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山上の生活十勝岳キャンプ

上ホロ避難小屋テン場(7月13日〜15日)

海の日の3連休にキャンプへ出かけるなど、暑さや混雑が苦手な我が家にとっては以前は考えられない話だった。
でも、山に登るようになると、この頃が花の美しい時期でもある。
山の上のテン場ならば混雑してもたかが知れているし、宴会キャンパーもほとんどいない。

そんな訳で海の日の3連休は山の上で過ごすことにした。
場所は上ホロ避難小屋に隣接するテン場。
この避難小屋は、大雪を本格的に縦走する人以外では、上ホロカメットク山から富良野岳を縦走する人が利用するくらいだろう。
上ホロから富良野岳の縦走は日帰りでも可能なので、ここに1泊すれば十勝岳までは楽に行けてしまう。
そこに2泊もする予定なので、のんびりとした山の上での生活が楽しめそうだ。

避難小屋が見えた問題は、3連休でそのテン場がどれだけ混むのか、全く予想できないことだった。
ネットで調べても情報は少ないし、テントを張るスペースもそう広くはなさそうだ。
そのために、なるべく早くテン場に着ける様に朝4時に自宅を出て、登山ルートも最短コースで避難小屋を目指すことにした。

そうして、午前9時40分、上ホロカメットク山の尾根の上に登ってくると、そこで初めて上ホロ避難小屋の建物が確認できた。
その周りにテントの姿は無し。
これでようやく山上生活が保障されたことになり、ホッと胸をなでおろす。

しかし、私達の前に如何にも縦走っぽい装備の男女が歩いているのが見えた。
残念ながらテン場一番乗りは、彼らに先を越されてしまいそうだ。

花畑を抜けて避難小屋へ尾根を下って雪渓を越え、エゾコザクラやエゾノツガザクラが咲く坂道を登って避難小屋に到着。
テン場はその横に、テント一張りから数張り分のスペースが、岩場や草地の間に点在していた。

私達の前を歩いていた男女は、どうやら小屋泊の様子で、テントを張りそうな気配は無い。
私達はありがたく好きな場所を選ばせてもらう。
一番広い場所にかみさんと私のテントを並べて張ろうかと考えたが、直ぐ隣にも別のテントが張られそうなので、一番奥の方の一張り分のスペース2か所に、それぞれのテントを設営することにした。

設営が終わると次は水を確保しなければならない。
小屋の前に立っている水場の看板は、雪渓の方を指していた。
「え?あの雪渓が水場?!」
テント設営完了雪渓からの雪解け水がチョロチョロと流れるような水場を想像していたので、これは計算違いだった。
昼飯の用意をするためには、まず雪渓の雪を溶かして水を作るところから始めなければならない。
そうと分かっていれば、その分の水くらいは持ってきたところである。

かみさんが、「赤ビートルさんさんのホームページでは雪渓を溶かして水を作ったと書いてあったわよ」
「それを早く言えよな〜」
「あら、当然知っていると思っていたわ」

最近の我が家は万事がこの調子である。
「長年連れ添っていると、何も言わなくても相手の考えていることが分かる。」
一部は正しいこともあるけれど、決して全てがそうとは限らないのだ。
しっかりとコミュニケーションをとるためには、もっと会話しなければならないと私は最近思うのである。

雪渓では、小屋泊の男女が水を得ようと頑張っているところだった。
雪渓の下の方に行って、スコップで穴を掘っているようだ。
そこで、雪渓の下を流れているであろう水脈を掘り出すというのだろうか?
雪渓で水を作る私達はオーソドックスに雪を溶かして水を得ることにする。
ただ、雪渓の雪は、雪というよりも氷の粒の集まりなので、クッカーに入れて火にかけてもなかなか融けてくれない。
昼食用の水が確保できたところで、その方法は諦めることにした。
熱効率が悪すぎて、これではガスが直ぐに無くなってしまう。
天気が良くて気温も高いのだから、自然に溶かすのが一番である。
ゴミ袋用に持ってきていた大型のジップロックを取りに戻り、ついでに缶ビールも持ってきてそれを雪渓の中に埋める。
これならば折りたたみバケツを持ってきて、その中に雪とビールを入れておけば、水はできるしビールは冷えるしの、まさに一石二鳥だったところだ。

昼食は、私の好きなサタケのマジックパスタ「ペペロンチーノ」。
空腹も満たされて人心地ついた。
テン場からは直ぐ近くに上ホロカメットク山、そして美しい姿の十勝岳、遠くには東大雪の山々が淡いシルエットとなって重なり合い、素晴らしい眺めである。
自分のホームページでキャンプ場を紹介する時は、そのロケーションに星を幾つ付けるかでいつも悩んでしまう。
しかし、山のテン場の場合、そのロケーションは何処でも間違いなく星五つを付けることができるのだ。

 
サイトからの眺め
ロケーションは勿論五つ星

テントで埋まってきた午後からは、テン場から見える十勝岳と上ホロカメットク山に登る。
そして、午後3時頃にテン場に戻ってくると、沢山のテントが増えていた。
これからテントを張ろうとしている人も沢山いる。
登山中、稜線上ではかなりの風が吹いていたけれど、テン場はその風下になるのでそれ程風は当たらない。
と思っていたが、ここでも結構風が吹いていて、私のテントのペグも1本抜けていた。
そしてテントの中を見てビックリ。砂だらけなのである。
出入口のファスナーが少し開いていたせいかと思ったが、私のテントはインナーの上部やサイドにメッシュの部分があるため、どうやらそこから砂が吹き込んだようである。
風が吹いている間は、そこから砂が入ってくることになり、これはもう砂浜で海キャンをしていると思って我慢するしか無さそうである。

雪渓までの道とりあえずは雪渓からビールを掘り出してきて乾杯である。
雪渓までは結構な距離があるけれど、そこまで歩いて行く途中にはエゾコザクラやエゾノツガザクラの花畑が広がり、その距離が全く苦にならない。
風が強いのでテントの中にこもってビールを飲む。

その間にもテントの数は増えて、避難小屋の出入り口前まで、テントを張れそうなスペースはすべて埋まってしまった。
それでもまだやって来る人はいて、最後には遠く離れた雪渓の上にテントを張った人もいたようである。

次第に風も弱まり、夕食はテントの外で落ち着いて食べることができた。
昼前にジップロックに入れておいた雪は、まだ半分程が解けずに残っていた。
汚れていない真っ白な雪だけを集めたつもりが、解けた水には砂粒などが結構混ざっている。
テントで埋まったテン場それを濾過機で濾して、明日の分の飲み水を確保する。
テン場でのキャンプは、することが沢山あって結構忙しい。

カミホロ劇場とはBeetle Jamの赤ビートルさんが最初に使った言葉だった。
ここのテン場からの朝日や夕陽の素晴らしさを、そう表現したのである。
今回はそのカミホロ劇場も楽しみにしていたのだけれど、夕暮れが近づくにしたがって灰色の雲が広がってきてしまった。
それでもまだ、西の空低くに雲のかかっていないところがあり、稜線には沢山の人達が夕陽を見るために集まってきていた。
そのうちに、眼下の爆裂火口が西日を受けて赤く染まり始める。
もしかしたらこれは、晴天時よりも印象的な夕陽を見られるかもしれない。そんな期待が高まってくる。
しかし、太陽の沈む速さよりも雲が下がってくる速さの方が勝っていて、赤く染まりかけていた風景は完全にその色を失ってしまった。
諦めてテントに戻る。


紅く染まる爆裂火口
カミホロ劇場はここで終演

再び風が強まり、ワインを半分空けたところで、それぞれのテントに分かれて眠ることにする。
それからが大変だった。
風は更に強まり、テントが大きくしなる。
フライシートの出入口を止めているペグが2回ほど飛ばされて、その度に起き出して石を乗せたりして補強する。
もう大丈夫かなと思った頃、今度はテントの四隅に固定してあるフライシートの一か所が外れてバタバタと音を立てていた。
「何でそんなところが外れるのだろう?」と思って外に出てみると、フライシートをポールに止めているテープが千切れていたのである。
私が使っているテント、MSRのハバハバHPは張り綱を2か所しか張ることができず、これでは山岳用テントとしては心許ない。
雪渓の方では、ヘッドランプの灯りがいくつか動いているのが見える。
この強風の中で、何も遮るものが無い雪渓の上にテントを張っている人は大変そうである。

次第にガスが晴れてくる熟睡できないまま朝を迎えた。
風は止んだものの、辺りはガスに包まれている。
朝早くから出発準備をする人たちの物音が聞こえてくるが、私達の今日の予定では急ぐ必要もないので、しばらくテントの中で微睡んでいた。
そして、のんびりとコーヒーを飲み朝食を食べている間に、辺りを覆っていたガスも次第に晴れてくる。

フライのテープが千切れた原因は、テントの四隅を岩を置いて固定したものだから、テントが煽られることによってテープがその岩にこすれて、擦り切れたのである
中に人間が入っていれば、少なくともテントが飛ばされることは無いので、どうやら余計なことをしてしまったようだ。

あれほど混雑していたテン場も、何時の間にかテントが数張り残るだけとなっていた。
テントの中の物を一度全て外に出して、砂を落とす。
そして雪渓に今日の分のビールを埋め、ジップロックに雪を入れて、富良野岳への往復縦走へと出かける。


テン場からの朝の風景   朝のテン場
テン場から見える朝の風景   次第にテントの数が減ってくるテン場

上ホロ避難小屋テン場午後1時40分にテン場に戻ってきた。
テントは我が家の2張りも含めて4張りだけ。
その中の一つは、縦走中にすれ違ったPooさんのテントである。
昨日のこともあったので、「早めに着かないとテントを張る場所が無くなってしまいますよ」と言っておいたのだが、ちょっと拍子抜けである。

今日もまた日中は風が強く、テントの中は砂まみれになっていた。
朝、出発前に大掃除をしたのは全く意味が無かったようだ。
まあ、砂のことは諦めて、雪渓に埋めておいたビールで乾杯。
過去の縦走キャンプでは1日1本分の缶ビールしか担がなかったが、今回は1日2本計4本を担いできたので、冷えたビールを十分に味わうことができた。

雪渓で冷えたビール上ホロカメットク山の手前で追い抜いてきた、同じ職場のHさん夫婦もテン場に到着した。
職場ではHさんが山に登るなんて知らなかったので、途中で会った時は驚いてしまった。
それよりも驚かされたのがPooさんと会ったことである。
カミホロ劇場の名付け親、赤ビートルさんの奥様のPooさん。ご主人が海外単身赴任中で、天気が良いので一人で山に登ってきたとのこと。
ご夫婦とは5年前に一緒にキャンプする機会があり、その後はアウトドアショップで1、2回会ったことがあるだけ。
それがこんな山の上で再会し、しかも同じテン場の隣同士にテント張っているのだから可笑しなものである。

今日もまた、夕陽が楽しめる時間になると雲が広がって、カミホロ劇場は開宴せず。
風は昨日よりは弱いものの、雲が流れてくるのに合わせて、時々突風が吹き抜ける。
今日もまたテントに閉じこもったまま、残りのワインを空けて、早めに就寝。

カミホロ劇場はここで終わり夜中には風も止んで、これで今夜はぐっすりと寝ることができる。
そんな安眠を破ったのがかみさんの声である。
「星が凄いわよ!」
眠い目をこすりながら服を着込んでテントの外にである。
山奥のキャンプ場などで美しい星空を楽しめることがあるが、やっぱり山の上で見る星空には敵わない。
黒いシルエットとなっている上ホロカメットク山の山頂付近から天の川が天頂へ向けて流れている。
その天の川の中を流れ星が飛ぶ。
何時も見慣れた白鳥座の姿も、星が多すぎて直ぐにはその姿を見つけられない。
しばらくそんな星空を楽しんだ後、再びテントにもぐり込む。
この調子ならば、明日の朝はカミホロ劇場が開宴するかもしれない。


満天の星空
上ホロカメットク山に天の川がかかる

ピンクに染まる空そうして朝、テントのファスナーを開けて外の様子を窺うと、真正面に見える東大雪の山々の上空が淡いピンクに染まっていた。
しかし、今の季節、朝日はその方向から昇るのではなく、十勝岳の中腹辺りから昇ってくるようだ。
残念なことに、その辺りにだけ邪魔な雲がかかってしまっていた。

今日も朝日は見られないなと諦めていると、その中腹から真っ赤な炎のような雲が姿を現した。
その雲だけが朝日に照らされているのだろう。
それにしても鮮やかな赤い色である。まるで炎の龍が空を駆けているかのようだ。
Pooさんを起こしてあげようかとも思ったが、その炎の龍は形を変えながら直ぐに姿を消してしまった。
多分、その龍に気が付いたのは、今日のテン場の宿泊者の中でも私とかみさんくらいだったかもしれない。


朝日を諦めていたら   炎の龍
十勝岳中腹には黒い雲が、でも・・・   朝日の代わりに炎の龍が現る!

Pooさんと我が家の今日の予定は真っ直ぐに下山するだけなので、急ぐ必要もない。
上富良野岳まで縦走してから下山するというHさん夫婦を見送る。
テン場に残っているのは我が家とPooさんくらいである。
十勝岳に登ってから下山するというPooさんに別れの挨拶をして、私達もテン場を後にする。

上空には文句の付けようのない青空が広がっていた。
上ホロカメットク山の山頂から、先ほどまで自分たちがいたテン場を振り返る。
その風景は、この3日間ですっかり見慣れたものに変わっていて、何だかとても懐かしく感じてしまった。



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