北海道キャンプ場見聞録
我が家のファミリー通信 No.101
北海道マラソン苦闘の6時間
初めて参加する北海道マラソン。
参加者が2万人近いマラソン大会なんて出たことがなかったので、その様子が全く分からない。
最初に悩んだのが現地への交通手段。
電車や地下鉄を使えば良いのだけれど、疲れ切って汗まみれの状態で交通機関を利用するシチュエーションが想像できない。
結局、会場に近い駐車場を利用することにして、車で向かうことにした。
満車で停められないと困るので、早めに家を出て午前6時過ぎには現地に到着。
後で分かったのだけれど、そんなに急がなくても周辺の駐車場で満車になっているところは殆ど無かったのである。
まだ人影も疎らな大通公園11丁目で時間を過ごす。
おかげで、お腹の具合が悪かったかみさんも公園の快適なトイレでゆっくりと用を足せたようだ。
人のいない大通公園11丁目
トイレと言えば、私も問題を抱えていた。
3日前に前立腺がんの放射線治療20回を終えたばかり。
その治療の副作用で頻尿症状が出ていて、前日には2時間おきにトイレに駆け込む有り様。
熱中症対策で水分は沢山取らねばならず、6時間の間に何回トイレに入ることになるのだろう。
どこのマラソン大会でも見られる風景だけれど、スタート時間が近づくに従ってトイレの行列も長くなる
私達はHブロックで第2ウェーブのスタート。
スタートブロックには7:00~8:20の間に並ばなければならず、スタート時間は8時45分。
7時半に11丁目から移動して、8丁目の指定場所に荷物を預け、そこで最後のトイレを済ませて自分たちのスタートブロックに並ぶ。
スタートまではまだ1時間もあり、待っている間にまたトイレに行きたくなってきた。
待ち時間が長いので座っている人も多い
第1ウェーブが8時半にスタートして、8時45分にいよいよ私達のスタート。
この時の気温は24度。
昨年はスタート時に既に30度近くになっていたらしく、それと比べればまだ良い方なのだろう。
それでも、陽射しもあって暑いことに変わりはない。
明治安田生命札幌ビルの温度計は24度になっていた
2万人近い人数でもスタートラインを過ぎれば普通の流れとなる。
キロ6分30秒程度のペースで気持ち良く走ることができる。
北海道マラソンに出ようと思った理由は、札幌市の中心街を走ってみたかったこともその一つである。
北海道マラソンに出なければ、他にそんな機会は無いのだ。
札幌の中心街を駆け抜ける
札幌に住んでいた頃も中心部に出てくることは殆ど無かったので、まるで知らない街を走っている気分だ。
見覚えがあるのはすすきののニッカの巨大看板くらいである。
お馴染みのニッカの看板
中島公園の公衆トイレで最初のトイレタイム。
走り始めてまだ2キロにも達していない。
どこのトイレも行列ができていると聞いていたけれど、今回はタイムよりも完走が目的だったので並ぶのも気にならない。
スタート前にトイレに入ったばかりなのに結構な量のオシッコが出て、やっぱり頻繁にトイレに入ったほうが良さそうだと感じる。
中島公園のトイレ行列、ここに並んでいる人達はスタート時にトイレに入りそびれた人達なのか?
豊平川を渡る
豊平川にかかる幌平橋を渡って、豊平区へと入る。
道路を埋め尽くすランナーが坂を登っていく様子が前方に見えてきた。
なかなか壮観な眺めだ。
ここがコース中一番の登り坂のようだが、毎日のランニングコースにある坂に比べれば楽勝である。
坂道を埋め尽くすランナー
スタートから7.5キロ程の場所にある公園の公衆トイレで2回目のトイレタイム。
用心のために入ったのだけれど、ここではオシッコは殆ど出なくて時間をただ無駄にしただけだった。
再び豊平川を渡って、中心市街地へと戻ってくる。
南7条大橋を渡るとマンション街が見える
その先でコースは創成川通のアンダーパス(創成トンネル延長900m)へと入っていく。
アンダーパスの中は空気が淀んでいてやたらに蒸し暑い。
そこを抜ける坂道を登っていくと、吹き抜ける風がとても涼しく感じた。
アンダーパスへと入っていく
その先にミストシャワーポイントが有る。
アンダーパスの蒸し暑さを解消することを目的に今回から設置されたものらしいが、大して役には立たず、眼鏡に水滴が付いてイラッとするだけだった。
それほど有り難さは感じなかったミストシャワー
そのまま創成川通を北上し、北24条通を西へ向かい、新川通に入る。
新川通に入る直前で先頭ランナーが通り過ぎていくのが見えた。
新川通からは往復コースになっているので、折り返してくるランナーを見られるのだが、ちょっと遅かったようだ。
コースは新川通を一旦離れ、新琴似地区を迂回する。
17キロ付近で3回目のトイレタイム。
公園の公衆トイレは男女共用だったので、ここでは仮設トイレの方に並んだ。
トイレ待ちの行列が長くて、6分間のタイムロスとなる。
コースへと戻ったが、周りのランナーが明らかに遅い人ばかりになっていた。
歩いている人も多く、この辺りで歩いていたら完走は難しいだろう。
何度もトイレに入っている間に、いつの間にか最後尾近くまで順位が下がっていたようだ。
折り返してくるランナーは颯爽と走っていくが、こちら側は歩いている人ばかり
仮装ランナーも多く走っていて、ジャック・スパロウが歩いているのを追い越す。
彼の姿は他の大会でも何度か見かけていたので、「ジャック、頑張って!」と声をかける。
少し話をしたが、流石にこのコスプレで今日の暑さは辛そうだ。
この日の札幌の最高気温は28.9度。
北海道マラソンとしては比較的走りやすい条件だったのかもしれないが、こんな気温の中を走るのは私には初めての経験である。
給水所ごとに両手にコップを取り、一つを飲んで一つを体にかける。
辛そうに走っていたジャック・スパロウ
そして再び新川通へ戻ってくると、いよいよ7キロ近い直線区間の始まりである。
単調な眺めで日陰も無いと評判の悪いコースだけれど、札幌に住んでいた頃は何度も走っている場所で、言ってみればホームグランドのような場所でもある。
ただ、何時も走っていたのは歩道や新川の遊歩道なので、車道を走るのは初めてだ。
新川通の長い直線が始まる
追分通のアンダーパスは、札幌の我が家から最も近い場所なので、ここで何度も北海道マラソンを応援したことがある。
今日は自分が応援される立場だ。
札幌国際情報高校や手稲高校の吹奏楽部の演奏、一般の市民の方の応援も多く、新川通は単調で退屈するようなコースではない。
何時も追分通のアンダーパス、今までは何時もこの辺りで応援していた
前田森林公園のランナーサポートエリアまでやってきた。
札幌の家からこの公園までは片道5キロ程なので、何度も訪れているお馴染みの場所だ。
まずは4回目のトイレを済ませる。
ここでは沼田町の協力で冬に貯蔵した雪が用意されている。
去年は途中で無くなってしまったらしいが、今年はまだ十分に残っていた。
多分、最初は雪玉として配っていたのだろうが、今は塊から削り取ったような雪を配っていた。
形はどうあれ、体を冷やせるのがとてもありがたい。
アンパンとバナナを食べてコースに戻る。
往路も復路もランナーで埋め尽くされる新川通
公園から少し走ると25キロの関門がある。
電光掲示板に現在の時刻が表示されていたが、関門閉鎖時刻の12時15分まで5分を切っていたのでビックリしてしまう。
過去に出場したマラソン大会で、関門の閉鎖時刻など気にしたこともない。
ここまで4回のトイレタイムで15分程度はタイムロスしていたので、それが影響していたようだ。
26キロ付近の折り返し地点、ここで記念撮影しているランナーも沢山いた
次の29.8キロ関門の閉鎖時刻は12時55分。
キロ8分ペースで走れば十分に間に合うけれど、ペースは7分台後半まで落ちてきているし、給水の時間なども考えると結構危うくなってきている。
それでも何とか5分ちょっとの余裕を持って次の関門も通過。
29.8キロ関門、閉鎖時刻は12時55分
次の35キロ関門までもキロ8分ペースで走らなければならない。
5分の貯金があるけれど、次第に足が動かなくなってきて時々歩いてしまうような状況なので、トイレに寄っている時間はもう無い。
無理してトイレに寄らなくても、途中で取った水分は全て汗として体外に排出されているようなので、このまま最後まで持ちこたえられそうだ。
途中、20キロ関門に引っかかった人達が行列を作って収容バスを待っている姿を見て、もしかしたら自分もそうなってしまうかもしれないと不安になってくる。
そんな時、近くを走っているランナーが周りの人たちを励ましていた。
「このままのペースで走っていれば次の関門は間に合いますから頑張りましょう!」
お腹の見えるランニングウェアを着て胸も膨らんでいるので女性なのかなと思っていたが、それ以外の外観は男性にしか見えない。
そしてその声も完全に男性の声だった。
ゼッケンの名前を見ると「埼玉のはるな愛」と書かれている。
それでようやく理解できた。
それからは必死になってその女性?の後を追いかける。
もう一人、後ろに下がったり前に行ったりしながら、他のランナーを励ましている女性ランナー(大会サポーターの阿萬香織さんだった)がいた。
「35キロの先の40キロ関門まではキロ9分ペースで間に合うので、35キロ関門までもう少し頑張りましょう!」
この二人のランナーさんには本当に助けられた。
自分一人だったら走るペースも分からずに、関門に間に合うかどうか、もっと不安になっていただろう。
最後尾の方を走っていると、給水所の水も無くなりかけてくる。
そんなところでは、スタッフの方が気を利かして余った氷を砕いて配っていた。
この氷がとても役に立って、体を冷やしたり、それをかじりながら走ったりと、その氷にも何度も助けられた。
35キロ関門
そうして35キロ関門は閉鎖1分18秒前に通過。
キロ9分ならば、速歩きでも何とかなるペースだ。
そもそも、足が攣りそうで走れなくなっていたので、もう歩くしかないのだ。
そんな時に、若い女性ランナーが私を追い越す時に「頑張ってください」と声をかけてくれた。
「えっ?何?何でこんな可愛い女の子が声をかけてくれたの?」
そんな疑問を感じながらも、彼女の走るスピードと私の歩くスピードが同じくらいのなので、しばらく彼女の後ろを追いかけていた。
すると突然、彼女がコース脇に寄って足の屈伸を始めた。
彼女も苦しんでいたのだろう。
今度は私が「頑張ってください」を声をかけた。
北大構内へと入ってきた。
北海道マラソンのコースの中でも人気のあるコースだが、私も何度かここまで走ってきたことがある。
見慣れた風景が続くが、それを楽しんでいる余裕はない。
札幌農学校第2農場の横を走る
40キロ関門が近づいてくると、沿道の人達の応援も「まだ間に合うよ、頑張れ」に変わってくる。
私が必死に歩き続けていると「それで大丈夫だから、でも止まったら駄目だよ」などと声をかけられ、思わず笑ってしまった。
40キロ関門を過ぎた時は残り時間45秒になっていて、本当にギリギリでの通過だった。
普通ならばこれで一安心となるところだが、なぜかこの先にもまだ関門があるのだ。
41.5キロ関門。
1.5キロを15分で走れば良いのだけれど、油断しているとそこでストップなんてことも有り得る。
ゴールまで残り700mってところでレースを止められたりしたら、どんな気持ちになるのだろう。
酷としか言いようがない。
北大構内の40キロ関門
41.5キロ関門は道庁の敷地への入口にある。
多分、ここに関門を作らなければならない大人の事情でもあるのだろう。
私は無事にその関門をクリア。
ゴールはまだ先だけれど、その関門を過ぎて走っている人は周りには一人もいない。
まるでゴールした後のような光景だ。
道庁の赤れんが庁舎は改修工事中
一応はゴールにも、スタートしてから6時間の制限があるが、700mを10分で走れば良いので、途中で倒れでもしない限りは完走はほぼ確実である。
道庁の正門を出て北3条通のイチョウ並木を見た時、込み上げてくるものがあった。
もう少しで涙が溢れるところだった。
マラソンを走っていてこんな気持になったのは初めてである。
それだけ、ここへ辿り着くまでの道程が過酷だったのだろう。
ここで涙がこぼれそうになった
駅前通りに出てくると400m先にゴールが見える。
最後ぐらいは走ろうと思ったけれど、走り出そうとした瞬間に両足が攣り、慌てて立ち止まった。
ビクトリーロードは歩くのが精一杯
歩いて通り過ぎたゴールタイムは5時間55分59秒(ネットタイム5:54:41)、制限時間の4分前、私のフルマラソン最長記録となったのである。
6時間に及ぶ戦いが終わった
ゴール後は、流れ作業で完走記念メダルをもらって、タオルをもらって、飲み物をもらって、ミストシャワーをくぐり抜けて、最後にアイスをもらう。
そして大通公園8丁目でようやくかみさんと再会。
かみさんは4時間31分10秒でゴールしていたので、かなり待たせてしまった。
夏のフルマラソンはもう懲り懲り。
二人の意見は一致したけれど、この苦しかった記憶が薄れる頃には、それを良い思い出として振り返ることができるのだろう。