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ジオサイトと美術館

判官館森林公園キャンプ場(5月8日~9日)

朝から降り始めた雨で豊似湖へ行くのを諦め、特にハッキリとした目的も無いまま今日の宿泊地である判官館森林公園を目指す。
浦河を過ぎ、国道から日高耶馬渓の旧道へ入ってみる。
ここは断崖絶壁の海岸線が続き、アポイ岳ジオパークの日高耶馬渓エリアとして幾つかのジオサイトが存在しているのだ。
この旧道へ入るのは、私の記憶にある中では初めてかもしれない。

日高耶馬渓
日高耶馬渓の険しい断崖


事前に、この付近のジオサイトについては予め調べてはあった。
その中の一つ「ルランベツ覆道の褶曲」は旧道の覆道の中からアクセスしなければならない。
それでも、車もほとんど通らない旧道なので、安心して見学できる。

ルランベツ覆道の褶曲
ルランベツ覆道の褶曲はただの岩にしか見えない
ルランベツ覆道の褶曲
ビックリする様な場所に看板が出ている


「時空を超える三つの時代のトンネル」というのもある。
何となくそのネーミングに惹かれるけれど、明治、大正、昭和の時代に掘られた三つのトンネルが並んでいるだけである。
その中の明治のトンネルは、近くに住む漁師の方の物置として使われていて、並んで見えるのは大正と昭和のトンネルの二つだけだ。

時空を超える三つの時代のトンネル
大正のトンネルと昭和のトンネル
時空を超える三つの時代のトンネル
明治のトンネルは物置となっている


この辺りは古くから交通の難所になっていて、断崖上には200年前に開削された様似山道が通っている。
4年前にこの山道を歩いた時も今回と同じような季節で、途中で山菜は採れるし、花も咲いているしで、とても楽しい山歩きだった。

日高耶馬渓
この断崖の上に様似山道が開削されたのだ


他にも「大正トンネルの花こう岩類」、「冬島の穴岩」などのジオサイトがあるものの、観光の対象としては地味過ぎて、マニアな方が喜ぶだけの様な気がした。



次は様似海岸エリアのジオサイト。
こちらの方は何度も訪れているところだ。


親子岩を取り巻く岩礁

まずは、観音山の展望台から親子岩やエンルム岬を眺める。
丁度干潮の時間帯だったので、親子岩を囲むような岩礁帯も確認できる

観音山はカタクリやオオバナノエンレイソウの花が見られるのだが、雨に打たれてエンレイソウの花は閉じているものの、オオバナノエンレイソウは満開だった。
これならば判官館森林公園のカタクリも期待できそうだ。

かみさんが、エンルム岬の山腹に階段があるのを見て「上まで登れるのね?」と寝ぼけた事を言ってるので、「前に登った事あるだろう!」と指摘して、今度はそこを登ることにする。

エンルム岬
エンルム岬


テレビ中継局のある場所まで車で上っていけるので、そこから急な階段を登れば直ぐに展望台に到着。
この頃には雨も上がっていて、観音山展望台とは逆方向からの様似海岸の様子を眺められる。

エンルム岬
エンルム岬からの展望


エンルム岬の海側には等間隔で並ぶ岩礁があって、これもなかなか面白い。
展望台を下りて、今度はその岩礁側からエンルム岬を眺めてみる。
陸側から眺めるのとは全く違う、荒々しい岬の風景に圧倒される。
NHKの人気番組「ブラタモリ」でも、是非この様似のジオパークを取り上げてもらいたい。

エンルム岬
エンルム岬の海側に規則正しく並ぶ岩礁
エンルム岬
海側から見たエンルム岬


温泉は静内温泉に入ることにした。
立派な施設に変わっていたのでビックリする。

静内温泉
立派になった静内温泉

温泉から出た後に、閉鎖された「緑のふるさと温泉の森キャンプ場」の様子を見に行く。
バンガロー等の施設はそのまま残っていて、「何で閉鎖されたのだろう、勿体ないな~」と思って見ていると、川に架かっているキャンプ場への橋が無くなっているのに気が付いた。

新しい橋を架けてまでキャンプ場を再オープンさせる気持ちは、新ひだか町には無さそうである。
せっかく温泉施設を新しくしたのだから、その時にキャンプ場の橋も一緒に架け直せば良かったのにと思ってしまう。

ここで思わぬ収穫があった。
道路の近くでタラノキが芽を付けていたのだ。
ちょっと背が高すぎたけれど、車に積んであった傘が役に立った。
傘の柄を引っ掛けて手元に引き寄せれば簡単に収穫できるのである。
大量のタランボを採って、夕食の買い物に天ぷら粉を追加することとなった。


施設はそのまま残っているけれど場内は荒れ放題の旧緑のふるさと温泉の森キャンプ場


昼食は新ひだか町内の「蕎麦工房春風」で蕎麦を食べる。
店主と客の会話を聞いていると、連休中は昼までに60食以上出ていたらしい。
やっぱり、連休中には出歩くものではない。

判官館森林公園キャンプ場に着く頃には青空も広がっていた。
受付を済ませて場内に入って行くと、グループのキャンパーが通路上にテントやシートを広げていて、慌ててそれを片付け始める。

判官館森林公園
カタクリが満開の場内

昨日からテントを張っていたのならば、今日の雨でずぶ濡れになったのだろう。
気の毒に思えたけれど、これだけ天気が良くなれば、濡れたテントも直ぐに乾くに違いない。

私たちのテントを何処に張るかで少しだけ迷ったけれど、4年前にここに泊まった時と同じサイトに決める。
4年前は5月2日に泊まって、その時は満開のカタクリに囲まれる素晴らしいキャンプを楽しんだ。

今年は連休中に暖かな日が多かったので、カタクリの花も終わってしまったかもと心配していたが、4年前に勝るとも劣らないカタクリの花園である。
オオバナノエンレイソウの花も混ざって、息を呑むような美しさだ。
この風景を眺めるのならば、やっぱりここがベストサイトなのである。

判官館森林公園
花に囲まれた風景を楽しむのならやっぱりこのサイトだ


一息ついてから場内を散歩する。
林内ではオオバナノエンレイソウとニリンソウが花盛りである。
桜もまだ花を咲かせていた。

判官館森林公園
オオバナノエンレイソウは花盛り
判官館森林公園
足元の花を踏まない様に気を使う


そんな風景を楽しんでテントまで戻ってくると、かみさんが早速タランボの天ぷらを揚げてくれる。
アズキナもそこら中に生えているので、それも一緒に天ぷらにする。
感動的に美味しかった。
九州旅行で買ってきたゆず塩も、タランボの美味しさを引き立てていた。


天ぷらの材料

ゆず塩と大根おろしでいただく


夕食は、最近の我が家のキャンプで時々登場するようになったビビンバ。
レトルトご飯を使って簡単に作れるのが良い。
以前はご飯を炊くのだけが私の仕事だったけれど、最近はレトルトご飯を使うようになって、私の仕事は完全に無くなってしまった。

判官館森林公園
焚き火の時間

夕食を終えて直ぐに焚火を始める。
風が吹いていない時の焚き火はこんなに快適なのだと、昨日の襟裳を思い出しながら、改めて感じ入ったのである。

夕陽で西の空が赤く染まってきた。
この時期だと、キャンプ場からは海に沈む夕日が見られない。

夕日を楽しむのに何処か良い場所はないかと考えて、思いついたのが場内の新冠町100年記念塔だった。
屋根の部分が鏡の様になているので、もしかしたらそこに夕日が映り込むかもしれない。

そして、思った通りの夕日の風景を写真に収められたのである。

判官館森林公園
100年記念塔に映り込む夕日


辺りが暗くなってくると、昨日よりもさらに細くなった三日月が木々の間に浮かんでいるのに気が付いた。
近くの池からカエルの大合唱が聞こえてくる。
カエルの鳴き声は何となく夏のキャンプのイメージなのだけれど、風が吹いていなくても、気温はかなり低いままだ。
でも、風はないし、焚火の傍にいれば寒さはほとんど感じない。
幸せな焚火を楽しんで、テントにもぐり込んだ。

判官館森林公園
三日月の下で焚火を楽しむ



新冠温泉レコードの湯
新冠温泉で朝風呂に入る

翌朝、近くの新冠温泉レコードの湯に朝ぶろに入りに行く。
かみさんが、ここの温泉では朝ぶろをやっていることを知っていたのである。
朝ぶろの営業時間は午前5時から午後8時まで。
キャンプ場でレコードの湯の割引券を貰えるので、400円で温泉の朝ぶろに入れるのだから堪らない。

今日の予定は、太陽の森ディマシオ美術館に行くだけ。
かなり山に入った場所にあるのだけれど、このキャンプ場からならば30分程度で行くことができる。
午前9時半開館なので急ぐ必要もない。

夜露で濡れたテントも完全に乾かして、9時に撤収完了。
山陰九州の旅では午前8時までの撤収を目指していたので、濡れたテントは乾かないし、朝も慌ただしい。
それが1時間遅いだけで、朝ぶろに入ってもまだ余裕があるのだ。
キャンプの朝はこれくらいゆっくりできる方が良い。

そしてやって来たディマシオ美術館。
世界最大の油彩画があるという予備知識しか持っていなかった。
のぼり旗が並ぶ派手な入口、所々に立っているマネキンの警備員、場内地図を覗きこむ羊の像、恐竜やゴリラもいる。
「ど、どういうコンセプトなの?」と少々狼狽えてしまう。

ディマシオ美術館
ベンチの上で寝転がる人
ディマシオ美術館
この羊は何?


しかし、中に入って少し安心した。
普通の美術館である。
ジェラール・ディマシオの幻想的な絵画は、その世界に引き込まれそうになる。
ルネ・ラリックのガラス作品も展示されている。
その作品は美しく、展示方法もなかなか良い。

ディマシオ美術館
ディマシオの絵画とルネ・ラリックのガラス作品が一緒に展示されていた


そして世界最大の油彩画である。
それが展示されている展示室の自動ドアが開いた瞬間、思わず「おおーっ」と声を上げてしまった。
その大きさも凄いが、上下左右を鏡が取り囲んでいるので、その絵画が無限の広がりを持つように見えるのだ。

ディマシオ美術館
これが世界最大の油彩画


午前10時からその場所で光と音のプログラムが始まると館内放送が告げていた。
えっ?ここで何が始まるのだろうと、そのプログラムが始まるのを待つことにした。

ディマシオ美術館
他の展示内容も充実している

室内の照明が暗くなり、音楽とともに照明が油彩画を照らし出す。
光の当たる場所と色が変わるだけなのだけれど、ただの絵画がまるで命を得たように動き始めるのである。
圧巻の9分間だった。

ここの美術館には何故か猫が住んでいて、館内を自由に歩き回っている。
猫が寝るような場所もあり、最初は「これも展示の一つなのかな?」何て思っていたが、本物の猫の寝床だった。

そのすぐ横に熊谷守一の作品が展示されているのが、また憎いところだ。
2018年公開の映画「モリのいる場所」は、熊谷守一がモデルなのだけれど、最近この映画を見たばかりだったので、余計に感じるところがあったのである。
ただ、今回はこの猫に会えなかったのが残念だった。

ディマシオ美術館
ガラスの美術館は屋外の光の具合によって見え方も変わってきそうだ

館内を見終えて外に出てくると、最初は違和感を感じた屋外の展示もすんなりと受け入れられるようになっていた。
敷地内のガラスの美術館は、以前の小学校で利用されていたプールをリノベーションしたもので、壁は全てガラスの窓。
そこに展示されているガラス作品は、自然光と良くマッチしていた。

この美術館は2010年に廃校となった太陽小学校を再生したものである。
実は、この太陽小学校にはちょっとした因縁があった。

2002年から「北からデジカメだより」というメールマガジンを共同発行していたのだが、その共同発行者の中にMiyukiさんという女性がいらっしゃって、彼女のご主人が太陽小学校に勤めていたのである。
一度、発行者で太陽に集まったことがあったのだけれど、私は参加できず。
その後、2003年の日高豪雨では、太陽でも被害があったとの話を聞き、とても気になっていた。
何時か訪れてみようと考えていた矢先に、Miyukiさんがガンに罹り、そのまま若くして亡くなられたのである。

ディマシオ美術館
最初は違和感のあった屋外の展示も最後には素直に受け入れられるようになっていた


そうして今頃になってようやく太陽を訪れることができたのである。
ディマシオ美術館の敷地の隣には、太陽小学校の教員住宅だったと思われる建物も残っていた。

近くには太陽小学校の元となった、開拓時代に作られた木の皮の学校を復元したものが展示されている。
昭和56年に復元されたものなので、Miyukiさんも多分これを見ていたのだろう。
美術館以外にも深く心に残ることとなった今回の太陽訪問だったのである。

木の皮学校
復元された木の皮学校



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