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啓蟄だけど雪中キャンプ

糠平湖(3月6日〜7日)

2月中頃、今年の雪中キャンプは何処へ行こうかと考えていた時、まるで天命を授かるように突然頭の中に浮かんできたのが糠平湖のタウシュベツ橋梁だった。
雪中キャンプを楽しむには、できれば満月の夜が良い。満月の光で明るく照らし出された雪原の美しさは、見るものを惹きつけてやまない。
暦を調べると、3月6日の金曜日が満月だった。
おまけにこの日は啓蟄である。日も長くなってきてキャンプの虫が騒ぎ始め、今年の初キャンプへ出かけるには、まさに打って付けの日である。

週間予報では金曜、土曜日だけが晴れマーク。最高のキャンプを楽しめる条件は全て整った。
と思っていたところ、事態が少し変わり始めたのである。
まず最初に、糠平湖への湖上立ち入りが3月1日から禁止されてしまったのだ。
国道沿いの駐車場からタウシュベツ橋梁までは、湖を横断すれば2キロもない距離である。それが、湖上へ立ち入れないとなると、別の場所から林道を4キロ以上歩かなければならない。
6年前にも、その林道を歩いて冬のタウシュベツ橋梁を見に行ったこともあるので、まあそれは何とかなりそうだ。

しかし、他でも事態は変わってきていた。
道東を連続で襲った爆弾低気圧の影響は、この付近にも及んでいたのである。糠平温泉郷の最近一週間の累計降雪量は80センチに達していた。
6年前に歩いたときは、林道も除雪してあったので、1時間くらいで歩けていた。これだけの雪が降った後で、その時のように林道が除雪してあるとは到底思えないのだ。

追い討ちをかけるように、天気予報も悪いほうへ変わりつつあった。
土曜日は曇り。金曜日も、十勝の北部では晴れるのは午前中だけ。
今回のキャンプで一番楽しみにしているのは、満月に青白く照らし出されたタウシュベツ橋梁の幻想的な姿。曇ってしまっては、どうしようもないのである。

楽しいはずのキャンプを翌日に控えた木曜の夜になっても、気持ちは沈んだまま。
そして金曜日、大して気分も盛り上がらないまま道東道経由で十勝を目指した。
鹿追チーズ工房日高山脈を越えると、十勝側には青空が広がっていた。しかし、遠くに見えるはずの東大雪の山々の姿が、霞がかかっていて確認できない。

鹿追チーズ工房で、ワインのつまみ用にチーズを物色。
色々と試食した結果、ゴーダチーズと15ヶ月熟成のプレミアムゴーダを購入。
ここのチーズは、我が家好みのものが多いのである。

昼食は、あらかじめ調べておいた「カントリーホーム風景」に入る。
東ヌプカウシヌプリの山麓に位置するこのレストラン。
こんな所で商売が成り立つのかと心配したくなるくらいの辺鄙な場所にある。
その名前からして、店の窓からは東ヌプカウシヌプリの姿がドーンと見えるのだろうと期待していたが、残念ながら店の外からでも山の姿は見えなかった。
そもそも、東ヌプカウシヌプリそのものに雲がかかっていたので、他の場所からでも山はあまり見えなかったのである。

 
カントリーホーム風景   東ヌプカウシヌプリ
カントリーホーム風景で昼食   東ヌプカウシヌプリには雲がかかったまま

上士幌の街の中に入ると、1月の札幌市内のように道路の両脇には大きな雪山ができていた。
とても、3月に入った十勝の風景とは思えない。
上士幌を過ぎて更に北に向かうと、次第に怪しげな雲が広がり始め、とうとう完全な曇り空に変わってしまった。
私の心の中にも、全く同じような雲が広がってくる気がした。

林道入口しかし、糠平温泉街までやってくると、その雲が嘘のように消えてなくなったのである。
私の心の中も一気に晴れ渡った。
真っ青な空の下、気分は完全にハイになって、糠平湖沿いに車を走らせた。

そうして、林道入り口に到着。
予想通り林道の除雪はされていなかったけれど、そんなことは大して気にならない。
嬉しいことに、そこには誰かのトレースまで残されていたのである。
ラッセルに備えて大型のスノーシューも持ってきていたが、そのトレースがあったので何時も使っているMSRのスノーシューで歩くことにする。

午後1時ちょうどに、タウシュベツ橋梁を目指して歩き始めた。
上空には青空が広がっているが、西の方の空には雲がかかったままだ。
林道を歩くその方向にはニペソツやウペペサンケなどの東大雪の山々が連なっているはずである。
それらの山を覆っている雲から飛ばされてくるのか、青空なのに白い雪がチラチラと森の中に舞っていた。

林道のカーブを曲がっていくと、その先には小さな角を生やした雄鹿の後姿があった。
私達に気が付いて、直ぐに森の中に逃げ込んでいく。
雪が深いので、逃げるのも大変そうだ。
林道のあちらこちらに、鹿の歩いた跡が付いている。
鹿が付けてくれたトレースは、デコボコしていてさすがに歩きづらい。

今年の道東は記録的な大雪になっていて、この中で生きていくのはエゾシカにとっても大変なことに違いない。
知床辺りのエゾシカの生息数は、今年の冬を過ぎると劇的に減少しているような気がする。


若いオスジカ   人間と鹿のトレース
若いオスジカ   左が人間、右が鹿のトレース

私達が跡を追っているトレースは、多分前日に付けられたものだろう。
スノーシューを履いて、単独でタウシュベツ橋梁まで往復したに違いない。
そのために、しっかりと踏み固められたトレースとは言い難かった。
こちらは20キロの荷物を背負って歩いているので、時々そのトレースも踏み抜いてしまう。
時々GPSに目をやっても、歩いた距離が全然増えていない。
林道を歩く林道の微妙なアップダウンも身体にこたえてくる。
6年前は1時間で歩いて道のりも、今日は2時間近くはかかりそうだ。

それにしても、この深い雪の中を一人でラッセルしながらタウシュベツ橋梁を見に行ったなんて大したものである。
同じ職場の人から、2月にタウシュベツ橋梁を見に行った話を聞いたが、その時は湖上にも立ち入ることができて、雪も大して積もっていなかったので、普通の靴のままで歩けたそうである。
自転車で走っていた人までいたらしい。

林道を2.5キロほど歩いたところで、信じられない光景を目にすることとなった
橋まで続いているとばかり思っていたトレースが、突然途切れていたのである。
私達は一度歩いたことがあるし、GPSを見れば後どれだけ歩けば良いかも把握できる。
もしも初めての人が、それも分からずに歩いていたとしたら、歩けども歩けども湖に近づく様子も無く、この辺りで心が折れてしまうのももっともなことである。

こうなったら、その人の意思も引き継いで、何としてもタウシュベツ橋梁まで辿り着かなければならない。
しかし、トレースの中を歩くことさえも大変だったのに、自分でラッセルしながら歩くのは想像以上に大変だった。
大型のスノーシューを履いてこなかったことを後悔するが、もう遅すぎた。
雪が深いところでは、膝までのラッセル。
時々ズボッと、膝の深さ以上に埋まることさえある。

遠くに森の出口が見える見かねたかみさんが、ラッセルを変わってくれた。
絶対無理だろうと思ったが、かみさんの方が体重が軽い分、雪に埋もれずに歩けるようだ。
しかしペースが遅すぎる。
このペースでは、暗くなるまでに辿り着けるかどうかも怪しくなってくる。
再び私が前に出る。

真っ直ぐに続く林道の遥か先に、トンネルの出口のように明るく見える所があった。
私の記憶では、多分そこが今日の目的地である。
今までは、後ろを歩くかみさんのことと明日の帰りが少しでも楽になるようにと考えて、なるべく小さな歩幅で歩くようにしていた。
しかし、こうなったら、目的地に辿り着くのが最優先事項である。
余計なことは考えずに、大股で突進するかのように歩き始める。
時々後ろを振り返り、遅れているもかみさんの様子を確認しながら進み続ける。
タウシュベツ橋梁に到着横を見ると、木々の向こうに湖のインレット部分が見えてきた。
そして最後の200m、雪は更に深くなり、その中をもがく様に歩きながら、とうとう森の中を抜け出すことができた。
視界が一気に広がる。
午後3時半、現地到着である。

晴れてはいるけれど、西の空には相変わらず雲がかかっていて、太陽はもう少しでその雲の中に飲み込まれてしまいそうだ。
太陽が隠れる前にと、慌ててタウシュベツ橋梁の写真を写す。
暫くして、かみさんも森の中から姿を現した。
さすがに疲れきった様子である。


タウシュベツ橋梁
青空に映えるタウシュベツ橋梁

テント設営完了お互いに疲れていたけれど、直ぐにテントを張らなければならない。
できることならもっと余裕を持って現地について、まずはタウシュベツ橋梁の姿をゆっくりと楽しんで、それからおもむろにテントを張りたかったところだ。
しかし、春分の日も近づき、日も長くなってきたとは言っても、ここは山も近いので日が沈むのは早い。
雪を踏み固めて、大急ぎでテントを設営。

テントを張った後は、太陽がまだ出ているので、今度は湖面まで下りていって写真を撮る。
冬になって湖の水位が下がった時、湖底に沈んでいた切り株が姿を現し、湖を覆っていた氷が切り株の上にだけ残され、その様子からきのこ氷と呼ばれている。
そのきのこ氷も糠平湖の冬の名物の一つとなっているが、この一週間の間に降り積もった雪で、きのこ氷は埋もれてしまっていた。
湖に流れ込む音更川は、その付近では水面が開いていた。
これでは湖上への立ち入りが禁止されるのもしょうがないところだろう。


タウシュベツ橋梁
近くで見ると風化が進んでいるタウシュベツ橋梁

雪に埋もれたきのこ氷   湖上を歩く
きのこ氷は雪に埋もれてしまった   湖の上を歩くのも大変だ

金麦雪の斜面をヒーヒー言いながら登って、テントまで戻ってきた。
何処へ行くにもスノーシューを履いて行動しなければならないので、余計に疲れてしまう。
堅雪になっていれば行動範囲も広がるのだが、これでは行きたい場所にも簡単には行くことができない。

ここでようやくビールを飲む余裕が出てきた。
しかし、既に日は傾いてきていて、雪中キャンプでのビールの飲み頃タイミングを逸してしまったようである。
今日のこの付近の気温は、多分プラスにはなっていないと思われる。
それでも、陽射しがある間は大して寒さも感じないのが、その陽射しが少しでも弱くなると、急に寒くなったような気がするのである。

タウシュベツ橋梁の影タウシュベツ橋梁の影が、真っ白な雪原に長く伸びてきていた。
これから始まる風景の変化は、ここに泊まらなければ見られないものである。
キャンプするものだけに与えられた特権と言ってもいいだろう。

そんな特権を思う存分楽しみたいところだが、西の山にかかった雲が少し邪魔をしていた。
その雲さえなければ、湖の対岸には標高1848mのウペペサンケ山の雄大な姿が見えていたはずなのである。
そして、ウペペサンケ山に沈む夕日をテントの中から眺めることもできたのだ。

それでも、それなりに美しい夕焼けとなる。
今度はタウシュベツ橋梁と夕焼けの写真を撮ろうと、再びスノーシューを履いて雪原を走り回る。
ここでは写真撮影も体力勝負なのである。

キャンプの夕暮れ日が沈んだ後、次のお楽しみは月の出である
山の向こうから登ってくる満月とタウシュベツ橋梁を、どんな構図で一枚の写真におさめようか。
ここに到着したときからそのことをずーっと考えていたのに、何時の間にか東の空には雲が広がってきていた。
今日は天気予報が良い方に外れてくれたと喜んでいたが、最終的には晴れのち曇りの予報どおりになりそうである。
東の空から湧いてきた雲は、そのうちに空一面に広がってしまった。

写真撮影は諦めて、夕食にする。
夕食は、我が家の雪中キャンプ定番のキムチ鍋。
外では、ちらほらと雪が舞い始めた。
テントの中に篭って、鹿追チーズ工房で買ってきたチーズをつまみにワインを飲む。
外の様子が気になって覗いてみると、雲の切れ間に月の姿が見えていた。
しかし、薄い雲にさえぎられて完全なおぼろ月となっている。
雪原を真昼のように明るく照らし出し、タウシュベツ橋梁の影をその雪面にくっきりと描き出す。
今宵の月にそれを期待するのは無理だった。
ワインも空になったので、月のことは諦めて寝ることにした。


タウシュベツ橋梁の夕暮れ
夕暮れのタウシュベツ橋梁

夜中に目を覚ますとテントの中が結構明るかった。
もしかすると雲が晴れて、外では満月が光り輝いているかもしれないと思ったが、ラッセルの疲れもあってシュラフから抜け出す気力も湧かず、再び眠ってしまう。
そんな事を何度か繰り返しているうちに明け方近くなり、「月が出ているわよ」とのかみさんの声がテントの外から聞こえてきた。
こうなったら起きるしかない。

月明かりのタウシュベツ橋梁服を着込んでテントの外へ出てみると、月は既に西の空低くまでその場所を変えていた。
相変わらず空には雲が多く、月も薄い雲に包まれたままである。
一応はカメラを持ち出して撮影を試みるが、如何せん光が弱すぎる。

そもそも、この日の満月は今年の中で一番小さな満月なのである。
普段は満月の明るさの違いなんて気にすることは無いのだが、我が家のトイレに貼ってある「太陽・月・星の暦」の中にそのことが大きく書かれていたので、最初から気になっていたのだ。
その小さな満月に追い討ちをかけるように薄い雲がかかっていてはどうしようもないのだ。

そうこうしているうちに、辺りは次第に明るくなってきていた。
月明かりによる明るさと、夜明けが近づいたときの明るさは、同じ明度ではあっても雰囲気は全く違う。
そのまま朝日でも昇ってきたら、別の風景を楽しめるのだが、雲が多くてそれも期待できず、撮影を切り上げてテントへと戻る。


朧月とタウシュベツ橋梁   明け方のテント
朧月とタウシュベツ橋梁   朝方、テントにはうっすらと雪が積もっていた

タウシュベツ橋梁にお別れコーヒーを飲んで朝食を食べている間に、辺りは霧に覆われてきた。
タウシュベツ橋梁が乳白色の風景の中に溶け込んでしまいそうだ。

ここでキャンプをしていると、刻々と表情を変えていくタウシュベツ橋梁の姿を楽しむことができる。
期待していた表情は見せてもらえなかったが、苦労してここまでやってきた目的は十分に達成できた。

思い残すことも無く、テントを撤収。
最後にタウシュベツ橋梁に別れを告げ、車を停めた場所までの長い道のりを引き返す。
その頃になってようやく青空が広がり始めた。

途中で若い男女とすれ違った。
ここの林道を歩いてまでタウシュベツ橋梁を見に行こうとするのは余程の物好きだろうと思っていたが、今やすっかり人気観光施設になっているようだ。
つぼ足でも埋まらないくらいのしっかりとしたトレースができるまで、そう何日もかからないかもしれない。

幌加温泉鹿の谷の露天風呂帰りは1時間40分で歩くことができたが、疲れの度合いに大きな違いは無い。
車まで戻ってくる頃には、再び雪が舞い始めていた。
山の天気は本当に変わりやすい。

近くの野趣あふれる幌加温泉で汗を流し、久しぶりに三国峠を越え、上川町で美味しいラーメンを食べて札幌まで戻る。
北海道でのキャンプは、移動途中でも新しい発見が沢山ある。
そこでまた次のキャンプの計画が色々と頭に浮かんできたりもするのだ。
さて、今年一年、どんな場所でキャンプをすることになるのだろう。
自分でも全く予測がつかないところが、また面白いのである。


タウシュベツ橋梁
これでタウシュベツ橋梁も見納め

カーブミラーで記念撮影   帰ってきた
カーブミラーで記念撮影   ヨレヨレになりながら車まで帰ってきた



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