北海道キャンプ場見聞録
川原キャンプは止められない
歴舟川の川原(7月6日~8日)
毎年のように出かけていた歴舟川の河原キャンプ。
それが昨年一昨年と途絶えていたので、3年ぶりの歴舟キャンプとなる。
今回は、母親が乗らなくなった軽自動車を借りたので、タクシーを使わなくても車の回送ができる。
母親からは、「家に停めてあると乗りたくなるから売り払って欲しい」と頼まれていたのだが、これがあるので今まで売らずにおいたのである。
歴舟川の川旅へ出発
実家からは、私が軽、かみさんがエクストレイルを運転して歴舟川へと向かう。
そして軽の方を川原近くに停めて、カムイコタンのキャンプ場へ。
キャンプ場は7月からオープンしているけれど、平日なのでキャンパーの姿は無し。
去年の台風で被害を受けたキャンプ場の階段護岸はまだそのままで、Cサイトの川側のサイトも使用禁止のままだ。
カヌーにキャンプ道具を積み込んで、そんな閑散としたキャンプ場の前を出発した時は既に午後3時半近くになっていた。
今回は、途中で2泊するつもりでいたので、初日のスタートが遅くなっても大して気にはならない。
気持ち良く瀬を下る
心配していた川の水量も、かなり少ないけれど何とか下れるレベルだ。
事前に確認していた尾田観測所の水位は101.84m。
過去に下って水が少なかった時よりも40センチ近く少ない水位だったのである。
去年の台風の大増水で、川の高さ自体が変わってしまったのだろう。
去年の8月の台風後は、カヌークラブの例会で9月にキャンプ場から大樹橋まで下っていた。
その時は、前日の雨で増水していて、第1の土壁まで下る途中に3艇も沈脱するような有様だった。
今日は、そんな出来事が信じられないくらいの穏やかな流れである。
天気も良くて水も澄んで、最高の川下り日和だ。
湧き水の染み出す第1の土壁は、何時も通りの美しさで私達を出迎えてくれた。
歴舟川を代表する土壁の風景
その先にテントを張るのに良さそうな川原があったので、上陸してみる。
しかし、時間はまだ午後4時。
焚き火用の流木も少ないので、もう少し下ってみることにした。
素晴らしい野営地が見つかった
そして、そこから10分も経たずに、再び良さげな川原を見つけて上陸。
テントを張るのにちょうど良い小砂利の部分があり、流木も結構転がっている。
文句なしで、今日の野営地に決定である。
テントを張り終えたら直ぐに流木集め。
二人で手分けすれば、あっと言う間に十分な量の流木を拾い集めることができた。
しかし、直ぐには焚き火は始めない。
今日から全道的に気温が高くなり、清水の実家に寄った時の気温は30度を超えていた。
さすがにここでは、そこまで気温は上がっていないけれど、まだ火の近くに寄りたくはないのだ。
まずはビールで乾杯だ。
そして、レトルトのご飯とカレーで、簡単な夕食を済ませる。
陽が沈んでようやく焚き火を楽しめる
太陽が西へ傾く頃、暑さも和らいだので焚き火に火を入れる。
歴舟河原キャンプでの楽しみの一つが、日高山脈へと沈んでいく夕日の風景である。
日高山脈に源を発する歴舟川。
今の季節は丁度、川の上流に日が沈んでいくので、邪魔な障害物もなく、日高山脈に沈む夕日を楽しめるのである。
後ろを振り返ると、月齢12日のほぼ丸く見える月が、既に河畔林の上にまで昇ってきていた。
できれば歴舟の河原キャンプでは、月明かりのない方が星が沢山見えて良いのだが、月明かりの下での河原キャンプも良いものである。
どうせならば満月に合わせて川原キャンプをしたかったけれど、満月はまだ三日後である。
日高山脈に夕日が沈む
月明かりに照らされた川原の中で、焚き火が大きな炎を上げている。
辺りが暗くなると空気もヒンヤリとしてきて、その冷たさが肌に心地良い。
聞き慣れない鳥の鳴き声が聞こえてきた。
検索しても分からないのでフェイスブックにその鳴き声をアップしてみたが、「ヨタカに似ているのでは」くらいの返事しかなく、分からず仕舞いで終わってしまった。
鳴き声だけで鳥の種類を特定するのはなかなか難しいのだ。
豪快な焚き火を楽しむ
焚き火と月明かり
川原の朝
翌朝、4時半に目覚めると、既に河畔林の向こうに朝日が昇っていた。
夜露に濡れていた河原の石が朝日に照らされると、あっと言う間に乾いていく。
今日は暑くなりそうだ。
竿を出してみると、全く釣れる気配が無い。
初めての歴舟キャンプの時に大きなニジマスが簡単に釣れたので、それ以来、釣りも楽しみの一つにしている。
しかし、釣れたのはその1回だけ。
下っている途中でも、魚の姿は全く確認できず、去年の大雨で魚もいなくなってしまったのだろうか。
拾い集めた流木は全て燃やし尽くす。
早朝はまだ近くに寄れた焚き火も、次第にその熱さが鬱陶しくなってくる。
朝食を終えて、荷物をまとめカヌーに積み込み、一晩お世話になった川原を後にしたのは午前8時過ぎ。
川面を吹いてくる風は涼しい
この日朝8時の大樹町の気温は25.3度。
太陽に熱せられた川原の気温は恐らく30度くらいにはなっていただろう。
それでも川の上に漕ぎ出せば、川面を吹いてくる風はヒンヤリと冷たかった。
去年の台風の大増水により、川沿いには広々とした川原があちらこちらに出現していた。
河畔林が根こそぎ流出し、その跡に新たに砂利が堆積したのだろう。
今朝までテントを張っていた川原も、台風前はもっと狭い川原だったはずだ。
第2の土壁の前にも広い川原が新たに作られていたが、その川原の真ん中に1本だけまだ根を張っているハルニレの巨木があった。
その根元には他の流木が張り付き、幹の皮も無残に剥げていたが、まだ緑の葉を付けている。
このまま生き残ってくれたら、歴舟川の新たなシンボルになりそうな、立派なハルニレである。
川原に1本だけ残った奇跡のハルニレ
ヒグマの足跡
第3の土壁の前にも野営地になりそうな川原が広がっていたので上陸してみる。
しかし、その川原の泥の上には大きな熊の足跡がはっきりと残されていたのである。
歴舟川は、少なくとも大樹町市街地までは熊の生息域に入っている。
Googleマップの航空写真を見れば、川の直ぐ近くまで山が迫り、そこから緑の回廊が川まで繋がっているのが分かる。
川を下っている途中に熊を見たとの話しも何度も聞いていた。
今回は爆竹も用意していたけれど、熊の気配をそんなに感じなかったので使わずにいたが、油断しない方が良さそうだ。
熊対策の基本は食料の取り扱いである。
もっとも、こんなところでキャンプする時は野生動物対策は欠かせない。
歴舟川は熊が出るから怖いと言う人もいるけれど、食料やゴミの取り扱いをしっかりとしていれば、そんなに熊を恐れる必要もない。
川を塞ぐ蛇籠
北海道は少し山に入れば、何処だってヒグマの生息域に入ってしまう。
それを怖がっていては、外で遊ぶことなどできないのである。
川の中には、何処から流されてきたのか大きなコンクリートの塊が転がっていたり、堰のように川を塞いでいる蛇籠があったりと、増水後に新たにできた障害物が目に付く。
しかし、水が少なくて流れも緩い場所なので、余裕をもって避けることができる。
第3の土壁の先には、川底の岩盤が露出している場所が新たにできていて、水が増えると結構迫力のある瀬になり、水が減ると下るルートの選択に迷いそうだ。
調べてみると、ここは本流の流れが大きく変わったことにより、新たに出現したポイントである。
大樹橋手前の瀬は岩盤が露出
これまで、キャンプ場から大樹町市街地までの区間で一番の難所は、市街地が近づいた頃に左岸側に現れる瀬だった。
流れが速く、テトラも絡んでいるので嫌らしい瀬だったが、ここは流れが分散したことによりそれ程の難所ではなくなった。
大樹橋が見えてきた辺りに大きな波の立つ場所があったが、ここも今までとは様相が変わっていた。
多分、川底を覆っていた砂利が流されてしまったのだろう。
その下の岩盤が露出して、ちょっとした落ち込みになっている。
大樹橋を過ぎた先の左岸に上陸し、街の中のセブンイレブンで氷とビールを買い足す。
川の上ではそれ程感じなかったのに、上陸してアスファルトの道を歩いていると、その暑さに目眩がしそうだった。
歴舟橋の下流は、年によって本流が左岸側と右岸側に変わることがある。
今回は左岸側の分流は完全に無くなり、右岸側へと向かう1本だけになっていた。
流れが1本にまとまると、水量も増えて楽しい瀬となる。
満載のキャンプ道具も気にせずに、顔にかかる水しぶきを楽しむ。
テトラは一番嫌らしい障害物だ
その先のふるさと大橋では、橋脚を保護するコンクリートブロックに流れがまともにぶつかっていた。
直前で上陸してスカウティングしたところ、何とかギリギリでブロックを交わせそうだ。
重たいキャンプ道具を積んでいるので、なるべくポーテージはしたくないのである。
そこをクリアして暫く下っていくと、今度は左岸の護岸のテトラブロックに流れがぶつかっているところがあった。
ここも様子を見てから下る。
川の中で一番危険なのは、やっぱり人工物だと再認識させられた。
しかし、その先の自然にできた細い流れを前にして、かみさんが逃げてしまった。
楽しく下れそうな瀬なのに、かみさんはポーテージすると言って聞かないので、しょうがなく重たいカヌーを瀬の下まで引きずっていく。
この左岸のテトラと細い水路の瀬は過去に下った覚えがない。
後で調べてみると、ここも本流の流れが大きく変わっていて、過去に下った時はいずれも右岸側を下っていたのである。
ここからウォータースライダーのような楽しい瀬が続くのだが、今回は泣く泣くポーテージ
そこから先は川幅も一気に広がり、下るコースも毎回変わってくる。
まして、大増水の後となると、全く初めて下る川と同じである。
巨大な流木に圧倒される
分流も多くて、どの分流を下るかの選択も一つの賭けみたいなものだ。
そもそも、川がどちらに向かって流れているのかも分からなかったりするのである。
何とか賭けに負けることなく、順調に下っていく。
広大な川原の一つに上陸してみる。
川原のあちらこちらで、洪水で流されてきた樹木が無残な姿をさらしていた。
その先に、雰囲気の良さそうな川原があったので、そこでもう一度上陸することにした。
そろそろ、ビール休憩でもとろうと考えていたのだ。
そして上陸したその川原は、理想的な野営地だった。
テントを張る場所が川から近く、流木も拾えて、かみさんがトイレのために身を隠す場所もある。
しかもロケーションも申し分ない。
難点は魚が釣れそうなポイントが近くに無いことだったが、今回は釣りはもう諦めていた。
まずはタープだけ張って寛ぐ
小休止だけのつもりが、早々とここを今日の野営地にすることに決める。
時間はまだ12時前。
暑くてたまらないので、まずはタープだけ設営する。
そして設営が終わったら、そのまま裸になって川に飛び込む。
水に入る瞬間はさすがに冷たく感じたけれど、全身を水に漬けてしまえば、心地の良い涼しさである。
昼食はコンビニで買ってきた冷やしそうめん。
タープの日陰でそれを食べるが、タープの薄い生地が作り出す程度の日陰では、暑さも和らげられない。
何せ、川原の風景が陽炎でゆらゆらと揺らめいて見えるくらいなのである。
暑くなったら川に入ってクールダウン
昼食を終えると、かみさんも濡れても良い服に着替えて川の中に浸かりに行った。
この後も暑くてたまらなくなれば、川に入ってクールダウン。
この繰り返しである。
その間に流木を拾い集め、テントも設営。
料理用のミニ焚き火でかみさんがステーキを焚いてくれた。
安肉なので、かみさんが河原の石で叩いて柔らかくする。
そうして焼いたステーキを川原で食べれば、高級レストランで食べるステーキよりも美味しく感じるのである。
夕方になっても気温は下がらない。
焚き火を始める前に夕食を済ませてしまう。
甲高い警戒の鳴き声を上げながら、キツネの親子が遠くを走り抜ける。
遠くから眺めるとワイルドなサイトだ
昨日よりも更に快適な川原だ
午後6時近くになり太陽もかなり西の空に傾いてきた頃、ようやく焚き火に火を入れる。
この日の夕日は昨日よりも更に美しかった。
川の水まで赤く染まるのだ。
この日の夕日も最高に美しい
そして後ろからは、昨日より更に丸みを増した月が昇ってくる。
太陽が沈んだ後も、西の空はまだ赤く染まったままだ。
そんな風景をバックにして、焚き火が赤い炎を上げながらメラメラと燃えている。
しかし、そんな素晴らしい焚き火からは5m以上距離を開けないと暑くてたまらないのが難である。
赤く染まった空と川、そして赤い炎を上げる焚き火
明るい月に照らされて、歴舟の夜は更けていった。
月が川原を明るく照らす最高の夜だ
朝食調理中
2日目の朝も4時半には起き出す。
既に朝日がギラギラと川原を照らしていた。
今日も気温は、絶好調で上昇しそうな雰囲気である。
なので、直ぐに焚き火を燃やし始める。
焼き芋にするため持ってきた芋がまだ残っていたので、気温が上がりすぎる前にその芋を焼いておきたかったのだ。
そうして暑さの中で焼き上げた芋は、朝食後の絶品スイーツとなったのである。
川原を綺麗に片付けて、昨日より1時間早く、7時過ぎに野営地を後にした。
水の上に出ると何だかホッとする。
美しい清流を気持ち良く下っていく。
歴舟橋が見えてきた。
本流が久しぶりに左岸側を流れているなと思っていたら、その流れがテトラに挟まれて急に狭くなる。
ビックリしながらも、何とかその真ん中を上手く通り抜けられた。
朝日を浴びながら川を下るのは気持ち良い
そこから流れは右岸側に一気に向きを変え、最後には一番右岸側の橋脚にぶつかっていた。
本当に毎年毎年、流れがガラリと変わってしまうのが歴舟川なのである。
そこから更に、周りの風景は茫洋としたものになってくる。
人工物は何も見えないはずなのに、遠くに巨大な構造物のようなものが見えていた。
何かと思ったら、どうやら海に浮かぶ船のようである。
河口は、まだかなり遠いはずなのに、海が、しかも川の水面より高い場所に見えているのだ。
何とも不思議な光景である。
歴舟川を河口まで下ってくると、毎回タンチョウの姿を見られたのに、今回はその姿も無し。
大増水の影響で餌場も無くなってしまったのだろう。
川旅のゴールまで後少し
幾つにも別れる分流を見極めながら下っていくと、実家から借りてきた軽自動車を停めてある場所までやって来た。
軽で川原まで乗り入れるのは無理そうなので、途中の道路際に停めておいたのだ。
その近くにキャンプ道具を下ろしてから、軽くなったカヌーで河口を目指す。
河口付近は何時もと同じく大きなプールになっている。
プールと海の間には砂利が砂丘の様に積み上がっていて、海の姿は見えない。
そのプールの丁度真ん中に、海に流れ出る細い流れができていた。
9時15分、野営地を出てから約2時間で歴舟川河口到着である。
河口の海では自衛隊の訓練中だった
河口の近くにカヌーを泊めて上陸しようとしたら、直ぐ近くからもの凄い轟音が聞こえてきた。
こんなところで砂利採取でもやっているのかと思いながら砂丘の上に登っていくと、巨大な箱形の物体が派手に水しぶきを上げながら沖へと出て行くところだった。
その沖に浮かんでいるのは遠くから見えていた船で、軍艦の様である。
そこでは自衛隊の訓練が行われていたのである。
河口まで下ってきた感慨よりも、そちらの方に暫く注意を引かれてしまう。
後で分かったのだが、これは浜大樹で行われていた陸上自衛隊の揚陸訓練だったらしい。
歴舟の川旅の最後だ
そんなこともありながら、楽しかった歴舟川の川旅は終わりを告げたのである。
川の様子はガラリと変わってしまったが、そのおかげで野営適地の川原も増えた気がする。
広がった川原に木が生い茂ってくるまで、暫くは快適な河原キャンプを楽しめそうだ。