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にわか鉄ちゃんのキャンプ旅

かもめ島キャンプ場(5月31日〜6月1日)

スーパー北斗2号札幌駅午前7時発函館行のスーパー北斗2号。
2日前に座席指定の予約をしようとしたら、空席は残り僅かで、通路を挟んだ席で二人分を確保するのが精一杯。
こうなったら、自由席に早くから並んで、二人で座れる座席を確保するしかない。
ところが、かみさんがのんびりし過ぎて、札幌駅に向かう電車に乗り遅れ、出発15分前に札幌駅に着いた時には自由席もほぼ埋まっていて、予約していた席に座るしかなかった。
この席が、車両の一番前の、壁に面した座席だったので、窓の外の風景もほとんど楽しむことができない。
我が家初の、道内を目的地とした汽車の旅は最初からつまずいてしまった。
ちなみにこの混雑の原因は、運悪く中学校の修学旅行と乗り合わせてしまったことだった。
それさえなければ、もっとのんびりとした汽車旅を楽しめたはずである。

今回のキャンプでは、来年5月に廃線となる江差線に乗ることが大きな目的だった。
キャンプ地は江差のかもめ島キャンプ場。3年前の秋に泊まって以来、ここでは2度目のキャンプとなる。
電車に乗ることが目的だったので、今回のキャンプはバックパッカースタイル。3月末の雪の残る支笏湖畔、4月の屋久島と、今年のキャンプは全てこのスタイルである。
ザックにすべての道具を詰め込めば、体一つで何処へでも自由に行けてしまう。
北海道のキャンプ場の中でも荷物運びに一番苦労するのが、かもめ島キャンプ場と言っても間違いは無い。そんなキャンプ場も、今回の旅では理想的な野営地となってくれるだろう。

江差線の電車函館駅での江差線への乗り換え時間は15分。
既に江差線の1両編成の電車はホームに停まっていた。
キハ40系のその車両は、4人掛けのボックスシートである。
ローカル線を利用した旅では、そんなボックスシートを二人で独占して、足を向かいのシートに乗っけておやつでも食べながら車窓の風景を楽しむ。
しかし、勇んで乗り込んだ電車のボックスシートに既に空きは無く、おまけにおばさんの団体が喧しく話をしていて、そんなイメージは一気に砕け散ってしまう。
中年の女性が一人で掛けていたところに、「すいません、ここ座って良いですか?」と声をかけながら、両膝をきちんと揃えて腰かけた。

廃線が決まってからは江差線の電車も乗客が増えているとは聞いていたので、わざわざ週末を避ける日程にしたのに、それでもこの有様である。
途中の駅から乗ってきた地元の人も、「何でこんなに混んでいるんだ?」と不思議そうな表情を浮かべていた。
キハ40系車内でも、私達の席の先客女性は途中で降りて、賑やかなおばさんの一団も、渡島当別の駅でぞろぞろと降りていった。
最初にこのおばさん達を見た時は、皆小さなザックを背負っていて「とうとうおばさん鉄ちゃんグループまで出てきたのか!」と驚いたのだが、結局はトラピスト修道院を見に行くただのおばさん観光客の御一行だったみたいだ。

これでようやく静かな電車旅を楽しめると思ったら、木古内の駅でまた沢山の人達が乗ってきた。
こちらの方々は、それぞれがカメラをぶら下げて、一目見ただけで鉄ちゃんであることが分かる。
親子の鉄ちゃん、おばさん鉄ちゃん、初老のおじさん鉄ちゃん、映画「僕達急行A列車で行こう」風な男性二人連れ鉄ちゃん。
私達の隣のボックスシートに函館駅から座っている若い男性は、分厚い時刻表を手に持って、こちらも筋金入り鉄道おたくっぽい。

木古内駅構内そんな人達を乗せて、電車は木古内駅を出発した。
江差線が廃線となるのは、この木古内駅から終点江差までの区間である。
車窓からは北海道新幹線の建設中の姿が見え、2年後にはこの北海道新幹線が函館まで開業することを改めて思い出した。

全道民が大歓迎している様な北海道新幹線の建設だけれど、私は素直に歓迎する気にはなれない。
今の北海道に、本当に新幹線は必要なのだろうか?そう考えてしまうのである。
直接は関係ないけれど、この江差線の廃線もその反作用と言えるだろう。
都会がどんどん便利になっていく裏で、次第に寂びれていく地方の村や町。
北海道の美しい地方の景観は、そこに人が住んでいるから守られているのだと思う。人がいなくなれば、ただ荒れた土地が広がるだけの風景になってしまう。
美しい北海道を守るためには新幹線は邪魔ものにしか成り得ない様な気がするのである。

神明駅電車は水田が広がるのどかな田園風景の中を通って、次第に山の中へと入っていく。
そして峠のトンネルを抜けて最初の駅が神明駅である。
こんな田舎の駅でぶらりと途中下車して、次の電車が来るまで空を見上げながら何もしないで過ごす。
そこまでやれば本物の鉄ちゃんになれそうだけれど、次の電車を3時間も待つほど心の余裕が無い自分が恥ずかしい。

次の駅が湯ノ岱駅。
ここから先には大きな楽しみが待っている。
2年前の5月、江差線に並行する様に流れている天の川を、湯ノ岱から河口までカヌーで下っていた。
その天の川を電車の窓から眺めてみる。それを、今回の旅の目標の一つにしていたのである。
川の上からでしか見られない風景もあれば、電車からでしか見られない風景もある。
それが何かは、両方から確かめてみるしかない。

と思いながらも、実際は写真を撮るのに必死で、確かめている余裕などない。
高速で走る電車からでは、ゆっくりと構図を決めてシャッターを押すのは無理である。
うかうかしていたら、直ぐに木の枝が窓を塞いでしまうのだ。

 
車窓から見る天の川   車窓から見る天の川
2年前に下った時はもっと水が多かった   シャッターを押すタイミングが難しい

宮越駅を過ぎる天の川の堰堤が見えた。川を下っている時の唯一の障害物だったものである。
そこから先には再び水田の風景が広がり、遠くの丘の上に建つ夜明けの塔が見えてきた。
川を下っている時は、漕げども漕げどもその夜明けの塔は近づいてこなかったけれど、電車はあっという間に上ノ国を通り過ぎて、終着駅江差へと向かっていく。

江差駅ホーム電車が駅に着けば、乗客はそのまま改札口へと向かっていくのが普通である。
ところがこの電車の場合は、乗客のほとんどが、電車を降りたらまず、各々がカメラを構えて自分たちが下りてきた電車の周りへと群がるのである。
私達は他にも目的があるので、少しだけ写真を撮って直ぐに駅を後にした。

「腹が減った」
孤独のグルメの井之頭五郎風に呟いてしまう。
時間は既に午後1時を過ぎていた。
電車の旅だというのに、おやつも持たずに、札幌駅を出てからここまで何も食べていないのである。
昼飯はやまげんのニシン蕎麦と決めていたが、駅から店までは2キロ近くもあり、ギラギラと照り付ける太陽と空腹のために、歩く気力も失せてくる。
そんな時に、ひのき亭という小綺麗な食堂を見つけた。
駅で手に入れた江差の食事処マップを見ると、その店でもニシン蕎麦が食べられるようだ。ちょっと迷ったけれど、空腹には勝てず、そのまま店の暖簾をくぐってしまう。
旅先で、何の予備知識も持たずに地元の食堂に入るのは、ちょっとした冒険でもある。その冒険が成功することもあれば、失敗することもあり、今回は見事に失敗だった。
何年か前にやまげんでニシン蕎麦を食べて以来、ちょっとしたニシン蕎麦ファンになっていたが、その後一度も美味しいニシン蕎麦に巡り合ったことは無いのだ。
ニシン蕎麦はやっぱり、やまげんで食べるべきメニューなのである。

バックパッカー気分で海岸沿いを歩く海岸沿いの国道へ降りてくると、涼しい潮風が磯の香りを運んできた。
目指すかもめ島はまだ遠くに見えているが、重たいザックを背負って歩くにはちょうど良い距離である。
バックパッカーの気分も味わえ、歩き疲れることもない。

国道から少し入った場所に、今にも倒壊しそうな古い木造家屋があり「矢代鍛冶屋」の看板がかかっている。
雑誌でここの存在を知り、是非訪れてみようと考えていた施設である。
昔からの鍛冶屋だった建物をそのまま私設の博物館の様に公開しており、中に入ると鍛冶屋の道具と一緒に古い映画のポスターや生活道具なども展示されていた。
おじいちゃんが、その建物の由来を説明してくれる。そのおじいちゃんのお母さんが、そこで一人で暮らしていたとのことで、部屋の中の仏壇に生活の匂いを感じる。
展示されている物の数でも質でも、そこらの郷土博物館をはるかに上回っているのは間違いない。
小奇麗に整備された江差いにしえ街道沿いの観光施設よりも、こちらの方がずーっと江差の歴史を感じさせてくれるような気がした。


矢代鍛冶屋   展示物
良い味わいがでている矢代鍛冶屋   鍛冶屋の道具がそのまま展示されている

かもめ島入口かもめ島までやってきた。
2013年版の北海道キャンピングガイドでも、ここはかもめ島キャンプ場として紹介され、5月からオープンしていることになっている。
ところが、現地でキャンプ場の看板などは一度も見たことが無い。

島の北側の一角に水場らしい施設があり、多分その辺りがキャンプ場として使われていた場所だと思われる。
その水場も今はブルーシートで覆われたままで、予備知識が無ければここがキャンプ場だとは誰も気が付かないだろう。
そのために、「もしかしたら、テントを張ると怒られるかもしれない」なんて気がして、なるべく人目に付かない場所にテントを張ることになる。
その場所が、期せずして昔のキャンプ場らしきところになるのである。
今回の我が家のサイト意外と、役場に問い合わせたら「島の中の好きな場所にテントを張ってください」と嬉しいことを言ってもらえるかもしれない。

2年前と同じところにテントを張っても面白くないので、少しだけ場所を変えてテントを設営する。
トイレや、水場代わりの水飲み台からはかなり離れるけれど、そんなことは全く関係ない。
キャンプ場として考えると不便に感じるかもしれないが、野宿だと思えば、感動的に恵まれた場所だと感じるだろう。

まだ時間も早いので、買い出しを兼ねて観光に出かけることにした。
まず入ったのは、島の入り口に展示されている開陽丸である。
何時も貧乏旅行ばかりの我が家なので、入場料のかかる施設は外を見るだけで終わらせることが多く、開陽丸の中に入るのも今回が初めてだった。

艦内で函館まで敗走してきた旧幕府軍の旗艦でもあったこの開陽丸は、荒天のために江差沖で沈没したのだが、もしもその事故が起きなければ、日本の歴史も少し変わっていたかもしれない。
そう感じてしまう程に、中に展示されていた16サンチクルップ砲やその砲弾は迫力満点である。

その他のいにしえ街道沿いの観光施設は、過去に何度か江差を訪れた時に見たものばかりなので、街道沿いを一回りした後はコンビニで買い出しをして、サッサとキャンプ地へと戻ってくる。

陽も既に傾いてきていたので、夕陽を眺めるお気に入りの場所にビールを持って移動する。
到着時には海上に広がっていた海霧も今は殆ど晴れて、これならば美しい夕日を楽しめそうだ。
夏至も近い今の季節は、夕陽の沈む速度も遅くなる。ビールを一缶開けても、まだ日差しは強いままなので、島内を軽く一回りする。
江差の街並みが西日を受けて赤く染まってきた。
開陽丸の向うには、先ほど奥尻島から着いたばかりのフェリーが錨をおろしている。
地元の方がたまに散歩にやってくる以外、島には私達だけしかいない。


開陽丸と奥尻フェリー
開陽丸の向こうには奥尻航路のフェリーが見える

我が家の夕日ポイント   かもめ島の風景
ここが我が家のお気に入りポイント   かもめ島の南端方向を望む

再び特等席に戻り、夕陽が雲の中に姿を隠し、上空の雲が淡い赤色に染まるまで、時間を過ごす。
港に泊まっていたフェリーが、再び奥尻島に向かって出航していく。
かごめ島の夕日コンビニで買った弁当を食べ、その後は近くのベンチに移動してワインを飲みながら、次第に暗さを増していく空に、星が一つ、また一つと輝き始める様子をぼんやりと眺める。

「俺達ってもう、こんなキャンプしか楽しめないよな〜」とつぶやくと、かみさんも全く同じことを考えていたようだ。
子ども達の喚声が飛び交う様なキャンプ場にテントを張っている自分たちの姿を、今はもう全く想像もできなくなっているのだ。

何時の間にか辺りはすっかり暗くなり、灯台の明かりが周期的にテントを照らしていた。
明日の朝も早く目覚めてしまうのは分かっているので、寝不足にならない様に早めにテントの中にもぐり込んだ。


かもめ島の夕日
かもめ島の夕日は最高

灯台と夕日   奥尻行きのフェリーを見送る
灯台と夕日   奥尻島へも行きたくなってくる

この季節、海沿いでキャンプをしていると漁船が出漁していく音に目を覚まさせられる。
でも、この音と一緒に起きるのではさすがに早すぎる。
しばらくウトウトしているうちにテントの中もかなり明るくなってきたので、入り口のファスナーを開けて外の様子を窺う。
日の出すると真正面の地平線から、今まさに朝日が昇ってくるところだった。
慌ててテントから飛び出して、朝日の姿をカメラに収める。
3年前にここに泊まった時も朝日が綺麗だったので、その時の風景がまだ記憶の片隅に残っていた。
その記憶の風景と比べると、日が昇ってくる位置が全く違っていたので最初は戸惑ってしまった。
良く考えてみると、3年前は10月末に泊まっていたので、夏至と冬至くらいの差があり、これも当然の話である。

頭上の空高くでは下弦の月が白く輝いていた。
テントは朝露でびしょ濡れである。
コーヒーを落としながら、朝露をタオルでふき取る。
今日は朝8時の電車に乗って函館に向かう予定なので、なるべく早くテントを乾かさなければならないのだ。
これが秋のキャンプならば濡れたままのテントをザックに詰め込むことになるのだが、今の季節は水滴さえふき取ってしまえば、強烈な太陽の陽射しが直ぐにテントを乾かしてくれる。

テントを乾かす下の岩場では地元の釣り人達が次々に魚を釣り上げていた。
ホッケだろうか?
かみさんがそれを羨ましそうに見ている。
川釣りは時々やっているけれど、海での釣りはもう10年以上やっていない。
たまに釣りキャンプをするのも楽しいかもしれない。

テントもほぼ乾いて撤収完了。
気温も高く、今年初めての半袖半ズボン姿でザックを背負う。
ゴミは昨日買い物をしたセイコマのゴミ箱に捨てさせてもらう。
ゴミのほとんどは昨日のここでの買い物から出たもので、今日もまたここでおやつを買うので、その程度は許してもらえるだろう。

江差駅には余裕を持って7時半前に到着。朝早い時間のためか他のお客さんの姿は無い。
しばらくすると函館行きの電車がホームに入ってきた。
下りてくるお客さんの姿もない。昨日の電車は鉄ちゃんで賑わっていたけれど、これが江差線の本当の姿なのだろう。

江差駅でも、他のお客さんがいないのはこちらにとっては好都合である。
好き勝手に駅や電車の中を歩き回って写真を写せる。
江差駅を出る時にはサラリーマン風の男性が一人乗ってきたが、それでも昨日とは大違いである。
その付近で天の川が見えるかも、大体見当がつくようになったので、昨日よりも落ち着いて写真を写すことが出来る。

今日は函館市内の安いビジネスホテルに泊まって函館観光の予定である。
ボックスシートに足を伸ばしてゆったりと座り、移ろいゆく車窓の風景を眺めながら、鉄ちゃん旅の余韻に浸るのであった。

かごめ島キャンプの写真へ 


江差線線路の最後   車内で
電車の中から見える線路終端の車止め   車窓の風景を楽しむ


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