋は、車のタイヤが通過する部分だけを厚い板で補強したような、何とも危なっかしい代物だった。
 でも、その橋を冷や冷やしながらも渡りきると、何となく懐かしさを憶えるような穏やかな風景が出迎えてくれて、うれしい気持ちになったものである。
吊り橋のあった場所 その吊り橋があった場所には、無骨なコンクリートの橋脚が立ち上がっていた。その上部が完成したら重車両でも安心して渡れそうな立派な橋脚である。
 小さな吊り橋によって現実世界から隔絶されたような雰囲気を持っていたキャンプ場は、この橋の完成によって否が応でも現実世界に直結されてしまうのだろう。
 しかし、今現在は他に川を渡る場所が無いので、キャンプ場は完全な陸の孤島となってしまっている。
 工事も今のところはひと段落し、訪れるキャンパーも無く、つかの間の静寂を取り戻したニニウキャンプ場。
 最後のその姿を一目でも見ておこうと対岸の道路まで行ってみる。
 樹木に隠れてキャンプ場の姿は見えないが、以前からある古い建物だけが見えている。
 高速道路はその直ぐ後ろを通ることになるのだろう。
 そこに高速道路が完成したときの様子を頭の中に思い浮かべてみたが、その浮かんできたイメージはニニウキャンプ場の終焉を思わせるものだった。
道路から見たキャンプ場付近 高速道路予定地からの眺め
鵡川対岸の道路からキャンプ場付近を眺める 高速道路予定地から見たキャンプ場方向の眺め

 豊かな自然に包まれたキャンプ場。ニニウキャンプ場にそんなイメージを持つ人は多いだろう。
 確かに、野生のヒグマが周辺を闊歩するくらいの素晴らしい環境の中にはあるが、妙に人間の営みが身近に感じられる場所でもある。
 昭和30年頃にはこの地に多くの人が暮らしていたと言う。現在のサイクリングターミナルの場所には小学校まで有ったらしい。
 道路沿いに見られる数軒の廃屋が、かろうじて当時の様子を思い浮かばせてくれる。
 キャンプ場に隣接する牧草畑では今でも採草が行われているようだが、そのほかの部分は自然の力によって人間の営みの跡が消し去られてしまっている。
 ニニウのキャンプ場に泊まっていて何となく暖かさを感じるのは、そこが昔、人々の暮らしの場所であったせいかもしれない。
 数年前に、それまでの質素なキャンプ場が立派なオートキャンプ場として生まれ変わった。最近の過度に整備されたキャンプ場は私の好みではないのだけれど、ニニウのこの変化はすんなりと受け入れることができた。
 もともとが人間が手を加えて今の形となっていた土地である。その荒れ果てていた土地に再び手を加えて、元のような暮らしやすい場所に戻しただけのことと考えれば、目くじらを立てるような話しでもない。
 リニューアル後に泊まった人の感想では照明が明るすぎるという欠点もあるようだが、私が完成後に一度見た印象ではニニウの風景に違和感無く溶け込んだ快適なキャンプ場だったと思う。
 その新しくなったキャンプ場にもついに泊まる機会が無いままに、現在の状況となってしまった。
 来年になってキャンプ場が再開されたとしても、直ぐ隣で高速道路の工事が行われ、その完成後も周囲の柔らかな風景を切り裂くように延びる高速道路が目に入り、二度とこの場所で快適なキャンプは楽しめないだろう。

2003年5月 2006年4月
2003年5月にあった廃屋 3年後には倒壊してしまった

 3年前に写真を撮った近くの廃屋が、今回訪れると完全に倒壊してしまっていた。
 時とともに昔の姿は次第に薄れ去っていく。
 電気も届かないような土地でかっては多くの人々が暮らし、その人たちが居なくなった後は釣り人やキャンパー、カヌーイスト達が豊かな自然を楽しみに訪れるようになったニニウ。
 そして今度はそこに高速道路が作られつつある。
 賑わいを取り戻しつつあったニニウは、この高速道路によってまた人々が去っていってしまうのだろう。
 たまらなく寂しい現実である。
 ニニウはもう思い出の中だけの存在となってしまった。

2006.4.29

ニニウについては「北海道観光大全」の「ニニウへ急げ」で詳しく紹介されている



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