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我が家のファミリー通信 No.16

二十年ぶりのピクニック

 ゴールデンウィークにキャンプへ行けないのならば、せめて日帰りドライブにでも。と言うことで、最初の休日はニセコへドライブに出かけることにした。
 去年初めて見て感動した、ニセコ町の桜ヶ丘公園にあるカタクリの群落も見頃になっているみたいで、北からデジカメ便りのネタにするのにもちょうど良い。
 当日、かみさんが早起きをして行楽弁当を用意してくれた。青空の下、どこかの公園でお弁当を広げて・・・、こんなのをピクニックとでも言うのだろうか。
 考えてみれば、いわゆるこんなピクニックというものには、20年近く出かけたことがないような気がする。
 我が家がどこかに出かけるとしたら、それには当然キャンプという大前提があり、途中でお弁当を食べてそのまま帰ってくるなんて行動パターンは有り得ないのだ。
 久しぶりのピクニックに、ちょっとしたウキウキ気分である。

旭ヶ丘キャンプ場 8時に札幌を出発、途中で弓道大会に出る息子を駅で降ろして、一路ニセコへ向かった。
 今日は1日かけてのんびりと走ろうと思っていたので、倶知安町の旭ヶ丘公園キャンプ場へ寄り道することにした。
 このキャンプ場へは一度下見に来たことがあるが、炊事場にたむろするライダーの一団に圧倒されて、中に入らずにそのままUターンして帰ってきたことがある。
 今時期ならば利用者もいないだろうし、ゆっくりとキャンプ場の中を見ることができる。
 小さなキャンプ場だが、ここの一番の魅力が羊蹄山の眺めである。まだ雪に覆われた真っ白な羊蹄山がサイトの正面に見える。欲を言えばもう少し山の全体が見えたら申し分ないのだが。
 ただ、やっぱりここはライダー向けのキャンプ場だろう。
 利用者の少ない時期ならば、ファミリーでも比較的ゆっくりとキャンプを楽しめそうである。
 キャンプ場を後にして、桜ヶ丘公園に向かった。

 ニセコ駅の直ぐ目の前、斜面一帯にカタクリやエゾエンゴサク、イチゲにフクジュソウなど春の草花が大きな群落を作っている。
 花もちょうど見頃を迎えていた。群落の中を縫うように作られた散策路を歩いていると清々しい甘い香りが漂ってくる。
 ただ、去年訪れた時のような感動はあまり感じなかった。見物客の数の多さもあるし、天気が良すぎるのが災いして、日射しが強くて花の美しさがかすれてしまっている。
 こんな状況で花の写真を撮るのは難しい。逆光を利用してカタクリのアップの写真にチャレンジするが、全体の様子を綺麗に撮すのはほとんど不可能である。
 散策路以外にも花の群落の中に踏み分け道が出来てしまっている。去年来た時よりも、そんな踏み分け道の数が増えて、肝心の花の数が心なしか少なくなっているような気がした。
 道の真ん中に三脚を据えて、花を狙うカメラマンが沢山いる。邪魔でしょうがないし、そもそもそんなカメラマンは平気で足元の花を踏みつけているのである。
 一体コイツらは何のために花を撮ろうとしているんだろうと、呆れてしまう。
 別の場所ではおばさんカメラマンが二人、通路の真ん中に腹這いに寝そべって、必死になって花のクローズアップの写真を撮ろうとしている。
 世も末と言った感じだ。
 次第に嫌気がさしてきて、その場所を後にした。
カタクリ 花に群がるカメラマン
 直ぐ近くの道の駅、ビュープラザに寄ってみたが駐車場が一杯でなかなか中に入れない。
 あきらめて真狩野営場へ向かう。
真狩野営場でお弁当 キャンプ場入り口の近くにある「羊蹄山の湧き水」の駐車場も車で一杯だ。
 そんなゴールデンウィーク初日の喧噪も、キャンプ場まで入っていくと全く別世界に変わった。
 登山客の車が停まっているだけで、場内には人っ子一人いない。まあ、まだオープンしていないキャンプ場なのだから当然の話しなのかも知れないが。
 ここのキャンプ場からは、羊蹄山の姿はあまり見えないと言うイメージを持っていたが、場内の木々が葉を落とし、真っ青な空に真っ白な羊蹄山が映えるせいか、とても美しい姿が楽しめる。
 場内の枯れ木を伐採した後の丸太が置いてあったので、それを使わせてもらってイスとテーブル代わりにした。
 一流レストランにも引けをとらない素晴らしい眺めと美味しい料理。こんな環境でキャンプが出来ないのはちょっと勿体ない気もしたが、十分満足してキャンプ場に別れを告げた。

 美しい羊蹄山花の良い写真が撮れなかったので、今度は羊蹄山を狙ってみることにした。
 真狩村の農道を走り回りながら、撮影ポイントを見つけてはシャッターを切る。
 絶好の撮影日よりだったが、日帰りドライブではどうしても日中だけの撮影になってしまう。近くでキャンプをして、朝や夕方の羊蹄山の姿を撮してみたいと、やっぱり少し口惜しい気持ちに捕らわれた。
 写真を撮り終えて、さあ次は何処へ行こうか。
 羊蹄山をぐるりと一周して、中山峠経由で札幌へ戻ろうと考えていたが、かみさんが次は海が良いんじゃないと言い始めたので、そのままニセコパノラマラインを通って岩内へ抜けることにした。
 もう一度ニセコのビュープラザに寄ってみたが、相変わらず車で一杯である。かろうじて1台だけスペースが空いたので、そこに車を停めて農産物直売所に入ってみる。
 今時期はアイヌネギやヤチブキ、クレソン、ハワサビなんかが売られているが、ほとんど売れ切れてしまっている。
 ちょうどコゴミが新しく棚に並べられたので、せっかくなのでそれを買って帰ることにした。
 山には入れば自分でいくらでも採れるのに、お金を出して買うのも何だか馬鹿らしい。でも今日は、ただの観光客になった気分で買い物を楽しんだ。

雪に覆われた大谷地湿原 ニセコパノラマラインの周辺はまだ深い雪に覆われている。
 大谷地湿原のところに小さな駐車スペースが有ったので、そこに車を停めて雪の上を歩いてみた。
 春の雪は堅く締まり、埋まらずにその上を歩くことが出来る。久しぶりの雪の感触に喜んだ愛犬フウマが、夢中になって雪の上を走り回った。
 そのまま雪に覆われた大谷地湿原の遥か彼方まで行ってしまった。遠くまで行っても見通すことができるので、こちらも大して気にしていない。
 そのうちに飼い主が付いてきてくれないので不安になったのか、ただ走り疲れただけなのか、トボトボと雪の斜面を歩いて戻ってきた。
 数週間前に降った黄砂のせいか、雪が汚れているのはちょっと残念だ。

 岩内側に降りてくると、いつの間にか空は薄い雲に覆われてしまった。これでは海の景色も大して楽しめないので、そのまま帰ることにする。
 同じ道を通って帰るのも味気ないので、銀山から赤井川村へ車の向きを変えた。
 かみさんが余市川の様子を見たいというので、途中の余市川にかかる橋へ寄り道してみた。
 雪解け水で増水した余市川は荒々しく流れ、橋の真下では大きな波を立てている。最近はこんな川の流れを見ると、直ぐにそこをカヌーで下る自分たちの姿を想像してしまう。
 あの波に乗り上げて、あーっ、次の波が横から、危ない!、もうダメだー。
 見ているだけで手のひらに汗が滲んできてしまう。
 その橋のたもとで、テーブルを出してお弁当を食べている夫婦がいた。彼らもきっと川好き人間なのだろう。
 堤防の上にデコボコの砂利道が続いていた。かみさんがこの奥に行ってみましょうよと言い始めた。私はちょっと気が引けたが、かみさんに命じられるまま、車の腹を擦るのに気をつけながらその先に進んだ。
 すると堰堤の横の小さな広場に出た。堰堤の脇には魚道があり、そこをもの凄い勢いで水が流れている。私が入っているカヌークラブの中にも、こんな場所を喜んで下る人達がいるが、とても同じ人間とは思えない。
 カヌーに見立てた棒きれをその流れの中に放り込んでみたが、あっと言う間にその棒は横波を受けてひっくり返り、その先の大きな波の中に吸い込まれてもみくちゃになっている。
 自分たちの姿を見た気がして、恐ろしくなって思わず後ずさってしまった。
 そして後ろを振り返ると、そこにはうって変わって優しい表情をしたカタクリの花が咲いていた。
 ニセコの桜ヶ丘公園の群落とは比べようもないが、こんな場所にひっそりと咲いているカタクリの方がとても愛らしい気がする。

思わずびびる魚道の流れ 優しいカタクリの花
 その後は真っ直ぐ帰ろうと思ったが、ドロームの看板を見つけて、またまた寄り道することにする。
 キャンプ場はようやく雪が融けたような状態だったが、オープンするにはもう少し時間がかかりそうだ。
 キャンプ場の前を通る道路は現在はその先で通行止めになっているが、来年には倶知安まで通り抜けられるようになるという話しもある。そうなると、現在のドロームの静けさは完全に失われてしまうことになるのだろう。
 その道路の状況を見てみようと、キャンプ場からさらに奥に進んだ。
 すると途中で岩肌を伝うように流れ落ちる美しい小さな滝を見つけた。林の中に残る雪の上を歩いて、写真を撮すためにその滝に近づいた。その下には小さな小川が流れミズバショウやエゾノリュウキンカが可憐な花を咲かせている。
 有名な観光地に花を見に行くのも良いが、やっぱり自然のままの姿でひっそりと花を付けるこんな風景の方が私は好きだ。何となく幸せを感じながら残雪の残る森の散歩を楽しんだ。
 道路の反対側では増水した白井川が轟々と流れている。こちら側の小川の風景とは全く対照的だ。
 そう言えばカヌークラブの人でも、白井川を下りたいと言っている人がいた。
 それぞれが北海道の春の風景、どちらも私は大好きだ。

 そうしてようやく帰途につくことにした。
 いつもならば、「さあ、ようやく今日のキャンプ地に到着だ」ってことになるのだが、たどり着いてからテントを立てる必要もないし、たまにはこんなドライブも楽しいものである。(2004.4.29)

 

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