北海道キャンプ場見聞録
兄弟舟で歴舟川を下る
カムイコタン公園キャンプ場(5月22日~23日)
グレッグ&真理さんから、「Wild Hokkaido!で歴舟川を下ることになり、その下見で坂下から河口まで下るのですが一緒にどうですか?」との誘いをうける。
お二人は、私と同じEsquifのPoket Canyonに乗っている関係で以前からFacebookの友だちになっていた。
ただ、そのうちに一緒に川を下りたいですねと言いながら、まだ一度も会ったことがない。
勿論、断る理由はない。
下るのは平日なので、毎日サンデーで歴舟川大好きなNもとさんも誘って当日を迎えた。
スタート地点の坂下で待ち合わせ。
Facebookで友だちになっていると、初対面でも初めて会ったような気がしない。
握手を交わした瞬間に直ぐに打ち解ける。
スタート地点に並んだ2艇のPoket Canyon
カヌーを降ろしてから、今日のゴール地点であるカムイコタン公園キャンプ場に車を移動。
ついでにキャンプ場のチェックインも済ませておきたかったけれど、チェックインの時間は午前11時。
まだ午前9時半を過ぎたばかりなので無理だろうと思ったが、若い男性の方が融通を利かせて受付をしてくれた。
カヌークラブのキャンプでここを利用した時は、最初から敵意剥き出しの対応されたのと比べると雲泥の差である。
気を良くしてスタート地点に戻ろうとすると、グレッグさんが深刻な表情で「トラブルが発生しました」と言ってきた。
どうしたのかと思ったら、グレッグさんの車のリアタイヤがペシャンコに潰れていた。
調べてみると、かなり大きな金属片が刺さっている。
グレッグさんはJAFを頼むことも考えたようだけれど、その場でタイヤを外して、Nもとさんが見つけてくれた大樹町の酒森タイヤ工業所へ持ち込む。
そこにタイヤを預け、その間に川下りを楽しめば良い。
グレッグさんは申し訳無さそうにしていたけれど、スタート時間が少し遅れる程度で大したトラブルではない。
クラブの例会でもトラブルは日常茶飯事。
自分がトラブルの元とならない限りは、ちょっとしたイベントとして楽しめるのだ。
タイヤを預けてからキャンプ場の駐車場に戻ってくると、ジャッキアップされたままのグレッグさんの車がポツンと1台停まっていて、その様子に思わず笑ってしまった。
そうしてスタート地点の坂下に移動。
今日は天気が良いけれど、黄砂が酷かった。
太陽は見えていても、直ぐ近くの山が霞んで見えない。
黄砂で周りの風景が全て霞んでいる
2艇のPoket Canyonを並べると、細かな装備こそ違うものの、傷の付き方などがとても良く似ている。
同じような川を下ってきた証だろう。
岩にぶつけてバウを凹ましたのも一緒だった。
グレッグさんの舟は、それに加えてカヌーの底にもヒビが入っていた。
しかも、そのヒビの一部は完全に貫通してしまっている。
カヤックではたまに見るけれど、カナディアンでそんな割れ方をしているのは見たことがない。
Poket Canyonはロイヤレックスに変わる新しい素材で作られたカナディアンだけれど、強度的にはロイヤレックスの方が優れているのかもしれない。
スタート前に4人で記念撮影
そんな話などをしながら、午前11時すぎに川に舟を浮かべる。
グレッグ&真理さんは、歴舟川は2、3回下ったことがあるとのこと。
今回の川下りは、お二人が出演するWild Hokkaidoの番組の下見が目的なのだけれど、これはNHKの国際放送の番組で、北海道の様々なアウトドア活動を紹介するものである。
お二人はこの番組の中で過去に釧路川、天塩川、シーソラプチ川、阿寒川を下っている。
私もその放送を見て、お二人のスキルは十分に分かっているので、なんの心配もない。
先頭で下っていくNもとさん
グレッグさんはカナダでガイドもやっていたそうで、経験は十分。
真理さんは10年くらい前からグレッグさんとのタンデムで川を下り始めたそうで、参考にしたのは私がYoutubeにアップしている動画とのこと。
そこに写っているかみさんの漕ぎを何度も見て参考にしたらしい。
今回は、彼女の師匠ともいえる私の妻に会うのを楽しみにしていたのだが、師匠は既に引退状態なのである。
この程度の瀬は余裕で下るグレッグ&真理さん
前日の雨で増水気味の歴舟川は、下るのに一番楽しい水量になっていた。
新緑に彩られたゴルジュの風景の中を快適に下っていく。
美しいゴルジュの風景
瀬の波も大きい。
グレッグ&真理さんは、臆する様子もなくそんな瀬に突っ込んでいく。
グレッグ艇は浮力体を入れてない。
浮力体があるとカヌーに入った水を出す時に邪魔になるとのこと。
確かに、瀬を越える度に岸に上がって水を汲み出していた。
カメラを構えていると裏切らないで瀬に突っ込んでくれる
かなり波の大きな場所があったので、その横でカメラを構えていると、グレッグ&真理さんはその波のど真ん中に突っ込んで、バウが大きく跳ね上がる。
グレッグさんによると、カメラを向けられると積極的に瀬に挑んでいくことをKodak courage(勇気)と言うのだとか。
この辺のパドラー心理は日本も外国も変わらないようだ。
日本ならば、KodakではなくCanonかNikonになるところだろう。
豪快に波を超えていくグレッグ&真理さん
ゴルジュ出口の瀬は、増水によって岩もほとんど隠れていた。
手前で瀬の様子を確認してから順番で下る。
ここの瀬は、水が少ない時の方が岩避けが忙しく、落差も大きくなって難易度が増すような気がする。
ゴルジュ出口の瀬
ゴルジュを出た後は何時もは左岸側を下るのだけれど、今回は右岸側の分流も水量が多かったので、初めてそちらを下ってみた。
でも、特に特徴のない流れで、ここはやっぱり左岸側を下ったほうが楽しいだろう。
ここから先に特別な難所は無いけれど、厄介なのは倒木である。
本流が岸にぶつかっている場所では、ほぼ確実に倒木のおまけが付いているのだ。
こんな場所は要注意だ
今日のように水量が多い時は、倒木を避けるだけの川幅があるのだけれど、そんな場所は大体が瀬になっている。
余裕を持って避けたつもりが、思っていた以上に倒木に近づいてヒヤッとさせられた。
先頭で下っていると、前方にちょっとやばそうな倒木が見えていた。
何とかかわせそうだけれど、その手前が瀬になっているのが嫌らしい。
とりあえず後続メンバーにストップをかけてから、自分が先に下ってみる。
倒木の手前で本流から抜け出すことができれば問題はなく、倒木の枝の間も通り抜けられるだけの余裕があった。
Nもとさんも、グレッグ&真理さんも、全く危なげなく倒木をクリア。
横から見ると際どそうだが、通り抜けられるだけのスペースはある
その後、ゴールのキャンプ場までの間にも波の大きな瀬が何度か現れたけれど、グレッグ&真理さんにチキンコースを下るという選択肢は無いらしい。
常に波のど真ん中に突っ込んでいって、バウの真理さんが思いっきり跳ね上げられる。
このシーンはもう少し近くから撮りたかった
写真を撮る方も、これだけ豪快に下ってくれると爽快である。
そうして午後2時前にキャンプ場前の河原に到着。
水量も多かったので2時間40分で下ることができた。
キャンプ場前に到着
今日のキャンプ場の宿泊者は私達だけのようだ。
川が目の前に見えるCサイトにテントを設営。
カヌークラブの例会で利用する時は何時もBサイトなので、Cサイトにテントを張るのは久しぶりだ。
ここにテントを張るのは初めてかも
テントを張り終えて、まずはグレッグさんのタイヤを取りに行く。
チューブを入れてパンクは修理してもらえたけれど、傷が大きいのでこの状態で長距離を走るのはお勧めしないと言われる。
私の車が札幌ナンバーだったのを見て、大変そうだからと無理して修理してくれたようだ。
一番困るのは、傷が大きいので直せないと言われることだったので、この配慮はありがたかった。
そのままナウマン温泉でお風呂に入ってから、キャンプ場に戻り修理したタイヤを取り付ける。
最近の車はスペアタイヤが付いてないので、本当に不便である。
パンク修理の終わったタイヤを取り付け
グレッグさん達は明日もう1泊して明後日に札幌まで帰る予定だけれど、仕事があるので早く帰らなければならない。
しかし、高速道路は怖くて走れないし、帯広でタイヤを探すことに。
真理さんがカー用品店に問い合わせた所、今履いているのと同じ種類・サイズの中古タイヤが見つかり、1本だけで売ってくれるという。
店は午前9時から開いているので、そこでタイヤを交換してそのまま高速道路に乗れば仕事にも間に合う。
料金もパンク修理代より安く、理想的な展開となる。
このタイヤで札幌までは走れなかっただろう
心配事もなくなって、これでゆっくりとキャンプを楽しめる。
美味しい料理に美味しいビール。
カヌー談義に花が咲く。
それぞれのメニューを並べる
グレッグさんのWild Hokkaido撮影裏話も面白い。
放送だけを見ていると、しっかりとした体制で撮影しているように感じるけれど、実際はかなりのドタバタのようだ。
歴舟川の本番では、坂下からキャンプ場まではカヌーガイドの方が撮影に協力してくれるけれど、翌日のキャンプ場から河口までは、スタッフが橋の上や河口で撮影する以外は自分たちのカメラで撮影するのだとか。
それなら、途中から合流して一緒に下れば私達もテレビ出演できるかもしれない。
焚き火をしながらそんな話で盛り上がり、夜は更けていった。
夜中には5度くらいまで冷え込んだようだが、これくらいがシュラフに包まって寝るのには丁度良い。
川の水位は昨日よりも10センチ程度減っていた。
その分、濁りも取れて、今日も楽しい川下りとなりそうだ。
焚き火の温もりがありがたく感じる朝
ただ、空には雲が広がり、黄砂は治まっても天気はパッとしない。
最高気温も今日は一桁止まりで、寒い一日になりそうだ。
朝食を済ませて、午前8時15分に河口まで車を回す。
河口近くでエゾユキウサギに遭遇。
冬山に登っていると足跡だけは毎回見かけるけれど、その姿は滅多にお目にかかれない。
歴舟川下流部ではエゾユキウサギ、タンチョウ、エゾシカ、オジロワシを見られた
歴舟川の河口は来る度に様子が変わっているが、今回は過去に見たことがないほど右岸側に河口が開いていた。
車を停められる場所からはかなり遠くなるけれど、歴舟川を海まで下って最後に河口に立たないわけにはいかない。
無理矢理でも河口まで下ることにして、キャンプ場まで戻る。
河口まではかなり遠いが下るしかない
その途中、歴舟橋とふるさと大橋から川の様子を眺める。
歴舟橋では本流が右岸側を流れていて驚かされた。
朝露で濡れたテントは張ったままにして、午前10時10分に川に漕ぎ出した。
兄弟舟を川に浮かべる
大樹橋までは特に大きな瀬もなく、土壁の風景を眺めながらゆったりと下っていく。
第一の土壁はあちらこちらから湧水が流れ落ちる
風はやや向かい風だ。
そのせいもあるのか、普通に漕いでいるとNもとさんやグレッグさんの舟との距離が次第に広がってくる。
だからといって一生懸命漕いでもその距離が縮まるわけではない。
昨日ならグレッグさん達が何度もカヌーの水抜きをしていたので遅れることはなかったけれど、今日のようにたんたんと下っていると、どんどん離されていくのだ。
それにキャンプ場から河口までの距離は25キロ。
否応なく一生懸命漕ぎ続けなければならない。
第二の土壁は乾燥して白っぽく見える
午前11時45分に大樹橋の下を通過。
ふるさと大橋の少し下流に、かなり大きな波の立っている瀬があった。
波の大きさにビビって、それを避けて下るつもりだったが、途中でどんどん波の方に引き寄せられて、ちょっと焦ってしまう。
グレッグさん達は、ここでもど真ん中に突っ込むのかと思ってカメラを構えていたが、流石にここでは横に逃げていた。
一番激しい波が立っていた瀬
途中でランチタイムの休憩。
気温が低いので、動かないでいると体がどんどん冷えてくる。
グレッグさんから分けてもらった温かい飲み物がありがたく感じる。
Nもとさんは飲み物や食べ物を入れたドライバッグを積み忘れたのだが、真理さんがどちらも余分に持ってきていたので事なきを得た。
風の当たらない場所でランチタイム
休憩した隣の河畔林の中には、見事なまでのシダの群落が広がっている。
先日下った鵡川では、コゴミが採りたかったけれどなかなか見つからずに苦労していた。
それが歴舟川では、ここだけではなく他の川岸もシダに覆われ、もっと早い時期に下れば大量のコゴミが採れそうだ。
もっと早い時期ならばコゴミ取り放題の森か
今年も歴舟川での河原キャンプを予定しているので、そのための良い場所を探しながら下っていく。
テントが張りやすくて、流木が沢山あって、人工物が見えなく、夕日を楽しめそうな河原の候補地を数か所リストアップできた。
毎年流れを変える歴舟川なので、去年キャンプした河原が何処だったのかも全く分からない。
ここも良い河原だった
下流域では、川の中に残された大きな流木も目につくようになる。
根元にトクサやシダが生えたままの流木は、河畔林の一部がそのまま切り取られて流されてきたようだ。
生きた流木
歴舟橋の上流側の流れは、全く新しい川を下っているような気持ちにさせられる。
Nもとさんに「昔はこんなふうに本流が右岸側を流れていたこともあるんだよ」としたり顔で説明していたけれど、過去のGPSの記録を見てみるとこんなに右岸側に寄っていた事は無かったのである。
右岸側に本流が流れる歴舟橋上流
午後1時40分に歴舟橋を通過。
この先は分流が多くなり、その選択にも苦労するところだが、今回は選択に迷うこともなく、素直に一番大きな分流を下っていけば良いだけだった。
残念なのは、曇り空なことだった。
青空が広がっていればこの辺りから歴舟川独特の空の広さを味わえるのだが、曇り空ではその感覚がない。
それでも海が次第に近づいてくることは感じられる。
晴れていれば空がもっと広々と見えていたはず
車を停めてある場所で余計な荷物を降ろし、身軽になって河口を目指す。
河口まで入ってきている車の姿が確認できる。
右岸でも左岸でも、海岸伝いに走ってきたら河口まで来られるのだけれど、オフロード車でなければ途中でスタックしそうだ。
河口は目の前
河口一番乗りは何時もNもとさんだ。
河口到着は午後2時35分。
キャンプ場からは4時間25分かかっていた。
海の直ぐ近くまで下って上陸できる機会は滅多にない。
今回は条件的にかなり恵まれていたけれど、突然大きな波が打ち寄せてきてSUPが流されそうになり、慌てるNもとさんの姿に笑ってしまう。
ここにSUPを置いておくのはまずいと思うんだけど
グレッグ&真理さん艇も、間もなくして河口に到着。
腹に響くような太平洋の波の音。
寄せては返す波の姿は、ずーっと見ていても飽きることはない。
グレッグ&真理さんも河口に到着
そして、毎回姿を変える河口の様子。
歴舟川を下るのなら、最後は海を見て終わりにしたい。
グレッグさんも、来週の撮影本番を前にして下見の目的を十分に果たせて満足そうだ。
問題は、河口まで下って海を見るシーンは欠かせないので、撮影スタッフが河口まで車を入れられるかどうかである。
何れにせよ、次の楽しみはWild Hokkaidoで歴舟川がどのように紹介されるかだ。
歴舟川河口に辿り着いた2艇のPoket Canyon
河口での楽しい時間を過ごした後は、車までどうやって戻るかである。
まずは流れを漕ぎ上がり、ザラ瀬の部分はカヌーを引っ張って歩き、最後は本流をフェリーグライドで渡って、何とか車まで到着。
川を遡上する鮭の気分
河口から車まで距離にして500m程度だったけれど、思っていたよりは苦労しないで車まで戻ってこられた。
最後に2台の車に積んだPoket Canyonと一緒に記念撮影。
楽しい二日間でした
キャンプ場まで戻って、デイキャンプ料金を追加で支払い。
テントを張ったままででかけていたので、川を下っている最中に「チェックアウトの午前11時を過ぎたのでデイキャンプ料金がかかります」との電話が掛かってきていたのだ。
まあ、一人300円の料金で朝露で濡れたテントを乾かせたのだから安いものである。
川の水位
5月22日12:00 尾田:102.91m 本町61.85m
5月23日12:00 尾田:102.75m 本町61.65m