トップページ > キャンプ > キャンプ日記 > 2019年キャンプ日記

東北の旅(奇跡の一本松と遠野)

船越家族旅行村オートキャンプ場(6月18日~19日)

東日本大震災後、8年目にして初めて訪れた三陸の地。
気仙沼大島キャンプ場から散策路を歩いて見る海岸の風景に、津波の爪痕らしきものは見当たらない。

気仙沼大島
海岸の風景は8年前と変わっていないのだろうか


後で知ったことなのだけれど、ここのキャンプ場に泊まるために何も考えずん渡ってきた気仙沼大島大橋は、今年の4月に完成したばかりだったのだ。

気仙沼大島大橋
今年完成したばかりの気仙沼大島大橋

それまでは、気仙沼大島に渡る橋は無く、フェリーが唯一の交通手段だったのである。
それが、東日本大震災でこの島が大変な被害を受けたことで橋の必要性が再認識され、復興のシンボルとしてこの橋が架けられたとのこと。

そんなことも知らず、今日も午前7時過ぎにキャンプ場を出て、この大橋の上から穏やかな海の風景を眺めていた。

そして最初に向かったのは、陸前高田市の奇跡の一本松。
この松のことはニュース等で何度か見ていたけれど、周りは既に公園化されているのだろうと思っていた。

しかし現地まで来て驚いた。
一本松らしき松が見えたけれど、その周辺は公園化どころか、何台もの重機やダンプが忙しく動き回り、未だに復興工事の真っ最中だったのである。

奇跡の一本松
工事現場の中に立つ奇跡の一本松


国道も、川に架かる橋も、巨大な防潮堤もまだ工事中。
駐車場からその一本松までは、工事現場の中を一キロ近く歩かなくてはならない。

歩いて行く途中、遠くの方で新しい住宅地の工事が行われているのが見えた。
その手前には、青々とした水田が広がっている。


復興工事の現場に囲まれた中に広がる田園風景


津波で海水が流れ込んだ影響も既になくなったのか、水の張られた水田では稲が元気に育ちつつある。
混沌とした工事現場の中で、そこだけに穏やかな田園風景が広がっているのが、なんとも不思議な光景だった。

工事現場の中を歩きながら、そこで起こった事を考えていると胸が苦しくなってくる。
涙が溢れそうだった。

奇跡の一本松
この風景に言葉も出ない


奇跡的に残った松も最後には枯れてしまい、モニュメントとしてその松を残すことになったとのニュースを聞いて「そこまでして残す必要があるのだろうか」と、他人事のように考えている私がいた。
しかし、現地に来てその現場を自分の目で見て、地元の人達がこの松をモニュメントとしてでも残そうと考えたその気持ちが、痛いほどに理解できたのである。


周辺は復興工事の真っ最中


次の碁石海岸に向かう途中、海を隔てるように造られた巨大な防潮堤の脇を通る。
その圧迫感はかなりのものである。
今まで毎日美しい海を眺めながら暮らしていた人達は、これからはこのコンクリートの壁を眺めて暮らすことになるのだろう。
いや、今後もここで暮らそうとする人は、もしかしたら居ないのかもしれない。

そんな複雑な気持ちを抱きながらやって来た碁石海岸の碁石浜も、防潮堤で仕切られていた。
想像していたよりも全然狭い碁石浜の景観にちょっとがっかりしたが、それも新たに造られた防潮堤のせいなのだろうか。


海を遮る巨大防潮堤

碁石浜も防潮堤の先に


国立公園に指定されている碁石海岸の園地には海岸の絶景を楽しめる遊歩道が整備されている。
まともに歩いたら一周7.5キロもあり、ここでそんなに時間をかけている訳にはいかない。
碁石埼灯台と碁石岬展望台だけを見ていくことにした。

多分、岩場の海岸風景だけは、津波の前も後も変わっていないのだろう。
そんな風景を楽しんで駐車場まで戻ってくる。

碁石埼灯台
碁石埼灯台
碁石岬展望台
碁石岬展望台


途中の草地ではエゾカンゾウが花を咲かせていた。
「東北で咲いているのは、エゾカンゾウとは違うのかな?」と思ったが、種類は同じだけれど、こちらではニッコウキスゲの名前で呼ばれているようだ。



ここで一旦三陸海岸を離れ、内陸部へ向かって車を走らせる。
目的地は民話の里・遠野である。
かみさんの希望により目的地に加えた場所なので、運転しながら「遠野では何処を見るの?」と聞いてみたが、かみさんは何も考えていなかったのである。
私もかみさんに任せて、遠野のことはあまり詳しく調べていなくて、最初に何処に行けば良いのか悩んでしまった。
とりあえずは、旅行ガイドで一番最初に目に付いたカッパ淵に向かうことにする。

私は、遠野は山の中にある小さな村だと勝手に思い込んでいたのだけれど、遠野は村ではなく遠野市なのである。
市街地の中にやって来ると、国道沿いには郊外型の店舗が建ち並び、何処の町でも見かける様な風景にがっかりした。
しかし、カッパ淵に向かって車を走らせていると、次第に私のイメージしていたような風景に変わってきてホッとする。


遠野市郊外には私が頭の中に描いていた風景が広がっていた


遠野の観光地は博物館的なものが多く、その中でカッパ淵だけは自然景観的な観光地との印象を持っていた。
しかし、「自然景観とは言っても、そんな大したものじゃないだろう」とも思っていた。
そうしてやって来たカッパ淵は、やっぱりただの小川で、水も濁っていて、何の取り柄もない川という印象である。

カッパ淵
カッパ淵は何の変哲もない小川だけれど


しかし、この川にはカッパが棲んでいるのである。
しかもカッパが釣れるらしく、そこには釣り竿とキュウリが置かれていた。
私たちも早速カッパ釣りをしようと思ったが、そこの注意書きに「釣りをするためにはカッパ捕獲許可証が必要」と書かれている。
許可証は駐車場の横にあった「伝承園」で貰えるらしいが、そこまで戻るのも面倒である。
もしもカッパが釣れたら密漁になってしまうが、私たちは許可証無しでキュウリを付けた竿を川に出したのである。

カッパ淵
カッパが釣れたらどうしよう
カッパ淵
木の切り株も怪しい雰囲気


カッパが釣れたかどうかはここには書かないでおくが、とても楽しめた事だけは確かである。
近くにあった木の切り株は何となくおどろおどろしい形をしていて、小さな社の中には何処の誰だか分からないおじいちゃんの写真が飾ってあり、隣のお寺の狛犬はカッパの顔になっていて、やっぱりここには普通ではない何かがいるようだ。

駐車場まで戻り、伝承園の食堂で昼食にする。
この辺りの郷土料理の「ひっつみ」を食べてみた。


カッパ麦わら帽子を被って入園

小麦粉を練って固めたものをひっつまんで汁に投入れて作るので、そんな名前になっているらしい。
昨日平泉で食べたはっと汁も同じような食べ物で、東北地方の地域によって、呼び方が変わるようだ。

伝承園は、遠野地方のかつての農家の生活様式を再現した施設。
入園の際に、「カッパ麦わら帽子を被って、カッパになった気分で場内を見学してください」と言われた。
そのカッパ麦わら帽子は無料で貸し出されている。

こんな場所ではその世界に入り込んだ方が楽しめるものである。
早速その麦わら帽子を被ってみたが、カッパ淵で釣りをする時にも被っていれば、本当にカッパが釣れたかもしれない。

伝承園
園内には昔ながらの建物が復元されている


園内の展示はどれも興味深く、私が以前から興味のあった南部曲り屋も、初めてその内部を見ることができた。

伝承園
民芸品の展示も美しい


千体のオシラサマが展示されている御蚕神堂(オシラ堂)に入る。。
オシラサマは東北地方で信仰されている家の神で、オシラサマ伝説もあるらしい。

貧しい農家の娘が、飼っている馬と仲良くなってついには結婚してしまい、怒った父親はその馬を殺して木に吊り下げた。その馬にすがり付いて泣く娘の前で、さらに怒った父親は馬の首をはねてしまう。娘は馬の首に乗って空に昇り、それがオシラサマになったと言う。
何とも恐ろしい話で、そのオシラサマが神として崇められているのも不思議な気がした。

伝承園
千体のオシラサマが並ぶ様子は圧巻


曲屋の中では蚕も飼育されている。
蚕を見るのは初めてで、数百匹もの蚕がもぞもぞと動きながら桑の葉を食べている様子は、本当は気持ち悪いのだろうけれど、それ以上に興味を惹かれて見入ってしまった。

伝承園
蚕を見るのは生まれて初めて



伝承園を出て次に向かったのは、遠野の昔ながらの山里を再現した施設である遠野ふるさと村。
大型バスが何台も停まっていて「ゲゲッ!」と思ったけれど、それは高校生の団体が乗ってきたバスで、生徒たちは丁度昼食中だった。
食べているのは遠野名物のバケツジンギスカン。
遠野でもジンギスカンが名物になっているのだと、ここで初めて知ったのである。

遠野ふるさと村南部曲り家
何棟もの南部曲り家を見られるのが嬉しい


山里を再現しているだけあって園内は広く、田畑や水車小屋、炭焼き小屋もあり、茅葺屋根の南部曲り家がそのままの形で何棟も移築されている。
曲り屋では人間と馬が一緒に暮らしていて、そこからオシラサマ伝説も生まれたのだろうけれど、ここの曲り屋の一つで実際に馬が飼われているのにはビックリした。

遠野ふるさと村南部曲り家
曲り家の中で実際に馬が飼われている
遠野ふるさと村南部曲り家
かまども実際に使われている


台所のかまども実際に使われていて、それぞれの曲り屋では地元のおばちゃんたちが働いていた。
台所で何かを作っていたり、囲炉裏の周りに座って話をしていたりして、こちらが挨拶すると挨拶を返してくれる。
施設の案内をする人でもなさそうだし、何をしているんだろうと疑問に思ったが、このおばさん達は多分生体展示の一種なのだろうとの結論に達した。

遠野ふるさと村南部曲り家
後ろに見えているおばさん達は生体展示?(笑)


おじさん生体展示の方も一人いて、この方は曲り屋の中の説明をしてくれた。
地元の方の話しを聞きながら施設を見学していると、より興味も湧いてくる。

遠野ふるさと村南部曲り家
おじさんの興味深いお話を聞く
遠野ふるさと村
オシラサマはこうして床の間に祀られている


床の間に祀られている2体のオシラサマ。
ただの木の棒かと思っていたら、良く見ると娘と馬の顔が彫られていた。
オシラサマ伝説を思い出し、やっぱりこの娘と馬が神として祀られているのが改めて不思議に思えた。

遠野ふるさと村南部曲り家
こんな民宿に泊まってみたい


遠野ではもう少し時間をかけても良かったかなと思いながら、今日のキャンプ地である船越家族旅行村オートキャンプ場に向かった。
このキャンプ場のある山田町も津波で大きな被害を受けたところである。
海岸が複雑に入り組んでいる三陸のリアス式海岸は、津波が高くなりやすいので、何処も大きな被害を受けたようだ。

遠野から再び三陸海岸まで出てきて、キャンプ場まで沿岸の道を走っていると、一山超える度に「ここから過去の津波浸水区間」と書かれた道路標識が現れる。
そしてそこでは、未だに災害復旧工事が続いているのである。

そんな光景を目にしながらキャンプ場に到着。
ここは少しだけ高い場所に位置するので、津波被害は免れたようである。
受付をすると、他にお客さんはいないので好きな場所にテントを張ってくださいと言われる。

船越家族旅行村オートキャンプ場
サニタリーハウスの周りにサイトが配置されている


キャンプ場の真ん中にあるサニタリーハウス内には、ウォッシュレットのトイレ、温水シャワーにランドリー、洗面所が併設され、炊事場は個別のシンクでそれぞれにガスコンロが設置されている。
おまけに電子レンジ、オーブントースター、冷蔵庫まで使えるのだ。

船越家族旅行村オートキャンプ場
使いやすい炊事場にかみさんも満足そう

これだけの施設が一か所にまとまっているキャンプ場なんて他に見たことが無い。

しかし、料金は一区画3240円と安くはなく、各サイトも狭く、ロケーションも楽しめない。
それでもこのサニタリーハウスを独占して使用できるので、全く不満はなかった。
サイトも、サニタリーハウスに出入りしやすい場所を選択。

溜まっていた洗濯物を洗い、今日は温泉に入れなかったので温水シャワーで汗を流す。
こんなキャンプ場で一番喜ぶのは、やっぱりかみさんである。
夕食の準備も洗いものも、全くストレスなくできるのが嬉しいようだ。

時々パラパラと雨が落ちてきたけれど、それも気にせず、ゆったりと夜を過ごすことができた。


次のキャンプへ



ページトップへ